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予定より遅くなったと思って急いできたらなにやら面白そうなことをやっている、これは様子をみるとしよう。


宿の入り口からそっと中を見る。


チラッとこちらを見るボレロ。ハッカは…集中しすぎで俺には気づいていないな。

『エスのマネでもしてみるか…このコインが床に落ちたら合図だ、いいな』

『わかったわ、お爺ちゃんには負けないから』

『命のやり取りもしたことのない娘には負けんよ』


悪戯坊主の顔だ、何か企んでるな。


コインは天井すれすれまで上がっていく。ありゃ、ハッカはコインに目が釘付けだ。

こりゃ負けるな。

ワンダー内じゃないからか、相手がボレロだからか、どうも変に力が入っている。


完全にボレロのペースだ。


見てられないな、落ちるコインと一緒に落ちていくハッカの頭、目線が下がったところでボレロはそっと銃に手をかけている、汚い。


その上で靴にコインを当てるなんて、これが経験の差か…逆立ちしてもハッカに勝ちは無い。

でも、勝負は勝負か。気づかない方が悪い。



『孫相手にえげつないなボレロ。汚い大人にはなりたくないぜ』

『世の中は綺麗ごとばかりではないぞ』

『確かにな…』


思うところはあるが、変な空気になる前に手を打つか。


『ハッカ、遅くなって悪かったなみんな待っているといけないから行こうか』

なにやら考えこんでいる様子のハッカを引きずるように宿を出る。ニヤニヤしながら手を振るなボレロとの思いを込めて見てやる…その笑みは止まることはなかった。



『私が負けた原因はなんだったのでしょうか』

ふいに声をかけられる。どうしよう、あの勝ちにこだわった手を解説するのか…


『ハッカの相手はコインではなく、ボレロだったってことだな』



『確かに…』

何となく納得したようなのでこれ以上は触れないように、足早にアフロのところへ向かおう…




『エス様、いらっしゃいませ』

『ボブ、俺の連れは』

『皆様お待ちです、ささこちらへ』


とはいっても、オープンな作りのボブの店であいつらは嫌でも目立つ、ジーザが酒瓶を持って手招きしてる。カウンター近くの店の奥側、ボブは有能だな。


俺にペコペコするたびに顔にアフロが当たる以外は…近いんだよ、距離が…



『遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ』

『十分楽しそうだが。まあいい、とりあえず』

『とりあえず注文でしょう』『なの』


急いでこちらに来た様子の2人にお金を渡し、『お任せで』と伝える。元気よく戻っていく。



『早速で悪いが、武義。状況はどうだ』

『腐らない物、長期保存ができるものは既に、揃ってはいませんが手配済みです。それと食料や飲料についても発注はかけてあります。前日に受け取り予定です』

『内訳と金額は』

『それはこちらの書類にまとめてあります』


綺麗な報告書だ、俺は隅から隅まで目を通す。


『武義さんは凄いですね、これだけの物を準備するのは大変だったでしょう』

『いえ、私は商人ですから、これくらいのことはできませんと』

『武義は泣きながら頑張った』

『ね、姉さん。やめてください』


『一生懸命頑張るのは素敵なことですよ武義さん』

『ハッカさんはいい子ね。武義、恥ずかしがることは無い』


武義は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。ジーザが頭を撫でてやっている。



『武義、数箇所相場よりかなり安いものがあるが…説明が欲しい』

武義はスッと顔を上げて引き締まった表情に戻る。

『その件は、購入する店を絞り大量購入の引き換えに値下げ可能な品物を交渉しました。後はもともと私達が所有していた物を原価近くで計算してあります』



『これでお前達に儲けは…余計な詮索だな』


書類を揃え武義に返す。

『期待以上だ、これで頼む』


食べ物や飲み物が揃い、とりあえず飲み食いを始めるが一人、急に手を止める奴がいた。


触れたくないが、触れないわけにも行かないだろう、俺の顔をじっと見つめ続けているのだから…



そんな空気に残りの3人も手を止めて様子を伺っている…



俺はグラスのジンに口をつけ、声をかける。


『ジーザ、何か話したいことがあるのか』



『聞きたいかい』

メンドウクサイ、トッテモ、トッテモ、メンドウクサイ


俺は学習したはずだ、長引かせずスッキリさせる為にはどうしたらいいかを…


『是非聞きたいな、ジーザ』

『どうしようかな』

ちくしょう、なんてことだ。

『エス、そんな無表情にならなくてもいいじゃないか。ちゃんと話すから心配しないでよ』

怒りは突き抜けると無になるのか…覚えておこう。それにしてもこちらから話をしてくださいとお願いしたような感じになっているが…もう一口グラスに口をつける…


『じゃーん。どうだい』

思わずジンを吹き出す、アルコールでむせるとキツイ…


シャルロットが2つに見える…目をこする…やっぱり2つに見える。

『エスロットだよ』

『こら、なんか俺の名前っぽいのがついてるぞ』

『気に入った人の名前を付けるなんて僕はなんて控えめなんだろうね』

『それを、本人に言わなければな』

『じゃあ、私は自分の銃をエスターと名づけます』



『あっ、いえ、あの…なんでもないです…』


今は下を向いたハッカは置いておいて。

『いったいどうした。シャルロットはオーダーメイドだっただろう』


俺が食いついたことが満足なのか満面の笑みで話し出す。

『オーダーメイドの銃は設計図や型がコルティックに残っているからね、火力アップの為にもう一丁作らせたのさ。銃身にエスって書いてあるのが見分けるポイントだよ』


『あの威力を両手で…使えるか、ジーザなら…』

『珍しい、すんなり受け入れたね。僕は両利きだからどっちでも使えるなら2丁にしようって思ったのさ』

『普通は思うだけにするだろう…』

『設計とかが無いから2丁めは30%引きなんだよ。買い物上手だろう』


とりあえず頷いておく。30%引きでも幾らするのやら、コルティックはどれだけ儲けるのか…コルティック…コルティック……


『ジーザ、正直に話せよ。ハッカのソニミオ幾らだ』

『40000ジルだよ』

『本当か…』

『エス、僕は嘘はつかない主義だよ。僕を疑うのかい…』


緊張が高まる…ジーザの反応は真剣だ…


『ジーザ様待ってください。一体急にどうしたのですか』

『すまない、ハッカのソニミオの容量が初心者用にしては広くてな、もしかしたらジーザが高い物を用意したのではないかとおもって』

『この僕が嘘をついてカネホリ初心者のハッカちゃんが後で困るようなソニミオを贈ったと。疑うだけでなく馬鹿にしているのかい』

『コルティックに調べてもらったのですか』


『それが今日は色々有って、忘れてたんだ』

『証拠も無く、僕を疑ったのか。この悲しみをどこにぶつければいい』


ジーザの様子は大げさではあるが嘘はついていないだろう、かなりイライラしているからな…


『ジーザ、証拠も無く疑って悪かった』

席を立ちジーザに深く頭を下げる。


『本当に悪いと思っているのかい』『ああ』


『じゃあ、1つ僕のお願いを聞いて貰おうか』『できることであれば』


『新しい銃に名前を付けてくれないか』『ん』



『エスロットじゃないのか…』

人差し指を俺の目の前で揺らしながら。

『恋する僕の気持ちがわかっていないね、自分で相手の名前をつけるのと、本人に名づけてもらう。これは全然違うじゃないか』


ハッカが凄い勢いで頷いている…首がとれそう。

そんなものか。それでいいならむしろありがたい。


『僕をイメージして頼むよ、エス』



ジーザをイメージしてか…

『ボトムレス…』

『底が知れない…ボトムレス…いいね、エスが僕をどれほど評価しているか伝わるいい名だよ。この瞬間僕のことだけを考えていた、痺れるね』


呪い殺すんじゃないかと思うほどの眼差しをジーザに向けているハッカには触れないでおこう…


空気を換えるか…

『なあ、俺がソニミオ内で分けている物ってなんだと思う』

『お金ですよね』

『金』

『金以外に考えられないよ、何かの冗談かい』

『だから言ったでしょう』




『明日、ボレロの宿に朝集合だ。今日は解散』

『エス、落ちは無いのかい。本当はあるんだろう』

『うるさい』


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