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魔女とお嬢さん

海辺の娘の旅立ち

作者: あきら

群青色の海の側にある小さな町。

町というより村というサイズかもしれない。

そこでわたしは生まれ育った。


底抜けに明るい家族だったが、残念ながらお金はなかった。

妹、弟は小さいし、姉は結婚してる。

だから、自分が外に出稼ぎに行こうとしたのだ。


家柄も学もない小娘が出来る仕事なんてたかが知れてる。

望む額の給料が得れる仕事ない。

ハズだったのだ。


「炊事洗濯掃除にその他、家事関係の仕事で良い額の仕事なぁ。あることにゃあるけど」

「え、本当ですか?」


仕事を紹介してくれる仲介人のおじさんは手に持った紙の束を漁る。

その手を期待と不安の入り混じった気持ちで追った。


「ここからだとちょっと遠いんだけどな」

「というと、どれくらいですか?」

「馬車でぇ……十日か…いや、半月くらいかもしれん」

「半月……隣の国へ行っちゃいそう……」

「いや、そこは大丈夫だ。ここからだと都の辺りで十日するかしないかくらいだろ。そんでもって勤務地はその都の近所」

「ここってずいぶん端っこだったんですね」


海に面した街だから、国の端であることは間違い無い。

しかし、具体的な数字で出されると改めて驚く。


「まぁなぁ……でもいい町よ。治安が悪いわけでもなし、領主もまともだし」

「貧乏ですけどね」

「ははは、違いねぇ。町からして貧乏だもんなぁ。町が貧乏なら領主も貧乏。そりゃ住んでる奴らも貧乏だろうよ」


じゃあ生粋のこの町人の自分は貧乏だなぁと、つらつら思った。

それに対して目の前の人は口も動かすが手も動かす。

書類にさっと目を通し隣へ置いたかと思うと、もう次の紙を見ていた。


「あれーおっかしいな、確かにあったんだけど。都の先のなーんにもない山ん中で家事して欲しいっつう奇特な依頼。あ、これか? これだな」

「ありましたか?」


「何にも」という所に力がこもってたのが少々気になった。


「おう、あったよ。見てみろ、嬢ちゃん」


「はい」と軽く返事して差し出された紙を覗きこむ。

働く場所、金額、仕事内容。

そこには先程から仲介人が話していた内容が書かれている。

大量の依頼書の内容を1枚1枚覚えてる仲介人に素直に感動した。


大方を読み終え、先ほどのことは杞憂だったのかなと思いだした時だ。

最後の依頼人の名前と簡単な説明が書いてある部分で目が止まった。

少し、いやかなり見慣れない単語があった。


「まじょ……?」


依頼人の身分の欄だ。 そこにはとうに絶滅したと言われている「魔女」の文字があった。


自分の読み間違い、あるいは新しい流行りの職業なのかもしれない。

この仕事場は都の近くという話だ。

田舎育ちの自分では全く想像持つかないおしゃれな仕事もあるだろう。


助けを求めるべく、仲介人の顔を見た。


頷かれた。


「えーと」

「この仕事の美味しい理由だよ。依頼人の仕事が魔女っていう話なんだ。おかしいだろ? 魔女なんておとぎ話でしか聞いたことがねぇ」

「ですよねぇ。私も、ありません」

「ホラ話だとしたらその給料も怪しいってもんだよな。払わないならいくらでも吹かせる」


確かにそのとおりだ。


「逆にホントだとしても、魔女の実験動物にされるかもしれねぇし。何にせよ、よくわからない依頼書だよ。ワシとしては信用第一じゃし、出しといてなんだけど、そんな怪しい依頼書薦めたくねえんだけどよ」


「でも貧乏なんです」と心のなかで返答した。

声に出すのはなにかほんのり情けない気がしたのだ。

しかし、それすらもわかってるといった具合におじさんは頷いている。

よく分からないが、何度も心の中を読まれている気がする。

これが仕事人というものか。


(もしかしてこの人こそ魔女なんじゃ……あ、でも男の人だから魔男さんなのかな?)


「まぁなぁ。カネになるからって炭鉱とか石切り場っつーのはお嬢ちゃんには勧められんしな。ありゃ男の世界だ。他のところの手伝いじゃ金にならねーし、金になるいい屋敷は……」

「採用されませんよね、はぁ」


世知辛い世の中だ。


しかし、こう言ってはなんだが魔女の所というのはちょっとだけ惹かれた。


もちろん怖い。

未知の世界へ行く恐怖、物語の中で見る恐ろしい魔女。

だけど時には、ひょうきんで世話好きな彼女たち。

この依頼書の主人はどんな魔女なのだろうか。


「おじさんが、この依頼書手に持ってるって言うことは、それなりに信用あるところから流してもらったものなんですよね」

「まぁ、貰ったはいいけど怪しすぎて手に余ってる感じとも言うがな」

「ううーん、でも大丈夫な気がします。勝手な思い込みですけど」


ちょっと考えなしっぽい発言だったかな?と思いつつ相手を伺った。

伺ったところで行くのは自分だから意味が無いことに気づいた。

「他人の目ばっかり気にするのはやめた方がいいわよ」と姉に言われたのを思い出した。

自分のことなんだから自分で決めよう。


「お嬢ちゃんがいいなら、まぁいいんだよ。おれはあんたを仲介すれば金が入るし。説明だってきっちりしたしな」

「はい、ここにします! ここ紹介して下さい」


かくして私は魔女の所へと向かうことになったのでした。

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