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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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二十八話 まおうさまと あたらしいともだち

「ん……」


 私は、小さな衝撃で目を覚ました。

 どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。


 後頭部には暖かな感覚。

 目を開き、見上げればそこにはリリアの顔があった。


「あ、起こしちゃった?」


 私の視線と、彼女の深緑の瞳とが交錯する。


「これは……」


 膝枕であった。

 まだ肉の薄い少女のものなので、そこまで寝心地はよくない。

 しかし、少女の体温に、どこか安心感を覚えているのも事実といえる。


「昨晩泣いていたね」


 私の頬に手を触れると、少女がいきなり切り出した。

 

「なっ――」


 私の頬が熱を持つ。

 今触っているのだから、リリアにも丸わかりだろう。


 こんなに狭い部屋なのだから聞こえているのは当たり前だろうが……。

 面と向かって言うことだろうか!


「泣いてなどいない」

「ごめん。馬鹿にしてるんじゃないの。奴隷なんかにされて、悲しまない方がおかしいわ」


 その言葉に、私は、彼女は若干の思い違いをしていることに気が付いた。

 涙したのは、境遇に対してではない。

 家族との一時の別れに向けてなのだ。


「それで、こんな真似を?」


 彼女とは昨日、少し話をしただけ。

 だというのに、私に対して親しみを持ちすぎではないか。

 疑問に感じ訊いてみる。


「うん、嫌だった?」

「……いや。気になっただけだ」


 この感覚は嫌いではない。

 少なくとも、今すぐに離れたいとは思わないほどに。


「あなたを見てると、弟を思い出すの」

「弟?」

「そう。だからね、泣いてたのが気にかかっちゃったの」

「一応、私は女らしいぞ」


 勘違いされていると困るので訂正をしておく。

 すると、リリアは呆気にとられたような顔をしていた。


「ぷっ……間違えるわけないじゃない。こんなに可愛らしいのに。それに、男の子だったら、ここに連れてこられないわ」


 さもおかしいとばかりに、彼女はお腹を抱え笑いを堪えている。

 なんだか馬鹿にされてる気がして、私はむっとしてしまう。


「ならいいのだが」

「思い出すっていうのは、背丈なんかのことね。もっと小さかったけど。まだ上手く歩けない、よちよち歩きだったわ」


 そう言って、彼女は遠くを見つめる。

 恐らく、優しさに満ちた眼差しの先には弟の姿があるのだろう。


「……リリアは、弟に会いたいと思うか?」


 私の問いはとても小さな呟きだったと思う。


「もちろん……でも、両親には金輪際会いたくないわね。魔法が使えないというだけで娘を売る様な親だもの」 


 それだけ言って、彼女は儚げに笑った。

 私にはうかがい知れなかったが、微笑みの裏には、肉親への怒りと失望が潜んでいるのかもしれない。


「そうか……。私にも、姉がいるんだ」


 私が思い出すのは、お姉ちゃんのこと。

 彼女の銀髪が、目の前のリリアと重なり合った。

 お姉ちゃんは心配してくれているだろうか。それとも――


「怒ってるだろうなあ……」


 つい言葉が漏れた。

 それにリリアが反応する。


「どうして? 妹が行方不明になって、心配しているに決まってるじゃない」

「あーその。なんというか」


 ドミニクが辿り着いていれば、お姉ちゃんだけでなく両親もカンカンに違いない。

 戻ったら百叩きなんかじゃ済まないだろうな……。


 そんな理由を説明するわけにもいかず私は言葉を濁すしかなかった。

 何とか取り繕うとする私に対し苦笑しながら、リリアが言った。


「……それが、あなたの本当の喋り方なのね」


 リリアの言葉に、虚を突かれたようになる。

 そういえば、寝起きで少女の口調にするのを忘れていた。

 無理に使うと結構疲れるのだ、あれは。


「ふふふ。気を遣ってくれたのね。いいのよ、自然体で」

「そうか……ありがとう、リリア。そして、短い間だろうけど、よろしく」


 私が身を起こし、彼女へと手を伸ばすと、彼女もそれに応える。

 お互いの左手が重なり合い、私は、今度こそ新しい友人との握手に成功したのだった。


 そのあと、昨夜と同様に食事が運ばれ朝食となった。

 リリアと談笑しながらのそれは、昨日より幾分か味はましだった。

 しかし、私には物足りない量であることは変わらない。……お替りを求め、無視されることも変わらなかった。





 俺が村へと辿り着いたのは、すでに三日ほど経過した昼下がりだった。

 じりじりと照りつける陽射しに身を焼かれながら、小さく開けられた窓へ身を滑らせる。残念なことに、家には誰もいない。

 テーブルに託された魔石を置いて、ようやく俺は一息ついた。


 ――重い!


 子供の指程度の大きさとはいえ、魔石は見た目よりも重い。貧弱な蝙蝠の姿で空を飛ぶには結構な負担となる。

 一応、アリシアは俺の負担にならないよう、出来るだけ小さめのものを選んだのだろう。


 しかし、何が辛いって、海の上を渡ってきた関係で一休み出来る場所がないのだ。

 少しでも気を緩めれば、届け物は一瞬で海の藻屑となるだろう。

 俺のスピードでは海原を越えるのに一昼夜以上かかった。……重労働にもほどがある。


 ――だから俺を吸血鬼の姿にしろというのに!


 土台無理な話であることは重々承知しながらも、俺はぼやく。

 あの姿であれば――肉体が貧弱であることは変わらないだろうが――こんな小さな魔石は苦にもならないはずだ。

 言っていて自分で悲しくなってきた。俺は机に寝そべる。


 というか腹が減った。

 こんな大荷物担いで飛んできたのだ。食事なんて一切とれるわけもなかった。

 目の前の魔石から魔力を吸えば少しでも足しになったかもしれないが


 ――そんなことしたら、あの魔王様(・・・)に殺されるよなぁ。


 魔紋は失われ、同時に俺が力を尽くした意味も消えるのだろう。


 そんなことを考えていると、木が擦れあう音がした。扉の開く音だ。

 続けて、少し重いものを床に落とす音。

 カタリ、と嫌に響く。


 ゆっくりと俺がそちらへ目を向けると、銀髪の少女が驚きのあまり口を手で押さえていた。


「ドミニク……なの……?」


 残念なことに、俺にはシンシアの問いに答える術を持ち合わせていなかった。

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