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街が生える、夕日に照らされた眼下に街が映える…その中でも一番栄えるのは僕が管理する区画。
エスさんを追ったあの日からひと月が経った。
僕にとっては濃密な時間となった、事前に準備し、煮詰め溜め込んでいたモノを一気に解き放つその勢いと質量を操るのは非常に困難であると同時に今までにない充実感と手ごたえを感じている。すでに計画は僕の望む方向に向かって流れている、経過を見ながらの修正でいけるだろう、みんな優秀だから…ふっ、夕日が眩しい…
『武義、気持ち悪い』
『お茶をブランデーグラスではちょっと』
『何やってんですか、入るときはノックか一声かけるのが普通でしょうが、フェイが付いていながら…姉さんが絡めば駄目か…』
『舞が中からぶつぶつ聞こえる、危険があるかもしれないからそっと入って楽しもうって言うから』
『フェイ、姉さんも僕がなに言っていたかわかってるよねそれ。危険は無いし、期待通り楽しみましたか』
『思った以上に寂しく寒い展開に残念ながら楽しめなかった』
『聞かれ損じゃないですか…』
『しかし、先ほどの独り言の通り武義君の区画は計画を作ったコルティックに劣ること無い速さで進んでいる』
『そう…困難を乗りこなし、ぷっ。充実感を感じていい』
姉さんはよく笑うようになった、フェイのお陰だ。正直に嬉しいと感じる。
武義は洗練されてきている、この子は商人になるべく産まれたような子だ。いろいろな経験が武義を急成長させている…私は心配だ、急成長は不安定と隣り合わせ。成功体験は増長を産み人格を歪める危険性もある。私は、私を救ってくれた可愛い弟を…こんなことを考えること事態があの子にとってよくないか。私はフェイと武義を支えるのみ。どんな道を進むとしても…
『もういいです。視察に行きますよ…姉さん、視察の時はフェイから降りてくださいよ』
『ん、しょうがない、業務命令には逆らえないから仕方なく降りる』
『そうしてください』『鬼…』
『聞こえてますよ、姉さん』
『とっとと行こう』
2人を従え街を行く。延びる影は寄り添う親子のようであった。
ふぅ、大まかな形は出来てきた。数日後には開店できるだろうってお爺ちゃんが言っていた。
ここは中央からは結構離れている場所になる、それでも武義君のお陰で他よりも優先的に作ってくれた。
武義君曰く「建設の為にも多くの人がこの土地に集まります。皆さんの店が早く繁盛すれば僕の区画も盛り上がるはずです」だって。その後舞さんに「回りくどい点数稼ぎ、笑止」って言われてたけど…
『ハッカ、お前オーナーなんだからボーっとするなよ。疲れたのか』
『エスさん、その植物は入り口にお願いします』
「あいよ」っていいながら大きな植物を2個抱えて入り口に歩いていった。
そう、私はこのお店、「サウザンドハッカ」のオーナーになった。
お爺ちゃん達3人の資金だけでは全然足りないということで私が大部分を出すことをお爺ちゃんは渋々了承した…
『この金額では現時点ではこの新しい街に店を構えるのは難しいと思いますよ』
『ボレロ、ハッカに出してもらえばいいじゃないか。本人も出したいって言ってることだし』
『しかし、こんな金額を出させるのは…ぐぅぅぅ』
『私としてはこれから育っていく新しい街で新しいスタートができれば最高です、はい』
『ボレロさん、意地はってもどうにもなりませんよ』
お爺ちゃんは頑固だ、周りに言われれば言われるほど引けないと思う。
『ボレロさん、はっきり言いましょう。今回を逃せばどこの街にっても一緒です。これから荒野はこの街を含め大きな街しか残らない。今、決断しなければ後悔します』
武義君はお爺ちゃんにはっきりと告げる、その目には有無を言わせない力があるように感じた。
『ハッカ、頼む。私の意地で2人に迷惑もかけれん』
『武義君、どの辺りがいいと思う』
私はよく判らないので武義君に聞いてみた。
『ではまず、狙いの客層、店のコンセプトとスタイルからですが…』
『あの思い出いっぱいのボブさんのお店みたいな感じがいいな…』
私の一言でみんなの顔に自然と笑みがこぼれる…
『じゃあ、店の名前は「サウザンドハッカ」で決まりだな』
エスさんの一言でみんなが強く頷く…恥ずかしいけど、この空気でいい出せない…
『そのコンセプトならあえて中央から離したほうがいいですね。幅広い層に支持されるには…この辺りでどうでしょう。距離的には離れますが、僕の区画は中央に大きな通りを設定して離れていても利便性が失われ難く設計していますから』
『おいおい、都市計画なんて話していいのか』
『皆さんと僕の間柄です。信用していますし力になりたい』
『本当にいいの…』
『もちろんです。建設の為にも多くの人がこの土地に集まります。皆さんの店が早く繁盛すれば僕の区画も盛り上がるはずです。僕のためでもあるんですから』
『回りくどい点数稼ぎ、笑止』
『姉さん。そういうことじゃ。頭を撫でないでください、子どもじゃないですよ』
『基本は昔の私の店のようにテーブル席とカウンター席を用意して広い客層を狙いましょう』
『イメージしやすくて助かります』
『ボレロも接客するのか』
『エス、何か言いたいことでもあるのか』
『意地張らないんだろう、拗ねて俺にあたるなよ。入り口別にして同じ店に落ち着いた高級店を渋いボレロに任せるのはどうだ』
『おお、それはいい考えですはい。さすが目の付け所が商売人ですねこのボブ感服ですはい』
『カウンターがあるのにですかい』
『保安官、カウンターは有っても賑やかさが売りになるメインの店はお得感も大事だから客単価が下がるだろう、落ち着いた高級店は客単価が高い、売り上げはどうなる。それにだ、同じ店に違う顔、金がある時は高級店、金が無い時は普通の店、気分によっても懐具合によっても一ヶ所で選べるこれは客にとってもメリットだろう』
みんな盛り上がってるな、内容は全部はわからないけど楽しそう…こんな楽しいお店になるといいな。ジョンさんと目が合って何かうんうんって頷いてる。
ジョンさん私ある程度みんなの言ってること解ってますからね。
『ほら、ハッカ。飲み物』
『ありがとうございます』
冷たいジュースは気分をさっぱりさせてくれる。
『簡易的な店を除けばハッカ達の店がこの街で一番早い開店になるな、一番は箔が付くな』
『そういうのはいいんです。お爺ちゃん達が楽しくやれて、来た人が喜んでくれれば』
『そうだな、それが一番かもしれないな…』
『はい』
準備は上々です、はい。
オーナーの言葉、このボブ…アフロの奥にズキューンっと痺れました…それと同時に、今までチックスターでサウザンドボブをやってきてよかった、あの店で楽しい思い出を作った人たちがいる。
この新しい店でもたくさんの思い出が溢れる店にしたい、ボレロさんもいる、ジョンさんもいる。仲間と一緒に始めることができる…神よ、感謝します…
ハッカに甘えてしまったが、皆の嬉しそうな顔を見ると自身の意地が小さな物に思えてくる。最後に一花楽しんで咲かせてみるか。私は本当にいい孫を、そして仲間を持ったな…
自信は無い、でも頑張るのみ。俺にはそれしかないからな。オーナーのハッカちゃんも難しい事は解っていない様子だったけれど良くしたいって気持ちは伝わってきた、俺も同じだ。覚える事は多いだろう、ひとつひとつできるようになっていくぜ。
それから数日後、「サウザンドハッカ」は仮オープンした…
高級店は品物、内装の関係で後日となり、店全体の外装も途中で従業員もいないため席数を減らしてのスタート。
新しい伝説の幕はひっそりと静かに開くのだった…




