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『武義君に力を貸して頂けないでしょうか』


部屋が静かになる…


『そういえば、君は誰かな。ひょっとして妹かもと思って触れないでいたけれど…』

『ハッカは私の義理の妹。今は家に住んでいる』

『武義君のお嫁さんかな』『違う』


『ふーん、まあいいや。なぜ力を貸さなければならないのかな』

『武義君のお兄さんなんですよね』


ハッカさんは何か必死な感じでおやつの山から少し見える兄様達に訴えかけている…


『我々の一族は特種なんだよ。知らないのかい。母上は同じでも父親は違うことも多い。便宜上兄弟姉妹と呼んでいるけど年も離れていたりそもそも関わりが薄い。母上ともそうだよ。武義君のような母上に直接育てられた者はいない。分かるかい、分からないだろうね。僕らからしたら、特種な一族の中で更に特種なのが武義君なんだよ』

落ち着いた、淡々とした語りは表情を感じさせないものだった。



『帰ってくれないか…おやつは差し上げる。帰ってくれ』


『帰ろう。武義、ハッカ』


桂兄様の机からおやつを食べる音が再開される。僕らは部屋を出て行くしかなかった。

帰りの馬車の中でハッカさんは一言謝り下を向いて店に着くまで顔を上げることは無かった。


結局、何の手がかりも無く…いや、収穫はあったかな。



僕は、自分のことをなにもわかっていない………それがわかった。





私は何がしたかったんだろう…武義君達に協力したいって言って無理やりついていって。結局したのは邪魔だけ…

エスさんなら、きっと何か上手い手を考え付いて武義君を助けてくれる…でもエスさんはここにはいない。何してるんだろう、今あの人は…

あれからもう5日も経つ。



明日、ここを出て行こう。私が居ても邪魔になるだけ…

『ハッカ様、手紙が届いていますが』

武義君のお店の人は私に手紙を渡すとお店に戻っていった、私がここにいるのを知っている人は多くない。


手紙を1人で確認する…

「誰にも何も言わずに来られたし。桂」

短い文面と住所が入った手紙をポケットに仕舞い、私は武義君達の家を出た。




『武義、ハッカがいない…』


珍しく慌てた姉さんが僕の執務室に飛び込んでくる。余りの慌て様に僕はかえって冷静になっているのを感じる。


『姉さん、落ち着いてください。何か手がかりは無いんですか』

『もともとハッカはソニミオに荷物を入れていた。残っている物はない』


それを聞いてすぐに店の者に何か知らないか報告するように通達する。

しばらくしてハッカさんに手紙が来ていたことが分かる…


『手紙…ここにハッカさんがいるのを知っているのは、エスさんと桂兄様、それに母上くらい。差出人がエスさんならいいけれど…』

楽観視はできない。何とかしなくては、なんでもいい糸口を…


『フェイか』

姉さんの声にフェイと思われる声は話し出す。

『舞様、武義様。この数日桂様の商会の馬車がこの辺りをうろいついておりますよ』


桂兄様…なのか…


『武義、疑いようが無い』

『とにかく桂兄様のところへ行ってみましょう』

『私は少し気になることがある。すぐ合流する先に。ハッカを頼む』


僕は1人桂兄様の店に向かう。




『武義君じゃないか。まだ何かあるのかい』

『ハッカさんを返してもらいましょうか』

『何を証拠にそんなことを言っているのか…』

言葉に詰まる、証拠は無い…


『僕は君の素質を買っている。その年で広い視野を、といってもそれは酷なことかもしれないけれど…今は多くは語れない。君は自分の周りに目を向けることだね、疑うことは商売でも大事だろう』


『何が言いたいのですか、桂兄様』

『多くは語れないと言っただろう。僕を疑うなら答えを、持ってきたまえ』



威圧的な態度で僕に顔を近づけてくる。

『僕のメダルはもう奪われている』

僕の耳に微かな声で呟かれる。



『さあ、僕も忙しい身でね。これ以上は付き合いきれない。帰ってもらおう』


『ハッカを出しなさい』

姉さんは腰に刀を提げ、槍を片手に現れた。

『これは舞姉様。武義君にも言った通り。証拠も無く言いがかりをつけるのは止めてもらいたいですな。おっと、党首様のお膝元で強行手段に出るようなことは無いでしょうな』



『姉さん、一度戻りましょう。桂兄様の言うとおりです。証拠無く疑っては失礼です』

『しかし、武義…』

『姉さん。僕は雇い主です。従ってください』

『わかった…』



帰りの馬車の中は静かで、活気のある街の音がとてもむなしく響く。



『姉さん、気になったことはなんだったんですか』

『収穫は無かった…』

『そうですか…』




それ以降、僕らに会話は無かった。



1人手がかりのナイフを眺めながら、桂兄様の言葉を考える…

僕は…何か考え違いをしているのではないか。


…ナイフを見てから…いや、僕が捕まっている間の話…消えたロープ…捕まる前…



疑う………何を………全てを疑う…




ひとつひとつの全てを、何かを見落としている。それを炙り出すために全てを…






『めんどくさい…あーあ。なんで俺が』

『わらわは忘れてはおらんぞ。約束は約束じゃろう』

『へいへい、わかったわかった。そろそろ引っかかる頃だろう』

『武義が真実に近づけばな…』

『そろそろ行くわ』

『無駄足になるかも…』

わらわの口を人差し指で塞ぐ男…


『大丈夫だろう、たぶんな』

あの時と変わらない笑顔で颯爽と消えていく。






『1人で来たという事は答えがわかったのかな』

『ハッカさんは安全なんでしょうね』

『ああ、大丈夫だとおもうよ』

『僕はどう動けばよいでしょうか』


一通の手紙…母上の印。


『明日正午、党首様の呼び出しにて謁見の間に来るように。だってよ』

桂兄様は僕の頭を軽く撫ぜながら。

『どうしたいかは自分で決めるんだ。たどり着いた答えの扱いを…人に言われていては商人ではなく使用人になってしまうぞ。なんてね』


頭をかきながら桂兄様は自分の店の奥に消えていった。




自分の店に戻ると姉さんが待っていた。

『武義、こんなときに1人で動くのは危険』

『すいません、どうしても確認したいことがあって。明日母上からの呼び出しがありました、同席を…』

『わかった』




その日の夜、母上からの手紙を開く。


「自分の思うとおりにしたければ、私を超えていきなさい」


僕は超えられるだろうか…僕の気持ちはどうしたいのか、それが先。



迷うことは無いじゃないか。僕の気持ちは決まっている。後は貫くだけだ、動かせるだろうか、否、動かすんだ。


今日は眠れそうにないな…






翌日、早朝…


僕と姉さんは党首謁見の間にて待つ。ここに来る間に姉さんとの会話は無く。ただ静かに党首様が来るのを待つ。



日の光が謁見の間に差し込む頃、待ち人は現れる。



『待たせたか』

『いえ、われら両名揃っております』


『うむ、では裁きを言い渡す』

『お待ちください』


党首様の言葉を僕は遮る。


『待てぬな。舞、何か申し開きがあるか』



『いえ、なにもございません』

謁見の間の護衛に姉さんは後ろ手に縛られる。


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