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『さっきの話はなんだったのかって感じだね』

『そうだな、あれからちょっとで行き止まりとはな』


お昼ごはんを食べた場所から暫くして僕達はこの広い空間にたどり着いた、先に進めそうな道も無い…


水晶のような結晶が青白く光っているこの広間は不思議なワンダーの中でも異色であると感じるほど美しい光景だった。



反応はそれぞれ違い。

ハッカさんは見た目の美しさにうっとりした表情。

ジーザ様は特に盛り上がりの無い終点に少し残念そう。

姉さんはハッカさんに寄り添っているが表情はいつも通り。


エスさんは、戦闘中のような最大限の注意を持って目の前を睨みつけている。


『エスさん、何か気になることでも』

『みんな、静かに早く引き返すぞ…』


僕もエスさんが何を言っているのかわからなかった。

『ちょっとだけあの水晶を見たいんですけど…』

前に進もうとするハッカさんの手を姉さんが強く引き寄せる、ここに来るまで聞き慣れた銃声が響く。


ハッカさんが進もうとした場所に粉々になった水晶が落ちる。

『ハッカちゃん大丈夫かい』『問題ないはず』

戸惑うハッカさんに代わり、姉さんが答える。


広間の奥にいつの間にか激しく光る珠があり地面から水晶の蔓が持ち上がる、ワンダー全体が震えているようだ。



『皆先に戻れ。俺はここに残る…』

『エスが残るなら、僕も残るよ』『駄目だジーザ』


ジーザ様の耳元にエスさんが何かを囁く。

『わかったよ、エス…みんな行くよ』

苦々しい不愉快極まりない表情のジーザ様。

姉さんは嫌がるハッカさんの手を無理矢理引いて下がっていく、僕も背中を叩かれ広間から離れていくその背中からエスさんの声…



『武義、稼ぎにしろ。金は必ず取りに行く…ジーザ、皆を頼む、お前にしか頼めないことだ』


一瞬振り返った僕が見たのは無数の水晶の蔓に突っ込んで行くエスさんの背中だった…






それからは休むことなく入り口に向けて移動を続けた…

ハッカさんは虚ろな表情でただ足を動かしているような状態、姉さんが常に付き添っている。

ジーザ様は少し先に行っては様子を見に戻ってくる、アルコ種を片付けているのだろう、時折銃声が聞こえてくるから。僕の足も体力も限界に近い…



そろそろ中層に差し掛かる頃からジーザ様は叫ぶようになった。

『命が欲しい奴は今すぐワンダーから出ろ』

やり場の無い気持ちが篭っているのかその声は獣の咆哮のようにワンダー内に響き渡る。

その姿、声に事情を聞きに来るカネホリは1人もいなかった、ただ素直に入り口を目指す者の姿が見られるだけだった…



あれから数時間、膝が笑う…入り口にはジーザ様の迫力に押し出されたカネホリ達で溢れていた。皆何か言いたそうだがジーザ様の雰囲気が誰の発言も許さなかった。


『氾濫が起きるかもしれない。町中に知らせろ。とっとと行け』

前フリも無い、唐突に告げられる内容、顔を引きつらせたカネホリ達は腰を抜かすもの、フラフラしながらも知らせに走る者色々であった。


もう足が動かない、ハッカさんも姉さんの背から降ろされぐったりしている。途中からとはいえ人一人背負って走っていた姉さんも疲労の色を隠せていない。


『武義、酒をよこせ。のどが焼き付きそうだ』

しゃがれた声でアルコールを要求してくる。赤ワインを差し出す…


無言で受け取り乱暴にコルクを抜き取り一気に飲み干してしまう。

『もっと強いやつを』


ジンのボトルを差し出す…

それを眺めワンダーの奥を振り返り、一気に煽る。ただ静かに奥を見据える姿に声をかける…


『エスさんのところに行くのですか…』




『行けないね…僕はエスに頼まれたから…僕にしか出来ないって言うもんだから…行けないだろう…』


すぐにでも戻って行きたいのだろう、結果がどうとか関係なく、一緒に…背中を守り、背中を預け。そんなやり取りをしたいのだろう…



衝撃の強いニュースは早く広がる、30分も経たないうちにワンダーの前には、町長、ジョンさん、コルティックキャラバン代表が顔を揃えていた。


氾濫が起こるのが本当なのか、これからどうしたらいいのか、町長は過呼吸気味になり、ジョンさんは倒れないように支えていた。コルティックキャラバン代表は本社に報告と救援の要請を相談するといって早々に引き上げていった。


ボレロさんはジーザ様に簡単に事情を聞き抜け殻のようなハッカさんを背負い僕らに深く頭を下げて『後でまた来る』と言って帰っていった。


ジョンさんの提案でとりあえず近いボブさんのところに移動することになった、歩けない僕は姉さんの背中に揺られることになった。




酒場にはよく見る常連のカネホリ達が不安そうに、その不安をごまかすように酒を煽っていた…


ボブさんはいつもと変わらない動きと笑顔で接客をしている。


ジョンさんに話を聞き、すぐさまテーブルを数台繋ぎ合わせ会議テーブルのような雰囲気を作り出した。その間も、保安官助手が頻繁に出入りしてはなにやら報告をしている様子だった。


ジーザ様は殆ど口を開かない、店に入って口に出した言葉は『ボブ、エス君がいつも頼むジンを』それだけだった…



報告が入るたび、ジョンさんと町長は重い空気を増していく。

この空気感が変わったのはボレロさんが再度来てからだった…




『どういう状況になっている、ジョン』


『ボレロさん、町の人間はまだ実感がないのか大きな騒ぎにはなっていないですけど、時間の問題ですね』

『その理由は』

『町外れのキャラバン達が片付けを始めています。それに伴ってそれらを利用している実力のあるカネホリも町を離れる様子です』


『キャラバンや経験が多いカネホリは氾濫の怖さを知っている。迷うくらいならば離れるのは当然のことだな』

『キャラバンがどんどん離れればさすがに不安が煽られパニックになるでしょうね』


町長さんはただ青い顔して座っているだけになっていた。現状、本当に氾濫が起きればどうしようもない、そんな空気が店内を支配していた…




『逃げたいやつは、逃げればいい。ボブ、同じ物を』

『はい、ただいまお持ちします』


その声は店中に響き渡る音量と強さがあった。


『エスは僕に言った。俺がどうにかするからこの町とハッカを頼む。お前にしか頼めないことだ。と』


『それは、どういうことかな、ジーザ君』

『わからない。今、言った事がすべてだ』

『そ、それでは、何がど、どうなるのか。まったくわからないではないですか』

町長はあわあわ噛みながらやっと口を開く。

『黙れ、腰抜けはさがれ。目障りだ』

町長は黙って動きを止めた。


『エスがどうにかすると言った。エスが僕に頼むと言った。僕が動く理由にこれ以上のことは無い』


ボブさんから受け取ったジンを一気に煽り


『逃げるも、引きこもるも、戦うもみんな勝手にするといい。僕は今夜からワンダーの前で過ごすから。用事があればそこに来てくれ。じゃあね』


ジーザ様はボブさんにいつもよりだいぶ多くお金を渡し、アフロをぽふぽふして出て行ってしまった。




『エスさんは、僕に金は必ず取りにいく。と言いました…姉さん僕等も…』

『行きましょう。あの方がタダで死ぬわけが無い』


僕はまた姉さんに背負われてジーザ様の後を追った。


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