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『今日は合格も合格、文句なしだ。回りくどいのは嫌いだから率直に聞く。嬢ちゃんはどれくらいまでいきたい』



『あなたに…ついて、いける…くらい』

『そうか、わかった。今日の練習はここまで』

嬢ちゃんはぺこりと頭を下げて銃を胸に抱きながら宿へ戻っていく。



『俺についてこれるくらいね…』

頭をガリガリ掻きながら俺も中に戻る。


『ボレロー、ボーレーロー』

『そんなに呼ばなくとも聞こえている。私を年寄り扱いかエス』

『俺から提案だ』




俺たちは今、サウザンドボブの前にいる。

『よし、入ろうか』

一緒にいるのはボレロと嬢ちゃん。


いつもより少し遅めの時間、店は今日も賑わっているようだ。

『エスく~ん、こっちこっち。ご依頼の通りなの』

ラドさんが戸惑うハッカを連れて4人掛けの席に連れて行く。その後ろをボレロと2人ゆっくり歩いて行く。


急接近するアフロ…ボブだ。

『エス様、今日はお約束の日では…これはボレロさんご無沙汰しております』

『繁盛しているようで何よりだなボブさん』

『エス様のおかげでございますよ、ね』


俺にウインクするな、キモチワルイ。

『今日はただの客だ、契約の物はいらない。2人に頼んだことは聞いているな』

『ありがとうございます。ではではごゆっくり』

足音を立てずにさって行くアフロ。


『君は商人にでもなった方がいいのではないか』

『ただの小遣い稼ぎのなんちゃって用心棒ってだけだよ』

『そうか、深くは聞くまい。彼は気のいい男だからよろしく頼む』

『そこはお仕事なんできっちりとしているさ』



3人でテーブルに座るとエルさんとラドさんがやってくる。嬢ちゃんは知り合いの2人の姿に少しほっとしているようだ。

『今日は嬢ちゃんのちょっとした祝いをやろうと思ってね。勘定は俺持ちだ遠慮なくやってくれ』

『君と言う人間を知っているつもりな私には後が怖いがね』

『お爺ちゃんってば。何のお祝いなんですか。自分に心当たりが無くて』


『細かいことはいいじゃないか。2人ともお願いしてた通りに頼むよ』

『『はい、はーい』』


『えっ、ええ』と戸惑う嬢ちゃんを両脇から抱えて店を出て行く3人。


『エス、君のことだから悪いことにはならないと思うが説明くらいはしてもらえるんだろうね』



『ボレロ、嬢ちゃんは俺についてこれるくらいの腕前になりたいそうだ』

やや目を見開いたがすぐにいつもの表情に戻る…




『そうか…』

『それを聞いてどう思う。依頼人の意向を尊重したくてね』




『私は、当然あの子より長くは生きられない。それは仕方がないことだ』


黙って次の言葉を待つ。


『今の世で生きていくには覚悟がいる。どんな生き方をするにしても』



『それだけ聞ければ十分だ。俺からの奢りなんてこの先死んでも無いぞ』

『奇跡の瞬間に乾杯するとしよう』

『乾杯はもう少し待ってくれ、役者が揃ってないからな』



俺は立ち上がり、店を見回す…1月もいれば大体ここに顔出すような奴は俺を知っている。

アフロのボブ、子犬の様なおっさん、ジョン保安官、駆け出しのカネホリ達…



『みんなちょっと聞いてくれ…』





私は、両脇をお2人に抱えられながらボブさんの店の近くの衣類のお店に連れて行かれた。

2人にいろいろ聞いても、『大丈夫、大丈夫』『そうなの、大丈夫』って…



『エス君に頼まれたから』って言われるとそれ以上聞けなくなっちゃう。


『ラド、そのチョイスはエス君のオーダーと違うでしょうが』

『でもでも、とってもかわいいじゃない。ハッカちゃんにぴったりなの』


2人が私の服について揉めながら話をしている…

『『ハッカちゃんはどんな感じがいいと思う』』

両サイドからの質問にとっさに出たのは、


『先生みたいな感じ…』


『ほほー、乙女なのね。純真な感じ、いいわ』

『お姉さん達には眩しいの、ハッカちゃんが眩しいの』


私は恥ずかしくて下を向いてしまう…きっと顔は真っ赤に違いない…



『ハッカちゃん着替えてみて』

エルさんに勧められるままに着替えを行う…



身体にフィットしたベージュのパンツに前立て、襟元、袖口にフリルがついた白い長袖、長めの黒いケープ…



2人に出された姿見を前に体を捻って軽く動いてみる、先生のような服の揺らめきに少し喜びを感じる…

そんな私を見て2人はハイタッチ。

『『ミッション完了』』


『さあ、店に戻るわよ』その帰り道も2人はニヤニヤするばかりで教えてくれない。



目の前にはお店の入り口、エルさんが「待ってて」というのでラドさんと待つ。



『よし、嬢ちゃん入ってきな』

先生の声に引き寄せられるように中へ…


店の中央にはケーキが1つ、それを囲むようにお客さん達が私を見ている。



お爺ちゃんと先生がケーキの向こうに見える。




『嬢ちゃん、カネホリの世界にようこそ』

どっと沸く店内、誰が何を言っているかわからないけど、きっとこれは産声…


新しい私の…





『みんな、ちょっと聞いてくれ…』


静かになる店内、集まる視線。俺は続ける。


『今日、俺の教え子が卒業する。その祝いを今からやりたい』




『今から、この店は俺の貸切にする。文句がある奴はいるか』

『エス、そんなことを急に言い出しては、店にも他の客人にも迷惑がかかるだろう』


ニヤニヤ笑う俺にボレロは真剣に怒っているようだ。急に立ち上がり俺の胸ぐらを掴んで外に放りだそうとする。

しかし、それは実現できない。

『ボブさん、ジョン2人とも放さないか』

ボレロの両腕は2人に押さえられた…



俺はゆっくりと服装を直し、続ける。

『今日の勘定は全部俺持ちだ、みんなで盛り上げてくれ。わかったか』


巻き起こる「兄貴」コール。ボレロも圧倒されているのか立ち尽くしている。

『誰の迷惑にもならないだろう』


『『『『『兄貴―』』』』』

『その呼び方はやめろって言ってるだろうが』




まったく、わざと私に説明しなかったな、悪趣味な…


『ボレロさん、すいません』

『ジョン、お前まで一緒になって趣味がいいとはいえんな』

『面目ない、私も何をするかまでは知らなくて、今日はここに顔出して欲しいって伝言もらっただけだったので』

『私も、ケーキの用意と席の予約を聞いただけで、まさかあのエス様が店貸切の奢りとは、はい。私も驚きですはい』


腑に落ちんな、それだけであんなにタイミングよく私を止めに入れるものか…


『なぜ、私を止めた』


2人は顔を見合わせてそれぞれ話しだした…

『あいつ金には細かいですけど結構面倒見がよくて、ここに出入りしてる駆け出しの連中もよくなついてるし、あいつがニヤニヤしてるときはそんなに悪いこと考えてないと思って』

『そうですね、はい。エス様と契約してから本当に困るようなことは無くなりましたし、あれだけ稼げる方が1回300ジル。普通では考えられないですし、はい。きっとなにか楽しいことをしようとしているのではと』



2人の話しを聞きながら、机の上で叫んでいる男を見る…

『私は何を焦っているんだか…』

誰にも聞こえないように1人つぶやいた。




『兄貴コールやめ。みんな聞いてくれ』

再度静かになる店内。


『俺の教え子がカネホリデビューする、お姫様が登場したら、俺の一言の後に一斉に騒ぎ立てろ、以上だ。その時までは静かに品良く飲み食いしてくれ。ボブ勘定誤魔化すなよ』


『もちろんです、はい』


『と言うわけだ。ボレロ、異論は聞かないけどな』

『私の勘違いだったようだ、すまなかったエス』

『ま、言ってなかったからイーブンってことで』


『卒業でいいのか』

『最終試験は明日やるさ。今日はただのお祝いだ』



『エス君、準備完了よ』


よし、始めるか…



『よし、嬢ちゃん入ってきな』


新しい嬢ちゃんの始まりだ…騒がしい夜はこれから。


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