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そこまでほしい物はないと思うが相場って物を知っておくのは悪くない、知らないことで損する機会は結構多い。知識は金になる。
フルオーダーメイド銃の販売を開始か。どんだけ時間かかるんだろうか…金額は……
俺には必要ないな。
ソニミオはあまり値段が変わらない。武器は中古がある、ソニミオにはない。だから大きな価格変動がない。ソニミオ売り場は見るからに駆け出しの連中が口を半開きにして見ている。喉から手が出るほど欲しいのだろう、しかし武器は奪えてもソニミオは奪えない。
それはソニミオの謎特性によるもので、物の出し入れは持ち主にしか出来ない、鉱石の力が切れれば中身がゆっくりと出てくるのでエネルギー切れまで待てば中身は他人でも奪うことは出来る。でも、そのソニミオを最初の登録者以外が使うことは出来ない。下取り価格も安い、下取りもコルティック社しか技術が無くて独占状態。言い値で買うしかないぼろ儲けだ、うらやましい。
ちなみに個体差はあるが一番小さな容量、大体リュックサックくらいの容量で30000ジル。カネホリはこれを手に入れて駆け出し卒業と言える。手に入れてからの維持もあるから安定的に稼げないと途中で中身が出て大変ってことになるけどね。
『番号札89番の方、大変お待たせしました。鉱石カウンター4番にお越しください』
呼ばれたのでカウンターに札を持って歩いていく。さっきの受付の子が営業スマイルで出迎えてくれる。
『大変お待たせしました。今回の鉱石の内訳になります』
受け取った紙に目を通す。鉱石の写真と簡単な情報、ランクが書いてある。
Cランクが3個、Dランクが9個…まあまあいい稼ぎかな。ちょっと気に入らないのはジーザとかいった野郎が倒した鉱石が一番高値だったってことかな、それでも俺の金になるからいいけど…
『Cランクは買取をお願いしたいけどいいかな』
『かしこまりました。それ以外の9個は証明書の発行はいかがいたしましょう』
『無しで』
『それでは、こちらが買い取り金額と換金しなかった鉱石でございます。お確かめください』
目の前のコインを数える…間違いない。受け取りのサインを慣れた手つきで行う。
『確かに、ありがとうね』
『またのご利用をお待ちしております』
ふらふらゆっくりとコルティック社のキャラバンを後にして裏路地に入る。
『俺になんか用か』
1人のおっさんが出てくる…
『さっきは危ないところをありがとうございました』
俺が本気でよくわからない顔をしていると、おっさんは大げさに俺への感謝を並べた。
ああ、あの子犬のようなおっさんか…
『たまたま、通り道で、たまたま邪魔者がいたから蹴っただけ、気にすんな』
『いや、あの素晴しい身のこなし、只者ではないと思っていましたが。気にするなとはこの荒んだ世の中にあってなんと心の広い、これも神のお導き、きっとあなたの役に立ちます。あなたの子分にしてください』
神か…あの神父型詐欺師を思い出しちまった、気分悪いわ。
『子分とかいらねえから、本当に気にすんな、せっかく拾った命だ大事に使え、じゃあな』
『そんな、親分』
がっかりするおっさんを置き去りにして宿へダッシュで戻る。
『先生お帰りなさい』
宿の中に入ると受付にいた嬢ちゃんが笑顔で声をかけてくる。
『様子見がてら行ってきたよ。結構稼げそうでよかったよ』
『それはよかったです』
嬢ちゃんはもじもじしている様子…気の利く俺は耳元にそっと声をかける。
『受付の番しててやるから、トイレ行ってきていいぞ』
『もう、違います』
大きな声で怒られた…
『ハッカ、どうした大きな声を出して』
『お爺ちゃんなんでもないのよ』
ボレロは俺を見て受付カウンターの下をみて、顔を上げた。
『エス、ワンダーの様子はどうだった』
『結構いいと思うぜ、競争相手が少ないのもいい。入り口があの様子だと駆け出しには厳しいな』
『そうか、もし時間があればハッカの練習を見てやってくれないか。仕事が手につかなくて困るのでな』
嬢ちゃんは居心地悪そうに下を向いてもじもじしている。
『依頼主の希望はなるべく叶えるのが俺の流儀でね』
『嬉しいことを言ってくれる、では頼むよ。ハッカ後は私が代わろう』
『ありがとう、お爺ちゃん』
『では嬢ちゃんの練習の成果を見せてもらおうか。その前にトイレはいいか』
『しつこいですよ先生』
半ば呆れながら、椅子に座りA-12を取り出す。俺もそれを見ながら向かいに座る。
『では、見ててください』
時計をチラッと見てから嬢ちゃんに目で合図を送る…
『ほう…』
思わず感嘆の声が漏れる、こんな短時間でよくここまで…銃の扱いのセンスはあるな。
『どうでしょうか…』
嬢ちゃんが組んだA-12を手に取り、各部のチェックをする…きっちり教えた通り。
『次に進もうか』
『はい、先生』
かなり頑張ったんだろう、センスだけじゃない、これは化けるかもしれないな…
ボレロにちょっと表に出てくることと、空き缶を数個貰う。
『では、嬢ちゃんマガジンに俺が渡しておいた弾をセットしよう』
言っておいた通りに勝手に弾を扱ったりしてないみたいで結構。
手作りっぽい小さな布袋から弾を取り出し、俺に渡してくる。マガジンに一発セットしてみせてそれを返す。
かみ締めるように、1つ、また1つセットする嬢ちゃん。
その間に俺は空き缶を地面において行く。
『では、マガジンを銃にセット』
『はい』
カチッといい音がする…
『深く考えずに両手で一番近い空き缶を狙って構えてみるんだ』
2メートルくらい先の空き缶に嬢ちゃんが銃を向ける、引き金は右手か。
『ちょっと、身体に触るぞ』
後ろから抱きしめるような格好で身体を密着させ、耳元で話しかける。初めて銃を撃つからか全身に力が入ってしまっている。
『緊張するのはわかるが力の入れすぎはかえって危ない、腕を伸ばして衝撃に備えろ』
『は、はい』
適度に力が抜けたところで、いよいよ指示を出す。
『空き缶の真ん中、トマトの絵に集中。撃て』
俺の上半身に軽い衝撃が加わる、トマトの中央には穴が1つ。
『初めてにしては上出来だ』
俺が離れると嬢ちゃんは尻餅をついてしまう。反動の少ないA-12ならもう少し慣れれば問題ないな、後は実戦あるのみ…
『大丈夫か』手を差し出す。
嬢ちゃんを引っ張り揚げ、そのまま右の手、肘、肩を触って異常がないか確かめる。
『問題なし、後はもうちょっと足腰を鍛えた方がいいか。残りも撃ってみよう、念のため肩だけ補助するから』
嬢ちゃんは赤い顔して頷くだけ、まだ日が高いから暑いのかな、夕方にすればよかったか…
狙って、撃つ。狙って、撃つ。狙って、撃つ…
動かないトマト缶は穴だらけ、2メートル先は合格点、むしろ最後の方は自分で衝撃を受け流していた。
『たった13発で飲み込みが早いな。後は安全な時間にランニングと軽く身体を鍛えるように。射撃の練習は俺がいるときのみ行う。いいかな』
この先が楽しみだ。
初めての感想は、思ったよりもやさしかった…
身体に走った衝撃は心地よかった…
何かが変わる、頑張ってみたい。だから、頑張る。見ててお母さん…
空き缶を並べて置く、暫くはここが練習場、的は置きっぱなしでも問題ないだろう。
嬢ちゃんと一緒に宿の中に戻る、嬢ちゃんは俺に頭を深く下げると自分の部屋に銃を持って戻っていった。
『ボレロー、嬢ちゃん筋がいい。教えがいがあるよ』
『それはそうと、話しかけながら請求書を出すのはいかがなものか』
『今日の弾薬、13発分、39ジル。宜しく』
『わかった。今日は夕食はどうするかね』
『今日は情報収集も兼ねて外へ行くから俺の分は無しでいい。賑わってそうな酒場の情報くれるかい』
『それならエルさんとラドさんが働いてるボブのところがいいと思うよ。この町の宿の中心にあるからカネホリも多いだろう』
『サンキューボレロ。2人が出勤まで食堂の机借りてもいいかい』
『他の客も居ないから好きにするといい』
俺は座って無料の水を貰い、お2人の出勤をぼーっと待った。




