第5話 それぞれの思い
こんにちは!
澪ですっ!!
今日は学園に来て二日目なんですよっ。
いやーーっ、昨日はあれから大変でしたーー。
優ちゃんも知ってたみたいなんですけど、漆黒の翼が学園に襲撃して来たって大騒ぎ。
もちろん、わたしが襲われた時の話しだよ。
でもね、殆どの人は実際に見てはいなかったみたい。
だけど……わたしが撃退して追い返したって噂が広まっちゃって……。
「次、あの子の番みたいよ……ひそひそ……」
「え? あの子って?」
「例の子よ……白河さんと、漆黒の翼を撃退したっていう……ひそひそ……」
うぅ……見られてる、見られてるよぅ……。
今はですね、『能力測定』とかいうやつで、全校生徒が校庭に集まっています…。
なんでも、能力によってクラス分けするんだとか。
そして今は優ちゃんの番で、次はわたし……。
「ぐぬぬぬ……お、重い――てやーーっ!!」
優ちゃんが必死に手をかざしてる。
目の前には巨大な岩の塊があって、それを宙に何秒持ち上げるかでランク付けされるんだって。
ほんとに持ち上がるのかなー。
だってね、自動車くらいの大きさがあるんだよ、あの岩…。
制限時間は1分間。
30秒経過した時点で、優ちゃんは既に汗びっしょりだった。
「ちきしょーーっ! 重すぎっ! こうなったら、最後の力ーーっ!!」
顔を真っ赤にした優ちゃんが叫ぶと、巨大岩がグラグラし始める。
周りからは、オ~~~と感嘆の声が上がり、一身に注目を集める。
そして――――
「こんちきしょーーーっ!!」
「凄い凄いっ! 浮いてる、浮いてるよ優ちゃん!!」
岩が50センチぐらい浮き上がっている。
優ちゃんプルプル震えて、額の血管も浮き上がってるし……大丈夫かな!?
「タイムアップ! 終了でーーす。お疲れ様でした」
係りを担当する上級生が、終了の合図。
横に据え付けられているモニターには、『ランクA』の表示が出ている…。
「へっへ~~ん、どお? 私って凄い?」
「いやーー、凄いな優菜……やるなーー」
得意顔でこっちに向いた優ちゃんに、美香が感心顔で応える。
「優ちゃん、体操服びっしょりだよ」
「え? あははは……いや~~マジ重いって。澪も頑張んなよ」
ポンとわたしの肩を叩いて、次の能力測定へと向かう優ちゃん。
はにゃ~~次はわたしの番か……絶対無理だよ、あんなおっきいの……。
「次の方、前へお願いします」
「わわ…は、はい……」
「頑張れよ、澪!」
美香の声援に送られて前へと出る。
そして巨大な岩と対峙して、ふと思う…。
中学生になって、わたし何やってんだろ…。
てっきり、普通に勉強して部活して…楽しい学園生活が始まるかと思ってたのに。
んん~~でも、なんだか能力中心の生活に変わって、これはこれで楽しいかも……。
「おい、澪! 始まってるぞ――」
「わ! ご、ごめんなさい!」
いつの間にか始まってた……。
慌てて精神を集中させる。
お願い、持ち上がって――――。
全神経をその岩に傾けたその瞬間、突然高笑いが聞こえてきた。
「おーほっほほほ…漆黒の翼を撃退したのって、貴方なんですの?」
すぐ側で、わたしを舐めるように観察する人がいる…。
横目でチラッと一瞥すると、スタイルの良い女の子が立っていた。
いえ、良いというか……爆乳でした。
ここに居るってことは、同じ中一。
なのに……物凄い大きな胸。
白河さんより大きいかも…。
「さぁ、早く私に見せて下さいな、貴方の力を。さぞかし凄い力なのでしょう?」
な、なんなのこの人……。
腕を組んで、見下すようにわたしを見てるんですけど……。
これじゃ集中出来ないよ~~。
「はい、タイムアップです。終了して下さーい」
ええ!? 終わっちゃったよぉ……。
モニターに映し出される『ランクC』の文字…。
とほほ……全然集中出来なかったよぉ。
「あらあら~~どんな凄い子なのかと思ったら、只のへっぽこじゃありませんか!?」
爆乳の子がわたしを嘲笑ってる。
もう! 貴方のせいで集中出来なかったじゃない!!
キッ――――と睨みつけてやる。
「まぁ恐い……嫌ですわ、貧乳の小娘が逆恨みでしょうか――?」
「ムムムム~~! 貧乳じゃないもんっ! Bカップだもんっ!!」
「Bカップだもん! ですって…可愛いですわねーー、うふふふ……」
つい言い返しちゃったら、思いっきり笑われちゃったよ……しょぼん。
そんなわたしを制して、美香が割り込んできた。
「チャチャを入れるのは止めてもらえないか? 確かに…澪が漆黒の翼を撃退したという噂は私も耳にしたが、本人は覚えていないんだ」
さすが美香!
あいかわらず、男らしいキリッとした口調でその子を突き放す。
「成程ですわ……こんなしょっぱい子が、可笑しいと思ったのです。きっとその噂も何かの間違いなのですね。恐らく撃退したのは白河さん―――という事ですわ」
折角ですから見てなさい―――と、わたしの次に割り込んでくる。
この能力測定を始めるつもりだ。
なによ、みんなちゃんと並んでるのにーっ。
「ちょ――ちょっと! 次は美香の番なんだから!!」
口を尖がらせて文句を言ってやった。
でも、そんなわたしを再び制した美香は、
「好きにさせるといい――」
と言ってその場を見守っている。
んん~~美香がそう言うなら……。
しょうがないから、わたしも横で大人しくする。
そして――岩の前に立ち、深呼吸をするウシチチ女。
あそこまで大きいと、可愛くないもん!
あんなの、ウシチチだよ。
ふんっ!
しかし―――よく見ると、顔は超美形だった。
長くて黄色い、サラサラの髪の毛。
目鼻は整っていて、パッと見――外人さんみたいだった。
なんだか悔しい……わたしは心の中で強く思った。
「失敗しろ~~失敗しろ~~」
「まぁ、下賎な人ですねー。でも、私はそんな揺さぶりには動じませんわ」
てへっ、声に出ちゃった♪
―――なんちゃって~~。
ほんとに失敗しろ~~。
ジト目で睨んでると―――
「はいっ!!」
掛け声と共に、軽々と持ち上がる巨大な岩―――。
ええ!? うそぉ―――!?
モニターに表示される『ランクS』の文字…。
「おほほほほーーっ、つい本気だしちゃったわ~~」
ありえない程、胸を強調して高笑いのウシチチ女。
感じ悪いったらない。
別にいいもん、能力高くっても戦わされるだけだもん。
―――と、自分で言って冷や汗が出てくる。
「正直、手を抜いた方がいいのかなぁ……」
そんな気持ちでいっぱいになる。
するとわたしの呟きに、美香が呼応した。
「気付いたか? 実はな、私もそれを考えて本気でやるか悩んでいる」
そっか…美香も戦うの嫌なんだな……。
だってそうだよね、あんなのと戦うなんて。
落ち着いて考えれば、なんで能力測定なんてするのかが分かる。
まさに――誰が戦えるのか。
それを決める為のものとしか思えない。
昨日の出来事を思い出す―――。
あの――歪んだ笑い方をする女の子……早く忘れたい。
でも、途中何回か頭に響いた謎の声……。
実はあの声が忘れられない……何故だか分からないけど、懐かしい声だった…。
もう一度聞きたい―――そう思ってしまう。
『フェニックス』ってなんだったのかな……?
いわゆる…不死鳥のフェニックスだよねぇ?
気になる、あの声の正体……女性かも、男性かも分からない声……。
「タイムアップ。終了でーーっす」
あ、あれ?
モニターに浮かぶ『ランクC』の文字。
いつの間にか、美香の番終わってた……。
「えと…美香、手を抜いたの?」
「いや――念動系はあまり得意じゃないんでな、こんなもんさ」
ニコッと爽やかな笑顔の美香。
そして、こうも言った。
「戦う戦わないは、自分の意志で決める―――だから、手を抜くのは止めた―――本気でいく。私に卑怯な真似は似合わないからな―――」
そっか……そう言われると、わたしも手を抜けなくなっちゃったなぁ。
美香の言う事は一理ある。
本気でやろうかな―――と迷いつつ、次の能力測定へと向かった。
しかし、校庭は大混雑していた。
診断には時間がかかる為、同じ測定のステージが幾つも用意されていて、その分スペースが取られてしまっている。
どうせなら、優菜の後を追いかけていきたい澪は、必死にその姿をさがす。
そして反復横飛びのステージで、佇んでいる優菜をみつけて嬉しそうに駆け寄っていく……。
「あ、優ちゃん居たよ!」
「ああ…どうやら優菜のやつ、空間系は苦手らしいな」
この能力測定は空間系。
只の反復横飛びではない。
足を使わない反復横飛びなのだ。
そう――素早く瞬間移動して、一分間に何回移動出来たかを数える方式である。
優ちゃん、動く気配全くないなぁ……。
そのまま終了して、モニターには『ランクD』の文字が表示された。
「―――ああ、澪達居たんだ……あはは…私、空間系はまるっきりなんだよね~~」
頭を掻いて照れ笑いの優ちゃん。
そして、さぁ次々!―――と、さっさと行ってしまう。
「待ってくれてもいいのに……」
そう思いつつも、次はわたしの番だ。
よし! これはちょっと自信があるかも…。
係りの人に呼ばれて、前に出る。
3本の線が引いてある、真ん中の線の上に立つ…。
集中する…。
この力は、特に集中力が必要だ。
落ち着いて―――。
ピーーーっと笛が鳴ってスタート!
瞬間、わたしは消えてすぐ横に現れる。
その繰り返し。
パッパッパと消えて現れる―――。
あは! 結構これ楽しいかも!!
気持ちいい~~!
「タイムアップで~~す」
ふぅ~~記録はっと……。
328回だって……凄いのかな……ドキドキ……。
ちょっと待って、モニターに結果が表示された。
『ランクB+』
「Bプラスかぁ~~。結構いけてると思ったのになー」
若干不満そうな顔をして、美香に慰めてもらおうとしたんだけど、無言……。
つれないなー。
でも―――美香の番で、どうして無言だったか分かった。
応援しようと横で見守っていたんだけど、始まったら美香の姿が大変な事に……。
「速すぎて、残像残ってるんですけど……」
わたしってば、もう口を開けてあんぐり。
移動回数を測っているカウンターが、物凄い勢いで増えていく――。
8千……9千……一万!!
嘘でしょ!?
「はい、終了で~~す」
気付いたら、ここの周りには凄い人だかりが出来ていた。
カウンターには『13265回』の文字…。
ざわざわと、周りが騒ぎ出す。
美香はもう、汗びっしょりだった。
そしてモニターにランクが表示され、ワーーーと歓声が上がった。
『ランクS+』
「すっごーーーっい!!」
わたしも、思わず飛び跳ねて喜んじゃった!
「凄い凄い! 美香って凄いねーーーっ!!」
「いやーー、これが私の唯一の自慢だからな」
凄い記録を出したのに、ニコッと微笑んだだけの美香……。
か、カッコいい……。
そりゃわたしはBプラスだよ~~。
その後も測定は続いた。
豆腐をどれだけ硬く出来るかっていう強化系。
カプセルに入れられて、自動で測定する視覚系。
衝撃波で対象物を破壊する気孔系などなど……。
はぁ……いい加減疲れちゃったよ……。
手に持つ端末を見る……。
「空間系以外、みんなCだよ……とほほ……」
全力で頑張ったつもりだったんだけど、結果はこの通り。
「まあ気にするな。私も空間系以外は、BやC…Dもあるしな」
「あーー私も、念動系以外は散々だったよ」
美香がさりげなく慰めてはくれるものの……
あ~あ、これじゃみんなと一緒のクラスにはなれないかも……。
ヘコむな~~。
「そう言えば、まだ測定が残っていたな。最後の『その他』―――これはなんであろう?」
端末に残された、その他の文字。
わたしも気になってたんだけど、なんだろ?
「やれば分かんじゃん?」
優ちゃんの軽いノリで、そのまま三人で最後の測定へと向かう。
その最後の測定だったんだけど……
結局、変な装置を頭に乗せてじっとしているだけの物だった。
しかも、その測定結果でわたしは『ランクA』だった。
「へ~~やるじゃん澪」
「意味が分からないな」
二人共、『ランクA』。
結局三人共、Aだったわけなのです。
こうして、今一腑に落ちないまま能力測定が終わり、一旦寮へと戻ることに。
後でクラス分けの通知が端末へ送られてくるんだって。
みんな一緒だといいな……。
あ、そう言えば、彩乃ちゃんや白河さん達はどうしてたかな?
見かけなかったけど……居たのかなぁ?
まぁ、彩乃ちゃんは2年だし、白河さんは高等部だもんね。
駿介君は居たんだよ?
でもね、みんなが居たから声掛けられなかったよぅ……。
向こうもこっちをチラチラ見てたんだけどなぁ~~。
しょうがないか……。
◇◆◆◇ ~~彩乃視点~~
時間は遡り、前日へと戻る――――。
「あわわ……どうしたら、どうしたらいいのでしょうか!?」
彩乃は、如月さんの研究室に駆け込んだのです!
「何をそんなに慌てている、彩乃君」
如月さんが心配してる―――かどうか分からない、いつものポーカーフェイスで彩乃を見てます。
「こ、困ったです、困ったのですぅ~~」
「何をそんなに困っている、彩乃君」
似たようなセリフを、全く同じトーンで話す如月さん。
「分かった、君の悩みは分かった。そこに横になるといい」
そう言って、寝台を指差す如月さん。
さすがです!
もう彩乃の心配事が分かったんですね!
言われた通り、すぐに寝台の上に寝そべる。
「こ、こうで良いですかぁ?」
とりあえず、仰向けに寝てみました。
「ふむ、それで構わない。では目を閉じてリラックスしてくれ」
ふぅ~~リラックスリラックス……なのですぅ……。
「ふむ……思春期というものは大変だな。まあ、少女にとってこれは最大の身体の悩みと言っても過言ではないか……」
へ? 身体の悩み……ですかぁ?
ムニムニ……
「きゃん! ―――あ、あの! 如月さんっ!!」
さわさわ……モミモミ……
「まだAカップだな……まずは大胸筋を鍛えないといかんな」
「や―――ちょっと……如月さん? ダ…ダメですぅ……彩乃―――」
な…なんですか、この予想外な展開は!?
は、早く脱出しなければ……。
「き、如月さん! 彩乃の悩みは胸ではなくてですね……」
「ふむ…もっと大きくなりたくはないのか?」
「え? あ…なりたいですけどぉ~……」
―――は! しまったのですっ!!
「こうして揉むと良いとは言うが、実は揉む事によって血行がよくなるだけなのだよ。まあ効果はあるわけだが、彩乃君はもっと大胸筋を鍛えなければならん。腕立て伏せは毎日しているのかね?」
「は――はい、言われた通り毎日しています! ―――じゃなっくってですよ! 悩みは別の―――」
ツンツンモミモミ―――
「キャハハハ! く、くすぐったい……ぁ……もう止めてほしいのですぅ……ハァ…ハァ………」
「むむ、そうか…まだくすぐったいか。彩乃君は、もっと開発が必要だな」
うぅ……やっと開放されたのですぅ……。
あいかわらず、如月さんは女性のくせにエッチなのです!!
き、気を付けなければ…。
「そんな訝しい目で私を見るな。安心しろ、私は性に対してはノーマルだ」
ど―――どこがノーマルなのですか!?
信じられません!!
「分かっている…悩み事とは、明日の事であろう?」
やっぱり……分かってたんじゃないですかぁ……。
そうなんです。
心配なのは、明日の能力測定なのです。
「どうしたら良いのでしょうか?」
「ふむ……君にはなんの能力ない。そのまま測定するしかあるまい」
「で――でもでも…それじゃ、彩乃がこの学園に居るのは可笑しいじゃないですかぁ?」
実はですねぇ、彩乃はなんの能力も持ってはいないのですよ。
怪しまれるからって、髪の毛まで染めたのですが……。
「まあそう悲観するな。結果は見ずとも全てランクDであろうが、君には宝玉に対する適正がある。間違いなく、一項目だけは高ランクが取れるだろう。安心したまえ」
「はぁ、そうですか―――」
「能力に関しては、もう少し待ってくれ。君の脳波解析がまだ済んでいないからな。実際、脳の分野は私のテリトリーではない……まあ最善は尽くすが」
結局、何も解決しないまま研究室を出ましたぁ…。
あぁ…本当に大丈夫なんでしょうか。
明日が恐いですぅ……。
とぼとぼ歩く。
校舎を出て、学園寮へと向かう。
みなさん良いですねぇ…飛んだり消えたり、羨ましいですぅ……。
全く――寮までが遠くて、げんなりしてしまう。
一人寂しく歩いていると、学園の門から歩いてくる男の子の姿―――。
はて? 入学式は終わったというのに、一体誰でしょうか?
そのまま歩いていると、ちょうどその男子と接触する距離だ。
なるべく人目を避けたい気分なのです。
ここは足早に通過をして―――。
こそこそと、そっぽを向きつつ早歩き…。
ふっ、完璧なのです。
これで、万が一にも話しかけられたりは―――
「神崎―――!!」
「はにゃ!?」
は――話しかけられたです!!
い、いえ……名前は会っていましたけど、きっと人違いなのですっ。
この世界に、顔見知りはいないのです!
「ち、違いますぅ―――」
何故か声色を変えて、こそこそとしてしまう。
「お、おい待てよ! 俺だ、島崎だ!!」
はい? 島崎君?
振り返ると、おっきな荷物を背負った男の子が、息を切らせて近づいて来る。
「神崎! 良かった……ハア…ハア…最初にお前に会えて……」
「……どうして…島崎君が……ここに居るんですか?」
この男の子は島崎龍平君。
彩乃の、元の世界でのクラスメートで、サッカー部のエース。
短髪の髪の毛が、まさに爽やかなスポーツマン。
女の子に人気があって、親友の葵ちゃんも、以前片思いをしていたことがありました。
そんな彼が、どうしてここに?
「如月さんに頼んで、こっちへ連れてきてもらったんだ。なかなか力が覚醒しなくて、ちょっと遅れちゃったけどさ、へへ……」
ニコッと爽やかに笑う島崎君。
その笑顔に、ちょっとドキッとしてしまう。
「で、でもです! サッカーはどうするんですか!? 将来は、プロのサッカー選手になりたいって―――」
「うん、なりたい……でもさ、俺にはもっと大事なものがあるっていうか……」
え? え? なんですか?
どうして、チラチラと彩乃を見るんですか!?
「ダ、ダメですぅ、こんな世界に来たら…わ、私――彩乃は―――」
「分かってる。血の繋がってない、お兄さんが好きなんだろ? でもさ、俺――それでもお前の事、その……」
ポカーーンと口を開けて、島崎君から目を放せないでいると、急に島崎君は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。
「あ、あの……島崎…君?」
思わず、続きが聞きたくて話しかけてしまいました……。
あ、彩乃はどうしたら……。
困惑していると、突然島崎君が力強くこっちに振り向いた。
「キャ!」
ビクッとして、手で顔を隠してしまう。
ドキドキ……顔が赤いかもですぅ……。
「わ、悪い! 脅かすつもりはなかったんだ……えっとだな……聞いてくれ!!」
「は、はい!」
勢いに負けて、即答してしまったのです…。
「俺さ、俺さ――――」
彩乃の肩を掴んで、じっと目を見つめる島崎君―――。
―――何を―――
「俺は彩乃が大好きだーーーーーーーっ!!!」
「――――――!!!!!――――――」
えーーーーーーっ!?
予想通りの言葉だったんですけど、本当に言われるなんて……。
「え、あ、そ…その……えっと……」
ダ―――ダメ!!!
「ごめんなさい!!」
その場から全速力で走って逃げる!!
は……恥ずかしいです……。
「ハァ…ハァ……む、胸がドキドキするのです……これは…走ったからなのです……」
あっという間に遠くに走って行ってしまった彩乃を眺め、島崎は黄昏ていた。
「ついに言ったな……俺……ははは、でも逃げられちゃったよ……でも――頑張るぞーーーっ!!」
力強くジャンプし、拳を突き上げた。
「…………あれ? でも…『ごめんなさい!!』って言ってたよな……」
――――え? 俺、既に振られた!?
「いや……焦るな、そんな雰囲気じゃなかったような……」
しばし悶々と、佇む島崎だった。
◇◆◆◇ ~~駿介の場合~~
時間は戻り、能力測定終了後――――。
駿介は悩んでいた。
あいつ――測定結果、どうだったかな?
C連発してたからな……心配だな。
実はだ…能力測定の間、澪が気になって仕方なくってさ。
つい、あいつの周りをうろうろしちゃったんだよね。
ストーカーとか言うなよ?
昨日から、あいつの事ばかり考えて頭が可笑しくなりそうでさ。
一体どういうことなんだ…。
あいつに恋しちまったのか!?
一度会っただけなのに!?
一目惚れってやつか……?
まあそんなだから、あいつの測定結果はだいたい知ってる。
俺はと言うと、ランクAをいくつか出した。
成り行きとはいえ、俺の身体は能力の為に作られている。
この結果は当たり前。
―――で、どうしてあいつの結果が気になってるのかって言うとだな……
出来れば、同じクラスになりたいじゃねえか。
可愛いあいつとさ。
正直言うとだな、根っこの部分では激しく白河が好きだ。
好きで好きで仕方がない。
だから、神崎の野郎が羨ましくって堪らない。
でもな、俺はあいつ―――神崎とは違うんだ。
俺は自分の恋を手に入れてみせる!
澪ちゃん―――いや、澪はマジで可愛い。
しかも、如月さんお墨付きの巨乳候補だ。
ま、まあそんなことは大した事じゃないけどな。
どうしても神崎の記憶が邪魔して、俺を巨乳好きにしてしまう……。
ああしかし……澪の奴、今何してるんだ?
ピピピピ―――――
おっと来たぜ。
クラス分けの結果の受信だ。
速攻で端末を出して確認する……。
画面には、クラスAの文字。
これで、明日から1年A組ってわけだ。
よし! 決めた!
ちょっくら、あいつに聞きに言ってみようじゃないか。
そう思い、精神を集中させ辺りの気配を探る。
居た―――。
学園寮の中だ。
さてどうするか……。
え? 何をかって?
もちろん瞬間移動するわけなんだが……
だってよ、女子寮だぜ?
もちろん、男子と女子の寮は違う建物だ。
しかも、学内の端と端という離れた場所。
まあ、俺達には距離なんて関係ないけどな。
参ったな……正面から行っても、入れないだろうしな……。
思い切って、ワープしちまうか?
それしかないよな……。
「あーーーっ!! ウダウダしてんじゃねえ!! 男だろ、俺!!」
よし!! いきなり部屋侵入はまずいから、部屋の前までいくぞ。
思ったが吉日……いや、わけ分からんがいくぜ!!
シュ――――――――
一瞬で、澪の部屋の前までワープする俺。
そしてドアの前で固まる。
だってさ、何このドア……ピンク色してるぞ。
キョロキョロと周りを見渡す……。
他のドアも、薄いピンク色だ。
なんでこんな無駄な演出するんだよ、女子の部屋って、よけい意識しちゃうじゃねえか……。
「お、インターホンがあるな……くそ、男子寮にそんな物無いくせに……まあいいか」
俺は迷わずインターホンを押した。
ピンポーーーン♪
ごくノーマルな音だったが、激しく緊張してしまう。
続いて、可愛い声が聞こえてくる。
「はーーい、どなたーー?」
あ、あれ? 澪の声じゃないぞ?
「あ、え~~とそのー、み、澪は―――」
「―――げ! 男じゃない!? なんで女子寮に男が居るのよ!? 通報! 通報よ!!」
「ちょ――ちょっと待てい!! た、頼むからちょっと待ってくれ!!」
バカ言ってんじゃねえ!
通報なんてされたら、明日から俺のあだ名は『痴漢男』になっちまうじゃねえか!?
「い、いや――すまん、マジで待ってくれ。澪と会えたらすぐ帰るから……頼むよ」
「あんた―――澪とはどういう関係よ?」
「あーーそうだな……俺か……俺は、澪の恋人候補だっ!!」
力強く言い切ったぜ。
こういうのは、押しが大切だ。
「ぶーーーっ!! なんですって!? わっ!! ちょっと澪―――止めてっ!!」
ブツ―――――
インターホンのスィッチが切られたみたいだ……。
どうなってんだ……?
…………。
しばらく待っても、何も起こらない。
中の様子もさっぱり分からん。
ここって、かなり防音対策しっかりしてんだな……。
―――って、そうじゃねえ!!
まさか、このまま放置なんてことは―――。
ガチャ――――――。
そう思ってたら、いきなりドアが開いた。
隙間から、ひょっこり顔が現れる。
澪じゃないが、なかなか可愛い子だ。
そしてギロリと俺を睨みつけ、吐き捨てるように呟いた。
「―――入っていいわよ」
「お、おう―――」
どんな顔したらいいのか分からなかったせいで、ぶっきら棒に応えてしまう。
考えてみれば、女の子の部屋に入るなんて初めてだぜ。
少しドキドキしながら、恐る恐る中に入る……何故か忍び足……。
入ってすぐに澪が目に付く。
狭い部屋だ、当たり前なんだが……いざ会ってみると緊張してしまう。
しかもだな……私服だった。
パーカーにミニスカートっていうラフな格好だったが、可愛く見えて俺は嬉しかった。
だが……大きなパンダのヌイグルミを抱いたまま、あさっての方向を向いている。
俺とは目を合わせてくれない。
怒ってるのか…?
慎重になって声をかけてみる。
「よう澪……突然来てごめんな?」
「……うん……」
うおっ、反応薄っ!
どうすっかな~~、ぶっちゃげ昨日知り合ったばっかり出し、何話したらいいか分かんねーぞ……。
勢いだけで来ちまった…。
「座れば?」
澪の相部屋の子だよな…。
床を指差して、値踏みするような目で俺を見てやがる。
不本意だが、言われた通り遠慮なく座る。
…………。
そして沈黙。
く…空気が重い……。
「あ~~~もうなんなのよ、あんた達!!」
相部屋の子が、その空気を断ち切るかのように言い放った。
「澪も何か言いなさいよ! それとも私、出て行った方がいいわけ!?」
「あーーっ、ダメ!! 居て! ここに居てよ~~~」
「はぁー。この子ったらね…あんたが来て、慌ててジャージからその服に着替え――――」
「キャーーーっ!! 何言い出すの!? 止めてよ優ちゃーーん!!」
澪が顔を赤くして、その子に飛びついている。
「なんでそんな事言うのーーっ!?」
「そんなの面白いか―――ゴホン、事実を言ってみただけじゃない! あんたが黙ってるのが悪いんでしょ!?」
「酷いよぉ~~~」
ポカポカと、ヌイグルミで殴りかかっている……。
目の前で、美少女二人が絡んでいるこの状況。
俺はどうしたらいいんだ?
いや――そんなことよりも、スカートから伸びる澪の素足が気になって仕方がない。
その白くて透き通るような肌に、俺は釘付けでドキドキしてしまう。
しかも、時折チラチラ見えてしまうピンクの下着に、つい視線が……。
見ちゃいけないと思って顔をそらしても、次の瞬間ガン見してしまう男の悲しい性。
昨日下着を見た時の、あいつの恥ずかしそうな顔も――思い出してしまう。
そしてすぐに反応してしまう、俺の中心部……。
く…くっそ~~。
この変態な身体が憎い……。
神崎の野郎……こんな敏感な身体しやがって……。
と、人のせいにしてみる。
「あ~~ごめんごめん、私が悪かったって…。―――で、この男子は誰よ? 紹介してもくれないわけ?」
「う――うん…えと、この人は―――」
「―――ちょっと待て、俺が自分で言うよ。なにしろ、澪とは昨日会ったばっかりだからな」
二人に割って入る。
実際、お互い何も知らないからな。
こうして俺がここに居るってだけでも奇跡。
「昨日会ったばっかりって―――澪、あんたって…意外と手が早いのね……」
「そ――そんなんじゃないもんっ!!」
ジタバタと揉み合っている二人……。
だからパンツが見えるってんだよ! ……嬉しいけど…恥ずかしいだろっ!!
しかも、見たのがバレると変態扱いされるんだぜ?
不条理だと思わないか!?
男なら、誰もが同じ目の動きをするはずだ!
おっと――とりあえずそれは置いておいてだ、
「あーーその、ぶっちゃげ俺がナンパしたようなもんだ―――だからな、え~と……」
「そうなんだー、やるじゃん澪」
二人の絡み合いが治まったところで、一拍置いて話す。
「―――コホン、俺は神崎駿介宜しく」
「私は青木優菜、ごらんの通りただの同居人」
優菜ちゃんね…全く、能力者ってのはホントにみんな美男美女ばっかりだ。
そう言えば、如月さんが言ってたっけ……
遺伝子レベルが優秀ってやつ?
ま、俺もそのはずなんだが……。
そんな事はどうでもいいか。
なんだか澪が悩んでるぞ。
気を使って俺が話しかけようとしたら、優菜が先に問いかける。
「あんたどうしたの? 頭抱えちゃって……。ついに可笑しくなった…とか?」
「し、失礼だよ! 違うの…駿介君って、彩乃ちゃんの弟さんなのかなーって…」
ああそうか、そうだよな……名字なんてどうでもいいから油断してた。
皆さんも、おやっと思われたことだろう。
勘の良い人なら、既に気付いているとは思うが…。
説明が必要だな。
バラしても平気だろ、この世界では特に違法じゃないからな。
「俺は、神崎駿のクローンだ」
「ええ!?」
「嘘ーーっ!?」
二人共、驚いて口をあんぐりとしている。
初めて他人に告知したからな、こんな反応するのか。
「くろーんって…なんだっけ?」
ずる――――――。
澪の間の抜けた声に、合わせたように力が抜ける俺と優菜。
「あんた、知らないのに驚くんじゃないわよ!?」
「えーーっ、だってぇ…聞いたことあったしぃ……」
あ~~そんなとぼけたところも可愛いぜ、澪。
んじゃ、説明しますか。
「クローンって言うのはな――対象のDNAから、全く同じ遺伝子情報を持つ個体を作り出す技術の事だ。俺はあいつの細胞から作られ、一部記憶の移植にも成功した―――まあこの世界……いや、稀に聞く話しだろ?」
「あ…えと…あれ? ご、ごめん――もっかい説明して…ほしいかも……だめ?」
ク~~~!!
だめ?――とか言って小首を傾げる澪が、超可愛いぜ……。
女の子って、頭がちょっと悪いくらいが可愛いって神崎の記憶にあったけど、そこは同意してやってもいいかな。
そんな事言うと、世の賢い女性に喧嘩売ってるようだが――。
横では優菜が―――あんたって頭弱いね―――等と突っ込んでいる。
当然、言われた澪はすっかりムクれちまってる。
「すまん難しく言いすぎた、要するに俺は神崎のコピーってわけ」
「コピー? 同じ人じゃないの?」
「違う――あくまでも、同一の遺伝子情報……とか言うと難しいな、う~~ん……」
どうしたら分かってもらえる?
そんな俺達の状況を、やれやれといった表情で眺めていた優菜が補足で説明する。
「あんたって……聞いてる私が疲れるっちゅーの。だから…人工的に作られた、双子の片割れみたいなもんよ」
「あ~~そっかぁ~~、それならイメージ湧いたよー」
ポン―――と手を打つ澪。
ちょっと違うが、それでいいだろ。
「でも―――」
あれ? 納得したんじゃねーのか?
座ったまま四つん這いで俺に近づき、顔を覗きこんでくる。
「んん~~~クローンで、双子みたいな感じ……」
う―――そんな近くで顔を見つめるんじゃねえ。
澪の顔から目が放せない……そんな距離…。
やべぇ―――マジで可愛い……だけど、そんな萌え狂った表情を出しちゃダメだ。
「似てると言えば似てるけど……」
半開きの口から覗く、白い八重歯……。
零れ落ちそうな程大きな瞳……。
控えめで、可愛い鼻……。
瞬間―――記憶の中の、いつも顔を近づけてくる白河と澪が重なる―――。
そして俺は、ある事に気付いた。
そうか……そうなんだ。
はは……俺はバカか…。
澪は白河に似ている――。
こいつに対する、異常な恋心の正体。
単に、似ているから―――。
俺は――無意識で白河を求めちまってた。
この身体に残った記憶が……白河を……。
急激に冷めていく、澪への恋心……。
白河――――。
実らない恋を思い描き、俺はいつの間にか泣いていた。
「―――え!? 駿介君、どうしたの!? なんで泣いてるの!?」
「ははは……グス……な、なんでもねえよ……ちょっと目にゴミが――ってやつだ」
大丈夫?――って覗き込んでくる澪の顔が、もう白河にしか見えない。
ダメだ……もうここには居れない。
マジで涙が止まらない。
それでも涙を堪え、立ち上がる。
心配そうに見つめる澪の顔が……。
「悪い、俺急用思い出した。急に来て――邪魔したな」
そう言って俺は、瞬時に消える。
次の瞬間、体育館の屋根の上に現れた俺は、その場に横になる。
そして、一人虚空に視線を漂わせていた―――。
第6話へ続く
キャラが多い……死ぬ(笑)
読んでいる方には、分かってもらえるでしょうか?
それが若干心配ですねー。
そして5話なのに、まだ学園2日目って……どういうこと!?