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『ん、急に沸きが減ってきたような気がするね』

『中層から下層に入りかかった辺りにしては変ですね…』


違いははっきりと判るほど…異様と言っていい。


『考えてもわからないし、都合がいいからどんどん進もうか』

言うが早いかジーザさんは加速モードに入り、ハッカさんもそれに続こうとしている…置いていかれる。



結果としてその心配は無かった、僕は今ワンダーの天井を見ている…仰向けで…


『本当にどこ行ったんだろうね』

『確かに…』

『ちょっと気持ち悪くなってきたんで休憩をお願いしたいんですが…』


天井が足元に、そして地面に足を付いた状態になった…足がジンジンする。


『武義、休憩を言い出しっぺが準備だよ』

『手伝うよ、武義君』


痺れた足をぎこちなく動かして簡単な食べ物と飲み物を取り出す…

『僕はワインがいいよ。赤いの濃いやつ』

スッと差し出すとビンから直接飲んでいく。



『沸かないから楽だけど、暇だね』


足音が近づいてい来る…ハッカさんは凄い勢いで立ち上がり、立ち尽くした…


『あれ、お前た…』

エスさんの顔にジーザさんの拳がめり込む………


『へー、今のを避けないのは何かやましいことでもあるのかい。なあ、僕の気が済んだら聞いてあげてもいいよ』

低く、鈍く、そして重い音が響く…


くの字に折れ曲がるエスさん、下から拳を振り上げ、更に押し込んでいく…がエスさんは動かない。


『ちょっと驚いただけだ、お前に殴られる理由は無いね』

ジーザさんは美しい笑顔を浮かべる。

『ははは、そうかい』

辺りに砂煙が漂う…


地面にうつ伏せに倒れるエスさんに

『理由もわからないほど馬鹿だとは思わなかったよ。僕らを何だと思っているんだい』

低い音は鳴り続ける…何度も、何度も、何度も、何度も、何度も…


ジーザさんは踏みしめる足に更なる力を込めているのか音は強く、早く、エスさんは身動き1つしない…


破裂音と同時にジーザさんの踏みつけは終わった。



『その辺でいいんじゃない…いきなりで止めに入るのが遅れたわ。これ以上やるなら私が相手になるけれど、どう』


『気味が悪い物を持っているね、試してみるかい…』



次の瞬間、小さな破裂音が無数に鳴り、稲光のような発光…



『どんな仕掛けか知らないけど面白いねそれ…売り物かい』

『残念、もし譲るとしてもその資格があるのはエスだけね』



『エスさん、エスさん…』

やっと我に返ったハッカさんがエスさんに駆け寄る…


『大丈夫だ…心配かけたみたいだな』

顔は腫れ上がり、全身砂まみれで口からは血がたれている…



『何も、ここまでやらなくてもいいじゃないですか…ジーザさん…』

『いや、いい今回のことは俺が悪い…ハッカ、武義、ジーザ…悪かった』


『大丈夫ですか…』

『ほんとに解っているのかい………まあ、エスだからこれぐらいで済ましてあげるよ』

ジーザさんは僕の言葉を遮って、言い放つ。


『その面白そうな物、僕にも作ってよ』

『嫌よ、貴方は私の好みじゃないもの』

『なら仕方がないね…殺してでも……なんてね、返り討ちで痛い思いは嫌だからやーめた』


ハッカさんは何も言わずにエスさんの顔の汚れを優しく拭いている…

『武義、水を…いや、強い酒無いか』


度数の高い酒を瓶ごと渡すと口に含み、真っ赤に染まった液体を吐き出す…辺りにアルコールと血の臭いが漂う。



『とにかく、出ようか…』


ハッカさんがエスさんに肩を貸し、ジーザさんとコルティックの女性から少し距離をとって出口の方へ歩いていく。僕はなんとなくその間に位置を取り静かなワンダーには僕らの歩く音以外の音は無かった。




『僕は先に帰る』

ジーザさんはそう言い残し、コルティックの人が小型Tホイールでアクアサークルへ送っていった。後で僕らも迎えに来てくれるそうだ。


エスさんは眠っている、ワンダーから出てすぐに倒れて眠った。状態は悪くないそうでハッカさんが付き添っている。僕は戻る気にはなれず…かといって傍にも居られない…ただ、待つだけ…



そんな時不意に話しかけられる。

『ちょっと話があるんだけど言いかしら』

『何でしょうか』


『時間があるなら私と取引をしてもらえないかしら』

『コルティック開発部主任であればわざわざ外の商人と取引する必要はないのでは、もったいないですよ』

『随分と優しいのね。キャスよ、肩書き無しで個人と取引して欲しいのよ』


ふむ…


『社内で資材調達すると監視が強くなるのよね。貴方なら信用に値する、駄目かしら』

『僕を信じる理由は…』

『エスが貴方のために私のところに情報を取りにきた、それだけよ』



『頻度と主な種類は』

『種類はこれから研究だから色々変化するけど、鉱物が中心かしら、あと鉱石もね』



『手の者を月2回送り込みます。目立つほど大きな物はその都度受け渡し方法を調整しましょう。連絡はお互い直接しない、伺う回数もその都度調整でいかがですか』


『至れり尽くせりね、話しが早いのは助かるわ。あと、お金には不自由していないから値段は言い値で結構よ』

『いえ、適正な価格で取引させて頂きます、帳簿なども残りませんがね』




『頭のいい子は好きよ。ここの開発スタートからお願いするわ。いい取引ができそうね』

『よろしくお願いします』

危険な香りはするが、ミラさんへの牽制くらいにはなるかもしれないな…


キャスさんとの取引によって莫大な資金を得ることになるとはこのときは知る由も無い。





身体が熱い、




エスさんが急に苦しみだした、部屋の温度が上がるほど熱い。こんなに高温になるなんて。


『エスさん、エスさん』

このままじゃ危ない、暴れたら落ちちゃう。とっさにエスさんに抱きつく、熱い…それに凄い力…2人してベッドから落ちてしまう。


ベッドから落ちても激しい高熱のままもがき苦しむ、床に頭を打たないように大事に頭を抱える、熱い、焼けてしまいそうなほど、暫らくしてエスさんは汗だくで静かに寝息を立てる。私も疲れそのまま意識を手放す…



『ハッカ、大丈夫か』

エスさん…あれ、顔の腫れが…

『ほれ、ちょっと飲んだ方がいい』


身体を起こし渡された冷たい水を飲む。


『エスさん顔の腫れがかなり良くなってますけど、もう大丈夫なんですか』

鼻の頭を掻きながら、

『まあな、昔から身体は丈夫だからな。直りも早いんだ。心配かけたな』

いろいろ気にはなる、でも、今は無事を喜ぼう…




『ハッカ、汗が凄かったから着替えた方がいい。俺は外に出てるから』

透けそうなほど汗をかいていることに気がつき慌てて布団に隠れる。

扉の音を聞いてから手早く着替えを行い、扉に声をかける。



『いいですよ』

『起きたこと伝えにいくか』

扉からちょこっと顔を出して私に声をかける。





並んで歩く…


『エスさん、もう大丈夫なんですか』

『ああ、すまなかったな。武義にあんな伝言押し付けて』

『気にしないでください…いや、今後は考えて欲しいですね。ハッカさんとジーザさんの命のやり取りなんてあまり見たくないですから』



『そうか…十分気をつけるようにしよう。ハッカにも迷惑かけたんだな…』


『エスさんが無事だったなら私はいいんです…』



『そういえば、ハッカさん着替えた…、あっ、すいません個人的なことに…』

『な、なに言ってるの武義君、別にただ着替えただけだし、そんな変なことしてないから、ね、そうですよね、エ、エスさん』

『何も無いから、2人とも落ち着けよ。ありえないからなっ』


無言で肘をエスさんに突き立てる…




『ご飯…でも…食べます…か』


僕が言えたのはそれだけだった…


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