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全世界が驚く。


「アクアサークル消滅の危機。住民の避難に国軍全面的に協力」





私達はナスペンゲンのカフェでこのニュースを耳にする。コルティックの技術提供により大きな街には情報伝達用のモニターが街の数ヶ所に設置され、今では映像も見ることができるようになっている。


ガランドウを2人で出て行ってから気がつけば2年が経っていた。私は少し背が伸びて女らしくなったと思う、胸はこれからだと思う…

エスさんは殆ど変わらない、髪の毛が伸びると自分で切って、「後ろ変じゃないか。頼むわ」って鋏を渡してくれた。始めは切りすぎたりしちゃったけれど、だいぶ上手に切れるようになったと思う。


『こりゃ、俺の家は無くなるな』


「街の中心から徐々に陥没し始めている様子ですが原因は何なんでしょうか」

「昔から豊富な水資源があったため地下が空洞化してその部分が崩れたのではないかと言うのが国からの見解です」

「今までに無いワンダーの可能性を訴える団体もいるようですが」

「ナスペンゲン、ガランドウ以降大規模なワンダーの発見、報告はありませんからその可能性は少ないと思われます」

「住民の避難と平行してコルティック社による原因究明も行われるそうです。担当者はこの世を変えた科学者、コルティック開発部のキャス主任とのことですから安心ですね」

「それでは次の話題で…」




『珍しいな、あいつが出てくるなんて…』


そう言った横顔は少し楽しそうだった…





『一度、ガランドウに帰るか。ハッカはどうする』


2年一緒にいても意地悪は変わらない。答えを知ってるのにわざわざ聞いてくる。


『もちろん一緒に行きますよ』

『じゃあ、チケット取りに行くか』


管理されたワンダーでも最下層ならそこそこいい稼ぎになる、相変わらずお金は毎回数えるし、無駄遣いなんてエスさんはしない。私も大きめの町に寄ったときにお爺ちゃん達に纏めて送金している、簡単な手紙を添えて。


Tホイール、今ではワイルビークルと呼ばれている。乗るのは初めてだ。

私達の旅はあくまで散歩なので歩く移動が殆どだった。


『お金使っていいんですか』って聞くと。

『話のネタになるから、1回ぐらいはいいんじゃね』だって。


きっと、お爺ちゃん達が心配してると思って急いでくれてると私は思っている。優しいんだから。はっきり言わないその優しさが怖いって気づいていないのかな。




『しっかりした造りだな。乗り心地も悪くない』

『そうですね。快適すぎて徒歩の旅が出来なくなりそうですよ』

『ハッカ、ゆっくり苦労して行くのがいいんじゃないか。お金もかからないしな』



『エスさんはお金の面だけですよね』


『ゴホンゴホン、アクアサークルの家、国が多少補償してくれないかな』



『露骨に話を逸らしたのに、結局お金の話になるんですね』


でも本当にアクアサークルはどうなっちゃうんだろう。エスさんを探して毎日舞さんと武義君の3人で歩き回った街…思い入れのある街が消えるかもしれない。

いろいろな出会いがあった。けれどもそれはいつまでもあるわけじゃない。


今まで出会った人達は元気にしているのかな。



『ほれ、ハッカの分』


差し出されるお弁当を差し出す大好きな人。いつか私の隣から居なくなるんじゃないか不安。


『う~ん、味はいいけど値段の割りに量が少ない気がするな…旅のお供にワイルビークル弁当って書いてあったから買ったけど。ハッカはどう思う』


私的にはおかずの種類も多いし、箱もワイルビークルの絵が描いてあっていいと思うけど。


『女性や子どもにはいいと思いますけど、味も彩りも悪くないです。たくさん食べたい男性には物足りないと思いますね。男性用に量の多いお弁当をもう一種類作ればもっと売れると思うんですけど』


『ハッカ、凄腕美人飲食店オーナーの顔になっていたぞ』


エスさんは腕を組みながら満足そうにうんうん頷いている。


『そんなに褒めても、このハンバーグはあげませんからね』

エスさんはペロッと舌を出して。

『駄目かぁ~』ってふにゃふにゃする。


『私も味が見たいので半分だけですよ』

エスさんの口にハンバーグを半分食べさせてあげる。嬉しそうな彼は腕を組んでうんうん頷いている。



ワイルビークルの旅は快適だけど暇で、私達はどんなお弁当なら儲かるかを話しながら時間をつぶした。





『身体がバキバキ音を立てて折れそうだ。やっぱり旅は歩きだな』

『早いのはいいんですけど、この身体のだるさは辛いですね』


確かに早い、安全、快適ではある。しかし、退屈、料金が高い、これはいただけない。


ハッカと二人身体を伸ばしていると何かが近づいてくる…


『あれは、確か自動車だったか』

昔、ミラがそんな名前を言ってた気がする。

『確かヴィルネスで見ましたね』

ハッカも覚えていたようだ。


俺達の目の前に横付けで止まる。


『お帰りなさい、エスさん、ハッカさん』

背の高いなんかさわやかな男が俺達に話しかけている。


『武義君なの』

ハッカの声で顔をジロジロ見る。本当だ、武義だ。


『どうした、変な薬でも飲んだのか』

長身の好青年。そう、青年だ。少年ではない、青年だ。そしてモテそうだ。声も少し低くなり、何だろう、モテそうだ。


『エスさん、変な薬なんて飲んでませんよ。お2人が出かけてからもうじき3年ですよ。ハッカさんはますます素敵になりましたね、姉さんや母さんも驚きますよ。エスさんは…若々しい…ですね』


『どうして、私達が来るのが解ったの』

『それは、秘密です。お疲れでしょう、お店まで送りますよ』


何だろう、武義に余裕が見える。これが好青年の実力か…


自然な動きで扉を開け、ハッカと俺を中へエスコートする。モテそうだ。



さほど時間はかからず俺達は「サウザンドハッカ」へ送ってもらう。


すっかり綺麗になった外見を見上げた。武義はまた夜に来ますといって走り去っていった。





ハッカさんとエスさんが帰ってくる。


情報は力、コルティック社の技術は僕の手の中にもある。キャスさんとの取引は資金だけでなく技術提供にまで発展している。膨大すぎる稀少な素材の要求、その価格はこちらの利益を抜いても莫大な金額になる。それをあの日から払い続けまだ資金を持っている、世界を変えた科学者は個人で世界的企業と同等の資金を有していることになる。それも、数年も続けばさすがに目減りしているのだろう、新技術は金になるがあの人が求める要求もどんどん高度なものになっている。


新技術はコルティックに、今までの技術はこの僕に。そこで得た利益は全て研究と実験につぎ込む。想像もつかない金額の自転車操業。


世界が変わっているのはあの人の探究心のおまけでしかない。世界がたった一人の科学者に振り回されているのだ。



2人がワイルビークルのチケットを取っていなければ僕には気づくことは出来なかっただろう。


この街を出て行ってから、できる限り足取りを掴もうとしていた。しかし、その姿を追うことは殆ど出来ていない。ジーザさんの行方も探しているが行方は分からないままだ。


『武義様、そろそろ出ませんと到着の時間に間に合いません』

『わかった、出よう』


緊張する。この数年は人を変えるには十分すぎる時間だ、僕の内面も外面も変わった。

2人が変わっていたら…いや、変わっていないなんて事はないはずだ。






ハッカさんはますます可憐で美しくなっていた。

エスさんは変わっていなかった、めまぐるしい変化の中で生きている僕には変わらないエスさんが異様に映った。


今夜は…





『お帰りなさい、オーナー』

おお、あの可憐なオーナーが更に美しくなられて、このボブ、いや店の皆が喜ぶことでしょう。


『ハッカちゃん、もうちゃん付けでは呼べないな』

ハッカちゃんは大きくなったけど、エスは変わらんな。


『ハッカ、お帰り。毎回あんな大金送ってこなくてもこの店は大丈夫だからな』

馬鹿娘にますます似てきたな…



『おおぉぉぉぉぉぉなぁぁぁぁぁっおかえりなさぁぁい』



『皆も元気そうで、トリオさんも言うまでも無く元気そうね。お爺ちゃん、戻っていきなり小言はどうかと思うわ。3人とも一度事務所に来て、今のお店の状況を説明してね。エスさん、なにカウンターに座っているの、一緒に来てくださいよ。なにキョロキョロしているんですかエスさんは1人だけでしょう、ほら行きますよ』



ボブさんは収支の帳簿を用意してくれる。それを見ながらジョンさんは従業員の様子とトリオさんの頑張り、お客さんの様子を教えてくれる。


『お爺ちゃん…なんで、お店変えちゃったの』

『いや、高級店はあまり需要が無くてな…』

『え、ボレロさん金持ちはいちいち偉そうで鼻につく、品の無い客はいらんてっ』

『ジョン、そんなこと私は言ってないだろうが』


絶対に言ってる、間違いない、ジョンさん殴られ損だわ…


『まあまあ。言った、言わないは置いといても高級店の需要が少ないは事実です、はい。そういう所は中央にたくさんありますし。なので予約専用にしたのです。勝手に勧めてしまい申し訳ありませんです、オーナー』


『それでもしっかり利益も出てるみたいで安心したわ』



『今日は予約が入っているから私はもう行くぞ。ジョン手伝え』

『へいへい』

2人はそういって事務所を出て行く。



ボブさんと一緒に店に戻りカウンターにエスさんと座る。店は活気に溢れ、来ている人はみんな笑顔だ。


『改めて、お帰りなさい。ごゆっくり』


ボブさんはエスさんにいつものジンを、私にはカクテルを置いて店内をトリオさんとのダブルアフロでお客さんを沸かしている。


人の数も、顔ぶれも違うけれど。この店はあの懐かしい日々の「サウザンドボブ」と同じ。皆が笑顔でわくわくしてる。


『ほら、使えよ』

気がつかないうちに泣いていたらしい。エスさんがハンカチを差し出してくれる。


『いい店だな』

『はい』


私達は静かにグラスを重ねた。






『準備が出来た、2人ともこっちだ』


お爺ちゃんに連れられて元高級店のほうに行くと、

舞さん、フェイさん、命燐さん、桂さん、巧さん、武義君、お爺ちゃん達が居た。


皆でいっぱい話をした。他愛の無い話ばかりだったけど楽しく過ごしていた。



そんな中、武義君は真剣な顔をして立ち上がる。


みんなの視線が武義君に集まる。



『ハッカさん、僕と一緒になってもらえないでしょうか。返事は急ぎません』


武義君が私に…



外が一気に騒がしくなる。エスさんは店を飛び出していく、皆も後に続く。


店の向かいにあるモニターにアクアサークルの中心が凄い勢いで沈み街が飲み込まれていく…


「アクアサークルは後数時間で完全に消滅する見込みです。コルティック社の発表では陥没の中心地点には高エネルギー反応があり。コルティック社と国軍により警戒態勢を続いております。なお住民の避難は完了しているとのことです」


モニターを睨みつけるエスさんの表情は鬼気迫るものがあり声をかけられない。



周囲の人々から悲鳴があがる。


アクアサークルの中心から7色に輝く巨大な蛇が現れかろうじて残っている街を飲み込む。



暫らくすると小さく光るものが巨大な蛇に向かっていく。


「コルティック社の新兵器による殲滅作戦が行われるとのことです。」

『馬鹿が』

エスさんは怒りに満ちた声でモニターを睨み続ける。


モニターの中では小さな光が蛇を吸収していく、蛇はのたうちまわり、その光を徐々に弱めていく。


そして閃光、モニターが映しているのはぼろぼろになったコルティック社と国軍の兵隊と装備。

街だったところの中央には黒く蠢く球体。


おぞましい音を立てている、無意識に体が震える、この世は終わるんだ、そんな考えが頭から離れない…




ふっと、肩に温かい手が置かれる。


目を開けるとそこには優しく微笑むエスさんがいる。


『ハッカ、元気でな』


肩から温もりが薄れていく、声が出ない、手も伸ばせない。


背中が遠ざかる…







『乗ってく』

『久しぶりだな』


『いいでしょう。このゴリゴリ2輪タイプ。馬鹿みたいに早いからしっかり捕まっててね。ほれ、いっくよー』

『ジーザ、これもう飛んでないか』


『本気出すと浮いちゃうんだよね、気持ちいいー』


暗い中を強い光の方へ飛んでいく。


『で、どうするのさ』

『俺をあの光ってる黒いのにぶち込んでくれ』

『了解、元気でね』

『お前もな』



ぐんぐん近づいてくる。ジーザは車体を押さえつけ地面に押し付ける。


斜め上に回転しながら上昇していく俺達、ジーザは回転の中シャルロットとボトムレスをガンガンぶっ放す。

ジーザは俺の頬に軽く口付けて『楽しかったよ』といいながら俺を黒丸の上めがけて落とした。


落下しながら大きなガトリングガンを打ち込み、真っ逆さまに落ちていく、どんどん近づいていき、蠢くコードを見ながら突っ込む、ガトリングの砲身はもう真っ赤になっている。


コードの隙間から漏れる光の強い方に落ちながら進んでいく。



落ちた先には思ったとおりキャスが居た。腕には例の装置、装置から延びるコードはロボットみたいなスーツに繋がり、その背中から延びるコードがこの球体を造っているらしい。


『キャス、やめろ。そいつを止めるんだ』


『エス、やっと私は理解したの解ったのよ。あなたのお陰で、これが神の力、私は神を理解した、この鉱石を通して。素晴らしいと思わない、いえ素晴らしいでしょう。後はあなたを手に入れるだけ。私は全てを手に入れるのよ』



『キャス、神も悪魔もそんな力はねぇよ…人の欲は神も悪魔も凌駕するな、恐ろしいぜ。悪夢の時間はおしまいだ』





エス…なんでそんな悲しそうな顔をしているの。あなたのお陰で、後はあなたが揃えば私の欲しいものは全て揃うの…よ…


エスのマントがキャスを喰らう、黒い球体は枯れ落ちるように崩れていく。




翌日、追加の調査隊は気を失ったコルティック社開発部主任キャスの身柄を拘束した。







世界裁判所1号法廷


『判決は有罪、但し人類への数々の発明による貢献もあり…』


私は…どうなる。いや、どうでもいい。


もう、何も残っていない。



賠償が出来ればとか何とか言っているが、私の資産などすでに無い。


全てを費やして私は欲しかったものを何一つ手に入れられなかった。




なにやら騒がしい。


『キャス被告宛に届け物が来ました。差出人はエスと書かれています』


私はその荷物に飛びついた、周りを振り切り荷物を開ける…マント…エスのマント



マントを掴んだまま取り押さえられる、箱の中から2通の手紙。




裁判長宛と私宛


『なになに、「キャスの罪を買いたい」』


意味が解らない裁判長は私に手紙を見る許可を出す。


手紙を開けて声に出して読む。


『金を集めるのにはもう飽きた。最後にお前の罪を買いたい。金は思ったように使う物だろう、じゃあな』


私が手紙を読み終わるとエスのマントからは多量の金が溢れ出す。混乱する法廷、多量の金貨は湧き出るのをやめようとはしない。


金貨は裁判所を機能不能にする勢いで7日間溢れ続けたらしい、何百年前の金貨なども含まれていて歴史的価値も含め総額はいまだ計算中なのだそうだ。

そして、マントは見つからなかった。


私に残ったのはエスの手紙だけ、きっとあの人はもう私の前には現れないだろう。


これから何をして生きればいい、それを探すために生きてみようと思う。私の命は私だけのものではなくなったのだから。








裁判所に金が湧き出ている頃、街から出て行く1人の男がいた。口元に歪んだ笑みを浮かべ人混みの中へ消えていく。


『次は何を集めてみるかな』


誰に聞かせる訳でもない言葉を残して。








『武義君、ごめんなさい』


『あの人を追うんですね』


『うん』


『お元気で』


『元気でね』


逃がさない、私から逃げられると思ったら大間違いよ。必ず捕まえて見せる。


小さな少女だった女性は荒野を歩く、どこにいるかも分からないモノを探すために。




荒野は今日も晴天。


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