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とりあえず、チックスターの町を回ってみるか。それはなぜか、キャラバンにも宿屋があるにはある。あるなら使えばいいと思うだろう、他の奴はそれでいいが俺にとっては駄目だ。


問題は値段。


高い、とにかく高い。普通町の宿屋の相場は大体一泊100ジル前後だ。当然値段の幅は大きくあるがまあそんなものだろう。キャラバンの宿屋は桁が違う一泊2000ジル辺りが相場だろう。キャラバンはカネホリがメインターゲットだから稼げるカネホリには2000ジルははした金。金さえ積めばキャラバンの宿屋はできるかぎりのサービスを行う。キャラバンの宿を使うことは一流のカネホリの証でもある。


急に大金を手に入れたカネホリが始めにする贅沢としても有名だ。実力の無い奴はすぐに消えていくが…


俺に言わせて貰えば、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄………


雨風しのげて、いきなり銃を突きつけられなければ上等。というわけで町を回っているんだけれど…はぁ…



『おばちゃん、宿空きある』

『すまないね、当分空きそうに無いね』

『そうか、ちなみにお幾ら』

『うちは安いよ。朝食付きで一泊85ジルだよ』

『安いね、空きが無いのが残念だよ。ありがとうね』


う~ん。朝食付き85ジル…食事無し45ジル…


『部屋の空き無いかな』

『あん、あるぜ。兄ちゃん随分若いがカネホリかい』

『ああ、今日ここについたばっかりだよ。一泊幾らだい』

『一泊250ジルだ。お前どれくらい泊まるんだ』

『また来るね』


高い、その上感じが悪い。完全に足元見やがって…礼儀がなってない。ボレロさんはキッチリしていたな…しかも、食事無し45ジル…


町の宿を転々と回る、100ジル前後のところはすでに一杯。駆け出しのカネホリで溢れている。空きがあるのは足元を見るような客をなめてるところだけ、それでも泊まる所が無いせいか空きは少なめだった。


町の真ん中にあるオアシスの淵に座り込む。

『はぁー、宿みつかんねーな』


足元見ている、客をなめた250ジルの町宿か…2000ジル越えのキャラバン宿か…

嫌だぁぁぁぁ、そんな無駄金使いたくない。しかも、眠い…昨日は仮眠にもならない程度しか寝てないからな…どうしよう。涙が出ちゃいそう。ふざけるのはこれくらいにして、どうにかしないとな。町の入り口であった保安官に留置所借りれないか聞いてみようかな。



オアシスに映る夕日が金貨のように輝いてる、綺麗だな…



後ろが騒がしいな…手を伸ばせばあの金貨が掴めそうだ…それにしても騒がしいな…

座ったまま頭を後ろに向けてみる。ん、あの子は…



『おら、騒ぐな。こっちへきやがれ、たっぷりかわいがってやるぜ』

『やめてください、謝りますから。お願いします、放してください』

『そうはいくか。あのジジイのせいで高い宿に泊まる羽目になったんだ。その分お前で楽しませてもらうからな。言うこと聞かないと撃つぞ』


せっかくのいい景色が台無しだ…


『おーい、そこの馬鹿。そう、お前だよ、お前。子どもに騒ぐなって言ってるけど、うるさいのはお前だけだぞ。そんだけ騒げばすぐに人が集まるぞ馬鹿か。いや、馬鹿だからこんなことやってんだな。悪い悪い』


尻の砂を払いながら立ち上がり、馬鹿を指差しながら、軽口を叩いて近づいて行く。

夕日のせいかどうかはわからないが馬鹿の顔は真っ赤だ、汚い。

『なんだと、このガキが。馬鹿にしやがって、大人をなめると痛い目見るぞ』

『その件はもう飽き飽きしてんだよ。頭の悪いガキはママのおっぱいでも吸ってろよ』



『死ななきゃわからねえらしいな』

少女を捕まえたまま、馬鹿が俺に銃を向けて大声で笑い出す。


『この間の2人はまだ可愛げがあったな。だがお前は駄目だ…弱者にたかる奴は屑だからな。たかられる弱者も似たようなものだけどな』

『そこのお前、何をしている』

『保安官、早かったな。もう、終わったぜ』


馬鹿が保安官の声のするほうに注意をそらしたのを見計らって懐に入り込み馬鹿の顎にリボルバーを突きつける…当然、引き金を引けばドン、の状態で。


『てめ…』

『しゃべるな、口が臭いそうだから。換気用に穴あけるぞ』


『お前は朝の…エスだったか』

『さっきぶりだな。ボレロさんには嫌われちまってね。ちょうどいいや留置所一部屋借りられないか聞きに行こうと思ってたんだよ』


『そうかそうか、じゃあどうぞってわけにはいかないだろうが』

『やっぱりそうだよね。一晩も駄目かな』

『留置場はお前に銃突きつけられているような奴が使うところだ。それにもう満員御礼だ』


こんな馬鹿が満員御礼…タダでもきついな…いや、タダなら…

『おいおい、考えるまでも無いだろうが。こいつも留置所にぶち込んどけ』

『はい、ジョンさん』『保安官だろうが』『はい、保安官』


『あの、助けていただいてありがとうございました』

『嬢ちゃん、カネホリが集まるこんな時は護身用くらい持つか、夕方以降は一人歩きは駄目だぞ』

『お前、どう見てもハッカちゃんと同じくらいだろうが』

『留置場使えないならあんたに用は無いから。その子頼むわ。宿探しがあるんでね』


いっそ、ワンダーの北側に回ってキャンプって手もありか…それしかないかな。しばらくすれば稼げなかった駆け出しが減ってくると思うし、キャンプで行くか。


『あ、あの、お爺ちゃんに頼んでみるので家に泊まってくれませんか』

『ん、45ジル、泊まれるの』

『説得してみるので…』


大丈夫かな…でも、上手くいけば45ジル…


『お願いするよ』

『はい』

『じゃあ、俺もハッカちゃんに協力するかな』



夕日の光も弱々しく空の色が紺色へ変わっていく中を3人で歩く。宿の入り口には白髪の紳士が立っていた。


『お爺ちゃん』

『ハッカ、遅かったな、何かあったのか』

口調は先ほどの威厳あるゆったりしたものだが、孫の頭を撫でる手の動きはやわらかく、目の前の紳士の本当の気持ちを表しているかのように感じた。


『ボレロさん、ハッカちゃんがガラの悪いのにからまれているのをこいつが助けてくれたんですよ』

『お爺ちゃん、この人宿がまだ決まっていないの、お願い』


2人は俺の功績を一生懸命伝え何とかしようと頑張っている。でも、ボレロさんの表情は変わらない。


『エスさんでしたかな。孫を助けてくれたことは本当にありがとうございました。それでも、カネホリをお客様として泊めるわけにはいかないのです』

『そっか、ひょっとしたら泊まれるかなって期待したがしょうがない。こんなご時勢だ女の子でも護身用くらい持たせてやったほうがいいぜ。余計なお世話だったかな』

『エスさん…ごめんなさい、本当にごめんなさい…』

『ボレロさん、何とかなりませんか』


俺はスッと3人に背を向け、片手を軽く振って北を目指して歩こうとする。


『エスさん、私はお客様としては泊められないといったのですよ』



俺は振り向かずに

『頭はあんまり良くないんでね。わかりやすくお願いできるかい、紳士様』



ゆっくり振り返り、紳士の目を真っ直ぐに見る…



『貴方と契約を結びたい』

『そういうの、好きだぜ…』



泣きそうだった少女といまいち冴えないおっさんが俺たちのやり取りについていけないで固まっている。そんなことは俺には関係ないけどな。


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