自衛隊降臨 -1-
西部方面隊(WA)総監の島谷祐希陸将は総監席から体を起こした。朦朧とした頭で状況を整理しようとする。
(そうだ。ミサイルだ。爆発して…どうなったんだ?あれだけの爆発なら死んでもおかしくないが…天国か?)
窓の外を覗いてみると数名の隊員が気を失って倒れている。
(違うな。手もあれば足もある。私は生きている…)
彼は発令所に向かった。とにかく状況が知りたかった。
重い発令所の扉を開けるとオペレーターたちが蜂の巣をつついたように動き回っている。それを掻き分け、幕僚長の中村がこちらにやってくる。
「総監!」
「現状を報告してくれ。ミサイルは?」
「はい。ミサイルは着弾しませんでした。どこかの部隊が直前で撃ち落としたようです。今問い合わせています。」
「放射能は?」
「それが…検知できてないんです。線量は通常値を示しています。」
「できてない?核弾頭のはずだ。」
普通、核弾頭が炸裂すれば猛烈な爆風が起きるはずである。それすらも感じられなかった。
混乱を解くために来たというのにさらに混乱している。
「じゃあ、被害はないんだな?」
「現在調査中ですが、おそらく皆無に等しいと。」
(海自はどうなってるんだ?)
「佐世保地方総監部につなげ」
通信をつなぐと佐世保地方隊(SD)総監の村上淳二海将補が出た。
「村上さん、そっちは大丈夫か?」
「島さん、訳が分からんよ。放射能は出てこないし被害もほとんどゼロ。いま、哨戒ヘリを飛ばしたところだよ。場合によっては災害派遣の可能性もある。」
「そうか。情報が入ったら連絡してくれ」
続いて空自の西部航空方面隊(WADF)がある春日駐屯地につないだ。
「もしもし」
「島谷陸将補」
明らかに疲労した声で答えたのはWADFの司令、福江博昭空将だ。
「大丈夫か?」
「取り込み中なんだ。偵察機が帰ってきたらそっちに向かうよ。対策本部だね?」
「あ、ああ…」
一方的に切られてしまった。
少しずつ落ち着いてきた島谷は各基地からの偵察報告を見た。
事実1 今は西暦201X年ではないと思われる
事実2 現在は西暦1944年11月20日であると思われる
事実3 一部自衛隊基地のみが移動したと思われる
「…これは何かね?」
「偵察報告です。」
「SF小説じゃないか。草薙圭一郎とかの」
「総監、お気持ちは分かりますがこれが現状です。」
「偵察に出したのは陸上部隊だけか?」
「いえ、航空隊も出しています。これが呉の空撮です。この機は対空砲火を受けました。機もパイロットも無事帰還しています。」
「私だけでは判断できん。海空の司令を集めてくれ。」