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このメダルを受け取るか、受け取らないか。

僕は武義君の傘下に入りたいと考えている、今はまだよちよち歩きの赤子同然だけれど…


大きく化ける気がする、今の僕の年齢になる頃には現時点の僕をはるかに超えていく可能性が大きい。そのために傘下に入り、伸ばしてみたい…自分では届かない母上を超える商人の育成に関わる…なんともいえぬ喜び、商人は人材無くてはすぐに限界が来る。

よい商品があっても売る人間が無能では利は出ない、少人数では規模は拡大できない。


母上を超える商人の誕生に関わることができるかもしれない。




『桂兄様、目的は何でしょう。今は時間が惜しい、簡潔に願います』

いい顔だ。僕を疑っている、表情は柔らかいが目の奥に光が出てきた。


『投資だよ。君の可能性に対するね』

『あなたの要望は』

『君の傘下に入ること。君の相談役になること。そして、君が現党首を超えること』

僕の手からメダルが3枚消える…


『あなた方を僕の傘下に加えます。桂兄様これからよろしくお願いします』

『こちらこそ、頼むよ』



『桂兄様、僕は身内にも容赦しませんよ。おやつ代は一度要相談になりますよ』

まいったねこりゃ…

『お手柔らかに…』

ここからは見守るのみ。




『姉さん、メダルを僕に渡してください。あなたに選択権は無いと思いますが…』

『武義君』

『ハッカさんはエスさんと一緒に、黙っていてもらえますか。これは僕らの問題なので』

『でも…』


エスさんがハッカさんの頭にポンと手を置いて後ろへ下がる。エスさんには感謝しきれないな…


無言で差し出されたメダルを受け取る。ここからだ…


『党首様、僕には5枚。フェイの情報が正しければそちらに6枚あると思いますが』

『間違いない』

『党首として、僕の意見は十分考慮する必要がある。そうですね』

『その通りじゃ。メダルの枚数は党首を除けば一族内での発言力に直結じゃからな。今この瞬間、一族でわらわに意見、交渉できるのは武義だけになる』




『言い値で、党首様の言い値で支払いを致します』





『わかった。1ジルでよい。我ら一族発展に役立てよ。ほれ、即金で払え』

『お納めください。党首様、領収書は私の店にお願いします』


桂兄様が親指を立ててこちらにウインクしている。やった、とりあえず母上を抑えることはできた。あとは…



『姉さん、フェイ。2人は僕の所有になります。一番初めの命令を聞いてもらいます』


一瞬たりとも手を離さない2人。


『フェイ、姉さんを頼みます。姉さん、フェイと一緒になってください。2人で僕を支えてください。これは命令です。異論は認めません』


強く抱き合う2人を見てホッと胸をなでおろす。



『母上、ありがとうございます』

『ずるいのぉ。桂も武義もやってくれるわい。商人はこうでないと、皆成長しておるのじゃな』


母上は傍に居る使用人を呼び、短く指示を出した。

『全員は無理かも知れんがわらわの子供達家族全員で夕食を食べるとしよう。エス、ハッカももちろん参加じゃぞ』


今日は記念すべき日になるな。




なんか、よかった。舞さんもフェイさんも嬉しそう。なんでこうなったのか命燐さんが1ジルにしたのかとかよくわからないけど。


そんな表情を読み取ったのか、エスさんが声をかけてくる。


『桂と武義の連携がよかったな。発言力を高めてから交渉に入れたのもよかった、これが始めに武義1人で交渉していたら駄目だっただろう。桂の提案の真意に気付いた武義もいいが桂って奴のアシストが見事だ』


エスさんは楽しかったのか若干興奮気味。


『でも決め手は武義の一言だ。あれはいい、言われた方は負け確定だからなぁ。党首って言われたらそりゃ駄目だ』

よくわからない、こういうときは素直に聞くにかぎる。


『なんで負け確定なんですか』

『フェイも舞もとびっきり有能だからさ。あの2人クラスの人材を育成したり、探し出したりするのにいったい幾らかかるだろうか。そもそも、そんな人材見つからないかもしれない』


『なるほど…』

私の相槌を聞いてエスさんは続ける。


『一族の中で実質ナンバー2の発言力を持った武義が一族の損得を党首として考えてほしいと命燐に突きつけた。武義が舞、フェイを上手く使い利益をもたらすと宣言した以上、命燐は様子を見るしかない、言った手前小額でも金を取らなければいけなくなったけどな』


エスさんは「こういうのは楽しいぜ」って言いながら満足気。それを見る私もなんか嬉しい。




私は夢でも見ているのだろうか…武義が私達に一緒になれと言っている…


ここまでのやり取りはよく覚えていない。1つわかったのはフェイと一緒にいられると言うこと。



メダルを奪い騙した私を救ったのが武義…母の愛情を独占し、かわいくも憎憎しい武義…

フェイの本気を感じてから私は機会を待った、短期間にメダルを集め私が党首になれば…フェイと一緒になれる…


実際はそんなに上手くいくはずも無い、わかっていた。


結果はこの通り、フェイは危ない橋を渡り命を散らすところだった。

武義がお人よしでよかった。

『全員は無理かも知れんがわらわの子供達家族全員で夕食を食べるとしよう。エス、ハッカももちろん参加じゃぞ』


耳を疑った…今更、なにが家族全員だ…



暫くして母がこちらに歩み寄ってくる。私達に頭を下げる…意味がわからない…

『フェイ、娘を頼む』

『なにを今更、私がどんな気持ちで、今更…』


甲高い音が私の頬で鳴る。

『目を開けてみてみろ、よく見ろ』エスの声…


顔を上げた先には涙を流す母の姿…

母の腕の中はフェイとは違う温かさがあった。




『いいね、僕も母上に抱きしめてもらおうかな。なんてね』

『桂兄様、これをお返しします』


おやおや、3枚のメダルをその手に乗せてにっこり微笑むわが弟。


『どういうつもりかな。さっきの話を無かったことにって顔でもないか』

『ええ、おやつ代の件も含めて本気ですよ。しかし、今日をかぎりにこのメダルは意味を無くしていくでしょう。記念にもっておいてください。私達兄弟姉妹の証として』


へー


『すぐにはそうならないと思うよ、わが弟よ』

『僕は兄様の、そして姉さんの想いを知りました。古い慣習は実力でよりよく変えていけばいい。兄様、僕を育ててくれるのでしょう…そんなお人よしの商人は僕を裏切りませんよ』


あまいなぁ、それでいて楽しみだ。僕の目は節穴でなかったことを大いに証明してもらおう。




その夜の食事は大広間での大パーティになった。既婚者も多い為母上から見て孫、ひ孫、玄孫もいて関係者は大人数になった。

僕と同じ年代のひ孫とか、母上の異常さを改めて感じたりしていた。ハッカさんは理解に苦しむのか「おいしいね、おいしいね」と料理を食べて余り考えないようにしている様子。

姉さんは母上と一緒になにやら話している、若干ぎこちないが時間が解決するだろう。


フェイが近づいてくる。腿の傷のことや、今回の件についていろいろと話してくれた、僕としてはもう過ぎたことだ。気にしなくていいと言う。フェイは少し考えて出た言葉は。

『武義様、エス様と話をさせていただきたいのですが』

どうにもわからないことがあるらしい、ちょうどベランダに1人で出て行こうとするエスさんを見かけたので追いかける。


月を見上げて1人杯を傾けるエスさん。


『何か用か』

『なぜ、私は生きていられたのでしょうか』

フェイの問いかけにくるっとこちらを向き。悪戯が成功した子供がする歪な笑顔で答える。



『命燐に娘を助けてくれって頼まれた。お前に死なれたら舞は救われないからな…お前が飲もうとしてたのはこれだろう』


小さなカプセルを摘んでこちらに見せる。


『即効性の眠り薬にすり替えてやったのは港町でのお返しだ。こいつは俺が処分しといてやるぜ』

そう言うと自分の口に放り込んで「俺は器用なんだ」って言いながら会場に戻っていってしまった。


『武義様、あの人…いや何者ですかあのエスという者は…』

フェイが震えている、超一流の裏社会に身を置くフェイが震えている…


『あのカプセルの毒は、特別制…誰にも、私にも気付かれずにすり替えるなんて…私の目で見ても今、飲んだはず…』


そういえば、エスさんのことよく知らないな…


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