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『旦那、今日はいつものやつですかい』
『ああ、量はいつもと同じだけ頼む。急ぎで無いから準備が出来たら家に知らせをくれればいい』
『いつものやつならすぐにでも用意できやす。確認もしますよね』
『もちろんだ。行こうか』
応接室の隠し扉から地下倉庫へ2人で歩く。
『今回はだいぶ間が空いてやしたけど何かあったんですかい』
『どこかのワンダーへ向かったまでは覚えているんだが、気づいたら北の山の中にいて…』
『記憶が無いんですかい旦那』
少しの間を空けて旦那は顔を上げる。
『ソニミオの中の金が増えてるんだ。嬉しくなって数えた感じではワンダーで稼いだと思うんだが』
首をかしげながらいまひとつ確信が持てない様子。旦那なら金が増えていれば手放しで喜んで他の事は気にしなさそうなもんだが…
『金が増えてるんならいいじゃないですか』
『まあ、そうなんだが…』
旦那の歯切れが悪いまま倉庫へいつもの弾薬や装備品を集めてくる。
箱を空けて弾のひとつひとつまで確認する旦那。いつもの通りだ。一通りチェックが終わるのを待ちながら書類の作成を手早くすます。
『数発以外は問題ないな』
そう言いながら5発分の弾薬代を書類上の値段から引く。こっちの商売は裏家業だから帳簿は若干適当だが旦那は取り引きに厳しいからきっちりしなくてはいけない。
俺個人としては金になることで俺にできることはなんでもする主義だが。
金勘定をしながら旦那にちょっとした疑問を聞いてみる。
『そういや、なぜ記憶が曖昧なのに金が増えてるって気づいたんです』
『俺は、ある程度の期間で稼いだ分をまとめて仕舞っておくんだ。金といえど総額になると把握しきれんからな。俺の覚えから増えているのに気づいたのは覚えのない金の塊があったからだ』
旦那は商売でもすればいいのに…さぞや稼ぐだろうな…
『新しい得物は必要ないですかね』
『銃もだいぶ持っているからな。そういえばお前の趣味は順調か』
『それがなかなか、古代のコインはコレクター以外には無価値でなかなか出回らないですよ。3枚持っている奴を知っているんですが…』
『コレクター以外無価値なら交渉できるんじゃないか』
旦那の言うとおり何だが、相手が悪いんだよな…武器商バース、このアクアサークルの3大商人の1人でコルティック社製品の正規販売許可を持つ男。古い武器コレクター、武器が好きすぎて武器商やってるくらいで目をつけた物は殺してでも奪い取るとうわさの武闘派。
同業と言うこともあって付き合いがある。俺がコインを収集しているのは当然のように知っている。何度か交渉を持ちかけたが奴が口にする言葉はいつも同じ。
『黄金十二宮…』
『ん、乙女座ならあるぞ』
『え、有るって…本当ですかい旦那、あの黄金十二宮シリーズの乙女座を持ってるんですか』
『うるさいなガメル。有るって言ってるだろうが、言わなきゃよかったな…見せるだけだぞ、ほれ』
木製のケースには乙女座の紋章、作者の焼印…中には金色の小さなダンベルのような物…
『これは本物ですか、どうやってつかうので』
『弾を両側の丸い部分に入れて、真ん中のグリップ部分にある突起を中指で握ると両サイドから弾が出るんだよ。これを握りこんだまま殴って至近距離から2発めり込ます感じだな』
銃と言えるのか…しかし、この箱、作りの良さは見ただけでも価値が高いのはわかる…
『どうやって手に入れたんです』
『本人から貰ったんだよ。まあ、どうでもいいじゃねーか疑うならもう見せてやら無いからな』
上手くもっていけば、交渉のテーブルに奴を座らせることができるかもしれない…
奴が持っている黄金十二宮シリーズは7種、持っている人物、実物をその目にすることでも大いに興味を引くはず…
『悪い顔してる所悪いが、これは譲れないからな』
『どうしてもですか…』
『かわいくない顔してもさすがにこれはやれないぞ』
『そいつに見せるだけで、これだけ払いますから…』
片手を旦那の前に見せる…
『見せるだけで、50000ジルだと…正気か…』
勝った………旦那、俺のために巻き込まれてもらいやすぜ…
『桁が1つ違いやすよ』
『だよな、見せるだけで50000って。5000か』
『違いやす…』
旦那の顔が驚きそして笑顔で固まる。
『500000。どうです…見せるだけ…』
『しょうがないな、俺とお前の仲だからな。そうかそうか、見せるだけで、そうか』
『では、前金でお納めください』
『お前の趣味の為だ付き合ってやるか。でも見せるだけだぞ』
そういいながら見事な手際で金勘定をする旦那…本当にこの人は金が好きだな…
思わぬところで臨時収入が入ったな…あいつ嬉しそうだった、俺も嬉しい。金が入って、とても嬉しい。
しかし、相手が誰かとか、いつにするかとか何にも言ってなかったな…まあ、いいか。
弾薬とかの補給も無事終了、臨時収入の確認も終了、次は腹ごしらえだな。
ガメルから微かに香ったあの香りはマッチョのハンバーグに違いない、昼にはだいぶ遅く、夜には少し早いが行くか、いや、行くしかない。
鼻をくんくんさせながら店に入る、客はいない…いい店なんだけどな。
『大盛り1つ、お願いしまーす』
店主が出てくる前に奥へ声をかける。暫くしていい香りと肉を焼く音が聞こえてくる…あー戻ってきたと実感するわ。
お腹もそう思ったのか「きゅー」と鳴き声をあげる。
『おまちどう…』
『相変わらずだな、今日ガメルが来ただろう』
頷く店主。ハッとした表情になる。
『お前のこと、聞かれた』
『ガメルにか。奴にはさっき会ったぜ』
『違う。女の子に聞かれた』
それだけ言うと店主は奥へ下がっていった。
とにかく、食べる、旨い、俺幸せ。
何となく思考が店主の喋りのようになったがきっと気のせいだろうな。
それにしても、俺は一体どこで稼いでたんだろうな…寂れた酒場で強盗に銃を教えてやったところまでは覚えてるんだが…あれだけの額、ワンダー以外考えられない。
俺に何があったのか…腹が膨れたら眠くなってきた。そのうち思い出すだろう。
久々の我が家は安定の殺風景、家を空けることが多いから寝るためのベッドと物置ぐらいしか必要な物が無い。
物が無いのは空き巣対策でもある、取る物が無ければ無用に荒らされることもない。家にいるときは食事も外食ばかりだし。
布団がちょっと臭う…明日干すか…
『エスさん…エスさん…』
誰だ、俺を呼ぶのは…懐かしいような、そうでもないような…
女の子…顔が見えない、誰なんだ、ん。黒いもこもこが、動けない、何だこのもこもこは、沈む。
『うわぁぁぁっ』
汗びっしょり、気持ち悪い。
更に湿ったベッドからぬるっと起きて、フラフラとシャワー室へ。
脱いだ服を洗濯機に入れて素っ裸でボタンを押す。ガタガタ危なげな音はしているが洗濯槽は回っている、まだ使えるな。
マントから着替えを出してシャワーを浴びる、手で水を払ってそのまま服を着る。
布団を干して情報収集をするために近所の酒場に向かう。
『おばちゃん、おひさ』
『なんだい、だいぶ顔見せないからとっくにくたばったと思ってたよ』
おばちゃん…人当たりの良い笑顔に安定感のある身体そしているおばちゃん。
名前は知らない、ここでおばちゃんの名前を聞く奴はいない。ここでのルールは単純明快。知りたいことを伝え、料理を頼む。
『前回から今日までの世の中の出来事を教えてほしい』
『前回からかい、一番奥へ入りな。私が直接聞くよ』
『待たしてもらうぜ』
奥へと続く廊下を真っ直ぐ進んでいく。幾つもの扉の前を通り過ぎ、突き当りの部屋に入る。




