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『おい、兄ちゃん後ろ後ろ』


振り向き様俺の目に飛び込むさっきの2匹より一回り大きな蛇型…

飛び掛ってくる勢いと同じ速度で後ろに倒れこむ…

『相手が悪かったな』

左手のデリンジャーを結晶に零距離で添える。そして続く発砲音。



仰向けに寝転がる俺の額には親指ほどのプルトロン鉱石がちょこんと乗っている。


『兄ちゃんいつの間に銃を抜いたんだ。駄目かと思ったぜ』

マントと尻の砂を払い、銃を懐に入れながら優雅に礼儀正しく頭を下げる。


『まるでマジシャンだな。とにかく始末できてよかった、後で町のみんなにも伝えておこう』



酒場の入り口には男物のズボンが3枚、乾いた風に仲良く揺れている。

『お前らの鉱石も換金すれば200ジルくらいにはなるんじゃないか』


初めて自力で手に入れた鉱石を嬉しそうに眺める2人に向かって声をかける。

2人はマスターを見る…

『まあ、お前らの好きにするといいじゃないか。この町には買取りしてくれるようなところはないしな』


2人はすっとマスターに鉱石を差し出した。

『お前ら…』



『『おやっさんに貰って欲しいです…』』




『マスターその鉱石俺に譲る気は無いか』

『兄ちゃん買取ってくれるのか』

俺はニヤニヤしながら『いや』と答えて懐に手を入れる。



『これと交換でどうだい』

『なるほどな、でも兄ちゃん大損だぜ。いいのかい』

『元はタダだから丸儲けだぜ』

『確かに。そうだったな…頼むぜ』


俺は3つのプルトロン鉱石を懐に仕舞う。

『兄ちゃんのソニミオは性能高そうだからプルトロン鉱石も結構喰うんだろ、維持が大変だな』

『まあな』



カウンターの上を2丁の銃が滑り、男達の前に止まる。

『マスターの下で働くんだろ。この荒野で丸腰じゃ男は仕事できないぜ。弾は教え子へのプレゼントだ』


『『兄きー』』

『そんな呼び方はやめろ。パンツで近寄るんじゃねー気持ち悪い』


そんな俺たちをパンツ一枚でニヤニヤしながら見ているマスターを睨みながら夕日が差し込む入り口に立つ。


『それじゃそろそろ行くわ。お前らマスターに迷惑かけんじゃねーぞ』

『『へい、兄貴』』

『こいつはさっきの取り引きのおまけだ、持ってけ』


マントを少し開き、懐で受け取る…

『もうおどろかねーぜ。俺特製のジャーキーだ日持ちするけど忘れんなよ』


マスターは笑顔でサンドイッチも忘れるなと付け加えた。



俺は片手を上げて酒場を後にする、パンツ姿の男3人に見送られるのはなんとも変な感じだ…




舗装もない荒れた道を1人進む、今日は月が丸い、夜道を行くには最高に気持ちがいい。荒野の道は基本的に直線だから迷うことはない、近隣の町へ真っ直ぐ向かう道を多くの人が通り、道となる。目的地のチックスターは隣町だから迷いようがない。


アルコ種の湧きは町の近くで起こることが多い、町の近く以外に自分から行って見ようなんて物好きは少ないから発見されないだけかもしれないが。

最初に発見した人物は不明だが、大きく口を開けた洞窟の入り口が一夜にして現れ、中は光るコケのような物によりかなり明るくなっている。人々はアルコ種の住処を驚きを込めて「ワンダー」と呼んだ。


明らかに怪しく非常識な空間…それでも人は集まる。


なぜか…


アルコ種からしか取れない、今最も金になる鉱石。プルトロン鉱石を得る為に。

この鉱石はどのような物なのか…結論から言えばよくわからないが有用な資源ってことだ。

エネルギー効率もよく、燃料としての価値。他の物質と混ぜることによる素材強化などの価値。研究者が企業が国がこの鉱石に注目している。しかし誰も解明には至っていない。


原因のひとつは産出量。不定期に湧くアルコ種から安定的に鉱石を集めるのは不可能であること。



もう1つはコルティック社の存在がある。



コルティック社は銃器の製造販売企業なんだが、そこの設計開発部門の若い研究員が偶然を重ねて発明したのがソニミオ。それによりコルティック社は世界的な大企業へと成長した。

その若い研究員が今の設計開発部門の主任様らしいと雑誌に書いてあった。


ソニミオは性能によって違うが口の大きさ以内の物を収納できる、重さは関係なく極端な話、高性能のソニミオには腕の太さの鉄骨を数本入れても重さを感じない道具だ。内容量は外の口の大きさからは判断できない、1つだけ目安として確かめる方法がある。


ここまで聞くと万能の夢のような道具なんだが…難点が一つ、それが容量を確かめる目安にもなっているのだけれど…



それは燃費。

ソニミオはプルトロン鉱石を使った最高の発明品と言われている。その機能を維持する為には定期的に鉱石を喰わせる必要がある。高性能であればあるほどその量は多く必要になってくる。

性能が低い物でもこんな便利な物を使いたがらない人間は少ない。高性能ソニミオは持っている人間のステータスにもなっている。コルティック社が技術を独占している現状で企業が大きくなるのは当然。その影響力は国にも及ぶほど。



『3分の2は進んだと思うんだけどな』

道の端に座り小さなランタンとコンロを取り出しお湯を沸かしコーヒーを入れる。


『サンドイッチでも食べるか…1人でぶつぶつ言ってると変な人だな』

懐から食料を次々取り出し状態を確認する、ソニミオは冷蔵庫でも時が止まっているわけでもないので、食材を入れて忘れていると傷んでしまい荒野の真ん中で腹を抱えて苦しむ羽目になる。定期的な確認は必須だ。

生き物も死んでしまうので入れることはしない。実験ではラットが最長で3時間生きていた記録があるがそもそも詳しい原理もわかっていない物に入ろうって奴は居ない。

危ないことはやめとくに限る。


少し眠い目をこすりながらサンドイッチとコーヒーを食べてかなり早い朝食をとる。

あと2時間くらいで夜明けか…しっかり明るくなる頃には町に着けるだろう。


『さて、もう少し頑張りますか』

荷物を懐に仕舞いこみ、また1人町へめがけて歩き始めた。




時間は1週間前にさかのぼる。


チックスター、この町は今、普段からは考えられない賑わいを見せていた。もともと荒野を旅する人間の宿場町として誕生したのがこの町。数件の宿屋と酒場があり小規模の町との違いは小さいがオアシスがある点だ荒野では中規模の町といったところか。


今の荒野で町が賑わう理由は限定されている、それはアルコ種の湧き…つまりはワンダーの発見…



『町長、我々はコルティック社のキャラバン隊の者です。ワンダー発見連絡ありがとうございます。しばらくの滞在費と報告の謝礼はこちらになります。よろしいですか』


『これはこれはありがとうございます。我々としても氾濫が起こればなす術がありませんので』


『では、我々は設備の準備がありますので。他のキャラバン場所の提供もよろしくお願いします』


キャラバン隊が帰った後入れ替わりに1人の男が手に紙をもって入ってくる。

『町長、とりあえず町外れにこれから来ると思うキャラバンの設置場所を決めたがこれでいいか』

『保安官、すまないねこんなことまでさせてしまって。どれどれ…いいんじゃないか。宿屋系キャラバンは少し遠くに行ってもらわないと町が潤わないからな。これでいこう』


『選択肢はないが、大きな問題が起こらないことを祈るだけだな町長』

『とりあえずこの金でできるだけ準備しないと、君も助手を増やすように要請を頼むよ』


この日から町の様子は激変していくことになる…


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