72
『武義様はまた成長されましたね』
『ふん、まだまだ子供…』
舞はしっかり武義君を認めている、そして心から感謝している…それは私も同じ…
コルティックの動向は大体掴めている、あの大量輸送を可能にした「Tホイール」あれは我々の商会にも是非欲しい、それ以外には今回はワンダー内に入るカネホリを制限している。これも異例の処置、確かに安易に動くのは悪手かもしれない、何かを感じ取った武義君を支援するそれが当然。全力を尽くすのみ。
『どうするの』
今日も舞は美しく、可憐な花のような顔を見せてくれる。
『手の物に調べさせた結果、例のワンダーに町をつくる計画があるみたいだよ』
『ワンダーに、町…』
『大規模だから簡易的に町をつくるのか、それとも何か裏があるのか』
今回は情報制限が厳しく深い部分の情報は得られていない、周辺の情報や動きからの予測の部分が多い。後は直接潜入して確認しなければいけないだろうな…
手段は命燐様より頂いている、「くれぐれも武義には内緒じゃよ」のメッセージカード付き。
『例の場所に商人として命燐様の息のかかった者がいるようですからそこを仮拠点としましょう』
『私達に直接言わないところが母上らしい…』
『舞は美しすぎるから変装しないとね』
『フェイが言うならそうする』
私達は北のワンダーに向かう準備を速やかに始めた。
居ない…なんで居ない…わざわざ準備したというのに…
『あの、メンバーの方がどちらも足りないようですが』
『ああ、エス君か。体調がすぐれないので申し訳ないと言っていた』
『そうですか…』
『こっちのはめんどくさいから僕は行かないだそうだ』
『そうですか………』
折角言われたとおりに小奇麗にしたのに…意味無いじゃない。
『どうかされましたか』
『いえ、私も少し体調を崩しているようで、カノン。皆様には感謝をこめてゆっくり過ごしていただいて頂戴』
『主任…わかりました。皆様どうぞごゆっくりなさってください』
『皆様のお陰で現在のところ予定以上に順調です。今後もよろしくお願いいたします。では、失礼いたします』
カノンの纏わり着くような視線を軽く無視して会場を後にする。さてと現在の進捗状況でも確認しましょう。
『へーハッカはセンスあったんだね』
『俺が教えたことは殆どないですよ。むしろジーザのほうがハッカの先生みたいなものですね』
エスさんなのにエスさんではない感じ、うーんもやもやする…
『あの怖い人がハッカちゃんの先生ね…』
『ハッカは悪い人じゃないって言ってたけど…』
『不器用、というか揺ぎ無い自分があるというか、底が見えないですからね』
『そういえばエスさんも本当は今みたいじゃないって…』
『嫌だな…そんなことないですよ…』
『で、本当の姿…見せて貰えないのかね…私達にはその価値がない、のかね…』
楽しく会食していたテーブルが静まりかえり、キリさんが身を乗り出してエスさんに迫る…
『キリさん』
私はエスさんの前に体を滑り込ませる。
『わかったわかった、ハッカ、落ち着けよ。そこまで言われちゃあのままでいるわけにはいかねーわ』
ニヤリと歪に顔をゆがめエスさんが笑う…
『やっぱり、あの男と同じくらい怖いね兄さん』
『俺はジーザほどぶっ飛んじゃいないと思うけどね』
『そうかい、まああまり突くと何が出てくるかわからないからやめとくよ』
『口調は違うが、前会ったときに言ったことは本当だからな、ハッカのことよろしく頼む』
『もう、ハッカは私達の仲間だよ。いちいちお願いされる必要はないね』
『キリさん…』
『ハッカ、皆。誓いのティーセットやるよ、準備しな』
『『『『ええっ』』』』
『いいから準備しな。おっと、エスさんは男だから残念だろうけど不参加だな』
『そうか、とっても残念だ』
エスさん、内容知らないはずなのに棒読みで残念がってる…
『私らの団結見せ付けてやるよ』
『『『『おお』』』』
『声が小さいよ』
『『『『おお』』』』
キリさんは満足気にカップを見回して声を出す…
『心に華を』
『『『『心に華を』』』』
『手に金を』
『『『『手に金を』』』』
『女は度胸、稼ぐぜ華の団』
『『『『おー』』』』
『素晴らしい、強い絆を感じるぜ、ブラボー』
エスさん絶賛してるけど目が笑ってない…
キリさんとても気分良くなってるけど、騙されてますよ…
他の3人はとても恥ずかしそうに周囲をキョロキョロ…
『やっぱり悪い人達じゃないみたいで安心した。よかったな』
『はい、皆さんいい人です』
『ばあ』
『『『『きゃーでたー』』』』
『もう少し普通に登場できないかジーザ…』
『驚きはスパイスだよ。エス』
『ジーザさん近いから、エスさんに近い』
『いいじゃない、エスぶちゅっとおいでよ』
『や・め・て・く・だ・さ・い』
とりあえず2人を引き離す。
『エス、ちょっと付き合ってくれないかい』
『私達と過ごしてるんですよ』
『ハッカちゃん、次は僕の番って事で』
『2人ともやめないか。キリさん達も怖がってるから今日はジーザと行くわ』
そんな…でも、キリさん達身体が強張ってるし…
『ジーザ、お前が侘びを入れたら付きやってやるよ』
『エス………うーん、しょうがないね。そこのお前達この間は悪かったね、ハッカちゃんを頼むよ。様付けなら僕の名前を呼ぶことも許してあげるよ。これでいいだろうエス』
ジーザさんがかなり上から謝罪…したのかな…
『いろいろ言いたいことはあるがまあいいだろう。ハッカ、皆さんまた誓いのティーセットみせてね』
そう言うと2人は店を出て行った。ジーザさんの「エス、誓いのティーセットってなんだい、面白い臭いがぷんぷんするけど…」って言葉が気になったけど…
振り向くと明らかにホッとした表情の皆がいた。
『ハッカ、あんたあの2人と一緒に入れるだけで大したもんだよ』
『町を出てから凄い人たちばかりだったので自分では良くわからないんですよね』
『ちなみに、凄い人って…』
『知ってるかわからないですけど、命燐さん達とか凄い商人さんなんですよ』
『命燐…まさかね…』
『さすがにあの命燐じゃないですよね』
『キャハ、そりゃないでしょう』
皆の様子がちょっとおかしい…
『ハッカ、まさかと思うけど武一族の命燐じゃあないよな。そんなわけないか』
『そうですよ。やっぱり有名なんですね命燐さん』
あのあと、皆さんは暫く動かなかった…
コルティックに次ぐ規模の商売をしているのを聞かされて私が驚く番だった。
なにか急に皆が遠く感じて…俯いた私に…
『ハッカ、胸を張りな。あんたはあんただろう。それに私らは大した事ないけど…仲間だろう』
皆の顔を見渡す…
『よっし、やるよ誓いのティー…』
『『『『お断りします』』』』
『即答かい』
今はできることをがんばろう。届かないなら届くようにすればいい。
『そろそろいいかい』
『駄目だ、そう焦るな。ゆっくり楽しもうぜ』
『エス君は焦らすのも上手だね、ゾクゾクしちゃうよ僕…』
『こういうのはタイミングも大事だろう…』
『この僕がおあずけされるなんてね、やっぱり君は凄いね…』
『2人の会話は気持ち悪い…ちょっと話を聞かせてもらう』
『おや、後ろのいい男は誰だい。一晩僕と遊ばない』
『いえ、私には舞がいますので、ジーザ様ですよね』
『いい男も好きだよ、その顔覚えておこう』
『久しぶりだな。武義は一緒じゃないのか』
『アクアサークルでお留守番中』
こんな即席の町に不釣合いな高級バー。始めはカネホリ達のコテージとコルティック関係施設しかなかったこの場所に徐々に民間の商店やキャラバンも入ってきて今では小規模な町のようになってきていた。
金は巡る、血液のように…




