第4話 宝玉の力と澪と駿介
「……ハ……ハッ……」
痛い……お腹が焼けるように痛い……でも…どうにもならない……。
さすがに死んじゃうかも……。
骨が折れてなければいいなぁ……。
地面に全身を打ちつけ、身体のあちこちが痛む。
おまけに息が出来ない。
幸い、衝突間際に能力を使えたから、最小限のダメージで済んだ。
お腹を貫かれたからなぁ……しばらく血は止まらないよね。
頭を打った衝撃で、目も見えないし耳も聞こえない。
後はただ、回復するのを待つしかない。
ちなみに――澪を含めたこの世界の人々は、遺伝子操作によって脅威的な治癒力を持っている。
五体満足であれば、自然回復が望めるのだ。
だけど――頭を強く打ってしまった……。
脳が正常に機能していなければ、回復しないかも知れない。
そのくらいの知識は、澪にもあった。
「あはははぁ? 死んだの? お姉ちゃん……もっと遊んでよ……つまんないよ……」
耳が回復し、不気味なあの子の声が聞こえる。
やっぱりまだ居たんだ。
どうしたらいいの……。
わたし……逃げられない……?
全身の痛みに耐えながら、息を潜める。
今は死んだフリをして、何かいい方法を考えなくちゃ……。
なんとか瞬間移動出来ないかと、精神を集中させる……。
寮の中に飛べさえすれば――。
瞬間身体が消えた――
でも次に現れた場所は、僅か数メートル先の場所だった。
「なぁ~んだ、死んだんじゃなかったんだぁ……あはは……まだ遊べるねぇ……」
最悪の状況だ。
彼女はゆっくりと近づいてくる……。
一歩……二歩……と…。
その足音が聞こえる度に、恐怖で心が震えた。
そして足音が止まった――
わたしの目は既に回復していたけど……でも、恐怖で目を開けることが出来ない……。
「きゃっはは! さすがだよねぇ…お腹貫いたのにまだ息があるなんてさ……。じゃぁさ…胸を刺したらどうなるのぉ…? 興味あるなぁ……」
ちょっ――ちょっと待って!!
心臓を止められたら……いくらなんでも死んじゃうよ!?
慌てて目を開け、――ッキと、睨みつける。
威勢よく睨んだが、彼女の顔が目の前にあり、すぐにたじろいでしまう。
なんとも恐ろしい顔で、無邪気にわたしを覗き込んでいる……。
でも負けない!!
思い出す―――
こんな時、好きだったヒーローもののアニメとかだと、未知なる力が発動したり仲間が助けに来てくれたりするものだ。
だけど、そんな都合の良い展開にはならないみたい……。
澪は窮地に立たされた事によって、逆に冷静になっていた。
頭がクリアになってくる――今なら瞬間移動で逃げられるかも知れない――。
でも、それで助かるの?
こんな化け物相手に……?
そうだ――白河さんなら――あの人ならきっとなんとかしてくれるかも……。
学園に来た時の、あの炎を自在に操っていた姿を思い出す。
白河さんの所まで移動出来れば―――。
急いで気配を探る――
でも、彼女が待ってはくれなかった。
「お早うお姉ちゃん……起きたなら遊んでよ……」
無邪気に彼女はそう告げると、黒いオーラを纏った手を振りかざした。
―――ダメ―――あれでお腹をやられたばっかりだ―――!!
恐怖で、再び目をきつく閉じてしまう。
「お前ら、何してんの?」
――え?
声に反応して目を開けると、男の子が彼女の手を掴みその攻撃を止めていた。
その男の子はわたしと同じくらい――恐らく同じ新入生の男子だと思う。
喧嘩でもしていたと思われたんだろうか。
物凄く普通に――割って入って来ました――って感じだったけど、わたしの制服に付いた大量の血を見て表情が一変する。
「お、おい! お前大丈夫かよっ!?」
とても心配した様子と、驚いた雰囲気が伝わってくる。
でも、この男の子が来てもどうにもならない。
逆に一緒に殺されてしまうんじゃないか。
そう思ったわたしは――
「逃げて!!」
思いっきり叫んだ――と同時に彼女の腕が振り解かれ――
男の子の腕を切り裂いた。
「いっってええええ!!! 何しやがる!!!」
彼が身を引いてなければ、腕を切り落とされていたかも知れない。
そのぐらい、彼女のオーラを纏ったその腕は危険に見えた。
「お兄ちゃんも一緒に遊びたいの…? でも……今はこのお姉さんと遊んでるから、後にしてよ……」
女の子がそう言うと、手からオレンジ色の小さな光球が放たれた――
そしてそれは男の子の胸に直撃、爆発した。
「あはははは! 死んだかな? どうかな?」
楽しそうに笑う女の子。
そして漆黒の翼を大きく広げ、空高く舞い上がった。
黒い数枚の羽が、フワフワと落ちてくる。
胸を打たれた男の子は事切れたように声も無く、ドサ――とそのまま後ろへ倒れてしまう――。
「……あ…あ……そんな……」
ど――どうしてなの!?
なんでそんな事するの!?
理由が解らない。
わたしの中で、何かが――プツンと切れる感じがした―――
――その時、頭の中に声が響いた―――
『力を貸そう――我が主の血を引く者よ――』
一体誰の声かも分からない――その声――。
幻聴……?
う~うん、確かに聞こえた。
……なんだか懐かしい声だったような……。
「あ~あぁ……もうあきちゃった……だから――消えて――」
漆黒の翼を持つ彼女は呟くと、手の平にオレンジ色の光球が現れる。
―――が、澪はそれを見てはいなかった。
さっきの声がしてから、身体がとっても熱い……。
自分の身体に何かが起ころうとしている――。
理由は分からないけど、確かに感じる。
そして――何かが来る気配―――。
次の瞬間―――ドンッ―――という音がして、目には見えない不可視のもの――とても温かい――優しい風が一気に身体に流れ込んだ。
何故かこの感覚……知っている……
心地良い風が身体全体を流れる感じ……
気付かないうちに、わたしは宙に浮いていた。
そして身体からは、眩い――白い光りが溢れ出してくる。
光りに身を委ね、うっとりとしてしまう……なんだろう…この気持ち良さ……。
その光りを見て、漆黒の翼の彼女が呟く。
「な――まさか…宝玉の力―――?」
澪はその光りに完全に包まれ、今やその姿は外からは覗えない。
そして光りは一層輝き出し、学園の校庭全体を白い世界に染めた。
次の瞬間―――
光りが弾ける。
それは白い煙と化し、辺りにちらばっていく。
やがて――その白い世界は薄れていき、中心部から人の姿が浮かび出す。
中から現れたのは―――もちろん澪だった。
しかしその姿は違っていた―――
学園の制服ではなく、白と赤を基調としたデザインの服―――。
赤いブーツに赤い手袋、赤いスカーフを首に巻き、腰には大きな赤いリボンの付いたミニスカート。
まるでアニメに出てくる『魔法少女』――いや、それをもっと勇敢にしたような姿だった。
「え? え? この姿って――」
なんだか…昔好きだったアニメ――そのヒロインが着ていた服に似ている……。
……可愛いいかも……えへへ……しかもカッコいいかな……。
じゃなくって! 何がどうなったの!?
――――――――――!!!!
上空を見上げると、巨大なオレンジ色の光球が――。
瞬時に、入学式で観た映像を思い出す。
あの光球が起こす、大爆発――。
今にもそれは、解き放たれようとしていた。
―――どうしたらいいの!?
考えても分からない。
だけど、あれが爆発したら、学園が無くなっちゃう…。
折角出来た友達も――他の生徒もたぶん―――。
そして、何も手立てが無いままその時を迎えてしまった-――
「宝玉と言っても…使い方が分からなければ無意味……あははは! バ~~カ!!」
漆黒の彼女が言い放つと、その巨大な光球は手から離れ、ぐんぐんスピードを増しながらこちらへ飛んでくる―――。
そして目の前へ―――
―――もうダメ!!
瞬間わたしは手をかざした―――
「キャアアアアアア!!!!!」
物凄い――圧倒的な力で押されている――。
……え……?
押されている……けど……。
思わず瞑っていた目を、恐る恐る開く……
目の前には巨大な光球。
そのオレンジ色の物体は、炎ではなく、何かエネルギー体のような物。
ただ――ジリジリと、全身が焼ける程の熱を感じる。
そして――それを止めているのは…わたしだった。
かざした手の先に、バリヤーのような物が発生していた。
わ――わたしにこんな力―――。
う~うん……今、そんな事を考えてる場合じゃない!
地上までは、僅か数十メートル。
しかも徐々に後退して……今にも手が弾かれそう……。
「――――くうぅ……ダ――ダメッ!!」
―――弾かれる!!
バシィッッ―――――――――!!!!!!
手が弾かれた瞬間――バリアーも消えてしまう。
―――あぁ―――もう終わり―――
「朱雀――――!!!」
死を覚悟したその時――声と共に、わたしの横を通過した大きな火の鳥。
「まだよっ!! あきらめちゃダメ!!!」
白河さんだった。
あのパステルピンクの衣装を纏い、手をかざし叫んでいる。
当然、その叫びはわたしに向けられたもの。
朱雀と呼んだ火の鳥。
灼熱の炎を撒き散らしながら、光球へと突っ込み――苦しみながらその勢いを止めていた。
そう―――その鳥は、ほんとに苦しんでいるように見える。
時折、「キュイ~~ン」と泣き叫ぶ声まで聞こえ、まるで生きているように見えた。
でも、その火の鳥の勢いは徐々に弱くなっている…。
巨大な光球に押されて、その鳥の形をした炎が弱まってきている。
「―――白河さん!!」
「―――くっ、あは……ダメかなぁ……み…澪ちゃん! お願いっ力を貸して!!」
悲痛な顔で、わたしに訴える白河さん。
で、でも――わたしには―――
その時、再び頭の中に声が――いえ、言葉が浮かんだ―――。
わたしはその浮かんだ言葉を、思いっきり叫んだ。
「フェニックス――――――!!!!」
瞬間――全身が炎に包まれた。
いえ、包まれたと言うより、わたしが火を出した―――。
不思議と熱くない。
無意識のまま、後方へ大きく弧を描いて宙返りする。
物凄いスピードだ。
澪が出した炎は、大きな鳥を象っていた。
出した――というより、澪自身が炎に包まれていたのだ。
だが―――その形は、白河の朱雀とは大きく異なっている。
朱雀は、沢山の尾をなびかせる孔雀のようだったが、澪の炎は大きな鷹。
正確には鷹よりも足が長い――まさに伝説や伝承で知られる不死鳥のようだった。
宙返りで勢いをつけた澪は、そのまま巨大な光球へ突進した。
この時、既に澪の意識は無く、まさに無意識。
そして澪の炎が衝突した瞬間―――
―――巨大なオレンジの光球、朱雀、不死鳥が連鎖的に爆発した―――。
◇◆◆◇
目を覚ますと、天井が白かった。
わたし……助かったの……?
背中に感じる柔らかさ。
目を向けると、どこかのソファーで寝ているらしかった。
そしていつの間にか、制服を着ている……。
しかも、お腹に付いていたはずの大量の血の跡が無い。
さっきのは夢―――だった?
そうだ、夢かも知れない。
だってわたし…アニメに出てくるような服を着て……。
「駿介君は大丈夫ですか?」
「ああ、問題無い。彼にはこの世界の遺伝子を組み込んである、そう簡単には死なん」
声のする方を見る。
白河さんだ。
あと、ジャージに白衣を着た、ボサボサ頭の女の人が居る。
分厚い縁無しメガネが、知的な印象を受ける。
ここの先生かな。
でも、入学式では見なかったような……。
誰だろう……白河さんとは、親しいような雰囲気を感じる。
「あの子…澪君だったか……彼女は――」
「――あ、はい、佐倉澪ちゃんです。中等部1年生です」
あ、わたしの事だ。
起きて話しを―――
「彼女が力を使ったのか――?」
「はい。間違いなく宝玉の力だと思います」
……力? ……宝玉?
わたしが使った力……
―――あれは夢じゃない―――
盗み聞きじゃないけど、つい二人の話しに聞き入ってしまう。
「ふむ、興味深いな……」
「でも…宝玉を持っていない彼女が、どうやって力を使ったんでしょうかぁ……」
宝玉か……。
どんなものなのかなぁ。
白河さんのあの力って、その宝玉が関係してるの……?
あの女性――ボサボサ頭の……って失礼かな――何か知ってそうな雰囲気…。
なんだか色々と考えてしまう。
わたしの事で考え込んでいるのか、二人は黙り込んでしまった。
その間に自分の周り―――見える範囲でこの部屋を観察してみる。
ここってどこなの――。
なんだか機械のようなものが沢山ある……。
学園じゃないのかな?
バタン――――――――。
ドアが開いた音がした。
次いで、女の人の声が聞こえてくる。
「如月博士―――」
「―――ん? ああ、榛原君か―――」
ちょっと慌て気味で入ってきたのは、学園長さんだった。
青くて長い、その綺麗な髪はよく覚えている。
「―――あ、真琴――君も居たのか――」
「は、はい――」
「宝玉の力を使った生徒というのは―――」
学園長さんの問いに答えた白河さんが、「そこで寝ています」と返事をする。
三人の視線が集まる。
だけど、つい寝たふりをしてしまった……。
やっちゃった。
完全に起きるタイミングを失ったよぉ……。
「ふむ、彼女のデータは既に取ってある。必要なら渡すが――」
「あ、いや…必要ありません。ただ、彼女は宝玉の使い手――契約が可能なのですね?」
「まあ、恐らくそうだろう。まだまだ宝玉に関しては、未解析な部分が多分にあってな」
な、なんだろ。
さっぱり意味が分からない話しをしてる……。
あ~~んもぉ、こんなことなら最初に起きてれば良かったぁ~~。
その後も二人の話しは続いた。
結局、話しの内容は殆ど分からなかったけど、わたしの力―――途中までしか覚えていない、バリヤーを張ったり炎を出したりした力は、宝玉が関係してる……。
唯一理解出来たのは、それだけ。
「――では博士、研究を続けて下さい」
「ああ分かっている。また報告しよう」
それでは――と、部屋を出て行った学園長さん。
よし!
今かな――起きるタイミング。
バタン―――――――――
と思ったら、また誰か入ってきた。
「ち~~~~~っす」
「白河~~例の子起きたか?」
男の子だ。
しかも二人。
ど、どおしよ……またタイミングが……。
「なによぉ~二人揃ってぇ。気持ち悪いわね~~。澪ちゃんならまだ寝てるけど…用でもあるの?」
白河さんが、親しげに話している。
ここからは見えないけど、神崎さんかな……知ってる人で良かった。
「いやな、駿介が可愛い子だって言うからさ…ちょっと見に来たんだけど、佐倉だったのか」
「へぇ~~可愛い子なら見に来ちゃうんだ……私以外、興味が無いって…あれだけ言っておいて!?」
「わ! バ―――バカ!! 違うって! お――お前も居ると思ったから…だな…つまり……」
白河さんが、ふんっ――とそっぽを向いて怒ってる…。
対して神崎さんは、言い訳に一所懸命だ。
あぁ―――こんな空気じゃ起きれないよぅ……。
わたしって、なんでこんなに気が弱いんだろう。
わたしのバカバカ!
はぁ~、心の中で叫んでもしょうがないよね……。
と、自虐的になっていたら、もう一人の男の子が視界に入ってきた。
その子は、さっき胸を打たれた男の子―――。
良かった、無事だったんだ。
よくみたら、可愛い顔をしている。
背もまぁまぁ高いし、髪型もナチュラルに長めでいい感じ。
なんだかちょっとタイプかも……。
―――って、わたしのこと可愛いって……神崎さんが言ってたような……。
や――やだ……どうしよ……。
ちょっとドキドキしていたら、その子が近づいてくる。
―――やば! えと…寝たふり寝たふり……。
慌てて目を閉じると、足音がすぐそこまでやってくる。
わたしの隣に居る気配……。
ドキドキ……。
あぁ~ん、どうしよぉ~~わたしのこと見てるのかなぁ~~。
「あーやっぱこいつ、胸ちっちぇーな」
ガーーーーーーーーーーーン
すぐ側で聞こえる声。
そんなぁ~~ひどいよぅ。
わざわざ口に出して言わなくても……。
「ふむ…駿介、そう悲観する事は無い、彼女はまだ13歳だ。それに…一応Bカップはあるぞ。身長145センチ、B74、W52、H76――現段階では中々のスタイルだ、しかも…私の見立てでは、恐らく白河君位まで成長するだろう。」
え? え? な、なに?
それってわたしのこと……え!?
どうしてあのボサボサ頭の――じゃなかった、博士って呼ばれてるあの人が知ってるの!?
「へ~~この子がなー。少女大好きの如月さんが言うなら、間違いないんだろうな。良かったな、駿介」
「ちょ――ちょっとぉ~~何いやらしい目で見てるのよっ!! 駿介君もやめなさいっ!! ―――って、如月さんも、ダメじゃないですか! 勝手に女の子のこと調べちゃ!!」
「―――っふ、白河君も言うようになったな。私は科学者だ、この探究心と情熱は消える事は無い。ああそうだ、君もそろそろデータを取らないといけないな、そこに横になってくれるか?」
「絶対に嫌です!!」
うぅ……この展開って……。
あの如月さんって人、女の人なのに変態なのかなぁ……。
あぁ……だけど、もう絶対に起きる度胸がない……。
「そっか~~こいつが白河みたいにか……そしたら、もろストライクゾーンど真ん中なんだけど――」
側で聞こえる声――あの子、駿介君って呼ばれてる子だ。
それって…わたしのことだよねぇ……。
「ちょっと、駿介君! 私のこと呼び捨てにしないでよねっ、年下でしょ?」
「いいじゃんか、俺だって神崎の記憶持ってんだから。それに、俺も白河のこと好きなんだぜ?」
え? 白河さんのことが好き……じゃなくって!
記憶がどうとか……話しが見えないよう~~。
「だけどこいつ、超可愛いよなー」
や…やだ……物凄く近くで気配を感じるよ~~。
「髪の毛もサラッサラだし――」
―――――――!!!!
や―――!! 髪を撫で撫でされてる!?
パチクリ――――
ビックリして、思わず目を開けてしまう――。
すると、心配気味な顔でわたしを覗き込む、駿介君の顔が…目の前に……。
「あ、起きたのか。具合はどうだ?」
「……ぁ……ぇと……そのぅ……」
顔がカァ~となるのが分かる。
駿介君の顔が近い……。
しかも、頭に手を置かれて……。
「だ―――大丈夫ですっ―――ゴツン!!」
「いったぁ~~~いぃ……」
「うおっ痛っ!!」
と――飛び起きたら…駿介君のあ、頭に―――うぅ~~痛い……ゴツンって―――。
うぅ~~恥ずかしいよぉ~~。
フラフラとソファーから立ち上がる―――
だけど、さっき血を流したせいか、ヨロヨロとその場に片膝を突いてしまう。
あ――ダメ――激しい立ち眩み―――。
堪らず頭を振っていると、駿介君から予想外の言葉が聞こえてきた。
「お…おい大丈夫―――って、お前……子供っぽい下着履いてんだな。」
「え―――?」
しばらく言っている意味が分からなかった。
でも、彼の目線を追うと……わたしの……。
「わっ!!」
慌ててスカートを手で押さえる。
あ、あはは……全開だったみたい。
は、恥ずかしい……。
「―――って違うの!! きょ、今日はちょっと…シマシマだけど……も、もっと可愛いのだって持ってるし……」
「お、そうなのか? じゃあ次、期待してっから――」
「う、うん――」
―――あれ?
わ、わたし何言って……。
「聞いたか白河? 駿介と佐倉の会話。あいつら中一のくせに、下着見せたりしてんだぞ? だ、だからお前も…」
「バカなこと言わないで!! 君がそんなだから……私がいろいろ嫌なのっ! 絶っ対に見せない!!」
「なんでだよ~~」
◇◆◆◇
結局、あの後すぐに部屋を飛び出しちゃった……。
だって恥ずかしかったんだもん。
本当は宝玉の事とか、聞きたかったんだけど……。
ちなみに、さっき居た場所は学園の地下でした。
出た時にドアを見たら、『研究室』って書いてあった。
それと…わたしは白河さんに運ばれて、ここに来たらしい。
意識がなかったから、助けてくれたみたい。
優しいな……白河さん……。
……えと、その情報はね、隣で着いて来る、駿介君が教えてくれたんだけど……。
「――待てよ、お前、寮へ帰るんだろ? 送ってくからっ」
「い、いいよ――もう能力使うし――」
さっきから、ずっと着いて来る……。
恥ずかしいから一緒に歩いてほしくないのに。
「言っとくけど、校舎の中では力は使えないぜ」
え? うそ?
立ち止まり、集中してみる……。
ほんとだ…周りの気配を感じることが出来ない。
「―――な、使えないだろ」
「…………」
「お、おい……悪かったよ…さっきはさ…だから、怒んなよ。な?」
ポンッ――と頭に手を置かれる。
嫌じゃなかったけど――
バシ――――とすぐに手で払いのける。
「怒るなって」
「怒ってない」
だけど、何故かツンツンした態度になっちゃう。
だってね、白河さんの事が好きって言ってたくせに、わたしに着いて来るし……。
ま、まぁ…心配してくれてるんだろうけどぉ……。
ちょっとぐらい、話してもいいかなぁ。
「あ、あの……駿介君?」
「お、おう…なんだ」
「宝玉って、なに?」
気になる事を聞いてみた。
だって、他に話す事無いし……。
駿介君は、ちょっと難しい顔――と言っても童顔だから、可愛い感じで悩んでいる素振り。
あ、可愛いって言うと男子って嫌な顔するんだよね。
なんでかな。
「んん~~ぶっちゃけ、俺はあんまり知らないんだよなー」
「そ、そう――」
「知ってることは、白河が宝玉の力を使ってるって――ことぐらいかなー」
白河さんの、あの力が―――宝玉の力。
あの炎……『朱雀』って呼んでたっけ……。
じゃぁやっぱり、わたしが使った炎やバリヤーも……。
あの後、どうなったのかなぁ。
きっと――白河さんが、あの漆黒の翼を追い払ってくれたんだよね。
「ご、ごめんな……あんまり知らなくて……でも俺さ、研究室へはいつも顔出すから、今度如月さんに聞いといてやるよ。な?」
「そ、そんなに気を使わなくっていいよぅ~~悪いしぃ」
「バ――全然悪くねえっての!」
なんだろ……。
駿介君、わたしに優しい。
あんまり男の子と話したことなかったから、よく分からないけど……。
こういうのが普通なのかなぁ。
「あのさ……違う話し、してもいいか?」
「う、うん……」
「お前―――あ~~っと……澪って呼んでいいか?」
「え? べ、別にいいけどぉ…」
急に改まってどうしたんだろ。
しかも、そっぽ向いちゃって、こっち見てくれないし…。
「澪! お前――その……彼氏とかいるのか!?」
「ええ!? い、居ない居ない!! 居るわけないよぉ~~わたし、やっと中学一年なんだよ!?」
「そ…そうか……じゃあさ、好きな男のタイプってどんなだ?」
え? え? それって一体どういう―――。
そんな事聞かれたのなんて、初めてだ……。
ひょっとして……わたしに気があるのかな。
そう言えば、超可愛いって……。
う~うん、違うよ。
だって、白河さんの事が好きって言ってたもん。
勘違いしちゃダメなんだからっ、世間知らずだって思われちゃうよ。
いろんな事考えて、頭がぐるぐるする。
「―――ご、ごめん……今の、聞かなかったことに―――」
あ――やだ―――
「ま、待って!! ち、違うの!! えと、だから…あの…ちゃんと言うから待って!!」
「お、おう……」
やっちゃったぁ……。
急に叫んだから、駿介君がどん引きだよぉ……。
だってぇ……折角聞いてくれたのに……ちゃんと答えないとって思ったし……。
―――って、やだぁ……別に告白されたわけじゃないんだからぁ。
ぶんぶん頭を振る。
「大丈夫か? やっぱ答えなくてもいいぞ」
わ! 見つめられてる…見つめられてるよぉ~~。
絶対顔が赤い! やだ、見られたくない!!
と…とにかく俯いて……えぇ~と……。
「い、今考えてるのっ!!」
「そ――そっか――」
なんて言えばいいんだろう。
好きなタイプ…好きなタイプ……見た目は駿介君みたいな感じがいいんだけど……
言えるわけない―――。
そ、そうよ…遠まわしに言えば……
「えっと、背がちょっと高くって―――」
「おう」
「―――顔は可愛い感じで」
「可愛い!? 女みたいな顔ってことか!?」
「ち、違うよぉ~~」
どんな言い方すればいいの?
「ごつい顔じゃないって感じか?」
「あ――そうかな」
ま、まぁいっか……。
「―――で、優しい人!」
「優しい人か……じゃあ…会ったばっかりだけど、俺なんてどお?」
「えっ!? 駿介君!?」
「そう、俺」
うぅ……なんて答えたらいいの!?
あ、玄関が見えてきた。
に…逃げちゃおっかな……。
って、やだ! わたしの靴って外履きだよ!
これじゃ土足……じゃなかった、なんて言えばいいの!?
誰か教えてよう……。
「―――だよな、俺なんてタイプじゃねえよな。お前、超可愛いし―――」
「え!? まだ何も言ってないよっ!!」
「いや、いいさ――」
やだ……わたしが黙ってたから……。
えぇ~と、えぇ~っと……。
「ま、まぁまぁ…かな?」
「へ?」
「だ、だからっ! まぁまぁ!!」
キャァーーーー!!
テンパって偉そうなこと言ったよ……わたし……もぉダメ……。
「澪……それって―――俺にもチャンスがあるって事か!?」
「あ、あるんじゃない!? じゃあねっ――――」
もう玄関だったから、ダッシュで外へ出て能力発動―――。
シュッ―――――――――
一瞬で消えて部屋に戻っ―――
「キャッ!」
「ふぎゃっ!」
ベッドの上にダイブした。
しかも優ちゃんの。
そして、優ちゃん寝そべって本読んでた…。
「こ――このスーパードジっ娘!!」
「ご、ごめんなさい……」
「やっと帰って来たと思ったら、いきなり私にボディプレスって、どういうことなの!?」
ぼでぃーぷれ…す?
「はいはい、分からない単語使っちゃったねー。頭にハテナマーク出してる暇あったら、どけっちゅーの!!」
「キャアアア!」
思いっきり突き飛ばされた。
でも、空中で勢いを止めてそこで静止。
ぷかぷか宙に浮いたりしてみる……。
へっへぇ~~~ん。
「なに勝ち誇ったみたいに、ニヤニヤしてんのよ……気持ち悪い……あんた靴脱ぎなさいよ」
「あ…そか…えへへぇ」
急いで靴を脱いで――そのまま能力でスゥ~っと入り口へ飛ばす。
「横着なやつ…」
優ちゃんに何か言われても全く気にしない。
えへへ……。
「――って、ほんとなんなの!? 私の顔見てニヤニヤするの止めてくれる!? あ~~なんかいい事でもあった?」
「聞きたい?」
「別に」
またまたぁ~~強がっちゃって……優ちゃんに駿介君のこと話しちゃおっかなぁ~~♪
ニヤニヤ……
「マジキモッ!! あんたってやっぱり相当可笑しいよね!?」
「えへっ♪ そうかなぁ~~」
さっきの――駿介君との会話を思い出して、顔のニヤけが止まらない。
だって、嬉しかったんだもん。
バフッ―――――
自分のベッドにダイブ!
あ~~気持ちいい~~。
「で、何があったの?」
「え? んん~~内緒♪」
「あっそ……」
今日死にかけた事なんてすっかり忘れ、この後一日中ニヤニヤが止まらなかったのだった。
実際、気が弱いのか強心臓なのか、判別が難しい。
只一つ言える事は、これからの学園生活が楽しみで仕方がない、澪だった。
第5話へ続く
第4話でした~~。
どうだったですかねーー。
今回はかなり悩みました。
表現が難しい!!
たぶん、途中で読みずらい場面もあったかと……。
嗚呼……先が長い……。