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翌日の早朝…日の出前、空が少し明るくなる頃…
『ん、何かあったか。随分と早いじゃないか』
『ちょっと、お願いがあってな』
『いつもと感じが違うな、面倒事か…』
『模擬戦の相手をお願いしたくて』
『エスのか、それともハッカか』
『今度ワンダーに潜る5人のだよ』
『私を殺す気か。そんな気はないだろうが』
『連携の確認がしたいんだ。付き合ってくれないか』
『町から少し離れたところに岩場がある。そこなら環境も近いからいいのではないか』
『恩に着る』
『ハッカの為だ』
狩りは順調に進み、ハッカは凄い吸収率でワンダーでの立ち振る舞いを覚えて行った。トイレ以外…
『エスさん、もっと離れてください』
『あんまり離れても危ないと思うが…』
『周囲はちゃんと確認しましたから…』
とりあえず、ハッカが隠れている岩陰から離れる…この瞬間は毎回気まずい、早めに5人体制にしたほうがいいのかと思う。
今夜は集合の夜、早いものだ5日間なんてすぐだな、ボレロがこっそり訓練しているのは知っている、夜中に部屋から見ていたら目が合った瞬間に咳払いしてやめてしまった、あの年であそこまで動ければ現役カネホリでもやっていけるのに、勿体無い。
『エスさん、お待たせしました』
もじもじしながら近づいてくる、年頃の女の子だもんな、恥ずかしいに決まってる。あんまり堂々とされてもこっちも困る。
『じゃあ、俺も』
さっきまでハッカがいた岩のほうへ向かおうとして捕まえられる…
無表情で反対側を指差すハッカ、そりゃそうか。指差す方向に向かって少し離れたところで用を済ます。
遅めの昼食、今日は焼肉をパンで挟んだ、焼肉バーガー。
大きな岩を背に周囲を確認してから食べ始める…
『ハッカ、ソニミオの扱いはどうだ』
『だいぶ扱えるようになったと思います。思った以上に中が広く感じてどれくらい入るのかまだつかめてないですね』
ん、初心者用だろう。ジーザの話では40000ジルって…もしかしたら。
『ハッカ、初心者用のソニミオは大体、大きくても背負うリュックくらいの容量だぞ』
『え、この間少し試してみたら少なくても大きめの旅行カバンくらいは入りましたよ、それでもまだ余裕があるくらいには…』
『あのバカには、後でキッチリ話を聞くとしようか…その前にコルティックに調べてもらうか…』
『そうしましょう…』
『今日は早めに上がるか』
話ながら歩いて入り口に向かう。
『容量は別にして、どんな感じでイメージしているんだ』
『ソニミオですか、メモを貼るコルク板ですかね、そこに貼り付けてるイメージです。武器の板、消耗品の板、食べ物の板、雑貨の板みたいに』
『いいな、ハッカはきっと部屋も綺麗にしてるんだろうな』
『エスさんはどんなイメージですか』
『あんまり参考にはならないと思うけどな。床に寝転がるだろう、よく使う物を手前、それ以外を遠くに武器も食べ物もごっちゃごっちゃだな。俺以外にはソニミオは使えないがもし使えてもどこに何があるかわかんないだろうな。ああ、1つだけキッチリ分けてある物がある…』
『お金でしょう』
『なんでわかった、凄いなハッカ』
『エスさんのことを少しでも知っていれば10人が10人思いますよ』
そうかな…
『そんな不思議そうな顔しないでください。今夜みんなに聞いてみたらいいじゃないですか』
『そうしよう』
小さな銃声…
小さなうめき声…
『ちっ』エスさんが舌打ちをする…
『ハッカ、覚悟だけしといてくれ』
手に汗が、心臓が速く動く…
エスさんについて、目の前の大きめの岩を左側から回り込む…
『お前…』
エスさんの影にいる私からは相手の顔は見えない、エスさんは銃を持っていない…
ジーザさんの言葉を思い出す。
『ハッカちゃん、この和んだ空気は異常なことだよ。初めてだからわかんないと思うけど。普通のワンダーでは自分以外の姿を見たらまず銃を向ける、話はそれから』
私はエスさんの影から銃を構えて横に並ぶ………
胸を押さえたまま動かない人、銃をこちらに向けている人…
『あなたが俺を子分にしてくれないから…』
私は、相手の銃を狙って撃った。
眉間に穴を開けて崩れ落ちる人。
私が外した…私が殺した…
『ハッカ、すまなかったな』
そう言ったエスさんの手にはいつものリボルバー、銃口からはかすかな煙。
エスさんは『銃だけに当てるなんてやっぱりいい腕だな』って言いながら、2つの人だった物から金目の物を剥ぎ取りながらこちらを見ずに話を続ける。
『こいつは、偶然ここのワンダーで助けた男だ、殺されそうになっていたところをな。捨てられた子犬みたいな目をしてたよ』
懐から鉄パイプを取り出すエスさん、思いっきり振り下ろし銃を叩き壊す。
『助けた後すぐに外であった、血のにおいをさせたこいつとあった。カネホリとして頑張れって俺は言った。柄にもないことするからだな。しけてるな、いこうか』
それ以降、換金の時までエスさんは一言も話さなかった。
『ハッカ、俺はちょっと用事がある。暗くなる前には宿に戻るから待っていてくれ』
2人での帰りはたった数日だけど1人は寂しかった…
『どうした、なんともいえない顔して。金でも落としたのか』
『いや、それはない。絶対にな』
『だろうな』
詮索せずにコーヒーを出してくれるジョン保安官。もう3杯目だ…
『あいつは最近どうしてる』
『ん、ああ、お前さんがとっ捕まえたあいつか』
『ああ』
『さあな、暫く見てないな…どこかへ行ったか、あの世に逝ったか。俺にはわからないな』
『そうか…』
寂しそうでもなく、平然としている様子の保安官に続けて聞いてみる。
『気にならないのか…』
『気にならない。と言えば嘘になるが、あいつはあいつ、俺は俺だ。それだけだろう』
『帰るわ…』
『顔、洗っていけ。ハッカちゃんが心配するぞ』
『あいかわらずおせっかいだな。でも、そうさせてもらうわ』
ぬるい水で顔を洗う、無言で差し出されたタオルで顔を拭く。
『このタオルは無料だよな』
『それでこそだろう。俺が1日首にかけてたタオルだから金は取れんな』
『どうせ無料なら新しいのがよかったぜ。ありがとうよ、行くわ』
『いつでもコーヒー飲みに来い』
背中越しに手をあげてハッカの待つ宿へ足を向ける。
日は徐々に傾き、空は夜の気配が濃くなっていく…エスさんはまだ帰らない。
私は、銃の手入れも終え、ソニミオからスムーズに物を取り出す練習をする…自分で言うのは恥ずかしいがかなり慣れてきたと思う。
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ…
『ハッカ、練習してるのはわかるが、無表情で銃の出し入れをするのはどうかと思うぞ』
『エスさん達の足手まといにはなりたくないのよ』
私の言葉を聞いて顎に手を当てて考え出すお爺ちゃん。
『では、私が暇つぶしの相手になろう』
そういいながら上着を脱ぎだす、そこにはホルスターに古い銃がささっていた。
ニヤリと笑うお爺ちゃん…
『エスのマネでもしてみるか…このコインが床に落ちたら合図だ、いいな』
『わかったわ、お爺ちゃんには負けないから』
『命のやり取りもしたことのない娘には負けんよ』
今日の出来事が思い出される…
『気が散っているぞ』
天井へ向けて放たれるコインはゆっくりに見えた、落ちてくる、私は集中する…
もうすぐ床に落ちる…
『えっ』
銃を抜こうとした私は一瞬躊躇してしまった、私が思っているよりワンテンポ遅れてコインは床に落ちる…私は負けた。
『孫相手にえげつないなボレロ。汚い大人にはなりたくないぜ』
『世の中は綺麗ごとばかりではないぞ』
『確かにな…』
お爺ちゃんはコインを自分の靴の上に一度当てて時間をずらした、私はタイミングをずらされ負けたのだった。




