終わることには理由がある
この世の終わりって、どんな感じなのだろう。そんなくだらないことをあたしはぼやっと考える。あたしがみている、この青い空が真っ黒に染まるのだろうか、それとも今あたしが座っている椅子だとか、今あたしがいる学校だとか、そういうあたしたちにとって当たり前に存在するものが全てなくなってしまうのだろうか。
人間はどうなってしまうのだろう、あたしは自分の小麦色になった腕をみつめる。想像力が欠如しているからか、あまり思い描くことができない。
偉い人たちが語る終末論を聞いてもあまりピンとこない、だってそんなの嘘っぱちだってわかるから。これまで散々終わるっていっておきながら、今の今まで終わることはなかったんだもの。
「これ、回ってきたよ」
真横から投げられたのはちいさくちいさく折られた紙。あたしは小声で、どうもっていって教師の様子を伺いながらその紙をみる。授業中に手紙を回していることがバレたらいろいろ面倒だから。
あたしは元々、友達なんて多くないし何でこんなのまわってくるんだろう、いやだなあとか声に出さないで心の中でぶつぶつつぶやいていた。
『あんた、私の彼に手だした? みか』
みかとはあたしの親友のことだ。親友といっても、一緒にカラオケに行くくらいの仲だから、親友とは少し違うのかもしれない。みかはとても綺麗な見た目をしていて、友達もたくさんいた。あたしとは真逆の人だ。みかは、窓側に座っているあたしの平行線上にいる。みかのほうを向くと、真っ赤な顔をしたみかがうつむいていた。目が悪いあたしは泣いているのか怒っているのかもわからない。
授業はあと三十分くらい残っていて、教師はプリントを配ろうとしている。たぶん、ここで紙を回したら教師にばれてしまうだろう。授業が終わった後で、きちんとみかと話をしようと思った。
「手紙読んだ?」
あたしが行く前にみかはあたしの席にきた。
「うん、読んだよ」
教科書を机の中にしまって、立ち上がる。みかはずっと腕組みをしていた、いつもはしないのになんでだろう。
「で、どうなの?」みかの顔は真剣そのものだ。
「あたしこんなだし、みかの彼をなんてありえないよ」
そう、とみかは冷たくあたしにいってから、立ち去った。廊下のほうから絶交という単語が聞こえてきて、みかが話しているのか? と少しだけ焦った。でも、みかはそんなことをいわないってわかっているから、あたしの親友だから。それでも気になったあたしは、みかがいるであろう廊下向かって走った。何か誤解されたのだろうか、と不安になっていた。手に汗がにじんで、歯をすこしだけ噛みしめた。
廊下でみかの姿を探していたら、すぐにみつかった。みか、と口から出るはずの言葉は空気になる。
「だって、あの子根暗で気持ち悪いじゃん」
大きな声で話していたのはみかだった。みかとあたしは目が合って、みかはまるで汚物をみるかのような目をしてあたしをみた。何故か、体も動かないし声も出なかった。なんでだろう、なんでだろう?
「私、あんな子と友達やってあげてたの。優しいでしょ?」
壁によりかかってけらけらと笑うみかは、あたしの知ってるみかじゃなかった。
あたしは黙っていつも通りの教室に戻った。窓から見える青い空は、さっきみたそれとはだいぶ違って灰色に濁っていた。あたしの知っている現実がぼろぼろと崩れて、一人ぼっちになってしまったのだ。
ああ、たぶんこれがこの世の終わりなんだな、と少しわかった気がした。
思いつきで書いたものです。