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荒野にアルコ種湧く。
とは言ってもワンダー内のように湧くわけじゃない。草木の少ない荒野に野生動物は少ない。大型の獣などほぼ皆無だろう。
そう、今までは。
『ハッカ、そっちからも来るぞ』
言葉をかける必要もないか。俺達に近づける、正確にはハッカの射撃を潜って来れる数はそう多くない。
俺はその少ない数を相手にすればいいだけ。
『本当に増えましたね』
『そうだな、大きさも、数も、種類も全体的に増えたな。それでも大昔、この荒野がもっともっと緑があって、水があって、人が少ない時代にはいろいろな動物が居たらしいぜ』
鉱石を拾い終わって2人で辺りを見渡す。
『想像がつかないですね、ここにいっぱい木や草があって生き物が居たなんて…』
『そのうち、人の手でそんな景色が戻るかもな』
『そんな神様みたいなことできるんですかね』
『さあな。飯でも食うか』
缶の中のハムみたいなものを焼く、辺りに漂う香り。
パンを少し焼いて挟んだだけ。
『武義の家からこっちに帰ってきたときを思い出すな』
『サブロイ一家の皆さんも元気ですかね』
なんとなく辺りを見回す。
『急にキョロキョロしてどうしたんですか』
『いや、大体こういう話をしていると、なんかおっさんとか、おっさんとか、おっさんが飯の邪魔をするんじゃないかと思ってさ』
ああいう奴等は変な空気の読み方して湧いてくるから注意しないと。
『大丈夫じゃないですかね。アルコ種がこれだけ居ると強盗するのも大変ですよ』
『それもそうか、小さな町じゃ防衛も大変になってるんだろうな』
結局おっさんは現れなかった。荒野で見上げる月は綺麗な真ん丸だった。
『なんか、活気が無いですね』
以前から1年も経っていないのに、以前のような人の賑わいはなく、お店も閉まっているところが目立つ。
『まあ、北と東にあんなのが出来ちゃうとな。水と立地だけじゃ人は流れるだろうな、荒野の大きなオアシスってだけになったな。この分じゃ俺の家売れないわ』
なんか知ってる景色なのに知らない景色みたい、終わっていく街なんだろう。
エスさんと荒野を中心にいろいろなところに行った。
特に何かが解ったわけじゃない、ただ2人で気の向くままそれこそ散歩しているかのような気軽さで、他愛の無い話に、その土地の物を食べたり。
ずっと、幸せで。 ずっと、怖い。
世の中はどんどん進歩していって、コルティックのTホイールは荒野の中規模の町を繋ぎ、荒野に消え行く町は減った、人の流れは2大都市に向かってはいるけれど、人は全体的に豊かになったと思う。
不安な顔をする人が減っているのは嬉しい、でも私の不安はどんどん大きくなる。
楽しそうにしているエスさんが、消えてしまうんじゃないかって。




