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『マスター、一番安い食事を頼む。水は有料かい』

『いや、お金は要らないよ。料金は2ジルだよ』


俺は大き目のマントの内側に手をいれる。小さな機械音。

『マスター、どういうつもりだい…』


俺の眼前に当てられたであろう銃口に2枚のコインで蓋をする。

マスターは中途半端に構えた銃を下ろしながら申し訳なさそうに声をかけてきた。


『すまない、近頃物騒なことも多いからな。少しサービスしておくよ』

『いや、疑われるような動きをした俺の方が悪いから気にしないでくれ。サービスはありがたく受けるけどね』


苦笑いをしながら具の少ないスープとパンを2個、差し出してくれた。パン1個はおまけだといいながらコップに水を注いでくれる。


『あんた随分と若く見えるけどカネホリかい』

『まあね』



カネホリ…今この荒野にわざわざ集まってくる人間は大体一攫千金を夢見る者達。そんな奴らをいつの頃からかカネホリと呼ぶようになった。まあ、俺もその1人なんだが…



『見た目と違って結構年なんだけどね。それはそうとマスターどっかで湧いてる情報ないかな』

『ここから東に30キロくらいのところにチックスターっていう町があるんだがその辺りにコルティック社のキャラバンが向かっているって話だぜ』


コルティックのキャラバンか…こりゃ当りかな…


『それにしても荒野も数年でだいぶ騒がしくなっちまったよ。俺が子どもの頃は荒野もまだ緑があっていい所だったんだがな』

マスターは雑誌を見ながらしみじみ話している。


『騒がしくして悪かったな』

『おっと、別に俺はカネホリを嫌っているわけじゃないから気分を悪くしたなら謝るよ』

『カネホリも良し悪しだろうに』


『まあな、それでも客が来て故郷を離れなくてすむのはカネホリのおかげ、プルトロン鉱石のおかげ、コルティック様様だな』


少し自嘲気味に話すマスターは雑誌を俺に差し出し渡してきた。


その表紙には大きめの眼鏡をかけた美女が微笑んでいる。

『この女誰だい』

『コルティック社の若き天才、設計開発部門の主任様だよ。あんたカネホリなのに知らないのか。暑苦しいマントといい変わった兄ちゃんだな』

『マントのことはもういいだろう、結構しつこい性格しているんだなマスター』


食事を食べ終り、コップの水を飲み干す…

マスターは自分用のコップに水を注ぎ、ついでに俺にも飲むかいと水を注ぐジェスチャーをしてみせる。俺も大げさに頭を下げる。


2杯目の水に口をつけて雑誌をパラパラめくる。内容はソニミオ開発秘話らしい…


『マスター日が傾くまで酒場の隅借りてもいいかい、ちょっと横になりたくてね』


マスターは大げさに両手を広げてにやりと笑い、

『まあ、見てのとおりの有様だからな。ゆっくりするといい』

と言いながらおどけた様子で肩をすくめてみせた。


俺はコップを片手にマントの端を掴みうやうやしく頭を下げる。



さて今回も稼げるといいんだが…

20席ほどの酒場の片隅で椅子にもたれながらうとうとする、ラジオから流れる音が心地いい…




どれくらい時間が経ったのだろう、俺の休息は突然終りを告げる。

客が来たようだ…



『いらっしゃい』

『手を上げろ、動くんじゃねー』

『そこのお前、こっちに来い。へんな真似しないほうがいいぞ。命が欲しかったらな』


うるさい…


顔を上げると男が2人、銃を構えて立っている。マスターはカウンターの中で両手をあげている。

『マスター、まさか本当にお手上げになるとな』

『何だこいつ、勝手に喋るんじゃねえ。命が欲しくないのか』


マスターは両手をあげたまま、『あんた、言うこときいた方がいい』とか言ってる。


俺に銃口を向けている男の方にゆっくり歩いて近づいて行く…

『おい、止まれ、動くんじゃねえ』

『来いって言ったり、止まれって言ったり俺はどうすりゃいいんだ。馬鹿なのかお前ら』


『金を出せ、お前は両手をあげて止まってろ』

マスターはカウンターに少しの金を置いた。

『もっと無いのか、隠すと殺すぞ』


そんなへっぴり腰で何が殺せるんだろうな。


『マスター、俺を用心棒で雇わないか』

『てめー、ふざけるのもいい加減にしろ。お前から殺してやってもいいんだぞ』

『時は金なりだぜ。殺したいならすぐにやれよ。それと銃のロックぐらい外しとけ』


俺に銃を向けている奴は慌てて自分の手元を確認する。

『自分の使う道具ぐらいしっかり管理しとけよ』


俺は左手に握った銃を零距離で奴の眉間に当ててやる。銃を落とした奴は股間をたっぷり潤わせてあわあわ言ってやがる。


マスターに銃を突きつけてる奴も相当動揺しているようだ…

『いつの間に銃なんて、こいつが死んでもいいのか』



めんどくせーな…


『じゃあ、お前が俺を雇ってくれるのか。俺はどっちでもいいぜ金になるならな』

『兄ちゃん、そりゃねーぜ。パンサービスしただろう』

『マスターあれは謝罪分だろう、話が違うぜ』

『よし、わかった俺が雇う。だから相棒から銃を離してくれ』


床に落ちてるお漏らしの奴の銃を拾い上げ、自分のマントの中に放り込む。

『前金代わりに貰っとく』

お漏らしは腰を抜かして床に座り込む、俺は自分の銃をマスターに向けカウンターに近づく。


『いくらで雇ってくれるんだよ俺の希望は1000だな』

2人分の銃口を向けられたマスターは言葉も出ない様子で目をつぶってしまっている。


『高いな…』

銃口を横にゆっくりずらそうとすると、

『わかった、わかった1000ジル払う。これで文句無いだろう』


俺は奴に微笑みかけながら自分の銃を懐に仕舞う

『くそ、なんて日だ。もっと金を出せ』



『馬鹿やろう。ふざけてんじゃねー』

マスターに銃を向けていた奴は仰向けに床に倒れこんだ…

『なにが1000ジルだ。桁が違うんだよ桁が。1000万ジルだろうが』

俺の左手には鉄パイプ…



『マスター、助かってよかったな。心配したぜ』

『なんだろうな、なんか腑に落ちないが…助かったのか』

『俺のおかげで助かった。それでいいじゃねーか』


俺は男2人を身ぐるみ剥ぎ取りながらマスターと話をする。


『ちんけな強盗だけあってしょぼいな、しけてるぜ』

『どっちが強盗かわからんな。殺されかけたが少し同情するぜ』

『何言ってんだよ。命を狙われた迷惑料にもならない。悪いけど分け前は無しだぜ。お漏らしのズボンならあげるけどな』

『まあ、命があっただけでも儲け物だ。俺もお漏らしズボンは要らない』


うるさいので猿ぐつわをして体も縛り酒場の隅に転がしておく。


2人から迷惑料として譲り受けた銃をカウンターに並べ状態を確かめる…

『マスター、水頂戴』

コップに水を入れようとするマスターに待ったをかける。

『兄ちゃん水いらないのか』

『水だけになったらお金かかるとかないよな』


マスター呆れたように笑い『心配しなくても命の恩人から金なんか取らないから飲みな』と言ってカウンターを水の入ったコップが滑ってくる。

『ありがと、マスター』


水を一口飲み、銃から弾を抜き取り懐に仕舞う。本体を弾の代わりに取り出したぼろ布で綺麗に磨く。


『兄ちゃん、ソニミオ持ちか。結構稼いでいるんだな』

『まあ、そんなところだね。安い銃だけど幾らかにはなるか』

『弾はどうするんだ』

『弾は型が合えば使えるだろう、売る時だって弾が入ってても値段が上がるわけじゃないからな。分けておいた方が金になるって』


『若いのに細かいな兄ちゃん。あんたぐらいの歳ならパーッと使いたいとか思わないのか』



『だから、そんなに若くねーって。特に欲しい物も無いしな、何かが貯まるのは面白いぜ』

『本当に変わった兄ちゃんだな』


マスターは笑い、俺は金になりそうな物とならない物の仕分けに夢中になっていた。


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