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『それでは、始めましょう』
この場の全員が軽く頷く。
現状は上手くいっている、僕と桂兄さんを中心に新しい仕組みは現状の最良といえた。
需要が高く利幅も大きいプルトロン鉱石を扱いながら独自の商品開発、コルティック製品のカスタム、規格外鉱石を餌に一部技術提供、業務提携の話しも素早く決まった。
規格外鉱石の情報の出所は気になるが、フェイの部下の調べではコルティック社重役の1人が我々の情報を持っていたところまでは調べる事ができた、現状はそれで十分だろう、お陰でこちらにとっても利を得る事ができた。例のコーティングについてもそろそろ届く頃だろう。急がせたから輸送費は割高になってしまったが必要経費内だな。
『武義、難しい顔してないでそろそろ…』
『待ちきれない…』
(首をぶんぶん振る巧兄さん)
『始めてから考えればよかろう、皆を巻き込むものではないぞ』
確かに…
僕は皆を見回し口を開く。
『では、いただきます』
『『『『『いただきます』』』』』
こうして皆で食事をとる事も多くなった、こうした事の積み重ねが円滑な関係の構築には不可欠だと思うようになった。
『武義、とりあえず食べんか。最近眉間にしわが刻まれそうな顔ばかりしとるぞ』
『若年寄…フェイ、あーん』
(巧兄さんは何か言っているがもごもごとしか聞こえない)
『まあ、凛々しくなったとも言えると思うけどね』
桂兄さんは基本褒めて伸ばすタイプなのか僕のいい点を逃さず言ってくれる。姉さんや母さんが基本辛口なのであえてそのポジションをしてると思われる。
ちなみに巧兄さんは食べてるかにこにこしてる、仕事はゆっくりだけど人柄の良さから協力者も多く、部下にも義に厚いできる者が多い。中小の取引の50%は巧兄さんの担当になっている。
『舞、口についていますよ』『とって』『はい』
姉さんはますますフェイにデレデレしている、基本僕の護衛でフェイは出張が多いので一緒の時は見てるこっちが恥ずかしくなるほどだ、目のやり場に困る…自重して欲しい…本当に…
フェイはその辺り常識的だけれど姉さんに甘えられれば拒否する事もできずに甘やかし放題だ。フェイのせいではないので僕も口を挟む事はできない。
順調だ、本当に…そう、これでいい…
僕も少し食事に手をつける。
『巧、僕の目を誤魔化せると思ったのかい。1つ多く食べようとしているじゃないか』
『桂、さすがだね…』
『あっ』
『口に入れてしまえば僕の物さ。おやつの管理が武義に移った現状に桂の優位性は無くなったのだよ』
両手を広げて「どうだぁ」って感じのポーズを決める巧兄さん…の皿から桂兄さんがおかずを口に入れる。
『つまり、こういうことかな。巧』
『うぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉっぉぉぉ』
やはり桂兄さんの方が一枚上手か。まあ、わかっていた事ではあるが…
皆楽しそうだ。いいことだ、そうこれでいい…
『武義よ、荒野に戻るがいいぞ』
え、母さん。何を言っているの。
『そうだね、こちらは安定傾向にあるし。変種の情報もそろそろ次の動きがある頃かもしれないね』
(口に肉を咥えて桂兄さんの言葉に頷く巧兄さん)
ポンと姉さんが僕の肩に手を置きながらビシッと親指を立てる。
確かに、荒野の情報はほぼ確実に手に入っている。コルティックは次の一手を打っている…
『自分の目で確かめる事は大事じゃろう。それに自分の気持ちに素直に動けるのも今のうちかも知れんぞ』
僕は………
ぐっと身体が持ち上げられる。目の前には僕を立たせた姉さんの顔。
『行こう、武義』
『こっちは僕達がやっておくから、頼むよ』
『まだまだわらわも現役じゃしの』
『物資の流通は僕の傘下の者がいつでも手配するからね。はい、チケット』
巧兄さんは船のチケットをニヤニヤしながら僕に差し出す。その後ろでは母さんと桂兄さんもニヤニヤしている。
僕の知らないところで準備をしていたんだろうな………もう、みんな………
僕はチケットを受け取りゆっくりと顔をあげて母さん、桂兄さん、巧兄さん、姉さん、フェイを見回す。僕はいい家族を持った、心から感謝したい。
しかし…
『僕への報告無しに何を勝手な事を進めているのですか…』
表情の無い声でもう一度全員を見回す…全員の動きがピタッと止まる。
『これは母上が言い出したことで…』
『桂、わらわに責任を押し付けるつもりか、それはいいと皆言っていたではないか』
『私は知らなかった。ねぇフェイ』『いや、さすがにそれは』
わいわいがやがや責任の押し付けあいが僕の前で繰り広げられる。
『僕のためにありがとうございます。行ってきます』
姉さんとフェイを連れて僕らはアクアサークルを目指す事になった。
『ジョン、どんな感じだ』
『ボレロさん、俺なんでこんな事になってるんですかね…』
『なんでだろうな。ボブにしか解らんな…』
『そうですよね、暑いかと思ったら以外に涼しいんですね』
『そうなのか…』
『ボレロさんもど』『俺はやめておく』
『ですよね』
『もう少し背中を伸ばして腰でバランスを取ったほうがいいんじゃないか』
『こんな感じですかね。まだコツがつかめないんですよ』
『それでもこうやって会話しながらできるようになったのだから確実に上手くなってるのだろう』
『そうですね。これが上手くなる事の意味を考えなければ技術…うーん…』
『いや、技術といっていいと思うぞ』
『そうですか。なら、技術は向上していると実感はありますね。いつもつき合わせてしまってすいません』
『まあ、俺も今は暇だしな。1人で練習は自分を見失いそうになるかと思ってな』
『助かります』
『気にするな』
『後任は大丈夫なのか』
『ええ、今は大きな事件もないですしね。正直いざとなったら教える事ほとんどない事に驚きましたよ』
『ボブもそろそろ店をたたむと昨日言っていたぞ』
『そうですか…これを俺ら3人で練習するんですかね…』
『今は余り考えないようにしようか』『ですね』
『お2人とも、練習はどんな感じですか。はい』
『考えないようにしようと話している途端に実現したなジョン』
『ですね。ボブさんひょっとして店からその状態で来たのですか』
『もちろんです、はい』
『まあ、そろそろ日が傾いてきたから、私のところで夕飯でもどうだ』
『お言葉に甘えさせて頂きますです、はい』
『ご馳走になります』
『『『よっと』』』
赤く染まりかけている空の下、男三人大きめの玉から降りる。
なぜ、ジョンが玉乗りの練習をしているのか真相はボブさんのアフロの…いや、頭の中。
私もバランスにはある程度自信が有り最初から出来ていたが、確実に実力がついてきたな。
何の為かは解らないが、今日もこの町は平和らしい。




