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アフロ急接近。迎撃用意…打て。
胸を押さえて倒れこむボブ…さらばボブ…
ジーザは腹を抱えて大爆笑。
武義は明らかに笑いを堪えている、後一押しで笑うな。
舞は無反応、ボブを見て無反応とは…できる。
『ボブ、隅の四人掛け空いてるか』
葉物野菜が伸びるように真っ直ぐ起き上がるボブ。あ、武義が吹いた。ジーザは過呼吸気味に引き笑いしている。
『エス様、お席の用意できましたわ』
メルさんが俺たちを案内してくれる。
『君、これで適当によろしくね』
『ジーザ、ここはキャラバンの店じゃないそんな高額は逆に困るぞ』
『そうなの、たった10000ジルだよ』
『話がややこしくなる。メルさんこれでお願い、簡単な物でいいから』
『わかりましたわエス様』
『たった400ジルでなにか飲めるの』
『これだから金銭感覚のおかしな奴は困る』
『でもさっきの子僕がお金渡そうとしても普通だったね。まあまあ綺麗だし』
『まあ、とにかくどういうつもりかそれぞれ聞かせてもらおうか。まずはジーザ』
ジーザは物珍しそうにキョロキョロしている。頭に拳骨を落とす。
『痛いなエス君。僕は君の気を引きたかったんだよ。君のお気に入りのハッカちゃんが喜べば君も喜ぶと思ったのさ。僕もハッカちゃんが気に入ったから結果的には良かったけどね』
ジーザらしい、簡潔でわかりやすい理由だな。
『武義、舞、お前達はなぜあんなことをした』
武義と舞は顔を見合わせ、武義はもじもじしている。
『武義は僕の気を引こうとしたのさ。それを勧めたのは舞だよ、ね』
『2人は普通の高ランクのカネホリではない。ここで関係が切れることは大きな損失になると考えた』
『エス様は普通の商売の方法でも交渉の場に立ってくださると思いましたが。ジーザ様は違う、あのままでは楽しみを邪魔した私と金輪際関っていただけなかったでしょう』
一時の損失よりも長期的な利益の為…破格の投資…
商売人としてはその道もありか。
うーん…残るのはハッカの気持ちか…
『エス君お待たせなの』『来てるなら呼んでくれればいいのに』『お待たせしました』
『飲み物はボブオリジナルでご用意させて頂きましたです、はい』
ジーザ、飲み物持ったままのボブを撃つな。ボブも器用におぼんに飲み物載せたまま沈むな。
机いっぱいに食べ物が並び、下からそれぞれに飲み物が出される。
『とりあえず食べよう。そして相談だ』
よく考えたら昼から食べてないからな、そうそう後で3人から100ジル回収しないと。
腹もふくれた、では話を再開しよう。
『とりあえず、3人とも100ジルだぜ』
『エス様、ここは私が』
スッと400ジルを俺に差し出す。武義の気持ちを汲むとしよう。
『メルちゃん、高い赤ワイン持ってきて』
ジーザはメルさんを呼んで注文、気楽なもんだ。
『ジーザ、俺の話を聞かないならお前との縁はここまでだな』
『ただ飲み物を頼んだだけだよ。さあ、話をしよう。すぐにしよう』
『しかし、ジーザ様のプレゼントも、鉱石の取り引きもすでに終わってしまったこと。何を話されるのでしょうか』
やはり武義はまだ視野が狭いな。
『お前達のプレゼントにハッカはただ受け取るという選択肢は無い。しかし、金額は膨大だ、どうしたらいいか困っているだろう。ハッカの気持ちをどうするか、これが話合いのテーマだ』
武義はその膨大な金額の責任を感じてか青い顔。
『ありがとうってもらってくれればいいのにね』とメルさんの持ってきたワインを飲みだすジーザ。
『俺から提案がある』
視線が集まる。
『ハッカを下層に連れて行こうと思う』
『確かに、銃の腕はなかなかのものでしたが、下層は危険ではないかと』
姉さんの言うとおりだ、銃が上手いだけではワンダーの中では生きていけない、危険なことは山ほどある。
『舞、別にデビュー戦を下層でってわけじゃない。入り口のごたごたを避けるために中層からのスタートではあるけど問題ないだろう』
『ハッカちゃんなら僕らと下層でも行けそうだけどね』
初心者を連れて下層に行っても問題ないとさらっと言う…
『鮫みたいに時間がかかる奴じゃなきゃハッカちゃんに近づかせないからね、僕達は』
『ジーザ、俺たちと一緒で戦闘で困ること無いだろう、ハッカ自身も補助戦力にはなるだろうからな。ワンダーで困るのは対人戦とトイレだろう』
なるほど、あの卒業試験はそのためか。
『ワンダーでのことを考えてあの試験だったのですね』
『まあな、銃が使えてもいざって時に撃てなきゃ意味が無い、ワンダー内ならなおさら迷ったら殺される可能性があるからな。殺さなくても無力化できればいいしな』
『それでも、さあ、俺を撃てなんて…恋する乙女に惨い試験だよね』
『愛する男を撃つ試験、エス様は人でなし』
『ハッカさん倒れかかってましたからね』
『そうだよ、僕が絶対大丈夫って言わなかったらどうなっていたか』
思うところがあるのか、頬を掻きながら言い返せないでいるエス様。そこに言葉を続けるジーザ様。
『でもエス君、基本的に僕もだけど日帰りでしか狩りしないじゃないか。トイレだって男の僕らはそう困ったこと無いでしょう』
『え、あの規格外も日帰りで手に入れたのですか』
しまった、驚きの余り割って入ってしまった…
『だって、僕やエス君は1人活動だよ。ワンダー内で寝れないだろう』
『それもそうですけど、どんなペースで狩りしているんですか』
『見つけて、ドン、拾って。はい次って感じだよね』
『武義、ジーザは基準が普通じゃないから気にするな』
『エス君だってそんなに変わらないじゃないか、人だけ変な扱いしないでよ』
『俺は精々中層くらいまでだろうが、お前とは火力が違うからな』
ジーザ様はむくれていたけど納得したのか静かになった。
『そこでだ、少しハッカを実戦で鍛えてから、俺たち5人で下層の先へ行ってみようと思うがどうだ』
下層の先…そんなものがここのワンダーにあるのか…そこへ僕が行く…
『武義はお留守番の方がいいんじゃない。どうだい』
こう見えても体力はそこそこあると思っている、しかし下層の先。安易に答えることは出来ない…
『武義なら問題は無い。基本的な訓練くらいは子どもの頃から行っている』
姉さんはお2人を見ながら話す。ここで引いてはいけない、進まねば。
『直接戦闘では戦力にならないでしょうがサポートは出来るかと』
『良かった、舞が居ないと女がハッカだけになってしまうからな。武義から引き離すわけにもいかないし。専属サポートは貴重だしな』
姉さんのおまけ感がいっぱいで泣きそうだ、姉さんそんな親指立ててやったね武義みたいなのはいらないから…
ん、ジーザ様が両手を広げてエス様にアピールしている。エス様はめんどくさそうに口を開く。
『ジーザも協力してくれるな』
『どうしようかな、僕も忙しい身だしね』
わざとらしく腕を組んでうねうね動いている。エス様は切れそうだ…
『下層を越えるなら、お前の火力は必要だ。協力してくれるな』
『エス君。必要なのは火力だけかい。なんならシャルロットを貸してあげるよ』
さすが、自分の欲しい答えの為に貪欲に全力だ、見習わなければ…
『わかった…お前の火力、射撃の腕全部が必要だ。ジーザ、俺はお前が必要だ』
『そこまで言われたら僕も全力で協力させてもらうよ』
出会ってから一番晴れやかな顔のジーザ様…心から良かったですねと言いたい。言えないけど、エス様の疲れた顔を見るとね…
『ワンダーの状況も気になるが、出発は2週間後を予定している。頼むぞ。俺はトイレにいってくる』
『いってらっしゃい、ついて行こうか』『いや、大丈夫だ』
トイレに行く後ろ姿がふらふらなのは酒のせいではないと確信しながら、頭の中で準備のことを考えていた。




