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何から話せばいいかしら…研究ばかりしてきたから話題が無いわ…
『ミラはコルティック内でも偉いのか』
『そうね、あの人は私の支援者の筆頭だから重役の中でも力はあるほうじゃないかしら』
『なるほどね…』
『どうやって知り合ったの』
今はミラに感謝ね。
『偶然だよ。コルティック本社を探してて、通りかかったミラを捕まえて話してみたら重役だった』
『驚いた、本当に偶然だったのね』
『それから、情報もらったり、コーティングをタダでしてもらったりしたかな』
紅茶を口に運ぶエス。
ミラの嗅覚は凄いわね、根拠が無いけど結果だけ見れば金を産む人物と出会っている。
『私もね、高エネルギーの活用に関する技術についての論文がミラの目に留まって個人的に支援を受けるようになって、プルトロン鉱石の発見で理論を実験できるようになったの』
『その結果がソニミオであり、今の世界的企業コルティック社って事か』
『そうね、いろんな力がコルティックにはある…興味はあるでしょう』
少しの間を空けて彼の口から出たのは世界的企業の否定だった…
『俺は、金が大好きだ。自分の手で集めた金がな…』
興味深い…
『キャス、お前は俺と似た感じがする』
そうかもしれない…私は確信する。エスの中に私が入ったことを。
『欲しい情報は消えないワンダーの秘密…それとも、技術的な情報…』
『俺の仲間の為にちょっとな』
『それは、あのお嬢さん…もしくは武一族の少年の方かしら…』
『後者だな…』
『アクアサークルの東……ミラには話しをしてみるわ…』
『俺のこいつはオリジナルだ…』
そう言うとエスは私の手首を掴み、ソニミオに、そんな、馬鹿な…
思考が止まる…
『これで貸し借りなしだ。ありがとな』
エスはそれだけ言い残し部屋から出て行く…
わからない…エスがいた時間は夢…幻…私は頭がおかしくなったのか…
『他人のソミニオに手を入れて中の物を…プルトロン鉱石を私に握らせる…なぜ、吸収されない…ソミニオは私が創ったモノなのに、解らない…』
理解が出来ない、理解の糸口すらない…私はカノンに声をかけられるまで異様な高純度の鉱石を手に1人立ち尽くしていた…
わからない…俺はなぜあんなことをした………
武義の為…
いや違う、なぜ…解らないことは考えなくていい。
俺は思考を止め、舞たちのところへ戻る。
『アクアサークルの東…根拠も無い曖昧な話しだが武義に伝えてくれ』
『エス、何かあった。動揺が見える』
『いや、ちょっと…なんでもない大丈夫だ。あと、コルティックのミラ。そいつは俺を知っている…喰われなければ使える』
『了解した。ハッカをお願い。フェイ、行きましょう』
その日のうちに2人は武義の元へ戻る為に去って行った。
ルート構築まではグループでの狩りを当たり障り無く行った。自分のチームに来ないかと他のメンバーに誘われたが丁重にお断りした。
あの日からキャスが姿を現すことは無かった。
『エス、最近物憂げでそれはそれで素敵だけどなんかあったのかい。僕の妄想が暴走してすごいことになりそうだよ』
『何にも無いから。やめてくれ、っていうかやめろ。どんな妄想だいったい』
『物憂げなエスを強引に押し倒して自暴自棄な発言をするエスを優しく包み込むと抑圧された感情を剥き出しにして逆に僕をメチャメチャに…』
『やめろ。豊かだな、おい。想像力が豊かで す ね』
『でしょう、へへへ』
『褒めてねーから。前向きか、ジーザ、お前は一直線の自分の道を疲れもせずに全力疾走か』
『そうだよ』
『そうでした』
こんなやり取りの間にも集まったカネホリ達に壇上のカレンは説明を続けている。要望したルート以降の鉱石の買い取り価格の件もしっかりと含まれているようだ…
『そういや例の件どうだった』
『そうね、トップ5グループ位かね、思ったよりはいたね』
『まあ、コーティングできる時点でそこそこ稼げてたってことだからな』
『聞いてなかったけどなんで僕に頼んだの』
『もし、チックスターの最奥のような状況があったら…俺達だけでは対処できないかも知れない。念のため使えそうなものは確認しておかないとな』
『ふーん』
そんな話しをしている間に説明は終わりぞろぞろとカネホリ達はルートに入っていく。
ルート…見た目はガラスの大きなトンネル。仕組みはわからないがアルコ種はルートに攻撃はしてこないらしい。一定の間隔で出入り口が作られておりコルティック社の職員が武装して管理している。
『では、俺達も稼ぎに行くとしようか、ジーザ』
『エス、やっぱりその表情じゃないとね。楽しく踊るとしよう』
美しい金髪をなびかせながら足取り軽やかな美形と片方の口を歪に歪めて笑うマントのコンビがルート内を駆け抜けていく…
それを見た者は口を揃えて言った…
『二色の暴風』と…
『武義、エスからの伝言』
『アクアサークルの東、それとコルティックのミラという者がエス様を知っている、「喰われなければつかえる」との事です』
武義は静かに私達を見る…
『そうでしたか…姉さん、フェイ。少し遅かったようです』
遅かった…私達は休憩もそこそこに急いで戻ったはず…
『先ほど、そのミラ・コルト本人が来ました』
驚く私達を前に武義は続ける。
『迷宮のような男でした…』
時間はミラが実りのある会議を終えた時に遡る。
数少ない参加者達はお互いに言葉もなく立ち去っていく。
そしてミラも自分のフロアーに戻った。
『珍しいのわらわに直接連絡とは、いい話しかえ』
『私が連絡するのは商売の話ししかあるまい、本題に…』
『残念じゃが今は後継者候補を育てているところでの、武一族の力が必要ならばそちらに…』
『まだ現役であるのに、体調でも崩されたか』
『いや…元気じゃよ。心配をかけたかのぉ』
『もし………いや、こちらで…』
『おそらく今はアクアサークルにでも居るのではないかと思うぞ』
『ほう…』
『では、そちらに話しをするとしよう』
『暇ならいつでも話し相手になるぞ、ミラ』
『暇があればな…それでは失礼する』
随分と若い…まだ子供ではないか…
『コルティック社のミラ・コルトと言う者、突然の訪問大変失礼で申し訳ない』
『武義と申します。コルティック社重役のあなたが直接いらっしゃる事態、急ぎなら本題を。あと見ての通りの若輩者、お言葉は楽にお願いできれば幸いです』
年の割には…
『では、失礼をして。私と手を組んでもらえないか』
『それは私とですか』
ふむ…
『率直に聴こう。君はどれほどの力を持っている』
『私は武一族の一商人ですが』
後継者候補の自覚が無いのか…意図的に党首が伏せているのか…目の前の男の独断か…
『近く有力な商会の力が必要になる件があり選定しているところでね』
『あなたの目に留まったなら光栄ですが…』
『武一族とは技術交流もあり規模、質共に申し分ない』
「母さん…」
つぶやきが聞こえる、あの女の子供…
『ミラ様、武一族の力であれば党首へ早急に連絡を取りますが』
計りかねる…この違和感は何か………なぜ気づかなかったのか、余分な時間を過ごしたな。
『エス…』
『お知り合いですか』
『偶然ではあったが知り合いとは言えるだろうな…差し支えなければ武義君との関係を聞かせてもらっても』
『仲間です』
反応が早いな。そうか、この少年が例の…
あの男を仲間と呼ぶ、当然か…
『武義君、今の話しは無かったことにしてもらおう、勝手な話しですまんな。しかし商会の力が必要なことは事実だ…君がたどり着ければ…いや、仮定の話しは無意味だな。失礼する』
隙だらけでかえって困る…後継者候補と言われてあの女にいいように遊ばれたわ。
有望であることは確認できた、使い捨てにしないほうが旨みがあるな…
『嫌な汗だ…世界は広いな…』
誰も居ない部屋に武義のつぶやきだけが静かに響いていた。




