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昨日は凄かった、嬉しくて、嬉しくて…

いろんな人に羨ましがられた。先生は他の皆さんに『俺の先生になってください』とか『一緒にワンダーに入ってください』とか言われて大変そうだった。


『俺の教え子は嬢ちゃんだけだ、お前らも教えたくなるような腕前になってから出なおせ』


私だけの先生、あの褒め言葉は本心だったって思って震えるほど嬉しかった。



そして、今日は卒業試験…


『明日の卒業試験に合格したらワンダーに一緒に連れてってやろう』

内容は教えてもらえなかった、でも絶対合格してみせる。ね、お母さん…




昨日の分を穴埋めしなきゃね。ほいほいほいほーい。


『随分と機嫌がいいじゃないか、エス君』

『うぇ、たった今機嫌が悪くなったぜ』


『気分転換に僕と共闘とかしてみるのはどうだい』

『嫌』


『大丈夫、君は僕と組むのに十分な腕前を持っている。自信を持ちたまえ』

『お前は俺の話を聞いていたか』


『僕は実力のある者に対しては敬意を払うようにしている。気軽にジーザと呼んでくれ』

『ジーザ、頼むから俺の話を聞け』

『わかっているよ。君が僕を嫌いで、機嫌が悪くなったと言いたいのだろう』




『わざとか…俺と殺ろうってのか。相手になるぜ…』

『このワンダーの奥は当初の推測より浅いかもしれないよ』

『なぜわかる』


ジーザは自分の髪を触りながら勿体つける…

目の前でくるっと回りワンダーの奥を指し示す。


『このワンダーの奥へ続く道は3本ある、僕を含め下層で狩り出来るのは3組』

『仲良く1本づつ使えていいじゃないか』



口元に指を当てて近づいてくる。

『いちいち仕草が気持ち悪いんだよお前』

『僕の狩場にしている道の奥に下層よりさらに強力なアルコ種が居た…そしてアルコ種の生息域が少しづつ入り口に向かっている…エス君、君ならこの現象をどう考える』



『氾濫か…』



ジーザは俺の肩に左手を乗せて顔を近づけてくる、息がかかるほどの近さで…

『僕は人が無駄に死んでいくことを望まない』

『神の教えか』

『神は何もしてくれないさ、居ても居なくても同じ無意味な存在さ。でもね、僕が動くことで僕の望む理想に近づけることは出来る。大事なことは今だと考えている。その結果として神が宿るかもね』


『様子を見ておきたい、案内頼めるか』

『もちろん』



1人よりも2人、腕の確かな者が揃えばなおさら。ジーザは気に入らないが、動きは合うようだ。

前にも見たあの大型リボルバーで遠距離から大型のアルコ種を消して行く後衛がジーザ。俺は鉱石拾いと索敵を中心に前衛、お互いの通常スタイルを組み合わせたらあらぴったりって感じだ。1つ難点は…


『どうだい、僕のシャルロット。このスタイル、威力。素敵だろう、エス君』

『こっちは動き回ってるんだ。静かに出来ないか。無駄に良く通る声で索敵しにくいだろうが』


『このシャルロットは、コルティックのオーダーメイドの一品でね。弾丸も特注品なんだよ』

『ええっ、弾丸も特注だと。どんだけ金かかるんだ。ああぁっ、考えるのも恐いわ』


下層に1人は伊達じゃないか、普通は腕の立つ奴がパーティを組んで潜るのが一般的、それにしても特注品の弾丸…漏らしそう。


『弾丸の値段、聞くかい』

『いや、やめておこう』

『それは残念』


それ以降、奴が一発撃つたびに、頭の中で計算してしまって落ち着かない。俺の金じゃない、俺の金じゃないと呪文を唱えることにした。


異様なテンポで狩りは進む、この短い時間ですでに軽く見ても一週間分くらいの稼ぎかな…昨日の貸切分なんてとっくに取り返したな。


『僕と組みたくなったかい、エス君』

『稼ぎだけ考えれば是非組みたいね。でも、俺は自分で稼ぐのが好きなんでな』


『そうかい…僕は人と組みたいと思っているけど。釣り合う人間は少なくてね…』

それにその金銭感覚と性格じゃあ、難しいだろうな。



『そろそろだよ』

『あれか…』


岩の陰から2人で頭を出して覗き込む。そして2人して頭を引っ込める。

『なあ、あれどうやって浮いているんだろうな、って近い、顔が近い』

『静かに気づかれてしまうよ』

『とにかく顔を離せ』

中性的な超美形な奴は残念そうにほんの少し顔を離した。


それにしてもなんででかい鮫が洞窟の中に浮かんでぐるぐる回っているのか…サイズもでかいが、今までこんなのは見たことが無い…


『どうする、どうしようかエス君』

なんでそんなに嬉しそうなのか、綺麗な顔してわくわくしてんじゃねーよ。


『とにかく、相手がどんなでも一緒だ。やるだけだ』

『了解』


鮫の両目の上に鉱石か…2ヶ所ってのも初めて見るな。


『今までと一緒だ、俺が突っ込む。お前は後ろから狙え』

『エス君、ジーザと呼んでくれよ。ほれ』

『わかった。ジーザ、俺の後ろから頼む』


嬉しそうにシャルロットに弾を込める姿は楽しそうだ…こいつ友達とかいないんだな…俺もか…


懐からラットショット弾を取り出しリボルバーに込めていく、俺はあくまでおとりなので散弾で気を引き様子を見る作戦だ。もちろん機会があればキツイのをお見舞いするけどな。どれほどの体力があるのか、通常の大型ならジーザのバカ高いであろう特注リボルバー全弾程度で沈むだろう。規格外の銃でそれ、相手も規格外となると…倍、でいければいい方か…


『得体が知れないから、場合によっては逃げるぞ』

『僕は外さないから、問題はどれほどの耐久性が相手にあるかだね』

『お前のばか高い銃弾12発で沈まない場合、新手がでてきた場合は逃げだ』

『エス君、ジーザと呼んでおくれよ。粘って事故死は僕もごめんだから了解した。今日は様子見だしね』


俺は側面に回り込みチラッとジーザの方を向く…さあ、始まりだ。




落ち着かない…先生はいつものように狩りに出て行った。

「今日俺が帰ったら試験をやろう」って、いつもとおんなじ様に行ったのに。



『お爺ちゃん、先生の試験ってどんな内容かな』

『おおよその見当はつくが…私はエスにすべてを任せている。もう昼過ぎだそろそろ帰ってくるだろう、そうすればわかることだ』


教えてくれてもいいのに、お爺ちゃんの意地悪…


早く戻って来ないかな…




もう、夕方…エルさんもラドさんもボブさんのお店に出勤していった…

いつもなら、この机で今日の稼ぎを数えている先生の姿は今日は無い、何かあったんじゃないか、時計の音が重苦しく頭に響く。


あの慎重な先生に限って大丈夫って思う、ううん、思おうとしている私がいる。

不安に耐えかねて銃を持って立ち上がる私にお爺ちゃんは、


『ハッカ、座って待ちなさい。お前の先生はずる賢い。そう簡単に死んでしまうと思っているのか。そうでないなら、今お前に出来ることは座って待つことだけだ』


黙って座る。もう、私は大丈夫…




もうすぐ日が沈む…もう駄目、涙がこぼれそう…



『嬢ちゃん、遅くなった。さあ、試験を始めよう』

先生は知らない人達と何事も無かったかのように帰ってきた。帰ってきた。



『ただいま、心配かけたか。今日は稼ぎが多くて時間がかかっちまった』

そういいながら腕の中の私の頭を優しく撫でてくれる。


『さあ、やるか試験』

『はい』

気を引き締めて、絶対合格するんだから。


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