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『ジーザ様、何か失礼があったなら幾らでも謝罪させて頂きます。考え直して頂けないでしょうか』
気に入らない、その口調も、すべてを悟ったような目も、せっかくの楽しい時間を邪魔したこいつは気に入らない。
『それはそうと、その服装。珍しいな、お前名前は』
『これは自分から名乗らず大変失礼を、私は武義。後ろにいるのは姉の舞。母の指示で高ランクの鉱石を集めているのです』
姉弟か…ふーん…
『ジーザ、とりあえず鑑定してもらうか』
『そうだね、どっちにしろ時間がかかる。話はその間でもいい』
受付カウンターに鉱石を預けている間も僕は武義から目を放さない。受付嬢が慌てて奥に報告に行ったのはきっと鮫から出た鉱石のせいだろう…
『ちょっと机と椅子借りるぜ』
エス君はざわつくカウンターの受付嬢達に声をかけて4人掛けの机に腰を下ろしてあいつらと僕を手招きする。
『で、話の続きだ。ジーザ、俺は時間が無い、知ってるだろう』
『嫌だといったら嫌なんだよ』
『そんないい大人が駄々こねるなよ』
なんだい、エス君まであっちにつくなんて。武義、あのすました顔を何とかしてやりたい。
『わかったよ、エス君』
『そうか、そうか。話がついてよかったぜ』
『ジーザ様、ありがとうございます』『ただし…』
僕に視線が集まる…
『僕への支払いは現金ではなく、君の姉を一晩好きにさせてもらおうか』
『な、なにを。私に身内を売れと言うのですか。それは…』
『わかりました。私を好きにすれば鉱石を譲っていただけるのなら。喜んで』
『姉さん、何を言っているのですか。そんなことは』
『武義、私達の目的を忘れてはいけません。母上の指令を優先すべきです』
つまらない…奴のうろたえる姿は滑稽だったが、興醒めだ。
いい女だとは思うが僕の趣味じゃないね。
『もういいよ。つまらない…』
『身内を売れと言ったり、もういいと言ったり』
『どうでもいいと言っているんだよ僕は。それ以上お前と話すことはない。エス君の好きにしていいから君の教え子に会わせてよ。そっちの方が楽しそうだ』
『どっちもいい加減にしないか』
驚いたね。狩りの時にはまったく感じなかったけど、エス君怒ると怖いんだね。
ごちゃごちゃごちゃごちゃ、駄々こねるジーザもメッキの薄い武義も俺をイライラさせる。今はビジネスの話をしている時だろうが…取り引きとは楽しく、それでいてシビアなのがいいんだ、こんな子どものケンカみたいなのは取り引きじゃない。
『この取り引きは保留だ。ジーザお前は俺の好きにすればいいと言った以上文句は無いな』
『僕は一度言ったことは取り消さないよ』
『武義。金の交渉だけがビジネスか、違うだろう。頭を冷やせ。今のお前とは取り引きできない』
『…はい』
『あの…お取り込み中、申し訳ありません。鉱石の鑑定が終わりまして…本社の方からお話を伺いと…』
鉱石カウンターの受付嬢が恐る恐る声をかけてくる。本社…
とにかく、俺には時間が無い。これ以上のごたごたは真っ平ごめんだ。
『規格外があれば証明書の発行を、それ以外はすべて換金をお願いしたい。そうそう、換金分はキッチリ半分にして欲しい。分けるための袋代は必要かな』
『いえ、袋はサービスさせて頂きます。本社の者とお話はお願いできますか』
『残念だが俺には今、時間が無い。それに顔をみせない奴に話す事はないよ』
紳士的にかつハッキリと笑顔で断る。受付嬢は「失礼しました。すぐご用意します」といってダッシュで下がっていった。迅速な対応、好感が持てる。
肩で息を切らしながら大きな袋を2つ持って受付嬢が戻ってきた。
『た、たいへんお待たせしました。内訳と規格外の鉱石、その証明書、ごふんごふん』
『まあ、落ち着いて』
『エス君が言うと逆効果だと思うよ僕は』
規格外は鮫の奴だけ、それでもAランクも数個ある、かなりの金額になった。心の中の俺は3人ぐらいに分裂して踊り狂っている。表面上はいつも通りクール&クレバー…
『エス君、よだれ啜ってあげようか』
『その心配は無用だ、ジーザ』
『それは残念。早く教え子に会いに行こうよ』
俺はジーザの両肩に手を載せ椅子に座らせる…
『なんだいエス君、ここは人の目があるよ。そういうのが好みだったの』
『違うわ、気持ち悪い。お前の分も金額間違いがないか今ここで数えるんだよ。急げ、俺には時間がない』
『この金額を今から数えるのかい。エス君その手さばきはどこの金融業の人かと思うよ』
『口を動かすな、手を動かせ。遅れたら置いていくぞ』
コイン手際よく、積み上げてまとめてはメモを取り仕舞う、俺を待ってる教え子の為に。
『エス君の速さにはついていけるわけない。僕はわざわざ確認なんていつもしないからね』
『なんだと、1ジルでも違ったらどうするんだ』
『いいじゃないか、1ジルくらい』
『1ジルをバカにする奴は、1ジルに泣くぞ』
ジーザの後ろにいる受付嬢がビクッと体を震わせていたのが不思議だ。
『もういいよ。そこの2人お礼はするから数えるの手伝ってよ』
『協力しましょう武義』『は、はい…』
3人、しかも商人が入ることにより数える速さは俺を超えた。
『エス君、君の教え子はどんな子だい』
『まだ小さい女の子だ。背は俺よりちょっと低いくらいか。銃の腕は素人とは思えんほど筋がいい。自主的に基礎体力を上げるトレーニングをするような努力家だな。難点はちょっと人見知りがある程度か』
『随分と気に入ってるんじゃないか、僕としては妬けるね。そんなに嬉しそうに話されるとさ』
あと少しだからよろしくと武義と舞に金勘定を頼んで、ふらっと席を立つジーザ。
『自分の金を他人に任せてどこへ行く』
『お花摘みだよ。エス君』
両手を自分の頬にあてて、恥ずかしそうにするジーザ…ソウイウノイラナイ
両手は勘定中なので顎で「行け」とジェスチャーをする。
『よし、間違いない。ピッタリだ』
『ジーザ様の分も間違いありませんでした』
『よし。ジーザ遅いな。大きい方か』
『エス君そういうことには思っても口に出してはいけないよ』
『よし、行くぞ。俺には時間がない』
『一番時間がかかったのは金勘定じゃないかい』
『これは絶対必要なことだったから仕方がない。走りながら事情は話すから武義、舞も俺について来い』
分け前を懐に喰わせて3人を引き連れて宿へ向かう。
僕は未熟、今までは金額の提示で大体のカネホリ達から鉱石を集めることが出来た…
母上の指令は様々なランクの鉱石を手に入れること。
Aランクまでは比較的容易に手に入った、規格外は下層でも極まれにしか出ない上に、コルティック社も欲しがるため交渉は上手く行かずまだ手に入っていない…この機会を逃す訳には行かない。焦りもあった。エス様の指摘はもっとも、交渉中に自分の感情を前面に出すなど…恥ずかしい。
『姉様、申し訳ありません』
前を進むエス様を追いながら話しかける。
『武義、まだ終わってはいない。諦めてはいけない。あの二人は普通のカネホリではない。関係を途絶えさせてはいけない』
『はい、必ず』
どんな子かな。エス君がそこまで気に入る子…かわいい子だといいな。
こんなに楽しい日はいつ以来か、久々に昂ってるのが分かる、もしこの出会いが神の導きなら、久々に感謝を捧げてもいいね。
『嬢ちゃん、遅くなった。さあ、試験を始めよう』
嬢ちゃんは銃を握り締めてやる気十分だな。
おっと、急に飛び込んできた嬢ちゃんの頭を優しく撫でる。
『ただいま、心配かけたか。今日は稼ぎが多くて時間がかかっちまった』
『さあ、やるか試験』
『はい』




