十八話 まおうさまと たんじょうびぱーてぃ
私はいくつもの魔石を手に入れてホクホクだった。
魔力のある生活というのはやはりいい。安心感が違う。
先日、無事に入手できた魔石は七つ。
残念ながらいくつかは砕けてしまっていた。少し燥ぎすぎたようだった。
しかし、特に使う当てはない。
両親に深夜徘徊がばれ、こっ酷く叱られたからだった。
なんとか誰にも気づかれず帰宅することは出来た。
血も綺麗に浄化しておいた。だが、服の破損だけはどうにもならなかったのだ。
言い訳も思い浮かばない。室内でこんな破れ方をするわけがないのだから。
結局、深夜に出歩いていることは隠し通すことが出来なかった。
お母さんは、枝かなにかに引っかけてしまったと考えたようだ。現実的な思考だろう。
私の身体には傷一つないのだから。
ということで、私は夜クルックのいる厩舎まで抜け出していたということになった。
危険自体はないものの、反省の色なしというのが丸わかりの行為である。
当然長々と説教され――お、恐ろしい。
未だに私のお尻は腫れあがっている。痛み自体はシャドーウルフに臓腑を貪られた方が強かった。だが、ここまでお仕置きが、羞恥と申し訳なさを巻き起こすものだとは思わなかった。
結局お姉ちゃん同様二週間の謹慎。
そして、毛皮のコート作りの手伝いをすることとなった。お姉ちゃん――とあとカイン――への誕生日プレゼントである。
一週間も経っているので、当然皮はもう鞣されていた。
普通ならば防腐魔法をかけてもいいのだが、今回はシャドーウルフのそれである。簡易的な魔法などは弾かれてしまう。
一つ一つ手作業で行う必要があった。
残念ながら針を握ったことのない私が手伝えることなどはない。細々とした道具の用意などをするだけに終わるだろう……と思いきや、天恵が思いのほか役立った。
死してなお、若干の魔力の流れが残っていたのだ。
注視し、残滓を読み取っていく。
「アリシア、何をやってるの?」
お母さんが怪訝に思い声をかける。
「天恵を使ってるの。配置を変えた方が、硬いコートになるよ」
出来る限り、かつての経路が繋がるよう配置を変えていく。
魔力を通さぬよう、生前の姿を取り戻させるのだ。
「そうね、アリシアがそういうのならやってみましょう。大した手間じゃないし……」
そうして、一週間のうちに私から見ても大満足の品が出来上がった。
将来の成長を見越して、かなり大きめの品だ。私などはすっぽりと覆われてしまう。お姉ちゃんでもかなりの範囲を包むことが出来る。
うむ、ぬくい。
そうして、誕生パーティの日がやって来た。
◆
「「シンシア、カイン、誕生月おめでとう!」」
時間通り、家に入ったあたしとカインを、お母さんたちが出迎えてくれた。
あたしの家族だけじゃない。カインのお父さんとお母さんも一緒だ。
本当の誕生日は五日ほど前。カインとあたしの間を取って丁度真ん中の今日、開催となったのだ。
それなのに「誕生日」はおかしいので、ついた名前は「誕生月パーティ」。
うん。
祝ってくれるのはうれしいけど、いっしょくたにされるのは少し複雑かな~。
でも、人が多くてにぎやかな方が嬉しいし……本当に複雑。
カインを見れば、特に不満はないようで満面の笑み。
彼の、こういうからっとしていて明るいところは好きだ。
……好きって言っても、別に異性としてじゃないよ?
お兄ちゃんみたいで好きって意味。本当に!
カインは、あたしと正反対だから……。
実のところ、あたしは結構ネガティブ思考の人間なのだ。
情けないことに、つい他人と比較し、羨んでしまう。
だからこそ、あえてそういう面を見せないため明るく振舞ってる。
カインの方があたしより先にお父さんに認められたときはショックだった。
お父さんの子は私なのに!
って癇癪を起しそうになったぐらいだ。
「お前は俺の息子みたいなもんでもあるからなあ」
なんてお父さんが言うから余計だ。
一歳年上なんだから当たり前だって思いとどまったけど。
それを見返してあげようと、必死で中位魔法の習得を頑張った。
想い返せば、妹が産まれてくるときも不安で堪らなかった。
お母さんやお父さんの関心はそっちへ行ってしまって、もうあたしのことは見向きもされないんじゃないかって。
でも、私はお姉ちゃんなんだから不満を漏らしちゃいけない。そんな気分だった。
実際にアリシアと会ってみたら、とても可愛らしくってそんな懸念はどこかへ消えてしまったけれど……。
それに、アリシアは賢い子だった。
大人しくってあまりわがままは言わない。天恵のおかげか、魔法についての知識も凄い。こないだ、中位魔法を教えてもらったときなんて、どっちがお姉ちゃんなんだかわからないくらいだった。
でも、どこか抜けている。
後でアンナさんとダロスさんの恋愛話を聞いたときは、ついハラハラしてしまった。よく二人が上手くいったものだと思う。
村のコカトリス――クルックを怖くないって言いつつ、少し足が震えてたのは――言っちゃいけないんだろうけど――可愛かった。
本音でいえばあたしも怖い。
他にもミューディさんをおばあちゃんなんて呼んで怒らせちゃったり。
森へ行って怒られたばかりなのに夜抜け出してお母さんの雷が落ちたり。
……そのあたり、あたしの影響もあるかも――なんてお母さんたちは言うけどね。
でも、あたしはお姉ちゃん。
そんなアリシアを、あたしは守ってあげなきゃいけないなと思うのだ。
「おねえちゃん、誕生日おめでとう! それとカインも」
少し舌足らずな甘い声。
噂をすればなんとやら。アリシアだ。
当人は理路整然とお話しているつもりなのだろうけど、実際はまだ上手くお話しできていない。
「今年のプレゼントだよ。私も手伝ったんだから」
「開けていい?」
「もちろん!」
答えたのはお母さんだった。
断りを得て私は包みを開いていく。
カインもそれに続いた。
出てきたのは漆黒のコートだった。
撫でてみればとても手触りがいい。ふわふわしていて、これを着たら冬でもあったかいだろうなあ。
「これ、森に行った時の?」
カインは何か気づいた様子だった。
「ええ、シャドーウルフのよ。……勝手に子供だけで森に行ったのは許されることではないけれど、初めて自分たちだけで捕った魔物だから、ね」
「……軽鎧ぐらいの強度はあるんだ。それに魔法にも強い」
お父さんが重い口を開く。
「これからはシンシアも狩りに同行するのを許す。だからその時は、これを羽織ってきなさい」
「……それって」
「まあ、魔物を狩ってこられたら実力を認めざるを得ないからな。ただし、絶対に自分勝手な行動はしないように!」
自分の実力が一人前だと認められたのだと思うと、熱いものが込み上げてきた。
「良かったな、シンシア」
涙を堪えているとカインに頭をぽんぽんと叩かれた。
「も~! 子ども扱いしないで!」
たった一年しか違わないんだから!
そんな言葉は、笑い声に掻き消され届かなかった。