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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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三十話 まおうさまと みたことのないいぎょう

 リリアと話しながら昼食を取っていると、ちらちらと視線を感じるようになった。

 残りの少女も私に興味を持ち始めたらしい。


 船旅の間、彼女たちと交流を深めるのも悪くないな……。なんて思っていると、リゼルグがやって来た。後ろにはピトー。

 ……途端に少女たちが怯え始めた。


 私を連れてきた三人組の内、リゼルグとグドンが訪れた際、そんな様子はなかった。

 どうやらピトーだけはえらく嫌われているらしい。

 まあ、島での嗜虐的な様子を見れば納得するが。


「どうした? 何か用か?」


 リリアに断りを入れてから私は彼らの前に歩み出る。

 少女たちをこれ以上怯えさせるのは忍びない。

 早急に用件を済ませるべきだろう。


「ちっ、口のきき方を学べってんだよ……!」


 ピトーは苛立たしげにつぶやくと、入口近くに置いてあった台車を蹴飛ばす。

 ガタン! と大きな音が響き、台車の上の皿から汁が零れ、少女たちの悲鳴が上がる。


「不必要に騒ぎ立てるなピトー。不愉快だ。船長が呼んでいる。ついてこい」

「……わかった」


 非常に残念なことに私はまだ食事中だった。

 ただでさえ量に欠けるというのに、残したまま行くのは辛い。

 しかし、このままピトーを留まらせるのも問題がある。逡巡して、私は仕方なく彼らに着いていくことにした――と、思ったところでふらり。

 突如体の力が抜け、私は転びそうになった。


 流石に寸でのところで堪えたが、リゼルグは見逃さなかったようだ。


「大丈夫か?」

「……単に船が揺れただけだ」


 私は短く答えると、彼らに案内を促した。





 私のいる奴隷用の船室は下層に位置しているらしい。

 何度も階段を登ってようやく船長室へと辿り着いた。

 正直、私としてはもうへとへとだ。

 この呼び出しが一度きりのことであることを願う他ない。


 リゼルグが数回ノックをすると


「入りなさい」


 と、ハスキーな声が返ってきた。

 すぐにリゼルグはドアを開ける。


 室内にいたのは、白塗りの化粧をした長髪の女……? いや、男なのだろうか。

 女にしては体格がいいし、男にしては派手すぎる。

 ……残念なことに私には判別できなかった。

 兎も角、豪華な金箔に包まれた衣装のヒトが座っていた。


「あたしが船長兼ゴルトー商会長のゴルトーよ」


 一人称を見るに、どうやら、女性らしい。


「アリシアだ。……商会長とは?」

「ゴルトー商会は、あたしの立ち上げた人身売買の組織なの。ま、この船――セイレーン号っていうんだけどね――は、輸送船兼商会本部なのよ」

「兄貴はお偉いさん方からの覚えもよくてなぁ、今回お声がかかったってわけよ」


 ピトーがまるで自分のことのように自慢してくる。

 ――と、少し待て。

 兄貴……?

 私の記憶が正しければ、男性相手の呼称のはずだが。


「ゴルトー。お前は魔族かなにかなのか?」


 このような奇怪な魔族に覚えはないが、二千年も経てば新しい種族の一つや二ついるかもしれない。

 私は素直に問いかけることにした。


「どういう意味だ、てめぇ!」

「止めなさい、ピトー。弟ながら馬鹿なんだから……あたしはヒトよ。まあ、美の化身って呼ぶ者もいるけれどね。例えばここにいるリゼルグとか」

「そんな呼び方はしていない」

「ふふふ、あなたみたいに、ヒトかどうか疑いたくなる気持ちもわかるわ」


 どうやら二人は兄弟(・・)のようである。

 ……なんだか頭が痛くなってきた。


「それで、私に何か用があるのでは?」


 とりあえずこの部屋からいち早く退散したくて、私は率直に用件を聞くことにした。


「顔が見たかっただけよ」

「は?」


 それだけのために私の食事を中断したというのか。

 私はいら立ちを感じ、無意識に前に出る。


「そう怒らないで。あなたを連れてくれば金に糸目はつけない……なんて言われてるのよね。わかる?」

「ふむ……」

「年の割に頭は回るみたいだけど……」

「余計な詮索はするな、ゴルトー」


 興味を惹かれたところ、リゼルグが割って入る。


「こっちとしても、たったの五人しか商品を入荷してない状況だったのよ? うちは耐用年数がウリの商会だってのに。これ(・・)を法外な値段で買ってくれるから帳消しみたいなもんだけど、気になっても仕方ないと思わない?」

「……消されたいのか?」


 ――リゼルグのそれは、明確な脅しだった。

 ピトーが後ずさり表情を引き攣らせる。一方、ゴルトーは余裕の表情。手をひらひらさせ、おどけて見せる。


「冗談よ、冗談……上とやり合うつもりはないから、ね? あ、アリシアちゃん、戻っていいわよ」


 私は言われた通りに踵を返そうとして――一つ要件を思い出した。


「こちらからも一つ言わせてほしい」

「何? 恨み言以外なら聞いてあげる」

「食事の量が足りなさすぎる。もう少しぐらい融通してくれないか。空腹で夜も眠れないくらいだ」


 ――一瞬の空白。


 が、静寂はすぐに破られる。ゴルトーの大爆笑によってである。

 ……()が落ち着きを取り戻すのにはかなりの時間を要した。


「あー、お腹痛いわ……。あなた、この状況でよくビビりもせず言えたもんだわ」

「私にとって火急対処してほしい案件なんだ」

「そのあたりが依頼主が欲しがる理由なのかもしれないけど――」


 とゴルトーが言った途端、リゼルグがぎろりと睨み付けた。


「おーこわ。残念ながら、無理よ。食料の備蓄に余裕がないの。本来の航路とは大分逸れて魔の島なんかに立ち寄ったんだから。弟の頼みじゃなきゃ、引き受けるか微妙なところだったかもね」


 構わず続けるゴルトーにリゼルグが歩み出る。


「はいはい、今度こそ黙るわよ。ま、そういうことだから大人しくしててね。下手に暴れでもしたら、このお兄さんが怖い目に合わせに来るわ」


 彼の視線の先にはリゼルグがいた。

 そういうのが好きそうなピトーではなく彼か。

 私は気になったものの


「では、私はこれで失敬する」


 大人しく部屋へ戻ることにした。


 ――私一人で戻ろうとしたところ、道に迷いそうになり、慌ててリゼルグが駆けつけたのはまた別の話だ。

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