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『あら、エス君じゃない。どうしたの』

『いやー今日ワンダー行ってみたもんだから情報収集も兼ねて、お2人の酒場に行こうかと』

『注文は私達からするのよ、ね』


『情報収集メインだから上客にはなれないと思うけどね』

『それでも、いいからさ。ね、ラド』

『そうよ、お・ね・が・い』


女性2人と同伴出勤、開店前だろうからいいが。駆け出しがわっさわっさいるところにこの状態で入っていたら大騒ぎだなきっと、なんてことを考えながら夕日に照らされて歩いていた。


『そういえば、酒場の名前はなんていうの』

『サウザンドボブっていうのよ、支配人はボブさんって言う気のいいおじさんなの』

『日当は安いんだけどチップは全部個人で貰ってOK。上手い具合に誘われたら、客が店にお金払えば連れ出しOK』

『自由が利くのがいいの。エス君お姉さん達連れ出してみる。かわいがってあげちゃうよ』


『連れ出す先はボレロの宿だから気まずくないか』

2人はそれもそうかって笑いあっている。


『それに、微妙な客にはついて行かないだろ。稼いでる連中はキャラバン関係が囲むだろうし』

『ま、エス君の言うとおりなんだけどね』

『余裕の無い、鼻息の荒いのくらいしか声かけてこないの』

『そういうのは、危なくて金持ってないしね。エス君ならサービスするけどな』


本気か冗談か…彼女達もカネホリ同様、稼ぐ為に身体張ってる、必死にもなるか。

『連れ出しは無理だけど、チップははずむからさ』

『『ありがとうエス君』』


声の揃った感じから、いい勉強させてもらったと両手をあげて冗談っぽく笑い返した。



『開店まで1時間くらいあるから、後でね』

『さっきの話はわすれないの』

元気な2人が店に入るのを見送って、俺はあと1時間どうしたもんかと酒場の前の広場を眺めていた…あれは…



『今日の夜の見回りはナヒタと俺だな。本日は解散。ナヒタはいつも通り夜9時ここに来いいいな』

『了解です、保安官』

『やっと、呼び方も慣れてきたな。じゃあ後でな』

『はい、ジョンさんお願いします』


頭を抱える保安官に声をかける。

『大変だな、ジョンさん』

『ん、誰かと思えばエスじゃないか。どうした、暇そうだな』


『そうなんだよ、1時間くらい暇でね。ちょうどいいや、話し相手にでもなってくれよ。さあ、詰め所でコーヒーでもご馳走になるからさ。案内してくれ』

『そうかそうか、ってどこまで態度がでかいんだ。しょうがねえな、ついてきな』

『ジョン保安官大好き』

『お前みたいな小僧に言われてもうれしくないわ』


笑いながら詰め所に向けて歩いて行く。

『だいぶ賑やかだな、どうすんだこれ』

隣の留置所には頭の悪そうなのが所狭しと詰め込まれている…あそこではタダでも泊まれないな…


『俺も困ってるんだよな。まあ、写真と名前控えて罰金とって、次ぎやったら大きな町に送ろうかと考えてる』

『そんなのでいいのか、ワンダーにでも連れってて殺しちまえばいいじゃないか』

『食い逃げや、窃盗、強盗未遂でこの世からさよならか。夢ばっかり見ないでこつこつ働く、自分を見直す機会を与えてやっても良くないか』


平和な田舎の保安官の考え方だな…


『ワンダー内でどれだけ殺しがあると思う保安官様。俺は半日潜っただけだけど、少なくとも1人は殺されてる。屑はせっかくの保安官様の気持ちも知らないで自棄を起こしてワンダーに入るさ』


『人の良心を信じるのも大事だと思うがな。コーヒーには砂糖いるか』

『たっぷり頂戴。まあ、人の考え方に口を挟む俺の方が悪いか。もう一杯入れて』


保安官は「やっぱり子どもじゃねーか」と言いながら砂糖をもう一杯いれて、自分用のブラックを持って俺の向かいに座る。


『そういや、嬢ちゃん襲おうとした馬鹿はどうなった』

『ああ、あいつか、俺がガツンと説教したら泣きながら謝ってきてな。人に迷惑かけないように頑張りますって言うから放してやったぞ』

『あんたも馬鹿だな…』


『げ、お前は』

うわさをすればなんとやら、昨日の馬鹿じゃないか。

『ちょうどお前の話をしてたところだ、ボロボロだなコーヒーでも飲むか』

『へい、保安官さんありがとうございます』


俺からもっとも遠いところにちょこんと座って、こっちをチラチラ見てくる…

『ガオー』大きく口を開けて威嚇する…

ヒィッと小さな悲鳴を上げてさらに縮こまる。

『おいおい、あんまり虐めるんじゃないぞ。それよりもどうした』

『俺、ワンダーで頑張って今日は500ジルも稼げたんです。保安官さんに言われて一生懸命やったら俺にも出来たんです。それで一杯奢らせてもらおうかと思って』


ドヤ顔で俺の方を向く保安官…イライラする…


『気持ちは嬉しいが今日は夜の巡回があるんだ、お前はお前の為に頑張った金を使えよ』

『へい、ありがとうございます。俺頑張ります』


そう言うと俺の方は向かずに保安官にペコペコ頭を下げて出て行った。

『なんだよ、あの馬鹿…いや、馬鹿じゃないか…』

『そうだな、ボロボロでもがんばってる奴は馬鹿じゃないだろう』

『俺には関係ないがな。あんな奴ばっかじゃないぜ保安官』

『俺もそれがわかんないほど若くねえよ』


『コーヒーありがとな』

『暇ならまた来い。俺も暇なら話し相手くらいするからな』


街灯がつき始める中を酒場に向けて歩く、目の前にはピカピカ光る看板と賑やかな声、ゆっくりしすぎたか…


酒場はすでに大賑わいのようだ。入り口を押して入る。

『おいおい、ちいさな僕ちゃんの行くところはママのベッドだぜ』

『ちげーね』

入り口に近い3人組が俺の方に向きながら指差して馬鹿にしている。

それを無視して40人くらい入れそうな広さの店内をキョロキョロ見渡す。

『僕ちゃん、ママはいませんよ。ぶあぁはははは』

耳障りだ…


『あ、エス君。遅かったね、来ないかと思ったよ』

『本当よ、心配したの』

短いスカートフリフリの半袖シャツ、機能性をまったく無視した衣装で俺のところに駆け寄ってくれるエルさんとラドさん。


『ごめんごめん、ちょっと知り合いと話し込んでしまってね。端のほうの席ある』

『カウンターの端が空いてるから確保してくるね』

『じゃあ、私はお絞りで顔拭いてあげるの』


『ちょっと、僕ちゃん調子にのってんじゃねか』

『お姉ちゃん、俺たちの顔も拭いてくれよ、な』

ラドさんの手を無理矢理引っ張って自分たちのテーブルに連れて行こうとする。

『お客様、店の子に乱暴はちょっと…』


小太りアフロのおっさんが3人組に声をかける…が、睨まれて固まった…

『エス君助けて』


俺は懐に手を入れて一掴みの金貨を取り出す…

『お兄さん達、その子から手を離してくれないか』

『ガキの癖になんて金額もってやがる』

『いいから放せっていってるだろう、この金を賭けて遊んでやるからさ』

『あんだけあればこんな女いらねぇ』


小さな悲鳴と共にラドさんが突き飛ばされる。

固まった小太りアフロが「店内での揉め事はちょっと…」と小声で言ってくる。


『表で遊ぼうか。ルールは簡単だ。お前ら3人対俺1人。取れるもんなら取ってみな』

掴んだ金貨を見せたまま外に飛び出す。


店の窓や入り口からは野次馬が酒を片手に大盛り上がりで囃し立てる。入り口ではエルさんとラドさんが心配そうにこちらを見ている。ギャラリーも多い、派手に行くか…



『素直にその金渡せば痛い目見ないで済むぜ』

『ガキが格好付けやがって、お兄さん達怒っちゃうよ』


金貨を握った右腕を高く上げ、左手で指を鳴らす。

「おおー」と沸くギャラリーからの歓声。一握りあった金貨は一瞬で一枚になった。


『俺たちの金をどこに隠しやがった』

3人組は喚いている。そもそも、俺の金だ。


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