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今日は会談の日、さてとお茶の準備はいい。茶菓子もいい。後は到着を待つだけ…
部屋の扉を叩く音、予定より随分早いな…そういうタイプには感じなかったけど、どんな狙いかな。
『武義様お客様ですがお通ししてもよろしいでしょうか』
よし。
『お通ししてください』
なんか気配が多い気がするな…
『おう、武義久しぶり』『あんまり変わらないね、外見は』『元気だった武義君』
『おい、何とか言えよ。武義』
『え、ええ、はい…』
今日はミラさんが来るはず…ハッカさん、エスさん、ジーザさん…
『皆さん。どうしたんですか、ナスペンゲンに居たんじゃないんですか』
『ルートができて飽きたからね、エスが武義に会いにいこうって。なんかそうしよう、そうしようって感じで今ここにだよ』
『舞さんは居ないんですか』」
『姉さんとフェイは仕事で外に行っています。そう時間はかからずに戻ってくると思いますが』
ハッカさん、また素敵になったな…
『武義君、私どこか変かな…』
『武義は解りやすいよね、ほんとに』
皆で笑いあう、まるであの日のように………
『ああっ、しまった。すいません皆さんもうすぐ商談があるので、夕食でもご一緒にどうです』
ミラさんはエスさんを知っている。ここは僕だけで渡り合わなくては今後のためにも。
『そうか、お前達後で出直そう。補給と家の掃除に行くぞ』
『う~ん、あの人ちょっと苦手なんですけど…』
エスさんに背中を押されてた2人は部屋から出て行く。
入り口で顔だけをこちらに向けて、「つよきでいけ」と声を出さずに笑うエスさん。
気分がいい、とても。
皆に会う前、落ち着いていたと自分で自覚していた。
今はどうだ、ワクワクしている。今からの話の内容は何パターンか予想はある程度付く。
楽しみだ…僕の糧になってもらおう。
待ち人来る。
『早速だが用件から言おう…』
『アクアサークルの東の件ですか』
『どの程度まで理解している』
『いえ、推測の域はでませんよ』
『私に手を貸す気はあるかね』
『ありません』
『結構、ではこの資料に目を通して検討してもらえるかな』
『折角です。お茶でもいかがですか』
返事を聞く前に準備を始める。
お茶と茶菓子を彼の前に差し出し、同じポットから注いだお茶に口をつける。
彼もお茶に口をつける。
『ほう、いい物を用意してもらえたようだ。ゆっくり茶を飲むのは久しぶりだな。美味しいよ』
僕は茶菓子も1つ口に入れる。
『この茶菓子は僕の故郷で兄さん達が選んだ物です。なかなか繊細な味でこのお茶によくあいますよ』
『ふむ、頂こう…風味がよい品であるな。素晴らしいもてなしに感謝する』
『喜んでいただけたようで安心しました。資料を拝見してもよろしいですか』
『どうぞ。私は君のもてなしを楽しませて頂く』
ゆっくりと資料に目を通す。ふむ、この資料はミラさんが作ったものだろうな、恐ろしく要点だけを纏めてある。
三分の一まで読んだところで手を止めて資料を閉じる。
『何か不審な点でもあったかな…』
『いえ、南側の区画、中央近くの高い区画を除いて』
『最後まで読まなくてもいいのかね』
『はい。前回の資料はすべて確認していますから』
『君一人で決めてしまってもいいのかね』
『この話は、この私、武義に対してのお話かと思っていましたが、違うのであればこの件は諦めますが』
『いや、失礼。では、他の候補者との調整が付き次第連絡をさせていただく。それとエスについてだが…いや、君に聞くのは筋違いだな』
『内容にもよりますが、お手伝いできれば是非』
『いや、個人的な案件なのでな、気持ちだけ頂いておこう』
『そうですか』
『もう一杯いかがですか。一個人として』
『頂こう』
『気になったので一個人として聞くが、なぜ中央の区画は除くのかね』
『1つに開発参加の為の費用が周辺と比べて倍以上であること。もちろん中央は重要度が高く、開発後の利益もそれに見合ったものにはなるでしょうね』
『そこまで解っているならばどうして、開発し甲斐があるのでは』
『では、私の立場でミラさんは中央に手を出しますか』
『出さないな…』
中央は国の施設、コルティック社関係のスペース、ワンダー入り口の周辺、開発には必ず一定の規制や情勢の変化によっては再開発の対象になる可能性が残る、大きな投資にそのような不確定要素が強いものよりは広がりがあるほうがいい。
『商売は広がりがあるほうが楽しいと思うのです』
ミラさんは茶の香りを楽しむように口に含み、カップを置く。
『確かに、自由な広がりは楽しいものだ。自分の器を見誤らなければな』
『十分気をつけます』
『楽しみにしている。美味しいお茶をありがとう、ではまた』
帰り際迎えの馬車に乗り込む前に僕に優雅に一礼して彼は去っていった。
その数日後僕の元に追加の資料が届いた…
『どうしましょう…』
手元を見ながらエスさんに尋ねる。
『どうしようって言っても、そのうちここに来るんだろう。そん時に出かけてたからごめんねって感じでいいじゃないか』
『それに、チックスターを引き払ってくるんでしょう。暫らくは僕らもここに居るしエスの言う通りでいいんじゃない』
それもそうだけど、手紙の内容が時期を追うごとに簡素化されているのがちょっと怖い…
最後は「とりあえずそちらに行く」だけだった…
気は重いが、今は家庭的な私を発揮する時。気持ちを切り替える。
ああっ、2人でどんどん片づけが進んでいる。出遅れた…
大きな見せ場も無く片づけは終わり…次は補給。
あの人はジーザさんに仕掛けて顔の形が変わるんじゃないかって思うぐらいボコボコにされていた…
『迷惑料ちょうだい』
『…は、は…い…』
あの人はふらふらしながら返事を返す。
『あれなんかいいんじゃないかハッカがいらないって言ったアリス6式、どうよ』
『へー、いいねちょうだい』
『それは、できません』
ハッキリした声であの人は断る。ジーザさんの顔から笑顔は消え、凍えるほどの殺気を出して一歩あの人に近づく。
身体を震わせ、声も震えながら弱弱しい声を出す…
『アリスはハッカさんに使ってほしいって思っているんです、そう決めたんです…』
『殺すか…』『やめとけよ』
『他の物で、何とかお願いします』
『いやだね。そんな話を聞いちゃあますます欲しくなるじゃないか。ハッカちゃんは要らないって言ってるんだろう。ハッカちゃんが要るって言うなら話は別だけどね…』
『ハッカさんが要らないといっても俺の気持ちは変わりません』
殺気を出し続けているジーザさんが怖くないはず無い…命を直接掴まれてるほどの恐怖がこの人を蝕み続けているというのに…そこまで…
『ガメルさん、アリス6式私に売ってください…』
私はジーザさんの正面に立っていた。
『コーティングと試し撃ち用の弾を僕への迷惑料にしよう』
私を満面の笑みで見るジーザさんは天使のような微笑で…
『ガメル、バースにジーザからって言えば早く安く済むだろうよ、へへへ…』
指をわきわきさせながら歪に笑う、エスさん…
その後、ガメルさんとお金を払う、払わないで揉めに揉めた、落としどころは買い物は是非うちでとなった。エスさんと一緒にいるなら必然的にそうなるからよしとした。
私の試し撃ちを見ながらグッとガッツポーズを取る姿は嬉しそうだった。
それに、面白いくらいアリスは私の手に馴染む銃だった…
『やっと付きましたね』
『とりあえずこの大きな街では闇雲に探すのはよくないな』
『いろいろな人に聞いて保安部でも探しますかね、はい』
日の光は誰にでも平等に頭上から降り注ぐ。




