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『ミラ様、例の件について報告が入っております』
『うむ、開発部主任に連絡を頼む』
秘書が連絡を取っている間に報告に目を通すか…
……額が少ないな…これでは、恩を売るほどではないな…
ミラはそう思ったが実際の金額は普通に考えれば膨大な金額になっており、コルティック社重役の資産が桁外れなだけなのだが。
『全部で6丁、即金でもよかったな……主任、もう少し静かに入ってくることは出来なかったのかね…』
髪をぼさぼさにしたまま息を切らして駆け込んでくる…
『ミラ、彼はどこなの。早く会わせて欲しいわ』
もう、こいつは…やっぱり教えるのやめようかな…
落ち着きなく私のオフィスをキョロキョロする目の前の女に軽いめまいを感じながら、告げてやる。
『ここには居ない。私がそこまでするような親切な男に見えるか』
明らかな落胆を表情に出しながら不機嫌全開で口を開く。
『この忙しい時に…』
『お前が探している者の手がかりだ。もって行け』
『え、いいの…どうしたのいったい』
見た目とは大違い、中身は子供だな…
『この間は私がむきになってしまったからな、まあ詫びのようなものか』
返事もせずに放り投げた資料を食い入るように見る…
「アクアサークル…」
小声のつぶやきが聞こえる、次の言葉は容易に予想できる…
『私…』『待ちたまえ』
『何よ、ミラ』
『今すぐアクアサークルへ向かうと言うのだろう』
『そうよ。そのために教えてくれたんじゃないの』
『今から行っても会える確立は微妙だと思うが、あれの発表を早めてはどうかな。彼はコーティングを終わらせている、この提案まで込みで私の侘びだ』
少し変わった物を見る目で私を見る、失礼な奴だ…普段が普段だから仕方ないか。
『何か企んでるの』
それを直接聞くのはどうかと思うぞ…
『何も』『ほんとに』『本当だ』『実は』『何もない』
気なるとしつこいなこいつは。
『あえて言うなら利益の為。といっておこう』
『どういう仕組み』
くどい…
明らかに面倒な空気を出しているのにまったく引く気がない。
『現在、予定の倍の値段のコーティングできているのはどんな連中だ』
『金に困ってなくて、情報に注意深くて…』
『そうだ、簡単に言えば腕のある連中だ』
『オーダーメイドの客にも連絡が入ってるわよね』
『オーダーメイドができる連中に雑魚は少ないだろう』
もともと、オーダーメイドシステムはわが社の兵器開発の一環、広くアイディアを集めるため、その値段を高く設定したのは凡庸なアイディアは不要であったからだ。高い金額につりあう腕前からのオーダーは研究資料としては有効…
『やっと分かったわ。効率良くあれの開発を進めるには最適なタイミングって訳ね』
『それでもバラつきは出るだろうが、それは仕方があるまい』
『それじゃあ早速、主任権限を出さなくちゃ』
『この間使ったばかりだろう。余り無理するものではない』
明らかに不機嫌になる…これで頭はいいのだから解らない、天才とは凡人には理解できんということか…
『緊急の重役会議を私の名で開けばよかろう、こっちは私に任せてくれればいい。あれの開発の準備まだなのだろう…そっちが調わなければ満場一致はないと思うが…』
『3日………3日で仕上げるわ。あとはお願いする』
『いったであろう。提案までが詫びだと…この先の利益は私自身の為になるのだよ』
『相変わらずね。どうでもいいわ。じゃ急ぐから』
颯爽と私のオフィスを去っていく、では始めるか…
『ミラ・コルトより緊急重役会議の開催を提案する』
翌日、コルティック社より協力者募集の情報が広まることになる。
場所:北部山岳地帯。(企業機密の為詳しい場所は参加後通達)
条件:アルコ種変種用コーティングの武装を所持していること。
集合場所:コルティック社アクアサークル支部
詳細は一切不明、申し込み期間は半月後、不明点ばかりのこの募集を受けて、コーティング希望者が激増。多くの者がアクササークルを目指すことになる。
種は蒔いた、後はどれくらいの収穫ができるか…楽しみだな。
『ミラ様、開発部主任よりお手紙です』
秘書から受け取った手紙…真っ白な飾り気のない封筒に彼女の名前と私の名前が書かれているだけ。
私のオフィスの机に深く腰掛けお気に入りのペーパーナイフを取り出しゆっくりと封を開ける。
「ありがとう」
もう少し何かあるだろうに…この気持ちはもう父親の境地だな。
「身なりを綺麗にしたまえ、彼を引き入れたいなら色気も邪魔にはなるまい。検討してみてくれたまえ」
黒をベースに赤と金のラインが入った封筒に白のペンで彼女の名前と私の名前を印す。秘書にその封筒を渡す…
暫くは暇だな………
何とか仕上がったわ…眠い…ああ、眠い、でもとりあえず4台…う~ん本当は7台は欲しいわね…………ハッ、ねてたわ。
大量輸送用自動車、今回の作戦には必須。ボディ部分は大型の馬車やキャラバン、船なんかを参考に早い段階で完成していた、問題は悪路走行を可能にするだけのパワー…動力部の設計。
大まかな理論は頭の中にあった、出力を上げるための機械的な仕組みを利用してそれだけに頼らない純粋な力量の底上げ…鉱石から力を吸い上げるのはソニミオの技術の応用だから問題なかった、力の変換…効率的な方法…突き詰めればまだまだだけれど一応のラインはクリアーした。
『主任、少しはおやすみになったほうがいいですよ。このままでは倒れますから』
『そうね、カノン。この試作機の改良点をこの資料に書いてるから変更急がして。私の計算では2日後くらいには変更できるでしょう。とりあえず7台分造り様子を見るから。出来次第順次アクアサークルへ向かわせましょう』
『主任はいつ向かわれますか』
『一台目に決まっているわ。あ、そうそうカノン私に似合いそうな色気のある服用意して頂戴』
『へー、どうしたんですか主任が服だなんて………あら、もう寝てるわ主任』
しょうがないな、人を呼んで主任を部屋まで運ぶ。いつ見ても殺風景な部屋、研究の資料とベッド、机と椅子…あのおしゃれな封筒が主任を変えた王子様の手紙かしら。
そうだ、あの封筒のようなシックな物にしましょう。私も主任に付き合って缶詰だったから買い物楽しみだわ。
口からよだれを垂らした美女を部屋に残し私は更衣室へ足取り軽やかに向かうのであった。
荒野に新しい風が吹く、風は纏まるのか、それともぶつかり荒れるのか。
先のことは誰にもわからない、ただ流れを見つめるのみ…




