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始めは楽しかった、海の上の景色も慣れてくればどちらを向いても同じ景色…


エスさんは甲板で昼寝。

舞さんは1人で訓練。

武義君は一本のナイフをずっと眺めて考え事してる。


私は、眠くないけどエスさんの隣で昼寝のふり…



海に出て3日。あと2日くらいで着くんだって、舞さんが言ってた。


エスさんは寝てると時々眉間にしわがよる。悪い夢でも見てるのかしら…夢の中は見れないし助けてもあげられない。手が届かないって辛いのね。



天気はいいし、波は穏やか。エスさんの眉間の波も穏やかになりますように。




エスさんとハッカさんは昼寝。

姉さんは1人で訓練か。


僕が怪我をした後、無口な姉さんは更に無口に、訓練はいつもよりも激しく見えた。僕のメダルが奪われ、怪我をしたことを気にしているのかな。


悪いのは守られてばかりの不出来な僕なのに…



ハッカさんは2日目くらいまでは船の中をウロウロ見て回ったり、遠ざかる陸地に想いをはせていたりした。しかし、陸から離れれば海鳥も見えなくなり、周囲は海ばかり、天気も良く波も穏やか。特にすることも無く退屈なんだろうな。

エスさんは甲板の日当たりのよさそうな場所を確保してごろっと昼寝しっぱなし…


ナイフを注意深く見つめる…特徴の無いナイフ、どの地域でも見るような材質、形状。

刃の切れ味は悪い、どう見てもそこいらで買えるような品物。


でも、どこかで…




『もうじき見える』

舞さんの声に体を起こす…徐々に近づいてくる陸地は視界に両端が見えない。壁が迫ってくるような感じ…



『あと半日くらいってところか』

『そうですね。風もいいですし夕方には着くかと思います』

『武義達の家が見えたら起こしてくれ。もう一眠りするわ』


エスさんってばギリギリまで寝ているつもりね。少しは構ってくれてもいいのに。


どんどん、どんどん近づいてくる。見えてる船の数も増えてきた。大きな建物が数点見えてくる。低い山が後ろに見えて背の高い建物が所々にある、きっと大きな建物の下にもいっぱい建物があるんだろうな。


『エスさん、見えましたよ』

あれ、今見えてるのは数点の高い建物と、赤い大きなお城…


『いつ見てもお前らの家は派手だな』

『母上の趣味ですから、僕らには意見できませんよ』

え、あの赤いお城が武義君達の家…


『ハッカ、あれは店と倉庫と住居といろいろ兼ねている場所』

『と言うより、あの町は武義達の一族の本拠地だから大きく言えばあの町が家だな』

『大昔は一族に関わる者しか住めない町でしたが、今は母上の考えで他の商家や住人も多く住んでいますよ』

『競争の無い場所に発展は無い。だそうだ』


町が家とか、お城が倉庫とか、私夢を見ているのかしら…痛い、起きてるのよね。

つねった頬を擦りながら船は大きな町へ向けてぐんぐん進んでいく。




大陸一の商売の中心地、武商。

この町の始まりは一人の若い商人が土地を開拓するところから始まった。

荒野よりも膨大に広いこの大陸は大小の国が起こり、消えていった…

この土地の人間はこの広大な大陸を統一することに誰もが集中していた。


そんな中、商人は海へ目を向けていた。


『この争いの絶えない土地で陸路での商売には危険が伴う。きっと船の時代が来る』


比較的大きな海沿いの国にいた商人は王に直訴、野心家の王は商人の提案を認めた。

『お前の言うことが正しいかはわからん。しかし、あの土地は利用価値が無く荒れ放題。やりたければやるといい、援助はできないがな』

『王様、ありがとうございます。特別な税などが掛かりますでしょうか』

『あんな土地にかける税など無い。好きに使うがよい』

『ならば、この書面に印をお願いできれば』


王は内容に目を通す。

「ひとつ、山を背にした土地を自由に使用する権利を与える」

「ひとつ、通常の税以外の税を掛けない」

「ひとつ、国として一切の援助はしない」

「ひとつ、この件は王の代が変わっても有効とする」


王は思った、どうせすぐに音を上げるに決まっている。



『了承した。印を押そう。その前にひとつ条件がある』

『どのような条件でしょうか』

『俺の娘を一人目付け役にする、夫婦になるがいい』



商人は王の娘を見て驚く、完全武装の娘は鋭い眼光で黙ったまま。



その後商売をしながら、開拓を進めた。

港を整備し、船を作り、才能ある若者に声をかけた。

熱く夢を語り、行動力のある商人についてくる者は多く、人が人を呼び、開拓の速さはどんどん上がっていった…


数十年の年を経て、一人の商人から始まった荒地は名も無き町になった。



年老いた王は面白くない。小馬鹿にしていた若造が力をつけていく姿に、目付け役につけた娘も連絡してくるのは商人を褒める言葉ばかり…


王は自ら兵を挙げる。相対するは完全武装の娘…


武勇に優れた娘に年老いた王はあっけなく敗れる。


『父上、私達の町に干渉は無用』

『わかった』


国の中にあって国ではない。武勇に優れた女が守り、商才のある男が発展させた町。



いつの頃からかこの町は武商と呼ばれるようになった。





『とにかく母上に会って頂きたいと思うので、ひとまず僕の店にどうぞ』

『馬車を手配してくる』

『お願いします、姉さん』


舞さんは馬車を探しに行った。

『武義、どれくらいかかりそうだ面会まで』

『早ければ3日くらいですかね。今の時期ならそこまで立て込んではいないはずですが』

『えっ、お母さんに会うのにそんなに時間がかかるの』

『ハッカ、この大きな町の実質トップだからな。よくわからんが忙しいんだろう』


この町の一番…想像がつかない…


『精一杯おもてなしさせていただきますから』



『お待たせ、馬車用意できた』

『では、行きましょう』


すごい活気のある町…武義君や舞さんの育った町…



『着きましたよ。どうぞ』


家の宿屋の3倍…4倍はあるかも…すごい大きい。


『武義様、舞様お帰りなさいませ』

『留守中変わりはなかったですか』

『特に大きな問題はありません。ご報告の通りでございます』

『こちらのお2人は客人だ、失礼のないように。あと、党首様に面会したいから予約を取っておいてくれ』

『はい、ではすぐに手配いたします。お客様のお部屋はどのようにいたしましょうか』

『ハッカは私のはなれに来るといい』

『それがいいですね。エスさんには一番良い部屋を準備してくれ』


大人の人にテキパキと指示を出す武義君はなんかかっこよく見える


『では、私は少々作業がありますので後は任せます』

『了解いたしました』


エスさんは案内されて店の奥へと行ってしまった。


『ハッカ、私の家はこっち』

舞さんは店の横の細い通路へと歩いていく、その後を追いかける。

お店を回りこむように裏手へ。


そこには小さなお家があった。


『ようこそ、私の家へ』

舞さんは引戸を開けて中へ入るように進めてくれる。

静かな佇まいに落ち着いた色の絨毯が敷いてある、壁には色々な刃物が並べてあり…刃物…


『綺麗でしょう』

壁の刃物を見ているのを興味があると思われたのか舞さんは嬉しそうにそのうちの一本を手に取りながら私に近づいてくる。


そのまま私を後ろから抱きしめるようにして刃物を私の目の前に、ゆっくりと角度を変えて見せてくれる。

刃の表面にうっすらと波模様が浮かび上がる…


『職人の技術、綺麗でしょう』

舞さんはゆっくり丁寧に壁に戻す。


『お茶飲む』

『はい』


舞さんの刃物コレクションを眺めながら静かな時間が流れる。



『そういえば、舞さん達のお母さんってどんな人なんですか』


『規格外。一言で言えばそうなる。エスさんやジーザさんとある意味同列な感じ』


エスさんやジーザさんと同じ…


『大丈夫、母上は武義を溺愛している。嫁いびりはしない…と思う』

えっ、嫁…


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