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準備は整いつつある…不安もある、もし。
いや、迷いは悪い物を呼び寄せる。
エスさんを信じるように自分を信じなければ。
コルティック社アクアサークル支部大ホール。
全世界から様々な企業、商人の代表が集まっている、僕の手にある招待状。
ここにいるのは一定の選ばれた資格者達と言える。
驚くほど静かな会場は無言の探りあいか…
壇上に忘れることの出来ない男が上る。
『ようこそ本日は呼びかけに応えて頂き大変感謝しております。皆様の中にはすでにご存知の方もいらっしゃると思われますが北に消滅しないと思われるワンダーを研究、開発しており…失礼、ここにお集まりの皆様には不要な説明でしたな』
会場に動揺は少なく、動揺した者もすぐに口をつぐんだ。
『研究の結果あのワンダーは長期間消滅しないであろうとの結果が出ました。最終的には国営となりあの地に大都市建設の計画があります。今はコルティック社が中心部を含め小さな町程度の規模。大都市化開発に参入の希望があれば力ある皆様にご協力をお願いしたい。この後部門ごとの説明と希望者の受付を行いたいと思います。希望受付は部門ごとの説明を聞いた後になりますのでご検討をお願いいたします』
それだけ言い残しあの男は壇上を降りていく。説明資料が大勢の職員によって素早く全員に配られる。
最初の説明者が壇上に上がると同時に僕は資料を手にホールを後にした。
『帰るのかね、説明は続いているが』
『ええ、今日は僕の考えていた内容と違ったので』
『無駄だっと思うかな』
『いえ、無駄ではないと思います。信じる者の言葉が僕を後押ししてくれているので』
『妄信ではないか』
『僕は商人なので…それではまた、いろいろ忙しいので』
『引き止めて申し訳なかったね、ではまた』
資料の内容を隅々まで確認していく…
『姉さん、フェイ。兄さん達に伝言を「おやつが足りない、焼き菓子を更に追加願う」早めだと嬉しいです』
『フェイ、しょうがない降ろして。行きましょう』
『では、お待ちください』
フェイの抱っこから降りた姉さんの顔は本気の表情、先日のことが悔しいと見える。
この様子では向こうについてから兄さん達が大変そうだな…がんばって欲しい。
2人はすぐに出て行った。
僕はフェイの部下達に指示を出す。
『お茶でも飲もう』
1人ゆっくりお茶を淹れ、香りを楽しむ…そういえばおやつがあったな、一緒に楽しむとしよう。
武義、彼の利用価値を上方修正した方がいいな…
彼は運がいい、キャスの実験で東は時間差になった。偶然か必然か、チックスターに関わった人間が意図せず大きな舵取りに影響を及ぼしている。
迷うな、もう少し深く踏み込むかどうか…キャスは深入りしすぎた…行く先は深い…
豪華ではないが品のある雰囲気の部屋で俺達は待っている。
『ジーザ、報告が終わるまで酒は待てなかったか』
髪を軽く揺らして慈愛に満ちた表情で
『待てない』
『だろうな、説明する気も無さそうだし』
『さすが、僕を解ってるね。愛してるよ』
『まあ、その程度の量でお前が酔うことも無いし問題ないか』『そうそう』
『すいません、お待たせしました』
『ん、キャスは居ないのか』
この時期の情報提供なら喜んで喰い付くと思ったんだがな…
目の前に出てきたのはカノン、そういやあの日以来キャスを見てないな。もともと引きこもりっぽい感じだったが…
『主任は新しい研究に懸かりきりで…』
『何か気になることでもあるのか』
戸惑いを見せながら暫らく悩んでいる様子だったがカノンは口を開いた。
『今までも研究の時は凄い集中していたんですけど、今回は鬼気迫るものがあるというかのめり込み方が異常な気がして。一段落したら様子を見に行こうと思っているんですが…あっ、すいませんこちらのことばかり』
ここには居ないってことか…
『最奥と思われる場所へ到達したのでその報告とそのポイントまでの比較的安全と思われるルートとポイントについて纏めた資料を買ってもらおうと思ってな』
『査定に少々お時間頂いてもよろしいでしょうか』
『キャスがそんな状態だし、確認も出来ない最奥の情報だから、今後の情報と照合して結果をくれればいいから』
『助かります』
『大変だと思うけど倒れないようにな』
部屋を出て行く彼らの後ろ姿を頭を下げて送る…
誰のせいで主任はこんなことになっているのか、きっとわかっていないあの男は…
あの日、主任は正気じゃなかった、狂っていた…
『主任、主任』
呆然と立ち尽くしていた主任は手に持った恐ろしく高純度と思われる鉱石をスッと隠した。
『主任、その鉱石は…』
『カノン、このことは黙っていて頂戴、いいわね誰にも言っては駄目よ』
『は、はい…』
目を血走らせ、美しい顔が歪むほどの懇願と威圧…私には了承する以外の返事はできなかった。
『私用のTホイールで東に行くわ。ミラには私から連絡しておくから。この場は暫らくお願いするわ』
それだけ言い残し主任は部屋の資料をまとめ始める…
私のことを気にも留めない、ぶつぶつと何かを口ずさみながら資料をかき集める主任…
1人静かに部屋を後にする。
『ミラ様、以上が先ほどの様子になります』
『尋常じゃない雰囲気の正体はエスが引き金か…あれは暫らく好きにさせることにした。警備は就けさせてもらったがな、後はTホイールが目立つのと開発計画を変更する必要だけだな。カノン、すまないが暫らくそこの指揮を頼む。少ししたら都市計画課を派遣するからそれまででいい。頼んだぞ』
『はい…』
通信であの様子をみて好きにさせるのか…
暫らくしてあの男が情報提供に来た、主任の状況を話せば何かリアクションがあるかと思ったけれど、以前会ったとおりの様子だった。
誰のせいで主任は…掴みかかりたい気持ちを無理やり押さえ込み対応する。
私はどうしたらいいのか、ミラ様に切り捨てられては困る…そう思う時点で主任のことを思うのが間違っている…
解らない…エスのあのソニミオとも呼べない物の正体は…でも…
以前から考えていた試作機に組み込めれば、理論上はいける。
エネルギーを蓄積可能なシステムを…
ああ、あの一瞬…
理論は出来ていた、必要な物は器となるもの、エスはそれを私にくれた…これで完成させられる…
エス…あなたが私の次元を上へ押し上げてくれた…エス……早くあなたに見せたい。
これで基本システムは出来上がり、試してみないと。
『実験のためワンダーに入るからどきなさい』
『では、我々もお供します』『不要よ』
『ミラ様より「大事な主任から目を離すな」と言われておりますので…』
『勝手にしなさい。実験に事故はつきものよ…私からは離れておくことをお勧めするわ…』
私は試作品を片手にワンダーに潜っていく…
キャス主任の実験に関する報告。護衛隊長マーク
片腕に装着する四角い形状の金属、先端に金属の板が2本ついている。
放電のような発光の後小型の変種アルコ種が消滅。その際鉱石が残った形跡は無し。
高威力の攻撃兵器ではないかと推測される。
外から見ただけでは内部の構造、使用材料の特定は判断不可能。
その後小型アルコ種を数十体消滅したことを確認、いずれにも鉱石発生の痕跡、主任が拾った様子は無し。
『何を作っている…』
報告書からは多くの情報は得られていない…キャスの施設は全てキャス自ら設計されている為情報の抜き出しも出来ない情況…
『自由にしすぎたか』
新しい技術が私の利益に繋がるものならばよいが…あのときの様子ではどうなるかな、早めに手を打っておく必要があるかもしれんな…




