オーバーヒート
彼と目が合う、その度に私の顔は真っ赤になる。
気づいた時には、もう手遅れだった。
私は、彼に恋をしていた。
「はぁ?」
そのことを友達に言ったら、語気を荒げて反対される。
「何言ってるのよ。あいて誰か知ってる?」
「斉東財閥御曹司でしょ。それぐらいは知ってるわよ」
斉東財閥は、国内5位の規模を誇っている財閥だ。
なぜか走らないけど、そんな人が公立高校に通っているわけだ。
「ほら、あそこ見て」
友達に言われて指された先には、涼香財閥の令嬢が、恋人と一緒に楽しそうにしている光景があった。
「あんな感じになりたいの?」
私は当然といった風に、こくんとうなづく。
「でも、斉東財閥とかだから、許嫁とかがいるかも…」
「いるかもねぇ」
友達がにやにやしながら私に言う。
「なんか知ってそうな顔ね」
「そりゃ、学校一情報通なあたしが知らないことなんかあると思う?」
「ないでしょうね」
私は友達に聞いた。
「つまり、あたしはね、彼が許嫁がいないっていうことも知ってるって訳よ」
「じゃあ、今告白すれば……」
狙ってる相手は多いからねと、友達は注意してくれた。
善は急げという。
だから私は、その日の放課後には、彼と待ち合わせして、告白をした。
「ストレートに言わせてもらいますけど、あなたのことが好きです」
「そう」
さらっと言われる。
「君も、僕のお金が目当てなのかい」
「心外ね。そんなわけないじゃない」
「そう言った人を、僕は何人も見てきた。結局、世界は金だってね」
私はカッときて、彼にビンタをかます。
「うっさいわよ!あんた黙って聞いてりゃ好き勝手言って!」
ぽかんとしている彼を置いて、私は思いつく限りのストレスを、彼にぶつけた。
終いには、私は怒りながら、彼を放置して出て行った。
家に帰って、まくらに顔をうずめて後悔したって、もう遅い。
明日、彼に会った時、私をどう感じるか、それはきっと、暴力女だという視線だろう。
気が重いまま、私は学校へ向かった。
学校へつくと、すでに彼は来て、取り巻き連中と一緒にいた。
「ねね、昨日はどうだった?」
友達がすかさず私の姿を見つけて、声をかける。
それに気づいた彼が私へ振り返った。
取り巻きにちょっと待っててと言って、私のところへ来た。
そして、何のためらいもなく、キスした。
もう一度殴り飛ばし、なぜかすっとする。
取り巻きがどよっと騒ぎそうになっていたが、彼はすぐに立ち上がって、私に言った。
「大好きだ、君がね」
やっぱり顔を赤くなっているだろう私は、友達のニヤニヤ顏も見ずに、彼と抱き合った。