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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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三十五話 まおうさま けんかにまきこまれる

 一向に皿を渡そうとしないミミーナに対し、渋々私は口を開ける。

 むぅ、背を腹には代えられないというし。

 多分、芋さえ食べれば体調も回復するだろう。


「あーん」


 ミミーナはそう言いながら私の口へとスプーンを運ぶ。

 ……私は無言。

 お母さんたち相手ならまだしも、流石に恥ずかしい。


 一口、呑み込んでつい言葉が漏れる。


「まずっ……」


 口当たりはパサパサしていて、繊維が喉につっかえた。

 ついえずきそうになり、無理に呑みこむ。

 ……私の知ってる芋と違う。


「そう……? 十分美味しいわ」

「うーん、問題はないと思うけどなあ」


 ミミーナとウィンディは訝しげに自分たちの食事をぱくついていた。

 今の私にはこの二人の方が美味し(・・・・・・・・・・)そうに見える(・・・・・・)


「好き嫌いはいけないわよ」

「も、もう体は平気?」


 少しぼんやりとした頭でそんなことを考えていると、食事を終えたリリアにティニーまでやってきた。

 リリアの口調は咎めているようだが、どこか気遣わしげ。


 ……心配してもらえるのは少しうれしい。


「ありがとう。……まだ、怠いのは変わらないが、少しマシになった……かもしれない」

「か、顔、青いよ……?」

「船の疲れが出たのかもしれないわね。大人しく、寝てなさい」

「心遣い、感謝するよ」


 素直に礼を言ったのに、リリアには変な顔をされてしまった。


「子供なんだから素直にしてなさい!」


 ま、まさか怒られるとは思ってもみなかった。

 そんなこと言われても、ミミーナ以外種族としては子供の範疇だろうに。


 なんて姦しくも和やかにしていると、それが面白くない男が一人。


「ちっ、てめえは一攫千金の商材なんだ。くたばんじゃねーぞ」


 ピトーである。

 こいつは、一週間少しずつ船室が明るくなる様を苛立たしげに見ていた。

 嗜虐趣味故、彼女たちの笑顔が気に入らないらしい。


 船員の陰口を耳にしたのだが、この男、かつて商品に手を出した結果、兄により追放されたらしい。それが、何の因果か儲け話をもってここにいる。

 そんな人間がこのタイミングを見逃すはずがなかった。


 わざわざ近寄ってきて、嘲笑を込めて言う。

 私は彼にとって目の上のたんこぶらしい。


 だが少女たちも負けてはいなかった。

 空気を読まない外敵を、射抜くように睨み付ける。あのティニーですらだ。


 ――このあたり、やはり元から気が強いのだ、彼女たちは。


 でなければ、私が話しかけただけで生気を取り戻すわけがない。


「なんだ、その目は……!」

「おい、ピトー」

「奴隷の一人ぐらいいいだろうが、どうせこのガキ(・・・・)の十分の一の価値もねーんだ」

「何を言っている? 余計な血を流すな。ゴルトーに報告するぞ」


 腰の剣に手をやろうとしたピトーを、すかさずリゼルグが止めに入る。

 暴走しがちなピトーを彼が制止し、場を収める。

 それが普段の流れだった。


「うっせーんだよ!」


 だが、今回は違う。


「リゼルグ、てめえの伝手で受けた依頼だが、俺はお前の部下じゃねえ。一々指図される筋合いはねえんだよ! 兄貴も兄貴だ、ガキがいくら死のうが、またつれてくりゃいいだろーが!」


 吠えながら剣を――抜いた。


「……正気か?」


 リゼルグの探るような声色。

 私には、彼の周りに魔力が渦巻いたのがわかった。

 ……私が今まで見たことのない、初めての種類のもの。


「てめえが一度呪文を唱える間に、一太刀入れるぐらいはできんだよ。ガキを連れてくるのにてめえが必要だっただけで、連れ出しちまえば価値はねえ」

「本当に出来ると思っているのなら、やってみるがいい」


 ピトーは――あくまで当人基準だが――多大なストレスを受けていたらしい。それが、些細なことで爆発した。

 売り言葉に買い言葉。

 互いの空気が張りつめていく。


「……てめえのガキもバラバラにしてやろうか? 見ものだろうなあ、それを知ったてめえの顔は」


 ピトーの声色には嘲りが含まれている。

 途端に、リゼルグの顔に怒りが滲みだした。


 ――参ったな。何故か二人だけで盛り上がってしまった。


 本来の渦中であった私はとうの昔に置いてけぼり。

 少女たち五人も固唾を飲んで見守っていた。


 このまま刃傷沙汰になってもどうでもいいといえばいいのだが。

 騒がしいのは面倒くさい。

 一応病人扱いの私の周りでうるさくされるのも嫌だし。


「仕方ないな」


 と呟くと、私を抱き起していたミミーナの腕から逃れ、とてとてと歩いていく。

 私の知っている芋とは違ったが、少しでも足し(・・)にはなったらしい。ミミーナが静止の声を上げる前に、目標へ向けてにじり寄る。


「ピトー」


 私は呼びかけると同時に、彼の足へと触れる。

 対魔術師に向けて集中していたのか、驚くほどあっさりと近づくことが出来た。


「な……」


 もしかしたら死ぬかもしれないが――ま、問題ないだろう。


「寝てろ」


 私はピトーの魔力を九割ほど吸い上げ、昏倒させた。

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