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俺はボリーノ一家のボス、サブロイ。
俺たちはこのジューンポートで他の一家としのぎを削っている。自分で言うのもなんだがそこそこいい位置なんだぜ。
あの日を境に俺たちは生まれ変わったのさ、そう今の俺たちがあるのはあの天使様のおかげなんだ。
『エスさん、もうその辺にしてあげてください。今は武義君のことが優先じゃないですか』
『チッ、確かにそうだな…お前たちハッカに感謝しろよ。俺は皆殺しでも構わなかったからな理由はイライラしてるからだ』
イライラしてるからって理由でこの仕打ちか、何だ何なんだこいつ。
『死ねば静かになる』
ええっ、この姉ちゃんもサラッと何言ってんだ、もうヤダこいつら…
『大丈夫ですか、ちょっと痛みますよ』
『ううぅっ』
あの子、撃たれたカメの手当てを…
『ハッカ、こんな奴等にそこまでしてやる必要ないだろう』
『2人ともやりすぎなんですよ。こんなにして…話しだって聞けないじゃないですか。舞さんも戻してあげてください』
『ハッカが言うなら仕方が無い、戻す』
天使だ…この2人をなだめて従わせるなんて、この子はきっと天使に違いない…
足の関節をはめられた手下どもが口々に天使様にお礼の言葉を浴びせかける。
『天使様だ。この方はきっと天使様に違いない』
俺の言葉に手下たちも強く賛同する。
『違いますから、そんなこと無いですから』
『ハッカが困ってんだろう、死にたいのか…』
『『『『『『ひー、天使様助けてぃ』』』』』』
俺たちは全員天使様の後ろに隠れる。
『エスさんてば、皆さんこんなに怯えてるじゃないですか。消毒だけなのでちゃんとお医者さんに見てもらってくださいね』
カメの奴鼻水垂らしながら天使様にお礼言ってやがる、俺たちみんな命があって本当によかったぜ。
俺が天使様にすぐできる恩返しは1つだけ。
『天使様、俺たちが貸した倉庫にすぐ案内しやす。動ける奴はカメを医者に連れてけ』
『へい』
『天使様早めてください。ハッカでいいですから』
『わかりやした。ハッカ様と呼ばせていただきやす。こちらです』
俺はハッカ様を案内した。
俺たちが貸した倉庫は倉庫街の中央にある小型の倉庫だ。まあ、倉庫といっても物置小屋程度の大きさで使い勝手が悪いから普段は適当にいらないものを放り込んでいるだけだが。
一週間前くらいに急に現れた腰の低い男が大金を持って俺たちのアジトに現れた、余りに腰が低かったからみんなで『おいおい、腰が離れるほど引けてるが大丈夫か』なんてみんなで笑いものにしてやった。次の瞬間には笑い声はなくなったがな…
50万ジル…その男は部屋の中央にいきなり大金を無造作に置きやがった。
俺たちは全員言葉を失ったね。正直に言えば俺たちは小悪党だからな、こんな大金めったにおめにかかれねえ…即決だった。
男の要求は簡単だった、例の倉庫を貸すこと、旅の人間の中から指定された奴に眠り薬を仕込むこと…眠り薬は失敗してもかまわねえだってよ。目もくらむぜ。
『武義君、その足…』
案内された倉庫にもうすぐ着くと言われた辺りで左太腿から血を流している武義君が立っていた。
『すいません。ドジを踏んでしまって…』
私はとにかく手当てを始める。
『大丈夫ですよハッカさん、そんなに深い傷ではないですし。一ヶ所だけですから』
『ハッカ、武義を頼む』
エスさんはそれだけを言い残すと案内してくれた人と武義君が捕まっていたと思われる倉庫を見に行った。
『武義、大丈夫』
『心配かけましたか、姉さん』
『ええ』
『すいませんでした』
腿を刺された僕は迷い無く答えた。
『渡すので片腕の自由をください』
身体に再度縄を追加される、その後右腕は自由になった。音は無い…
この短時間ですごい数の縄を増やされてる。
静かにメダルを取り出し腕を前へ上げる。少しでも相手の情報を…
僕の目論見は相手にはとっくにわかっているかのように頭に肌触りの悪い袋を被せられる。
いともあっさりとメダルは僕の手から姿を消した。
『僕はどうなりますか』
返事は無い、そもそも人の気配も感じない。
そんな中で僕の手には小さなナイフが握らされる、渡してきた手には皮の手袋か…感触も大きさも判らない、取られるだけで情報は無しか…命を繋いだだけよしとするか。
そのナイフを使い時間を掛けて身体の戒めを解いていく。
少し足が痛むが問題は無い。外に出てどちらに行けばいいか、とりあえず海と反対側が町だろう、海を背にして少し歩くとハッカさん達に出会った。
『駄目だ、何の痕跡も見つからんかった。鍵でも掛けられてたのか武義』
『え、ちぎれたロープがありませんでしたか』
『何にも無かったぜ、なあ』
『へい、もともとあったゴミの類も綺麗さっぱり無くなっていやした』
しまった、こんなことならロープの破片でも持ってきておくんだった。手元に残った証拠品はありきたりなナイフ一本か…
『そんなもんの傷ですんでよかったな武義』
エスさんの言葉に僕は1つ頷く。
『武義、メダルは』
『話の通じる相手では無さそうだったので一か八か素直に渡しました』
僕は相手のとのやり取りを皆に伝えた。
『俺達のところに来た腰の低い男はそんなすごい感じはしやせんでしたけどね』
『何かわかったら教えてください』
『私からもお願いします』
『へい、ハッカ様。戻って全員に何か思い出さないか命がけでがんばりやす。では失礼しやす』
案内してきた感じの人はうぉぉぉぉって雄叫びをあげながら町の方へ走って行ってしまった。
『しまった、あいつらから迷惑料ふんだくるのを忘れてた』
『もう、エスさん駄目ですよ』
エスさんは俺の2000ジル、2000ジル、俺の2000ジル…
唇を尖らせて不満顔だ。
『きっと、母上がお礼をするはず。期待するといい』
『うん、わかった。早く宿でも決めて早く寝ようぜ。寝ると時間が早く過ぎるだろう』
『切符まだ買えてませんけど…』
身体が浮く…なぜか横向きになったままハッカさんと目が合う…
『舞、急げ、切符売り場だ。道案内しろ』
『了解』
『『えぇぇぇぇぇ』』『しゃべると舌噛むぞ』
僕とハッカさんはエスさんに小脇に抱えられ猛スピードの風になった…せっかく助かったのに死ぬかも…
俺はボリーノ一家のカメ。俺の足の傷は比較的早く良くなっている。医者に言わせると撃たれた場所が良かったらしく直りも早いそうだ。
これも天使様のおかげに違いない。
俺たちは天使様が出発するまでの間何かを思い出そうと一生懸命頑張った、しかし不思議なことに始めの大金の件以外のことを思い出すことはできなかった…
あのイカ焼きのスルーメもなんであのタイミングで仕込めたのかその辺りが曖昧らしい、あいつはもともと要領が悪いし、あの恐ろしい悪魔に追いかけられたらしいから記憶がおかしくなるのも仕方がない。
天使様が旅立ち際に言った一言で俺たちは頑張っている。新生ボリーノ一家は誕生した。
町の清掃、困っている旅人の案内、それらの活動を屋台などをやりながら行っている。町に住む者から声を掛けられることも多くなった、俺たちの評判は徐々に良くなっている。これも天使様のおかげだ。
『困ってる人を助けてあげてくださいね』
俺たちは天使様の言葉を胸に、天使様の無事をあの小さな倉庫で1日1回祈っている。
『あいつら、大丈夫かね』
『きっと大丈夫ですよ。話してみるといい人達だったじゃないですか』
『きっと、エスさんの心配はハッカさんと違うと思いますよ』
『新しい宗教が始まるかも』




