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僕らは小規模のワンダーに拠点を組み立てる。姉さんが組み立てている間に周囲の様子をハッカさんと伺う。
『武義君、あんまり人が居ないのね』
ハッカさんがそう思うのも無理は無いだろう、チックスターのワンダーは中の上くらいの規模だった。深さや規格外のことを考えれば規模以上の大きな物、しかも便利のいい町のすぐ近く。人が多く集まる条件は揃っていた。
この位置はあんまり良くはない。町から遠すぎるから駆け出しのようにお金がない人たちの住まいはテントでいいが食料品が高めで、ある程度腕がないと出費が大きくなる。
中級…この規模に集まるカネホリはそんなところか。
『ハッカさん、この規模では町が近くにないとそこまで人は集まりませんよ。上級のカネホリはほんの一握りでほとんどいないですし、駆け出しの方々は物価が高いので集まりにくいでしょうね』
『そうなるとエスさんが来る可能性は低いのかな』
『稼ぐのが好きで、稼ぎ場を選り好みするタイプではないと僕は思いますが。宣伝されにくいのでこのワンダーの情報を知るかどうか、ポイントはそこかと』
『まあ、一回目で逢えるとは思ってないから。私もがんばって稼いじゃうよ』
『その意気です、ハッカさん。がんばって稼ぎましょう、その先にエスさんがいる気がしますしね』
アクアサークルを出ると決めてからハッカさんは今まで以上に明るく振舞うようになった。
不安定な雰囲気はあったが、気持ちを切り替えようと必死に足掻いているようにも見えた。
姉さんは『未来のある若い子、私には眩しすぎるわ』って言ってた、見た目は十分若いし母上のことを考えたらまだまだと思うが言わない、女性に年の話は猛獣の檻にえさを持って入るようなものだ…
簡易的な町の様子を確認する。高級キャラバンの姿はなく、個人で商いをしているような小規模キャラバンの姿のみ、相場は大体予想通り町の1,2~1,3倍。
コルティック社のキャランバンも鉱石買取と弾薬販売のみの中型。
最大の特徴は店主が明らかに武装していること、コルティック社も武装した護衛が見える位置で待機している。
無法までは行かないが保安官のような役割の人間はいない、すべて自己責任。こういうケースはワンダー内だけではなく外でも十分注意が必要だ。伝えといたほうがいいだろう…
『ハッカさん、ここの治安は悪い、そもそも安全は無いと思って十分に…』
『大丈夫よ、守られているだけではいけないの。自分の身は自分で守るわ』
一通り回って戻ると拠点はできていた、遊牧民が使うような大型のテント型で他のキャラバンに比べれば簡素なもの、それでも商売ができるのは姉さんのおかげだろう。
『ちょうど出来上がったところ、入って』
姉さんが中からちょいと顔を出して僕らに声をかけてくる
ハッカさんはものめずらしいさからかきょろきょろ見回している、チックスターに居たときは出向くばかりで招待したことも無かったな…
入り口付近は商売用のスペースがあり衝立で奥が見えないようにしている、用意された椅子に3人腰掛ける。今後の確認の為に。
『武義、様子はどうだった』
『姉さん、大体予想通りだね。自衛の為の用心棒や護衛がいるしコルティックのキャラバンも中型、相場も1,2~1,3ってところだよ』
『ふむ、ワンダーに3人では行けない…』
その通り、僕もカネホリ相手に商売をするならば護衛に姉さんが必要…
商売をしなければ…
それでも、この拠点を留守にはできない。少なくとも僕か姉さんが残らなければならない。
どうしたものか…
しばしの沈黙…
『ワンダーへは私一人で行くわ。大丈夫』
『私がついていった方がよいのではないかしら』
『舞さん、大丈夫よ。自分のことだもの』
姉さんはとても心配そうにしている、表情のわかりにくい姉さんがここまで感情を表に出しているのも珍しい…
小さなハッカさんが大きな姉さんの体を擦るのは面白い光景だ。
『姉さん、ハッカさんがこう言っているのですから私達は私達でできることをしましょう』
『それはわかっている。武義はいいカッコしたがって生意気』
口元を微妙に歪めてこちらを見る姉さんを睨みつけるがまったく効果がない…
『では、僕たちは店を開きながら情報収集をします。ハッカさんはワンダーへ、無理はしないでくださいね』
『わかってるよ。しっかり稼いできちゃうから。鉱石は必要かな』
『珍しいもの以外はコルティックで換金をお願いします』
『了解だよ』
『フェイが需要の高くなりそうな商品をこの間大量に持ってきていたから売るものは心配ない』
『さすがフェイは抜け目がないですね』
『その分料金もしっかり持っていった。しっかり売らないと赤字…』
『値段は抑えてたくさんの人が来るようにしましょう。そのほうが情報が入りやすいですし』
薄利多売でこの場所の流れを味方につけていくとしよう。ハッカさんを看板娘にして安全も確保しなければ…
『じゃあ、明日から行動開始ね』
『ハッカさん、始めは店も準備が忙しいのでワンダーを短時間でこちらも手伝ってほしいのですが』
『それはいい案。是非そうするべき』
『じゃあ、そうするね』
いよいよ明日はワンダーに1人で挑む…周囲を回りながら武義君が集めた情報ではチックスターのワンダーで言うところの中層位のアルコ種が奥のほうにいるくらいで大きめのドーム型らしい、人狩りが出にくい形状みたい。
結局、武義君がいなければこの情報も手に入らなかった、強がってもまだまだ私は一人前には程遠いのね…エスさん…
もう寝よう、寝不足はお肌にも悪いって舞さんが言ってるし。がんばれ私。
『ハッカさん、おはようございます』
『おはよう、ハッカ』
そんなに遅くないと思うけど入り口側はしっかりお店のようになっていた、私手伝わなくてもいいんじゃないの…
『ハッカさんもご飯を食べましょう』
『初日は大事』
いつもより多目のご飯を食べてみんなで今日の話をする。
『ハッカさん、姉さん今日は初日ですので宣伝です。初日の宣伝はインパクトも大事です』
『武義、大丈夫。私とハッカなら申し分ない。釣ってくる』
そういうと、すらっとしたシルエットの服を私に突き出す。
親指を突き上げウインクする舞さんはすっと立ち上がり羽織を脱ぐ…
艶のある生地で身体のラインを引き立てる服、瑞々しい水色が舞さんに良く似合っている。
私の分も服のつくりは一緒だけど色は銀の刺繍が入った赤色、正直目立つ…
私も…着なきゃ、駄目だよね…
『舞さん…ちょっと恥ずかしいんですけど…』
『大丈夫、堂々としているほうが恥ずかしくない。ワンダーの入り口で少し狩りをしてコルティックのキャラバンで換金して戻る』
『そんなことで宣伝になるんですか』
『なる。まあ、見てて』
この格好のままで舞さんワンダーへ入る人たちのいやらしい視線が私達に注がれる、恥ずかしい。
舞さんは六角の棒を取り出し、私は銃を持つ。
犬のようなアルコ種を数匹倒す。周囲の視線からはいやらしさが少し減っている気がする…
コルティック社のキャラバンで換金、店に戻る。
『手ごたえはどうです』
『上々、2人でいることで幅の広い層にアピールできていると感じる』
『ワンダーは狩りやすい感じだったよ』
武義君は商品のチェックを終えて準備万端みたい。
『では、行く。今日中に後5周は行きたい』
一周1時間くらいだから半日はこのペースか…
周回を重ねるごとにお客さんは増えていた、最後の方はお店の手伝いもしながら初日は大盛況で終わった。
『ふっ、男は単純。大漁大漁』
舞さんの独り言がお客さんに聞こえてないといいな。




