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コルティック社アクアーサークル支部は今までにない賑わいをみせていた。

職員は休みも取れずに毎日毎日カネホリの相手に追われて続けていた…


『ですから、詳しいお話は資格を確認させて頂いて、正式登録された方にのみ後日お知らせさせて頂いておりますので』

『コーティング武装の確認を順次行っておりますので整理券をお持ちになって登録窓口へお願いします』

『何度聞かれても正規の手順を守って頂かないとお教えできません』



コルティックアクアサークル支部窓口担当ウェア。

25歳独身、両親と同居のさわやかな青年…現在は毎日の対応に追われそのさわやかさは失われ、目の下にうっすらくまがあり、ぼさぼさの髪に疲労が見て取れるというものだ。

受付開始の日から1週間、休みなく働いている。独身者である為この緊急事態に休む事などできるはずもなかった。


『ウェア、昼休憩交代で入るから先に頼む』

誰からの声か少し朦朧としながら入れ替わる、いま窓口業務している同僚達はみんなウェアと同じような状態であった。



『はぁ、なんで募集にコーティング武装の所持ってあるのに窓口に来るのかなぁ』

誰も居ない控え室で簡単にパンを栄養ドリンクで流し込みながら1人愚痴る…


この混乱の原因はコーティングが出来ないが何とか情報を聞いておこぼれにありつきたいカネホリ達が原因であった。

現にウェアがこの1週間で対応した中にコーティング武装保持者はたったの2名、受付全体でも10%程度しか条件に合うものはいなかった。


生きる為に必死な冷やかしの対応…この不毛な状況に窓口の職員達の心は折れかけていた。


同僚が控え室に入ってくる…お互いに言葉はない。

ウェアに解っているのは短い休憩は終わりだということだった…




『エスさん、今日こそは中に入りますからね』

『ハッカちゃん。大好きだから混んでたらやめようね。お願い』


う~ん、ずるい、ずるすぎる。でももう募集受付開始から1週間も人の多さをみてはやめ、みてはやめを繰り返している。

「儲けるためですよ」って言ってみたが2時間待ったところでぐでぐでして戻ってしまった。

「そのうち空いてくるからそれからでもいいんじゃない」って言われて、混雑も始めだけかもって私も思っていたら人はむしろ増えているような感覚で1週間が過ぎた…


先延ばしにしてはいけない。私は心を鬼にして今日こそは頑張らなくては…



『だ、駄目です…何日もそうやって言ってもきりがないですから…私とおしゃべりしてれば時間なんてあっという間ですよ』

『えー、あの人混みだよ。ハッカとおしゃべりならもっとタダでケーキが食べれるカフェとかでいいじゃないか。あの人ゴミゴミは嫌だよぉ』


『タダでケーキってガメルさんのところでしょう。駄目です、今日という今日は絶対に並びますからね』

エスさんの首の後ろを引っ張ってコルティック社の方へ歩いていく。

後ろで「しまった、バースのところならよかったかな」とつぶやきが聞こえたので。

「どっちにしても駄目です」と言っておいた。




今日も大盛況なコルティック社…


『ハッカ、やめよう。飯食いに行こう』

『駄目です。他の人も一生懸命暑い中待っているんですから』

『大好き、ハッカ』『駄目です』

『一緒にランチと洒落こもう』『駄目です』

『情報も売ってくれる個室の…あそこは駄目だな』『えっ、どんなところですか』


『どうしてもだめか』『だ・め・で・す』

エスさんったらまるで子供みたい…しょうがないけど私がしっかりさせなくちゃ。今日は何がなんでも並ぶの。



『ん、おーいジーザ』『エスさん、そんな見え透いた嘘には騙されませんよ』

『いや、ハッカ。ほんとだって、おーい、ジーザ誰担いでるんだよ』

もう、いくらエスさんでもしつこい、たまには強めに言っておかないと。


『エスさ』『エス、とハッカちゃんじゃない。久しぶり』

あれ、ジーザさんの声…


ゆっくり後ろに振り返るとそこには変わらない笑顔と担がれた人…担がれた人……


『ジーザ、誘拐か』

『そんなわけ無いじゃないか。なんで僕がこんなのを誘拐しなければならないのさ』

『じゃあ、どうしたんですか』


ジーザさんは「話せば長くなるよ」と前置きをしてから話しだした。


『僕はコルティックの募集に参加しようとしてアクアサークルに来たのさ…』

ジーザさんは肩に担いでいた人を地面に落として、俯き加減で憂いの表情を見せる。


私はジーザさんの言葉を待つ…



『人が一杯で並ぶのが嫌になってしまったんだよ』『分かる、ジーザの気持ち俺にはよく分かる』


『『おお、同士よ』』




話し長くない…なに男2人固い握手して…しかもジーザさん落とした人踏んでるし…


『で、この人は誰なんですか』

『裏口から入れないかと思ってウロウロしてたらね。裏口が開いたのさ』

『それとこの人の関係は』

『目の前で倒れたんだよ。それでコルティックの制服だから、話を聞こうと担いできた』

『そうですか、倒れてたから担いできたんですね、ふーん。って駄目でしょう。そういうのを誘拐っていうのでしょうが。エスさんからも言ってやってくださいよ、このさらさらの金髪に』


『良くやった、ジーザ』『そうです、良くやったジーザさん、って違うでしょう』


『『違うの』』

『違うでしょう』


私は間違っているのだろうか…本当はこの行為が正しいのではないか。


『倒れていたから助ける為に担いで、その見返りにちょっと話を聞く。このやつれた顔を見てなんとも思わないのかいハッカちゃん』

『そうだ、この人を助けたい。そのついでにちょっと話しが聞きたい。これは人助けじゃないかハッカ』


そうか、確かにこの人は疲れきっている…助けなくては…


『そうですね。この人を助けてあげましょう』

私達3人はお互いに顔を見合わせ力強く頷く。


『ハッカは栄養のあるものの用意を。ジーザは水の用意だ』

テキパキ私達に指示を出すエスさん、かっこいい。



『では、始めよう』

ん、いったい何を始めるのかな…倒れている男の人を仰向けにして…ジーザさん、水の用意ってバケツじゃ飲みにくいと思うな私………


『せーの』

『起きろー』

ぶっかけた、盛大にバケツの水を気を失ってる男の人の顔に、ぶっかけた。

エスさんが頬をパンパン、パンパン叩きながら「しっかりしろー」って言ってる。あ、起きないからか「チッ」って舌打ち。



『こらー、2人とも何やってるんですか。ジーザさん2杯目のバケツを仕舞って、そもそも何でバケツ持ってるんですか』


『『起きないから』』

息ぴったり。ってどうでもいい。


『うぅぅ…俺はいったい。ここは、はっ、窓口に戻らないと』

『落ち着いてください。コルティック社の裏口にあなたが倒れていたんです。これ飲んでください』

私は命燐さんに貰った滋養強壮の粉末を飲み物に混ぜて渡した。



『身体に力が…熱い。あなたはいったい…いけない窓口に戻らないと、みんなが』

『落ち着いてください。そんなになるほど何があったんですか』


『取り乱してすいません。実は…』

飲み物の効果のお陰かだいぶ元気を取り戻した男の人はこの1週間のことを語りだした…溢れかえる冷やかしの波に資格者は徐々に減り、中には毎日断られても詰め掛ける凄い人もいるようでどんどん人が増えている。今回の現場指揮を執るコルティック開発部主任がまだ到着していない為とにかく同じ説明を繰り返すしかない。無意識に外へ出ようとしたのではないかと思うと話してくれた。


『このままでは職員も潰れてしまいますし、お客様達同士の揉め事も増えてきています…一体どうしたらいいのか…』


ガックリと肩を落とすウェアさんを気の毒に思ってしまったのがこの後の惨劇を産むことを私はその時点では予測できなかった。


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