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『エス、早めに情報を手に入れた割には賑わっているね』

『そうだな、コルティックのキャラバンは中型か…』


『何か気になるのかい』


ゆっくりと頭を振って話し出した。

『いや、その規模なら補給の必要もなさそうだからコルティック裏手辺りの場所で野宿すればいいなって考えてただけさ』

『僕はたまにはゆっくり眠りたいけどね。宿があればだけど』


期待はできない感じかなぁ…



『ジーザ、俺はワンダーの様子を見に行きたい。宿とかどんな店があるか見てきてくれるか』

『別々かい。寂しいじゃないか』

『俺は野宿で補給無しでいいがジーザには娯楽も必要だろう。今日の稼ぎは半分にするから』

『え、半分…エス、調子が悪いのかい、変なものは僕と一緒だったから食べてないと思うけど…はっ、暑さかなエスのマントは暑そうだから熱が篭って…』

『なんでそうなるんだよ。俺は普通だ。周囲の偵察がジーザの仕事、コンビとして今日の稼ぎは半分。何も変じゃないだろう』


変だよ、変だよ、大変だよ…思い込みって怖いね。ここまでやさしいとなんか物足りないと思うのは贅沢かな。ちょっと引き気味な自分を感じるよ。


『どうした、一緒にもぐるときは割らないからな』


完全におかしくなってはいないようだね。

『わかったよ。一通り見て回ってくるよ』

『同じような品物の値段を1つでいいから覚えといてくれ。相場を確認したい』

『はいはい、なんでもいいんだね』

『なんでもいい。では俺は行くから、日が落ちる前にコルティックの前で集合しよう』

『了解したよ。気をつけてね』


よほど稼ぎたいのかね、前のめりでワンダーへ向かって行ったよ。相場が気になるなら自分で行けばいいのに、僕が物の値段を見ないところにわざわざ釘まで刺して…ちょっとイラッとしてるね僕。


…そうか、僕は勘違いしていた。このスタイルは僕の望んだスタイルじゃない…


僕は、対等で、適度な距離で認めあう。そんな関係が楽しかったんだ…


今のエスは僕の話を鵜呑みにして、コンビとしての責任とか、記憶を失ってしまったことに対する負い目みたいなものを感じている気がする…うかつだった…



良く考えればハッカちゃんのことも、武義のことも、ボブやあの町の人間に対してのある程度の距離を残してはいたけれど、あの面倒見のよさ、責任感。




厄介なことになった…





そんなことを考えながら周囲を見て回る、どこの店もたいした物は置いてない、値段もそんなに変わらない。バーも宿も無い、ん。



一軒だけそこそこ賑わってる店がある…


なんか嫌なような懐かしいような雰囲気を感じる…入るべきか、入らざるべきか…

ほかとは明らかに違う賑わい、なにか面白いことが…

待て待て僕。この雰囲気は強者のオーラ、それはそれで楽しそう…



うん、入ろう。


『ジーザさん』

入るなり店に響く大声で僕の名前を呼ぶ奴がいる。他の客も一斉に入り口に立つ僕に視線を浴びせる。不愉快。


『僕をジロジロ見るなんて死にたいのかい』

シャルロットとボトムレスを音も無く引き抜く、

『店での殺生は禁止』

片腕を捕まれながらも間合いを詰めてきた奴の額にボトムレスを突きつける。



『武義の姉じゃないか。とにかく手を離せ』

『そちらも銃を仕舞って』


とにかく銃を仕舞う、さっきの声は武義だったのか…

ちょうどいい、巻き込んでしまおう。そして、武義に考えさせよう。


『ジーザさんこちらに、姉さん店頼みます』

『ん、わかった』



へー、奥がプライベートスペースか、結構広いね。

勧められた場所に腰を下ろす。神妙な顔の武義…あまりに真剣で逆に笑えてくるね。


『ジーザさん、何をニヤニヤしているんですか。あれからどうされていたんです』

『武義、僕がただ遊んでいたと言いたいのかい。逆に武義達は何をやっていたんだい。そんな剣幕で僕に言えるような何かをしていたのかい』


『それは…』

言葉に詰まる武義、まだまだ子供だね…でも容赦はしない。



『僕は見つけたよ。エスを…』

『本当なんですね。やっぱり無事だったんだ。早く、ハッカさんに知らせなきゃ』

『武義、慌てるんじゃない。とにかく座るんだ』


えぇー、ハッカちゃん居るのか、どうしよう、ああ、どうしよう…武義に任せよう、そうだ、それがいい。


『エスは記憶を失っている…あの町に居た時の記憶だけが抜け落ちている…』

『そんな…そんな事って。ハッカさんにどう説明すれば』

『武義、そこは心配ない、僕が色々話をしてある程度記憶は戻っている、が。少し混乱しているのか勘違いしている部分もある』


真剣な顔で僕の話の続きを聞く武義…


『僕は思うんだ、今大量の真実をエスにぶつけるのは負担になるんじゃないかとね。エスの言うことに合わせるのがいいと思わないか』


武義は少し考えて結論に至ったのか顔を上げた。


『そうしましょう。ハッカさんと姉さんには上手く話を通しておきます』

よっしゃー、上手くいった上手くいった。後は武義に任せれば万事OK。


『それで、エスさんはどこに居るんです』

『着くなりワンダーへ一直線だよ』『え…』



『ん。どうした』



『ハッカさんも今ワンダーに居るんですけど』



まさか逢わないよね…




このワンダーに通うようになって数日、中堅カネホリが多いここでは上位クラスの稼ぎを出していた。

武義君の店の常連さんも狩りの途中でお互いの姿を見かけたりする、武義君達の配慮に気づいたのはさっきだけど…

慣れたころに油断は出るもの、ワンダーのほぼど真ん中で少し足を捻っている今。


『こんなんじゃ駄目じゃない私…』

独り言、返事は無い。


ソニミオからパンを取り出してちぎって食べる…おいしくない、頬に一筋涙が滑り落ちる。



『一人前に稼げるようになったのに、ほんと駄目』

今日は無理できない、慎重に戻ろう。


教えを思い返して慎重にゆっくりと入り口のほうへ…



『いやっほぉぉぉぉぉぉ』

テンションの高い声が近づいてくる、岩陰にそっと身を隠す…


『奥はまだかぁ、ガンガン行くぜぇぇぇ』

懐かしい感じ、忘れるわけない、間違えるわけない…あの人がそばにいる。

岩陰から急いで出ようとする、痛っ、足が…それでも出ないと。


黒い風が目の前で止まった…


『ワンダーで無理は禁物だぜ。これ塗っときな楽になる、無事戻れよじゃあな』


ああ、声が出ない何か言わなきゃ、行っちゃう。

置いてかないで、お願い、お願いだから。

私がわからないの、私よハッカよ…




誤算、大誤算だよ。武義と舞はいい、問題はハッカちゃんだ…ワンダー内で偶然なんてよほど無いと思うけど、出入り口でバッタリとか換金中でバッタリなんて普通にありそうじゃないか。


一人前のカネホリになったハッカちゃんのことは嬉しいけど、もうちょっと後でもいいじゃない。今じゃなくてもいいじゃない。あのおばちゃんの作った物体を食べた時並みに胃が痛いよこりゃ…


『いつもならそろそろ戻ってくる頃だと思うんですが、遅いですね』

こうして武義とコルティックで待ち伏せしてる、お願いだからエスより早く帰ってきてハッカちゃん。


『本当に、そりそろ戻ってくるのかい。うそだったら怒るよ武義』

『数日ですけど、大体同じ時間に戻ってきてますから。何かトラブルじゃなきゃいいですけど…』




『あ、ハッカさん来ましたよ』

よっしゃー、ハッカちゃん大好き。ん、足痛めたのかな…


『久しぶり、ハッカちゃん。足痛めたの』

『ジーザさん…ええ、軽くだけど…』


随分と元気が無いね…


『エスさんに会ったわ…私のこと分からなかったみたい…』



僕の運は自分でも惚れ惚れするくらいだね。




『ハッカちゃん、エスは記憶を失っていたんだよ…』


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