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『さてと、こんなもんか…』
カウンターに置いた2つの小山のうちの片方をマントの内側にポイポイと入れていく。
『兄ちゃんのソニミオ結構高性能だな』
『まあね、マスターこっちの金にならない物は特別にあげるよ』
『兄ちゃん嘘でももうちょっと言い方があるんじゃねえのか。お漏らしズボンまで…こんなもんカウンターに置くんじゃねーよ』
『いい記念品になるかと思ってさ』
『どんな記念だよ。どさくさに紛れてうちのコップも懐に入れようとすんな』
『いやー記念にと思って。ちゃんと返すよ。ドロボウヨクナイ』
『油断も隙もないな』
楽しい会話をマスターと楽しみながら騒ぐ気力なくグッタリしている2人組みに近づき踏みながら揺すってみる、反応が無い、つまらない。懐から鉄パイプを取り出す…
『うーうー』言いながら部屋の隅に逃げて行く。面白い…
『がー』と言いながら鉄パイプを高く構える。
『兄ちゃんやりすぎだ。その辺にしといてやったらどうだ。趣味のいい遊びじゃないぞ』
『しょうがない。お前らマスターに感謝しろよ。命狙ったんだから命奪われても文句いえないぞ』
『この町は保安官なんていないし。こいつらどうしようかな』
『俺のソニミオに入れて運んでみようか。俺のやつ入り口が大きいから人ぐらい入るぜ』
マスターは深くため息をついてガタガタ震える2人をチラッとみた。
『兄ちゃん、ソニミオに入れたらもっても数時間で死んじまうだろう。お前ら俺のところで少し働くなら突き出さないがどうする』
2人は猿ぐつわされたまま床に頭をこすり付けて頷いている。
『いいのか、銃突きつけた相手だぜ』
『こんな目にあって、丸腰どころか丸裸でこれだけあんたに脅されてその上で俺をどうにかしようと思うか』
『そりゃそうか。でも人聞きが悪いぜ、脅すだなんて、ただの正当防衛だけどな』
まあいいから自由にしてやれとマスターがいうから縄と猿ぐつわを解いてやる…
自由になった2人はダッシュでカウンターの中に入ってマスターの後ろに隠れながら涙と鼻水たらしながらお礼をいっている。
『もういいから、とにかく顔を拭け。俺に鼻水をつけるんじゃない。裏に井戸があるからズボンを洗え』
言われた通りにする2人を見ながら、なんだか嬉しそうなマスターに声をかける。
『なんだか嬉しそうだな』
『息子がいてな。もう、死んでしまったがね… 兄ちゃん酒は飲めるのかい』
『ちょっとでタダならね』
『ぶれねぇな。一杯奢るから付き合えよ』
カウンターに腰掛けてショットグラスを受け取る。
『緑が失われて、荒野が荒野になったころの話だ。アルコ種が湧いて、人と金が集まってきた。息子は俺達に楽させてやるってカネホリになった』
マスターは自分のグラスを飲み干し続ける。
『兄ちゃんもカネホリなら知ってるだろう。アルコ種の氾濫を…』
俺もグラスにちょこっと口をつけ頷く。
『あいつは運が悪かった…巻き込まれて、あっけなく逝っちまった。妻もそれがショックで病気になって。今は俺1人だ… この町はまだ水場がある。できれば思い出のあるここで死にたいもんだぜ』
マスターは2杯目を飲み干しにやりと笑った。
『息子が生きてりゃ。あの間抜けどもくらいの歳だな』
『そうか…』
よくある話…この荒野のネオゴールドラッシュでは本当によくある話だ。人間同士の獲物の奪い合い、人間同士の奪い合い…今まで手にしたことのない大金に、または手にできると夢を見る人間達の争い…
そして、狩る側が狩られる氾濫現象…
『おやっさん、本当に、本当にすいませんでした。命を助けてくれてありがとうございます』
『強盗に入ったのがおやっさんのところでよかった。ありがとうございます』
『本当だぞ、このマスターじゃなかったら…即死かソニミオ内でじわじわ死ぬか、保安官が来るまで飲まず食わずで干物か…』
『ひー』と情けない声を上げてマスターの後ろに大の男2人は隠れようとする、面白い…
『兄ちゃん、悪い顔になってるぞ。その辺にしといてやれよ。これやるから』
そう言って差し出されたサンドイッチ。これで手を打つか…懐に仕舞う。
『ソニミオ中でも傷むから早めに食えよ。お前達も俺に隠れてないでカウンターに座って食え、腹へってんじゃないのか』
『『おやっさーん』』
出されたサンドイッチを慌てて口に詰め込む2人を見るマスターはやっぱり嬉しそうだった。2人とも腹が膨れて落ち着いたところで聞いてみる。
『お前ら、カネホリじゃないのか』
『へい、そのつもりで2人で銃を買って荒野に来たのはよかったんですがね…』
『銃買うのが精一杯でアルコ種を見つける前に食料も金も無くなっちまって…』
『それでも、荒野には小さいはぐれのアルコ種もいるだろうが』
2人はモジモジしながら恥ずかしそうに下を向いてしまった、まあ、察しはつくけどな。
『初めて銃なんて持ったもんだから、その…全然当たらなくて…』
『マスターちょっと2人借りてくぜ』
『どうせ店は暇だから俺もついていくぜ。こいつら兄ちゃんにビビッちまってるからな』
『俺はサンドイッチのお礼をしようと思っただけなんだけどな。アルコ種のはぐれとか近くに居ないか』
『街外れに蛇型が居たとか昨日隣のばあさんが言ってたな。この町には積極的に狩ろうって奴はいないからまだいるんじゃないか。年寄りが噛まれないように処分しなきゃって話してたところだ』
『それは都合がいい。銃の使い方教えてやるからついて来な』
街外れに案内されながら、さっき迷惑料として頂いた奴らの銃を取り出しそれぞれに一発だけ弾を込める。
『数は多いのかい』
『いや、ばあさんの話じゃ2匹だそうだ』
『じゃあ、弾は2発でいいな』
町外れにある古くなった樽が捨ててある場所に着くとマスターがその内の1つを指差した。
二匹の蛇が樽の影に潜んでいるのが見える…二匹の頭には小さな水色の結晶がうっすらと光を放っている。
俺はマスターの後ろににいる2人を手招きで呼び寄せる。2人に銃を握らせる…
『サンドイッチ分だから超短期集中プログラムで教えてやるから、集中して聞け。俺の指示に従えなかったら殺す』
マスターは呆れ、2人の男は声も出せず銃を握り締めている…
『狙う場所は知っていると思うがあの水色の結晶だ』
2人の頷きを確認して俺は続ける…
『アルコ種は理由はわからんが、あの結晶部分しか攻撃の効果が無い… そして、致死量のダメージを受けるとプルトロン鉱石を落として消えちまう。大事なのは確実に結晶に当てることだ。わかるな』
真剣な表情を確認した俺は2人の銃を持つ手を正面に構えさせる。
『俺が撃てというまで絶対に撃つな。今の場所を一歩も動くな、1人1匹ずつだ、いいな』
マスターは興味深く俺たちの様子を見守っている…
『最後に、絶対獲物から、結晶から目をはなすな。どれか1つでも守らなければ殺す』
懐から鉄パイプを取り出し左手に持つ…それを肩に担ぎ、駆け出す。
蛇型は鎌首を持ち上げ俺に向かってくる…
『おら、これでも喰らえ』
2匹の蛇の少し前へ鉄パイプを叩きつける、蛇は俺を回り込み後ろの2人へ向かって通り過ぎて行く。2人は言いつけ通り目を見開き、表情を凍りつけながらもそれぞれの獲物から目をはなさないようにしている。
距離はどんどん近づいて行く、3メートル、2メートル…
『撃て』
2人の足元には新しい水溜りと小さな鉱石が落ちていた。
『わかったか、遠くで当たらないなら当たる位置で撃てばいい。集中して見てれば自然と見てる所に弾は飛んでいくもんだ』
2人はじわじわ実感が湧いた様子で足元のプルトロン鉱石を持って顔を見合わせている…
『『おやっさーん、俺達やったよ、やったよー』』
『お前ら嬉しいのはわかるが、近寄るんじゃねえ。ションベンが俺にも付くだろうが』
とても楽しそうだな、絶対交ざりたくないが…俺は鉄パイプを懐に仕舞った。