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僕はロイ。お父さんはシモン、お母さんはナーネ。
3人でお父さんの友達のところに行くんだって。
馬車の中はあつくて、ひまで、嫌になっちゃった。
わるい人がいっぱい来てお父さんもお母さんも僕も怖かった。
そとに落ちちゃって、こわいかおのおじちゃんが近づいてきて、ちょっとおしっこしちゃった、これはないしょ。
ハッカおねーちゃんがすごいかっこいい。わるい人をどんどんやっつけて僕を助けてくれたの。「お姉ちゃん、ありがとう」って言ったら、ハッカおねーちゃんが笑ってくれた。
ハッカおねーちゃんは強くてかっこよくてやさしくてかわいいから僕のお嫁さんになってもらおう。
『おーい、ハッカー見てみろよ。こいつら屑の癖に結構持ってるぞ。大漁じゃーい』
悪い人達をはだかんぼうにしているおにいちゃんの方をみてハッカおねーちゃんは顔を真っ赤にした。
おにいちゃんを叱りながらも嬉しそうなおねーちゃん…うん、ハッカおねーちゃんはおにいちゃんに譲ってあげよう。
『なあ、ハッカ…』
『何ですか』
『もうそろそろいいじゃないか』
『駄目です。大体エスさんはですね…』
目の周りに青あざを作っているエスさん。口では怒っているがその目は後悔と慈愛が見て取れる。
ロイはよくわかっていないのかハッカさんをなぜか応援している。
盗賊達はエスさんの手によって気絶したまま裸で縛られ仲良く道の端に並べられた。金目の物以外は山積みにされその上には「我ら盗賊団」と書かれた紙を置いて腹を抱えて笑っているエスさんにハッカさんの右ストレートが炸裂。主人が目的地を聞くと同じであることがわかってよければ一緒にと言う話になって今に至る。
『ハッカさん、もうそれくらいにしてあげたらどうかしら』
『しかしナーネさん。この人は本当にもう』
『そろそろ日も落ちるし、一緒に夕飯の準備を手伝ってくれると嬉しいわ』
『僕もてつだうよ』
『あらあら、いつもはしないのに』『しー、ないしょ』
『しょうがないですね。今日はこれくらいで勘弁してあげます』
『へへー、ありがとうございます』
大げさに頭を下げるエスさん。それをマネするロイ。
エスさんは主人を誘って一杯始めるみたい、旅の間我慢してたからあの人は嬉しいでしょうね。
『ハッカさん、保存が利く物しかなくて大した物はご馳走できないけれど』
『私も材料はあるので使ってください』
驚いたわ、只者じゃないと思ってたけど、若いのにソニミオを持っているなんて、久々に腕をふるえるわ。
『ロイ君にはお菓子をあげるわ』
『へへー、ありがとうございます』『もう』
ハッカさんに追いかけられるロイを見ながら男2人は大笑い。
本当に私達は運がよかった、神様ありがとうございます。
『『『『『いただきます』』』』』
お、美味い。こりゃなかなか。
『シモンさん、奥さんいい腕してるな。うらやましいぜ』
『まあ、お上手だ事。ハッカさんも若いのに手際がいいわ。いい奥さんになるわねエスさん』
『いやいや、ハッカとはそういう仲じゃないから』
『僕も手伝ったのに…』
シモンさんはもう真っ赤に酔っている。ハッカは真っ赤に怒っている、なぜ怒るのか。
この家族は俺から見てもただ運がいいだけ。荒野は混沌、こんな時だからこそ人間の本質がよく見える…
この家族は普通なのだろう、いつまで普通でいられるのかはわからないが、ハッカの目に留まった。暫くは普通でいられるだろうな。
『うちの人がすいませんね。お酒すきなのに旅に出てから何かあるといけないって我慢していたので』
『俺達がじつは悪い奴等かもしれないぜ奥さん』
『エスさん、メッ。そんなこと言わないでください』
『いいえ、エスさんのおっしゃってることが正しいと思うわ。もし、エスさん達が悪い人であっても、私達が一緒にいられる時間が延びて、うちの人が大好きなお酒を飲めた。それで十分よ』
ナーネさんは優しくこちらに微笑む。「悪い人だとは思わないですけど」と付け加えて。
『運がいいあんた達はアクアサークルまでは大船に乗った気でいてくれていいぜ』
『もう、素直じゃないんだから。私達で見張りしますから休んでください』
『ありがとうございます』
ロイに毛布をかけなおしその隣でナーネさんは横になる。
『ほんと、素直じゃないんだから』
『うるさい、ハッカも眠くなったら寝ていいからな』
『はいはい』
『シモンさん、これはいかんぜ』
『若い頃に買ったものでほとんど使ってないからね』
いつの間にか寝てたのかな…まだ朝早いみたいだけど…
『おはようございます、早いですね』
『ハッカさんおはようございます。昨日は久々に飲んで早く寝たもんですから目が覚めちゃって』
『護身用の銃を見せてもらったら、結構状態が酷くてな』
確かに、私が見ても状態はよくない感じ…
『エスさんに銃の使い方でも習おうと話したらまずは銃を見せてくれって』
少し目を細めてエスさんを見つめる…
ちょっと私から目をそらす…
『なんだよ、何か言いたそうだな』
『いや、何も。エスさんはシモンさんの銃メンテしてあげてください。射撃は私が』
『そうだな、この銃じゃ万が一暴発でもしたら大変だから、それがいい、うん。その間これ使ってるといい。型がちょっと違うが感覚はかなり近いから』
みんなで朝食を食べてロイ君とナーネさんが見守る中シモンさんが銃を構える。
う~ん、どこから直したらいいのか…
『父ちゃん、かっこいい』ロイ君はなぜかテンションが高い。
ナーネさんは心配そうに見ている。
『ハッカ、はっきり言ってやるのも優しさだぞ。パッと見、素人にしては筋がいい方だぞ』
これで筋がいい方………自分自身のことを振り返る、エスさんが言っていたことはやる気を出させる為のお世辞だと思ってたけど違ったんだ…
確かに、腰が引けていたり、腕が曲がっていたりはするけれど身体の中心に銃を持ってきていて軸はずれていない…
ハッキリ言うのも優しさか…よし。
『シモンさん、そんな腰が引けていては奥さんとロイ君を守れませんよ。腰をぐっと前へ、足は肩幅位に、そんなに開いては動けませんよ。ぼさっとしないで、はいそうです。引き金を引くほうの腕を伸ばして、扱いに慣れるまでは少し不自然でもしっかり伸ばす。駄目です、肩は上げない。腕はキープ、肩は衝撃を逃す為に力を抜いて。はい、そう。そのままの姿勢を保持して。銃は身体の中心軸から離さない、そうですいいですよ。始めは銃を動かすときに顔も一緒に銃口と目線を合わせるように。シモンさん肩に力が入っていますよ、そうですそうです。いいですよ。では少し先にある空き缶を狙ってみましょう。シモンさん、身体が前のめりですよ、腰を引かない』
『ハッカ、ハッカ。慌てすぎ』
シモンさんは涙目、ナーネさんは苦笑い、ロイ君は私にキラキラした眼差しを向けている…
『ハッキリ言うのと厳しく鍛えるのは別だぞ。どこの鬼教官かと思ったぜ。きっとシモンは基本の構えをずっと忘れないだろうな。はははははははははは』
銃をばらしてメンテしながら大声で笑うエスさんをギロッと睨む。
エスさんは肩をすくめてメンテに戻る。
『えっと、こほん。シモンさん私が言ったことをふまえて撃ってみてください』
『はい、わかりました』
妙にハキハキと答えるシモンさんを見ながらくすくす笑うエスさんはほかっておいて。
バン、バン、バン、バン、バンカンッ
『当たった』『ううぉー父ちゃんすげー』
3メートル先の空き缶に5発…外れた弾もかなり近い所に当たっているけど…いいのかな…
『ハッカ、普通の護身用なら十分な腕前だと思うぞ。感覚忘れないようにアクアサークル着くまでちょっとづつ練習すればいいんじゃね。お前の腕は普通基準をとっくに超えてるからな。みせてやんな、ほい』
エスさんが投げた缶はシモンさんが撃った缶を飛び越えていく。
『ハッカ、空中で4発』
カン…カン、カン……カン………カラン…
一度も地面に落ちることなく空き缶には4つの穴…まあ、私でもこれくらいは…
『ハッカねーちゃん、すげぇぇぇぇぇ、ううぉぉぉぉぉぉっ』
ロイ君は私の周りをぐるぐるぐるぐる回り、目を回して転んだ。
『その表情はわかってねーな』
私はまだまだだと思うんだけどな…
その日からアクアサークルに着くまでの3日間で私はシモンさんとロイ君に師匠と呼ばれるようになった。




