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ワンダー…そこは無法地帯。欲に塗れた人達が自分のために命をかけて金を稼ぐ場所…実力だけが全て。



『てめーそいつは俺が先に見つけた獲物だぞ』

『ぐずぐずしている方が悪いんだよ、文句あるか』

『殺すぞ…』

『やれるものならやってみろ、相手になるぜ』


2人の男が銃をお互いに向けている。ワンダーでは良くある光景…

響く2発の銃声…重く響く音…


殺しは当然罪、ではなぜここでは簡単に起こるのか。

ワンダーで死んだ生き物は1時間ほどで土に返る…理屈はわかっていない、こんなところも不思議で不気味な世界。


証拠も残らない、周囲は同じカネホリだけ…ここでは命は金より軽い。やり過ぎればカネホリ達から注意人物として見られる。それだけの事。

カネホリが徒党を組まない理由もそこにある、信用できるのは自分だけ…だれも後ろから撃たれたくないのだから。



入り口から浅瀬にかけては、蛇やねずみ、こうもり等の小型のアルコ種が湧く、質にもよるが大体200ジル~500ジルくらいの価値の鉱石が取れる。駆け出しはそれらを換金してソニミオと新しい武器を調達してさらに奥を目指す。


ソニミオが必須なのはワンダー内では補給ができないからだ。アルコ種と戦い、人間と戦い、深く潜っても生きて戻ってこなければ全て無駄。欲張れば目を付けられ殺され、武器が無くなればやはり殺される。


常に生きて戻る。これが出来てカネホリとしてのスタートライン…




おーやってる、やってる。入り口の混雑はいつも一緒だな。

広い入り口の中はさらに広い空間、安そうな銃を片手に岩陰やケンカがあちこちで起こり。怒号と銃声、悲鳴が響く混沌とした空間…


周囲に気を張りながら地面を触る。

『一週間程度の割にはだいぶ吸ってるな…ちっ』

銃声を聞くより早く前に転がる。


殺伐としてやがる、とりあえず浅瀬を抜けるのがいいか。色々な音を無視しながらワンダーの奥へ深くゆるやかに潜っていく、徐々に辺りが静かになっていく…

時折聞こえる銃声が人がいる事を知らせるが姿は見えない。


1人でキョロキョロしてみる、岩陰から大型犬位の獣が姿を現す。この辺から中層…思ったより浅瀬が狭い、入り口の状態はその影響か。


このタイプは群れる事が多いからまだ数匹いるな…気がつけば口元が緩んでいたようだ…


右にオートマティック、左にリボルバー…笑いながら相手に飛び込む。

急に近づいたからか獣は一瞬動きを止める、右で眉間に打ち込む、顔を上に向けさせる。


『素直に上向くいい子だね』

喉元に見える結晶にリボルバーを向けてさらに近づく…


薄明かりを発しながら消えていく獣、銃口からの煙がうっすら立ち上る。

やっぱり、マグナム弾は効くわ。


落ちた鉱石を拾わずに仰向けに寝転がる。顔の上を横切る影に向けてもう一発…


残りは散ったか…

上半身を起こし足元の鉱石を見る、2cmくらいのものが2つ。


『まあまあの純度かな、1000位にはなるかな』

俺の見立てで買取が低そうな方をマントの内側に放り込み、もう1つを腰の袋に入れる。


ニヤニヤしながら脇道も見てみる、とぐろを巻いている大蛇型…

そーっと、そーっと、抜き足差し足…後ろに回り込む…


5メートル後方、まだ気づかれていない…

懐から狙撃銃を取り出し構える…とぐろの中心、頭の鉱石を狙う。


撃つ。


さっきより多少大きい鉱石を拾い上げる。この中層は狩りがしやすい感じでいいな。入り口以外はだけれど…



それから、2時間ほど様子を見ながら狩りを行う、腰の小さな袋がカチカチ音をたてる。


『こそこそしてないで出てきたらどうだい。それとも出てこれない事情でもあるのか』


『いや、君に興味があって見ていただけだよ。その若さでなかなかいい腕のようだし』

さらさらの髪をなびかせて気取った態度の奴がゆっくりと両手をあげて出てくる…


『神父…か』

『神なんて信じていないけどね。一応神父だよ。僕の名前はジーザ、君は』

『神を信じない神父発言と言い、その格好。まるで詐欺だな。お前に名乗って俺に得はあるのかい』

ニヤッと笑いながら言ってやる。


『それは君の出かた次第じゃないか。全てを救う神はいないけど自らの選択に神を見出すことは出来るだろう』

『小難しいことはわからねぇ。俺にあるのは得か損か、それだけだ』

『君の選択にも神が宿るかも、知れないよ』


嫌いなタイプだ、自分に酔ってる感じに吐き気がするぜ。言ってることもよくわかんねぇ。こういうタイプは適当にあしらってやり過ごすに限る。


『俺はエス、邪魔しないならこちらも何もしない、これでいいだろう』

『中層以降に入れるカネホリはそう多くない。さらに、こうやって狩場で話が出来る者はさらに少ない。貴重な出会いを楽しもうとは思わないかい』

『思わないね』


相対しているまま、腰のソニミオから大型のリボルバーを笑顔で取り出す、優雅な仕草でゆっくりと…俺の方に向ける…

俺の顔の高さに達した瞬間、奴のリボルバーは火を噴いた。


『そんな高火力の銃使って中層じゃオーバーキル、弾代が勿体無いだろうが。お前とは気が合いそうに無いわ。射撃の腕でも自慢したかったのか』

『そんなつもりはないよ。僕は今この銃がお気に入りでね、この子だけを使いたい気分なだけさ。後ろの奴の鉱石は君にあげるよ、お近づきの印にね』

『貰える物はありがたく貰っておくが、落ちてる物は誰の物でもないからな文句言うなよ』

『僕はそんな小さなことは気にしないから安心したまえ。君は用心深そうだから今日のところはここまでにしておくよじゃあね』


言いたいことだけ言って奴は俺にあっさり背中を向けて片手で髪を払いながら入り口の方に歩いていってしまった。



暫くして、振り向いてみる…言うだけのことはあるか…



俺の後方20メートルくらいのところにプルトロン鉱石が落ちている、あの銃でこの距離を一発か。


ん、なかなか純度の高そうな鉱石だな。今度あったら一言くらい声かけてやってもいいか。



大体感じは掴めたから今日のところは帰るとするか、ワンダーを出るまでがお仕事だからな少し休んで一気に出ないと。


懐からマスターのジャーキーを取り出して口に咥える、水筒からコップに水を注ぎチビチビ飲む。


全部懐にしまい込み、腰の袋も再度縛りなおし、入り口に向けて小走りでかけていく。


徐々に銃声や人の争う声、死の気配が強くなっていく…



『ひぃぃ、助けて』

ちっ、運が悪い。岩を回り込んだその先で人間の命が人間によって消されようとしていた。


座り込んでる男と一瞬目が合う…捨てられた子犬のようだ。顔はおっさんだけどな。

銃を突きつけてる男は俺に気づいていないようだ。しょうがない、後ろから足を払ってやる…

転んだ拍子に岩に頭をぶつけたところまで確認してそのまま走り去った…



出口はもうすぐ………今日のお仕事完了。




さてと、換金換金。プルトロン鉱石はそのエネルギー量と質で買い取り額が変わる。手順はこんな感じだ。

まず、コルティック社のキャラバンにある鉱石専門のカウンターに鉱石を持っていく。

そこで解析装置によってエネルギー量と質の鑑定が行われる。

それぞれの品質と買取額が提示され、納得いけばコルティック社へ売却。

他に売りたい時は手数料を払って証明書を発行してもらい納得いくところで売ればいい。


コルティック社が自動的に大量の鉱石を手に入れられるように出来ている仕組みだ、他への配慮からか気休め程度に証明書発行の手数料は10ジルと大変お安くなっている。


『お願いね』

鉱石カウンターに今日の成果を並べる。

『少々お時間いただきますので、店内ご覧になってお待ちください』

『はいはい、お願いね』

引き換え番号の札を持って店内へ入る、このやり取りたとえ一個の鉱石であっても、他の客がいなくても行われる。

購買意欲を高めるために…手が届く物であっても、届かない物であっても、見ていれば欲しくなる、もっともっと稼げるように、手に入れていない金で手に入っていない物を手に入れたときのことを勝手に想像する。


楽しいもんね。


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