42
僕には荷が重過ぎる…エスさん、僕がそういうの苦手なの知っているでしょうに…
耳元で僕に囁かれた言葉。
『記憶は戻った。俺とハッカに合わせろ』
何をやらかす気か…僕に選択肢は無い。明らかに巻き込まれた、これは事故だ。
ハッカさんがチラッとこちらを見て困ったように笑っている…ターゲットはジーザさんか…
ちゃんとした落としどころがあるんでしょうねエスさん…頼みますよ。本当に…
とにかくハッカさんの様子を確認する…そうか、なるほど。
ハッカさんが俯いているのは表情を見られないため、あの震えている動きは笑いを抑えているからか。よし、マネしよう。堂々とジーザさんを騙しとおすなんて無理だ、そう無理に決まってる、僕のせいで失敗したらどちらからも何を言われるか。沈黙だ、必要最低限に徹するんだ、姉さんには伝えられない、そのチャンスがあればいいが…
追加の情報を得る機会も無く拠点へ到着してしまう。姉さんはいつも通り平常運転。
いつもより食事が豪華な気がする、姉さんもまた5人揃ったことを喜んでいるんだろう…見えないところで色々なやり取りがされているなんて思いもよらないんだろうな。
ごめんよ、姉さん。
『みんな、久しぶりに再会できたのだ。こうも暗くては私の作った料理を出すわけには行かないが』
『そうだよ、せっかくあのときの5人が揃ったんだこれは祝いの席だよ』
『そうだろうか』
来る。きっとここから始まるに違いない。さっきまで戸惑いの演技をしていたエスさんが一気にテンションを落とした。仕掛ける気だ。
もう駄目だ、チラッと見ればハッカさんも完全に真下を向いている、僕だって堪えるのに必死だ、奥歯をかみ締める。エスさんの頭がもふもふしている、ここでボブさんの名前を出すなんて僕たちにどんな試練を与えたいんですかあなたは。それにしても姉さん、やっぱりあなたはすごいよ。この空気の中で前言撤回して料理を並べたり、取り皿配ったり…
『みんな、気をしっかり持て。いったいどうしたんだい。武義、ハッカちゃん』
やばい、ジーザさんに感づかれたか。背中に冷や汗が滲む…
動けない…
『ジーザ、この宴は断罪の宴…このアフロ神が裁きを下す…』
アフロ神って、何ですかいったい、ボブさんはアフロ神官とでも言いたいんですか。はめられているのはジーザさんではなくて僕だったのでは…
『もじゃもじゃ、かーっ』
もう…む…り…
『もう、我慢できない』
私と武義君はお腹を抱えて床をゴロゴロ転がりまわる。
舞さんは武義君が料理に当たらないように蹴っている、蹴られながらも笑いが止まらない武義君、ジーザさんは黒いアフロから綺麗な金髪が流れ出して、アフロなのになんか決まっている。顔は何が起きたのかついていけてないみたいできょとんとしてる。
エスさんは、ニヤニヤしながらジーザさんのアフロをポンと軽く叩き。悪人全開のにやけ顔で口を開く…
『ただいま、ジーザ。愛してるぜ』
それだけ言うと立ち上がり大声で笑いながら全員の顔を見回して…
『飯が冷める前に食おう。ジーザこの食事中はアフロ着用だからな』
『今日は祝い、いつもより豪華、どんどん食べるといい』
舞さんは親指を突き上げエスさんに合図を出した。
『では、俺の無事を祝って』
『『『『『いただきます』』』』』
状況を理解したジーザさんはアフロをゆらゆら揺らしながらむしろ気に入っているように食事を食べている。
武義君は笑いすぎか、蹴られすぎか脇腹を押さえながら食べている。
舞さんはいつも通り淡々と食べて、時折新しい料理を追加したりしている。
エスさんは、ジンをちびちび飲みながら全体を見回すように食べている…その表情は少し寂しげに私の目に映った。
『ん、俺の顔に何かついてるか』
笑顔で私に話しかけるあの人にどう返事しようかと思っていると。
『エス、ハッカちゃんがどれだけ君の心配をしたと思っているんだい。あの後大変だったんだよ』
『その割には、紛らわしいことしてくれたじゃないかジーザ。俺にはお前にアフロを被せるくらいしか責めれないけどな…』
『まあ、なんにせよ。こうしてまた5人揃ったんですから、エスさんも無事でしたし、活動再開できますし』
『武義、それはできないよ…僕はここのワンダー攻略が終わったら1人での活動に戻るからね』
『珍しく意見が合うな、俺もそうしようかと思ってたところだ』
私は固まる…
『それぞれに道がある。それは必然』
私の頭を撫ぜながらやさしく声をかけてくれる…
せっかく逢えたのに…
場の空気は一気に重くなる。
『このメンバーならもっと稼ぐことができますよエスさん。僕らといるのは楽しくないですかジーザさん。道を1つにしたっていいじゃないですか姉さ』
武義君は舞さんに頬を打たれることでその言葉を止められた。
『何をするんですか、僕は殴られるようなことを言いましたか』
『決めるのは個人個人。武義、あなたが決めることではない』
強く拳を握りながら静かに立ち上がる武義君…
『そう言う姉さんはどうなんです。いつもいつも僕を子ども扱いして、姉さんは自分の意思で何かしたことがあるんですか』
上に振り上げられた舞さんの手が動くことはなかった。
『まあ、その辺にしとけよ、どっちも。別に一生会わないわけでもない、縁がありゃまた会うことだってあるだろう。テンション上げすぎだ武義』
『そうそう、またどこかで会えるかもしれないそれはそれで楽しいと思うよ。エスが記憶を無くして、その間一緒にいて気づいたこともあるんだよ、僕はね』
『すいません…でした、姉さん、皆さん…』
武義君は自分の気持ちを言えた。私は言えなかった…
『武義が俺を雇ってくれるならもう少しなら考えなくも無い』
『甘いね。エスは…』
『うるさいわい』
『ここでの商売の後、一度実家に皆さんを招待しようと思ってたんです。そこまでの護衛をお願いしたいです』
私は…
『私も一緒に行ってもいい。武義君』
『もちろんですよ。是非是非来てください。ジーザさんは…来ないですか』
『行かないね。僕はエスとは違う、だからいいんだけれどね』
武義君は少し残念そうにしたが軽くうなづくと自分自身を納得させたのか表情を切り替えていた。
『さて、腹も一杯になった。武義、護衛料の話の前に頂く物を頂いておこうか』
『いつでもお渡しできるように準備は出来ていますよ』
エスさんは両手両足の指を小刻みに曲げ伸ばしその表情は直視できないほど恍惚になっていた。
『エス、気持ち悪いよ。足でも数えるのかい。亡者だね』
『頭もじゃもじゃに亡者って言われたくないわい』
『気持ち悪い上に寒い。このもじゃもじゃは君が被せたものじゃないか』
『まあまあ、お2人とも。エスさんが気持ち悪くても寒くてもいいのでこれを』
武義君は書類の束をスッとエスさんに差し出した、何が書いてあるんだろう、ちょっと覗いてみる。
何枚もあるコルティック社の鉱石評価の書類と数字がずらっと並んだ書類が何枚も…
『ハッカ、興味あるんだろう。説明してやろう』
エスさんが嬉しそうに必要経費の内訳から鉱石評価の照らし合わせ、それを分配する上での注意点と武義君が見やすいようにどのような工夫がこの書類にされているかを熱く語ってくれた…私にわかったのはエスさんが嬉しそうなのと、武義君ががんばった、規格外鉱石はやっぱりすごい金額だってことぐらいだけど…
『どうだ、わかったか』
『なんとなく…』
『終わったならさっさと分けて寝ようよ、今日は疲れたよ』
確かに時間はもう深夜…
『じゃあ、さっさと分けてみんなで数えるか』
『起きてからにしましょうか』
『『賛成』』『嫌だ』
『やだやだやだやだやだやだ、うっ…』
『さあ、寝ましょう』
舞さんに一撃喰らい、その場に仰向けにひっくり返ったエスさんに毛布をかけてその横で私は横になる。疲れているけどすぐには眠れそうに無いな。




