表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
44/60

三十六話 まおうさま ものおもいにふける

 私が今いるのはいつぞやと同じ暗闇の中。

 一週間前と変わらず虚無。

 一切の光は差し込まず、一寸先すら見通すことは出来ない。


「ふむ……」


 呟いてみたものの、言葉は音とはならず、掻き消える。

 足で地面を蹴るように突き出してみるのだが、空を切るだけ。


 相変わらず魔力が満ち満ちているので、今までの分を取り戻すかのように吸収しておく。

 ……うむ。一安心。


 どうしてここに辿り着いたのか。

 一時間ほど前のことなのだが、魔力を取り込む間回想することにしようと思う。





 思いのほかあっさりとピトーを無力化してすぐ。


「お前、何をした?」


 下手に騒ぎになる前にと別室に移動した後、リゼルグが私に訊いてきた。

 見れば、彼の周りには魔力が依然漂っている。

 臨戦態勢は解かないということだろう。


「別に。何もしていないさ」


 身体が楽になってきたのでニヤリと笑ってやる。

 ピトーという男、性格は屑だが魔力の質は悪くない。

 惜しむらくは、その短気さゆえ、魔法の才はなさそうだということ。


「なら、ピトーはどうなったんだ?」

「さあ? 生きてるなら、三日もすれば意識を取り戻すんじゃないか?」


 半ば自分がやったと認める様な答えだが、リゼルグは黙り込む。

 彼の思案を待つ間に、奪った魔力は腕輪へと吸い込まれていった。


「腕輪で魔法は封じられているはずだろう……」


 リゼルグのこれは、質問ではなく、独り言。


「ふむ――性質には気づいていないのか」


 彼には聞こえないよう、小さく私は呟いた。 


 ……そう。

 この魔封じの腕輪。真の性質は魔法を封じるものではない。

 ――いや、封じる働きはあるのだが、魔法自体に影響を与えてはいないのだ。


 さて。

 魔法の発動を妨げるにはどうすればいいのか。

 簡単な方法は二つ。


 一つ。

 いつぞや、ドミニクと戦ったとき同様、魔力を貯めこんだプールを破壊する。

 魔法を弓矢に例えるなら、弓の弦を切ってしまうようなもの。

 残念ながら、そのような便利なものを魔道具で作ることは出来ない。

 働きが複雑すぎるのだ。


 対して、もう一つは接触さえしてしまえば恐ろしく簡単。

 ゆえに、魔封じの腕輪なんてものが存在する。


 大本である魔力を吸い込んでしまえばいい。

 先ほどの例えでいうなら、矢を全部盗んでしまうようなもの。


 単純な帰結ではあるが、それ故に効果的。つまり、魔封じの腕輪の本来の働きとは、魔力が使えないギリギリまで対象の魔力を吸い尽くすもの。

 魔力欠乏症に陥らないよう、数回に分けて吸収する魔紋まで刻んであるのだから芸が細かい。


 ……残念なことに、元から魔力のない私相手ではあまり効果がないが。


「何にしろ、だ」


 考えても結論は出ないと思ったのだろう。

 リゼルグは忌々しげに言った。


「ピトーは死んでいないようだが、これは反逆行為として扱われる。そのため罰を与える」

「折角、助けてやったのにご挨拶だな。本当に、あの距離で勝てるつもりだったのか?」

「……うるさい。お前を一日間、連れ去ったときと同じ世界に送り込む」


 そういえば以前ゴルトーは、リゼルグが罰を与えに来ると言っていたな。それが、これなのだろうか。


「ふむ。それで、そこで何を?」

「……何もしなくていい」


 奇妙な話だった。

 罰だというのに、何もするなという。

 私の知る罰というのは、ご飯抜きだったり、身体の一部を叩かれたりするものなので理解できない。


「それは罰なのか?」

「は?」


 何故か、真顔で返答されてしまった。


「五感を封じられた空間に長時間送り込むんだ、常人なら発狂してもおかしくはない」

「そういうものなのか……」


 ううむと考え込んでいると、リゼルグはそれが恐怖によるものと勘違いしたようだ。


「まあ、お前のためでもある。あれでゴルトーは、弟に甘い」

「……なるほど」


 罰を与えたと知らしめつつ、匿う効果も……ということだろう。

 私は二つ返事で了承し


「【格納(ストレージ)】」


 虚無の世界へと送られた。





「はあ……落ち着く……」


 半ばうっとりとしながら、私は呟いた。

 もちろん、同様に言葉は言葉にならない。

 それでも声が出てしまうほど、ゆったりとした気分なのだ。


 近しいのは、家でお風呂に入っていたときの感覚。

 まるで、身体がぐずぐずに溶けてしまいそうなほどの心地良さ。

 自分では確認できないが、今の私は蕩ける様な顔をしているのではないだろうか。


 完全に体の不調は消えている。

 むしろ、ようやく求めていたものが与えられたと喜んでいるぐらい。


 私は確信した。

 ここ数日の不調の原因は魔力欠乏症であると。





 この世界の生物の成長には魔力が必要不可欠である。

 種によって程度の差異はあれど、魔力が肉体を構成する一部分であることに変わりないのだ。

 そのため、普通の生物は太陽光や栄養から魔力を創り出す。


 しかし、私には魔力がない。

 いや、正確には魔力を創り出す器官が欠如しているというべきか。

 正確に調べたわけではないが、状況から推察するにきっとそう。


 では、どこから補うか?

 答えは簡単。食事である。

 肉や野菜に残留している魔力を取り込み、その糧とするのだ。


 証明も兼ね、私の今までの食事を振り返ってみようと思う。

 幸い時間もあることだし。


 まず、赤ん坊のころの授乳期。

 お母さんは高位の魔術師だった。当然、魔力も豊富。

 体内のそれが母乳に溶け合い、私を育てたのだろう。


 次に、村での食事。

 「土地自体の魔力濃度が高い」とダロスは語っていた。

 つまり、それだけ生息する動植物に残留する魔力も多かったのである。

 だが、それでも一般的な食事量では足りなかった。それゆえに、暴食にふけってしまったのだと思う。


 更にダロスの作り上げた芋。

 土地への適応が施されたそれは、特に魔力量が突出していたというわけだ。だからあれだけは妙に腹持ちが良かった。


 結論からいえば、私の魔力問題は今なお解決していない。

 魔法のためだけでなく、生きるためにも魔力が必要なのだ。


 今、魔封じの腕輪に大量の魔力をかき集めているが、それもいつかは尽きるだろう。

 漆黒の闇の中、私は思索を巡らすことにする……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ