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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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三十七話 まおうさま いろいろとためす

 時間だけは有り余っていたため、色々と考えてみたのだが答えは出なかった。


 人間族や魔族から魔力を奪うのは効率がいいが、間違いなくお尋ね者まっしぐら。魔力を加減して奪うというのは難しく、死ぬ可能性も高い。

 私一人であればどうとでも逃げ切れるだろうが、家族に迷惑はかけられない。

 特にお姉ちゃんは冒険者稼業にも興味があるようだったし。


 魔物や動物であれば殺しても誰も文句は言わないが、魔力の多い高位の魔物であればあるほど、仕留めるのに必要な魔力が嵩む。赤字になれば本末転倒である。


 一番楽なのは、魔力に溢れた場所から奪うこと。

 例えばこの空間のように。

 かつての私並みに魔力を持っている存在がいれば、容赦なく定期的に奪い取れるのに。


 ううむ、魔法だけならともかく、成長するのに魔力が必要とは失念していた。

 村に戻れば問題ないだろうが、旅の間の課題となるだろう。


 ――それにしても、ここは一体なんなのだろうか。


 何故だか安らぎを覚えるこの空間。

 笑えるほど魔力に満ちている。

 いや、満ちるどころか、魔力だけが存在する空間というべきか。


 ここに自由にアクセスできるようになれば、魔力問題も一瞬で解決するはずなのに。

 

「むむむ」


 私は唸ると


「彼のものよ、我が手に収まれ――【格納(ストレージ)】」


 いつぞやのリゼルグの詠唱を真似してみた。


 ――ただ、静寂。

 何も起きない。


 無音の空間なので詠唱が意味をなさないというわけではない。

 直前に軽く他の魔法を試してみたのだが、問題なく発動したのだ。


 魔封じの腕輪も効力を発揮していない。

 この空間の魔力を有りっ丈吸わせた結果、飽和してしまっているのだ。

 なので魔紋を書き換えて、魔力を吸う働きを消してしまった。今のこの腕輪は、ただ魔力を保有するだけのものである。


 単純に、魔法のイメージが出来ていないのが原因。

 毎度毎度、私を対象に使われるので、どういう魔法なのかさっぱりわからない。いや、手にしたものをこの空間に引きずり込む魔法だということはわかるが、原理が不明だ。


 記憶から照らし合わせてみれば、近いのは転移魔法か。

 かつて、魔界から人間界へ攻め込んだ時に使用していたものである。

 ……『勇者』が魔界へと反撃に出たときにも使われてしまったのは苦々しい記憶。


「しかし、あれは使えること自体が異常な魔術なはず……」


 思わず思考が口から洩れた。


 ――転移魔法とは一種の禁忌なのだ。


 火を起こしたり、術者を浮かせる一般のそれとは異なり、転移魔法は次元を大きく歪めて発動させる。

 結果として次元に大きな損耗を残す。

 そのためか、世界自体に強固な防護壁が存在し、転移魔法の発動を妨害してくるのだ。


 前世で何度もチャレンジし、そして失敗し続けた私が言うのだから間違いない。

 千年ほど研究に明け暮れ、どうあがいても実用化できなかったので投げた。


 『人魔戦争』のおり、自由に使えていたのは、二つの世界が引かれあい、次元が崩壊しかけていたからに他ならない。

 今となっては笑える話だが、自分たちの世界を守るため、世界の寿命を縮めていたのである。


 二千年の間に、私には思いもよらないような発想から実用化されたのだろうか?


「うーん……」


 違う気がする。

 ミーシャと話していたとき、彼女はそのようなことは言わなかった。

 もし、リゼルグの使った魔法が普及しているのであれば、レミングたちまで飛行魔法で飛ばす意味はない。ミーシャがこの空間に取り込み、魔の島についてから二人を出せばいいだけの話。


 仲間たちから聞いたのだが、彼女は賢者と呼ばれるほど――その割にはお母さんより格下っぽく見えたのは兎も角――の使い手らしい。

 対して、リゼルグはそれほどの術者ではない。

 ヒトであるのも大きいのだろうが、もし彼とミーシャが十回戦えば、十回ミーシャに軍配が上がるだろう。


「で、あれば」


 残るはリゼルグ独自の魔術という可能性。

 彼なりの研鑽から生み出されたのであれば辻褄があう。


「教えてもらえるのだろうか……」


 難しいところ。

 往々にして、魔術師とは同業に手の内を秘匿したがるものである。

 知識は力だ。

 他者の知らない魔術は、それだけのアドバンテージになりうる。


 私は自分の研究結果を書き認めておいたが、きちんと自室に封印しておいた。

 他者の目に触れることはないはず。

 ……まあ、世界の再編に巻き込まれ消滅してしまっている可能性が高いだろう。


 とにかく、リゼルグが簡単に指南してくれるとは思わない。

 脅しつける手もあるが、微妙。


 魔術の研究とは、術者が心血を注いだ結果だ。

 それを強引に奪い取るというのは、研究者の端くれとして抵抗がある。

 ……もちろん非常時であれば話は別だが。


 やはり研究内容による取引というのが一番平和的なのだろうな。

 私はそこで一端考えるのを止めた。


 少し疲れたので、一眠りすることにする。





 私が暗闇から引き出されたのは、眠りから覚め、魔法の新開発をしている途中だった。

 そのせいで、伸びてきた手が少し焦げていたが……。

 リゼルグはノックぐらいするべきだと思う。

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