第3話 入学式と現実
「――私が当学園の園長、榛原です――宜しく――。」
前方のステージで、挨拶をする学園長さん。
わたしの周りでは、大勢の新入生が緊張した面持ちで話しを聞いている。
って、ごめんなさい皆さん!
えっと……澪です。
今はですねぇ、入学式の最中なんですっ。
で――学園長さんのお話しを聞いてるんだけどぉ…。
「よく学園にいらしてくれた――と言っても、半ば強引な政府の取り決めだった訳ですが――」
なんだか結構若い人――しかも女性。
顔立ちが良く、モデルさんみたいな体型をしてる。
気になるのは、その長くて青い髪。
とっても綺麗なストレートヘアだ。
もしかして、能力者なんだろうか。
「既にご存知かと思いますが、我が学園の在校生は292名。そして新入生の君達――154名を含めて446名となる――」
そうです――実は新入生は、いっぱい居たんです。
殆どの人が前泊したみたい。
考えてみれば――そうだよね。
東京駅から電車で一時間以上もかかるんだもん。
ここに居るのは、全国から集まった生徒なんだしぃ。
でも…ここに来て驚いてます。
それはですねぇ、男の子が居る事。
ここは能力者が集まる学園。
そして、能力者と言えば女子が当たり前。
わたしが知る限り、公に公表されているのは、能力が発現する子は女子に限るって事だけ。
在校生に男子は見当たらないけど、新入生の中には結構居るみたい。
とは言っても、圧倒的に女子が多いけど。
そんな事を考えて、キョロキョロと周りをみていると――
「そこの貴方――今からとても重要な話しをします。集中して下さい――。」
学園長さんが、フワリとこちらへ飛んできて、わたしの目の前――空中で停止した。
え? わたし? やだ……どおしよ……。
学園長さんを見上げたまま、固まるわたし。
在校生を含めた400人以上の注目が、一斉にわたしに集まるのが分かる。
緊張で、変な汗が一瞬にして吹き出してくる。
な……何か言わないと……そ、そうだ、まずは謝って……。
「ごっ、ごめんなひゃい――ゴツッ――痛っ!!」
いやぁ~~~~~緊張で噛んじゃったよぉ~~~~~
しかもぉ~~頭を下げたら、前の人の頭にゴツン――って……。
「ぷっ」
「ククク……」
「やだぁ~~なにあの子ぉ~~」
場内に漂う失笑……。
そして、前の人が振り向いてわたしを睨んでる。
「ちょっと! 痛いじゃないの、あんた!!」
「ご――ごめんなさい――ゴツンッ!!――」
「「痛――!!」」
つぅ―――またやっちゃったぁ!!
今度は、振り向いたその子の額に……頭突きをしてしまった……。
「ぷぷっ!!」
「クスクス……凄い音したんだけど……」
「超ウケる……なにあの二人、コンビ?」
周りの子が吹き出して、場内に笑いが起こる。
……いや……どうしたら……
初日から笑いものなんて、友達なんてできないよぅ……。
「あんたさー、私になにか恨みでもあるわけぇ!?」
前の人が、額を押さえて文句を言っている。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………。」
必死に謝るわたし。
クスクスと聞こえる失笑……。
そんな場の空気を治めたのは、彼女だった。
「皆静かにしろ!! 学園長に対して失礼だぞ!!」
堂々とした態度で言い放った彼女は――峰崎美香さん。
わたしの初めてのお友達――美香だった。
一瞬で静まる場内。
ちょっと離れた距離だったけど、わたしに向けてウィンクしてくる美香。
ありがとぉ~~~美香ぁ!!
「全く……ネタはそのぐらいにして下さい。皆さんもお静かにお願いします。」
やれやれといった感じで、スゥ~っとステージへ戻る学園長さん。
「これから、ある真実を皆さんにお見せします。在校生の諸君も、見るのは初めてでしょう。」
そう言った学園長さんの後ろに、突如現れる大きなスクリーン。
そして場内は暗くなり、映像が写りだした。
音も何も無く、ただどこかの都市を上空から見た映像だ。
建物の形からして、日本じゃない気がする。
すると、突然目の前にあった大きなビルが爆発――というか、オレンジ色に光った。
次の瞬間――粉々に砕かれて、崩れ去るビル。
え? なに? いきなりなんでこんな映像が――!?
「ちょっ……なによあれ……?」
「こんなの、ニュースでやってなかったじゃん。」
「CGじゃないの?」
当然みんな驚いてザワザワし始める。
それでも学園長は黙っていて、まだ続きがあると言わんばかりに映像を見つめている。
完全にビルが崩れた。
画面いっぱいに広がる灰色の煙――。
それが、今起こった事の現実をリアルに表現していた。
やがて煙が薄くなり――何か影が映りだす。
いえ、影ではなく――人の形――。
数人の人影が――徐々にはっきりしてくる……。
なんだろ。
空中に何人も浮いている……能力者だろうか。
やがて人影が、鮮明に見えてくる……。
白いワンピースを着た少女達のようだ……その姿は……
まるで天使……?
いえ――違う。
背中から伸びる――漆黒の大きな翼。
身体からは、禍々しい黒いオーラが立ち込めていて、その表情は悪意に満ちている。
そして少女達の手に、オレンジ色の光球が現る。
その光球は段々大きくなり、やがてその身体の何倍にもなった。
何かが起きる…………!?
とても嫌な予感がした。
それは周りの皆も感じたようだった。
その光景を固唾を呑んで見守る……。
やがて少女達は、一斉にその光球を地に向けて投げ放った―――。
「―――!!!」
声にならない叫び声が、場内に立ち込めた。
オレンジ色の光球は、地面やビルに次々と撃たれ―――大爆発を起こした―――。
そこで映像が途切れ、スクリーンが消える。
今のは一体――!?
これは現実なのだろうか……。
誰もがそう思ったに違いない。
しかし――この後、学園長から信じられない説明を受けた。
「今の映像を見て驚かれたと思います。でも――これはCGではありません、現実です。」
その言葉に一同が騒然となる。
もちろん、在校生も。
――あ、でも待って……さっき会ったばかりの……確か白河さんだっけ、あの人――
彩乃ちゃんのお兄さんと一緒みたいだけど、とても落ち着いていて、なんだか事情を知っているような表情……。
う~~ん。だからと言って、何が分かるわけじゃないんだけど……。
「皆さんは、数ヶ月前のロシアでの原発事故を覚えていますか?」
学園長のお話しは続いている。
そしてその原発事故は、誰もが知っている大変な事故だ。
一つの都市が壊滅――焼け野原になる程の大事故で、大きくニュースで取り扱われていたし。
「あれは事故ではありません。今の映像が真実なのです――。」
瞬間――ざわめく場内。
「嘘でしょ――!?」
「何だったの、今のは!?」
「そんな事って……」
皆一様に驚きの声を上げる。
当然わたしにも訳が分からない。
後ろを振り向くと、美香と目が合いお互い首を傾げる。
「今からお話しする事は、我々人類にとって非常に大切な事です。心して聞いて下さい――」
学園長さんは、淡々と話し始めた。
場内は静まり返り、皆がその話しに聞き入る。
その内容とは―――
先程の漆黒の翼を持つ少女達――彼女らは、異世界からの訪問者だという事。
その彼女達が、世界に向けて声明を発表している事。
声明とは――地球の明け渡し。
我々人類の排除。
もう何がなんだか分からない。
しかも、どうしてそんな話しをわたし達生徒にするの?
「彼女達は、あれから行動は起こしてはいません。こちらへのアクションも何もないのです。ですが――かといって、ここ日本が次に襲われる可能性もあるのです。」
人類に訪れた突然の危機。
それは他人事ではなく、今すぐにでもわたし達に襲い掛かる可能性がある。
学園長さんの説明は切々と続いていく。
そしてこうも言った――
「我が日本には兵器が乏しい。いえ――そもそも彼女達に兵器が通用するか分かりません。そこで、能力には能力で対応しようと考えたのです。」
また嫌な予感がした。
いえ、予感と言うより確信――恐らく生徒全員が感じたはず――。
「ここ神楽学園は、彼女達から日本を守る最期の砦になります! そして皆さんには、彼女達と戦ってもらいます――」
「!!!!!!!」
「た――戦うって!? そんな事、出来るわけないじゃないですか!?」
一人の生徒が学園長さんの前に、突然現れた。
たぶん、瞬間移動だと思う。
「そうよ! どうして私達が戦わなきゃいけないの!?」
「そんなの、自衛隊に任せればいいじゃん!」
「学園とか言って、私達を騙したのね!!」
その生徒がきっかけで、次々と飛ばされる野次やら文句。
わたしはどうしていいか分からなかった。
ただ、この場の成り行きを見守るしか……。
結局、わたし達能力者は、戦争の道具にでもならないと生きてはいけないんだ――
そんな後ろ向きな事ばっかりが、頭に浮かぶ。
尚も場内が騒然とする中、更にもう一人の女の子が現れた。
「恐がらないで――!!!」
と彼女が叫んだ――。
ちょうどわたしの頭上で浮いている。
彼女は先程の、白河さんだった。
場内はその一言で静まり返ったけど、その短い制服のスカートから覗く、花柄の下着に誰もが注目したと思う。
あ――その……いやらしい意味じゃなくって……いえ、男の子も居るわけなんだけど……。
デザインがその……凄く可愛いから、どこに売ってるのかなって……。
たぶん多くの女子生徒はそう思ったはず。
でもそんな空気じゃないから皆黙ってる。
そしてその白河さんは、勇ましい顔をしていたけれど、段々優しい表情になり――
「恐がっちゃダメ………う~うん、恐いよね。私も恐いから……でもね、彼女達と戦えるのは私達だけなの。何も全員で戦おうってわけじゃない、戦える人だけでいい。だから力を貸して、お願い――。」
そう告げて、手を広げる彼女は天使――いえ、女神様のように神々しい姿でした。
もちろん、女神様なんて架空の存在に会ったことはないけれど、その慈愛に満ちた姿に、誰もが魅了されたに違いない。
そうして、式は閉幕となった―――
まさか自分達が戦うなんて、夢のような――いえそんな悪夢は訪れないと、その時は誰もが思ったに違いない。
◇◆◆◇
「今日は授業なしか……ま、今のでどっと疲れたから助かったな。」
歩きながら美香が呟いた。
わたし達は、寮を目指し歩いているところ。
「さっきの話しって……ほんとなんだよね……。」
「だね。実は新入生歓迎のドッキリでした~~なんて展開を希望したいが……それはなさそうだ。」
ハァ~~二人して溜息。
しかも、学園寮までが遠い。
さっきまでいた体育館とは反対側。
校庭とおっきい校舎を挟んだ先にある。
「私達も飛んで行くか?」
「そうだよねぇ。」
生徒の全員が能力者なんだ。気を使う事もない。
周りを見たら、みんな飛んだり瞬間移動してる。
だから、わたし達も飛んだ。
すっかり仲良くなった、美香と手を繋いで。
無駄に高く飛ぶ――風が気持ちいい。
「澪、飛ぶの上手いんだな!」
「えぇ? そっかなぁ……こんなに堂々と、ちゃんと飛ぶのなんて初めてだよ?」
「なら、澪は相当な能力を持ってるんじゃないか? 私なんて、飛べるまで3日はかかったぞ。」
「えへへ~そんなことないよう~。」
澪は嬉しかった。
自分の能力をまた褒められた。
しかもここなら、その能力を隠す必要も無い。
なんたる開放感!
みんなが能力を持ってる――なんて素晴らしいんだろう。
入学式での出来事などすっかり忘れ、大はしゃぎの澪だった。
◇◆◆◇
美香と別れて、澪は一人部屋の前で佇んでいた。
203号室――手に持った端末に浮かび上がる文字を見つめ、考え込む。
顔を上げると、部屋のドアには203号室と記してある。
ここで間違いないよね。
あ~~でも緊張するなぁ。
だってね、相部屋なんだもん。
誰と一緒なんだろう。
「美香と一緒だったら良かったのになぁ。」
ここで固まる事、既に10分。
「うぅ……誰かわたしに勇気を下さいぃ……。」
ガチャ――――――――――――
突然部屋の扉が開いた。
わわ! やっぱりもう居た!
「――ったく、早く入んなさいよ。モニターで見えてるっつーの――」
可愛い女の子がひょっこり顔を出した。
そして二人は顔を見合して―――
「ああ!! あなたは――」
「あんた――さっきのドジっ娘!!」
劇的な再開を果たした二人。
まあ劇的というか、なんというか……。
彼女は、先程澪が頭突きを喰らわせた相手だった。
予想外の展開に、澪はパニクってしまった。
「はぅ~あ、あの~~そのぅ……さっきはすみませ――ガンッ――痛いぃ……。」
今度はドアに激突。
澪のその姿を見て、ドジっ娘とは言いえて妙だったと、その女の子は思っていた。
「もうそれはいいからっ、早く入んなって。ウザイから。」
手を引っ張られて、強引に中に連れ込まれて行く。
うぅ……ウザイって言われた……しょっぱなマイナスからのスタートなんて……。
「しかも…私ってドジっ娘なの?」
「はぁ? 100パー天然育ちのドジっ娘でしょーが、あんた。」
はうっ!? 声に出てた!?
「あ~あ、これから一緒に住む子が、こんなにしょっぱい奴だなんて……ついてないな、私。」
「そ…そんな……。」
しょっぱい言われたよぉ……。
「あ~~んもぉ!! 一々ヘコむなっ!! まぁいいわ、仲良くしたげる。あんた無害そうだし。」
「ほんとですかっ!!」
良かったぁ~、いじめっ子かと思っちゃったよぉ。
「――って、急に目をキラキラさせるな! 気色悪い……ほらっ、あんたの荷物も来てるよ、早く整理しなよ。」
「あ、はいっ。」
「えへへ……ちょっと攻撃的な子だけど、お友達になれそうな気がするなぁ。」
「聞こえてるっつーの。攻撃的で悪かったなぁ。」
「キャァ!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい-―――」
「それはもういいっての――」
あ…ははははぁ~。
まぁそのぅ……打ち解けたよね、きっと。うん。
言われた通り、荷物を整理する。
でも、あんまりないんだ。
「私は青木優菜宜しくね。」
ダンボール二っつだけだし。
帰ろうと思えば、お家にも帰れるし……。
「ちょっと、聞いてる?」
んん~~でも、もう少し服は持ってきた方が良かったかなぁー。
あ、でも普段は制服だしぃ…大丈夫かな。
「――っておい!! 聞けよっ!!」
「わっ!! ご――ごめんにゃしゃい……」
え? なんで怒ってるの!?
「『なんで怒ってるの?』――みたいな顔してんじゃないわよ!!」
あちゃ~~なんだか怒らせてばっかりだ…わたし。
あ、でもこの子…良く見ると、やっぱり可愛い顔してるなぁ。
紫色の肩ぐらいまでの艶やかな髪……身体はスラっとしていて、わたしよりちょっと背が高そうだし。
なんだか、ティーン誌のモデルでもしてそうな感じだ。
いいなぁ。
「――で、今度はだんまりかい。あんたってさー、コミュニケーションにとぉ~~っても難ありでしょ!?」
指を一本立てて、前のめりで聞いてくる。
あ~あぁ、わたしって付き合いベタなのかな……。
その後、なんとかお互いの自己紹介を済ませた。
この子はね、優菜ちゃんだからぁ、『優ちゃん』って呼ぶことにしたんだぁ。
可愛いね!
「――で、あんたは澪でいい?」
「いいよー。」
うふ♪
もう仲良し仲良し。
これでもう、三人もお友達が出来た。
嬉しい。
美香でしょ、彩乃ちゃんでしょ……
ピンポ―――――ン♪♪
「ん? 誰?」
「あ、わたし出るね!」
急いで玄関へ――って言ってもすぐそこだけど。
ガチャ――――ドアを開ける。
「――よぉ、遊びに来たぞ~~。」
「来たのですぅ~~~。」
ひょっこり現れたのは、美香と彩乃ちゃん。
ちょうど二人のことを考えてたからびっくり。
もちろんすぐに中に入ってもらう。
優ちゃんは、――誰?――的な顔をしている。
とりあえず、紹介しなきゃ。
「えっとぉ~、こちらは優ちゃん。わたしのルームメイトです。」
ほぉーそれは――と、軽く挨拶した美香が、「美香だ」と名乗ると、「彩乃ですぅ」と続く彩乃ちゃん。
みんなで仲良くなれるといいなー。
その後、それぞれの出身地を聞いたりした。
みんな関東圏内みたい。近いね。
なんて話してたら、更に訪問者が突然現れた――
「やっほ♪ 遊びにきたよ~~って……あれ?」
「――おい!! びっくりするじゃねえか!? 突然ジャンプすんじゃねえよ!!」
あの人は――確か、白河さんと彩乃ちゃんのお兄さん。
仲良く手を繋いで登場してきた。
「――あ、兄さ~~ん。彩乃も手を繋ぎたいですぅ~~。」
結局、急な来訪者で、一気に狭い部屋の密度が増した状態に。
そしてお互いに紹介を済ませ、再び仲良く談笑タイム。
優ちゃんはベッドに腰掛けて、なにやら美香と楽しげだ。
二人は気が合うのかな?
そして彩乃ちゃんと白河さんは、神崎さん――彩乃ちゃんのお兄さんと手を繋いで、こっちも楽しそう。
――あれ? わたし……仲間外れな感じが……。
ダ、ダメだよ! このままじゃ、ここにくる前と同じになっちゃう!!
せ――積極的に話しかけなきゃ……。
そ、そだ、あれを聞いてみよう……うん、あれしかない。
「あ、あのぉ……白河さんと神崎さん。」
「はい、なぁに?」
「なんだ?」
同時に振り向く二人。
息がピッタリだ。
「ふ、二人は……その……お二人は、こ、恋人同士なんですか?!」
思い切って聞いてみた。
だって、気になるんだもん。
物凄く可愛い白河さんが、なんだか冴えないこの人(彩乃ちゃんごめんなさい)と恋人っぽいから……。
「そうだよ」
「ああそうだ」
即答する二人。
やっぱりそうなんだ……神崎さんのどこがいいのかなぁ。
「わわ! 違いますぅ~、彩乃が恋人で、白河さんは愛人なのですっ!!」
と彩乃ちゃんが割って入るけど……なんて突っ込めばいいんだろ。
白河さんと神埼さんは苦笑いだ。
でも神崎さんが、ちゃんとフォローしてくれる。
「まあそうかもな。実際、彩乃が居ないと俺なにもできねえし。それに、俺達仲良いもんな。」
彩乃ちゃんの肩に手をかけ、抱き寄せる神崎さん。
ほんとだ。
普通の兄妹って、そこまで仲良いと気持ち悪いもんね。
「もぉ――ほんっとシスコンなんだからぁ……。」
白河さんはご立腹みたいだけど。
そんな三人に興味を持ったのか、優ちゃんが目を輝かせて質問した。
「ねぇねぇ~、聞いてもいいかな。三人はさ、お互いどこまで進んでるの? もちろんAとかぁBとかだよぉ~~。」
めちゃくちゃ楽しそうに聞いてるし……。
そんなの答えてくれるわけ――
「はいはい!! 彩乃はAまでですっ!!」
がくっ-――――
元気良く答える彩乃ちゃん。
手を挙げたその姿が、とても年上には見えない……。
「俺と白河は、AもBも未遂だ……。」
対する神崎さんは、そう言ってうなだれている。
そ、そうなんだ……手なんて繋いじゃって、すっごく仲良さそうなのに。
「ちょっ――なんでそんなこと言っちゃうの!?」
慌てて神埼さんの口を塞ごうとする白河さん。
「へぇ~~その話し、もっと聞いてみたいかもぉ。」
ニタァ~っとする優ちゃん。
た、確かにその未遂って部分が気になる……でも聞いて大丈夫なのかなぁ。
「お、聞いてくれるか……ええと、優ちゃんだっけ?」
「はい! 優ちゃんですよー。」
「ちょっとぉ~~ダメに決まってるでしょ! やめてよぉ~~~。」
ノリノリの二人に対して、照れて神崎さんの腕を引っ張る白河さん。
あはっ♪ なんだかとっても可愛い人だなぁ。
「こいつさー、いつでもキスしたっていいし、胸とか触ってもいいって言うんだけどさー。」
「「「うんうん」」」
つい、わたしも混じってマジ聞きしちゃう。
優ちゃんと美香とわたしの三人のお耳がだんぼ。
「もぉ~~~なんで言っちゃうのかなぁ~~君はぁ~~それ以上言ったら、ほんっと死刑だからね。」
キ――っと、神崎さんを睨みつける白河さん。
「まあ待て。たまには、他の人にも相談したっていいじゃねえか。」
「う…う~~ん、でもぉ……。」
わ! 見つめ合って話す二人……うわぁ~~とっても熱い! 火傷しちゃうよぉ。
そんな二人には全くおかまいなしで、ピッタリとお兄さんにくっついている彩乃ちゃん。
黙っている感じがちょっと恐い……大丈夫かな。
「じゃあちょっと実践するから見てな。」
そう言うと神崎さんは、白河さんの胸を両手で触ろうとする――。
え? え? こんなところで?!
手がどんどん近づく……うわ――今気付いたけど、白河さんの胸って――すっごいおっきい……。
じゃなかった! ここではまずいでしょう!?
パシィ―――――
あれ?
もう少しで触るってところで、神崎さんの手が跳ね返される。
その後何度も神崎さんはチャレンジするけど、やっぱり寸での所で見えない何かに跳ね返されてしまう。
「――な? 分かっただろ? こいつさ、良いとか言うくせに、心の中では絶対防御なんだよ。」
「ち、違うのぉ~~わ、私だって――触ってほ――じゃなかった……あははは……か、勝手に能力が発動しちゃうっていうか……無意識っていうか……はは……。」
「ふふ~~ん、な・る・ほ・どぉ~~~。興味深いですねぇ~~~。」
あいかわらず優ちゃんは突っ込んでくるなぁ~。
でもこの二人――拗ねる神崎さんに、耳まで赤くして照れまくる白河さん――。
すっごく可愛くないですか!?
なんだか小学生の恋人同士みたいっ。
楽しいぃ~~。
「まあ、その前にさ。いつになったらキスさせてくれんだよ!?」
「あ~~そんなこと言っちゃうの!? き、君が――全っ然ムードの無いことするからでしょぉ!?」
「バ、バカやろう、お前がいつも俺を吹っ飛ばすんじゃねえか!?」
あちゃ~~痴話喧嘩が始まっちゃったよ。
「じゃぁしてみなさいよぉ、どうせいつもみたいにムードの無いこと言うんだからっ。ちゃんとする度胸も無いくせにぃ!!」
つん――と目を閉じてキス待ちの態勢をつくる白河さん。
え? うそぉ!?
な、何この展開!?
当然、美香と優ちゃんは「やれ~」だの、「いけぇ~」だのと押しまくってるけど……。
チュ――――――――
ええーーーーー!?
ノータイムで神崎さんがキスした!?
触れるだけの軽いキスだけど―――
「わっ!!! な――なんでほんとにするのよっ!!」
「バ――だってお前がしろって言ったんじゃねえかよ!?」
「し-――信じらんない!! い…今のが私のファーストキスになったじゃないっ!? もぉ~~~~~ほんとに死んじゃえ! リアルに死んじゃえ!! 今すぐ死んじゃえ~~!!!」
「い――痛ええよ!! ガチで殴るな!!」
その後、本気で神崎さんをボコボコにした白河さんは、怒り収まらずどこかに消えて行ってしまいました……。
あぁ~~なんだか凄く楽しかったぁ。
わたしも恋人ほしいなぁ~いいなぁ~~。
「可愛そうな兄さんですねぇ、彩乃が慰めてあげますよぉ。」
と、最後に兄妹のキスで幕を閉じました。
しかし……彩乃ちゃんにキスされて、微妙に嬉しそうなお兄さんがちょっと気持ち悪かったです。
◇◆◆◇
みんなが退散して、まったりとした室内。
やることもないので、わたしも優ちゃんもベッドでゴロゴロ。
「さっきの二人――爆笑だよねぇ……ぷっ……やばっまた思い出してきた…クック……。」
そんなに笑ったら失礼だよぉ~~。
でもわたしも思い出して、つい顔がニヤけてしまう。
「ねぇ、優ちゃんは彼氏とか……そのぉ――」
「居ないってそんなの。13年間私の歴史に彼氏なんてない。」
質問の途中で切り捨てられた……。
まぁそうだよね。
まだわたし達って中一だもん。
「でも告白されたことは何度もあるよ。勇気あるよねぇ~~能力者の私に告白してくるなんてさ。」
「いいなぁ~わたしなんて一回もないよ。されるどころか、ガン無視だもん。」
言っておいて自分でヘコんでしまう。
優ちゃんは、「へっへ~ん」と鼻高々だ。
なんだろう、この差は……。
ついくせで、自分の髪の毛を触る……。
落ち込んだ時って、髪の毛を触ると心が和みません?
――ってあれ?
いつも着けてる髪留めのゴムが無い。
や、やだ……あれが無いと困る。
だって、お気に入りのウサギちゃんが付いたやつなんだもん。
「優ちゃん、これと同じ髪留めのゴム見なかった?」
反対側に着けてあるゴムを指差して聞く。
「ん? 知らないよ。無くしたの?」
慌てて部屋中を探す……。
でも無い――。
どこいったかなぁ。
落としたとか――?
ダメだ!! 探しにいこ。
「ちょっと探してくるね。」
「あいよー。」
急いで靴を履く。
念を入れて、辺りの気配を探る……。
でも、見つからない。
だよねぇ、あんな小さい物。
とりあえず、校庭まで――。
早く見つけたいから、能力を使っちゃう。
シュ――――――
「はぁ~~せっかちなこって……。」
優菜は瞬間移動出来ないので、便利そうでいいなぁと澪の居なくなった空間をしばらく見つめていた。
よしっ、移動成功!
わたしって、実は瞬間移動も上手いのかも。
今まではプロテクターを付けていたから、殆ど能力を使えなかった。
だから、実際に瞬間移動も――まあ実はこっそりと、何回か試した事はあるけれど。
でもやっぱり、堂々と使えるのは気持ちいい!
――って、そうじゃなかった……探さなきゃ。
「う~ん、どこに落としたかなぁ、ウサギのゴム……。」
「もしかして、これを探してるの?」
「キャッ!!」
急に背後から声を掛けられた。
驚いて瞬時に振り向く。
すると、小学生――4年生くらいかな?
小さい女の子が立っていた。
手にはわたしのウサギのゴムを持っている。
良かった、この子が拾ってくれたんだ。
「ありがとぉ、それお姉ちゃんのなんだ。返してもらってもいい?」
「…………」
あれ? 反応が無い。
しかも、下を向いていて表情が見えない……。
可笑しいな。
「ね、ねぇ聞こえてる……?」
恐る恐る、その子の顔を覗き込もうとした瞬間―――
バッ――――――――――っとその子が顔を上げた!
「……やだね……」
子供なのに、恐ろしい表情をしている。
「―――ッヒ―――」
こ、恐い――なにこの子……全く感情を感じない。
なのに、顔を歪めてこの世のものとは思えない表情でわたしを見つめてる……。
ボッ―――――――――
突如、その子の手のひらにあったゴムが、一瞬で燃えカスとなってしまう。
な――なにを―――!?
ダ、ダメ!! 恐いっ!! ……恐ろしい……。
一刻も早く逃げなきゃ……。
なぜか頭の中で、激しい警告音が鳴り響いているような感覚。
本能が危険だと叫んでいるように……。
瞬間移動しようと、精神を集中させる……。
……ぁ……ダメ、出来ない……恐くて集中出来ない……。
わたしは堪らず、逃げるように走った!!
でも、10メートルくらい走ったところで足がもつれて倒れてしまう。
あぁ……そんな……。
「逃げるなんてダメだよ……遊んでよ、ねぇ?」
離れたはずなのに、その子はすぐ目の前に立っている。
「……や……やめて……お願い……」
悲痛な叫び――声が萎縮して、大きな声が出せない。
「遊んでってばああああああああああ!!!!!!」
その子が叫んだ瞬間、わたしの身体が空高く飛ばされた―――。
物凄い速さで舞い上がる身体。
一瞬で地上数百メートルまで飛ばされる。
は――速すぎて……息が出来ない……。
そしてやっとスピードが落ちて、上昇していた身体が止まる。
助かった――?
と思ったとたん―――さっきの数倍の力で地上へ向けて落とされる―――!!!
音速とも思える速度で、ぐんぐん地上が迫る!!!
このままじゃ死ぬ――――
わたしは精一杯の能力で抵抗した。
その甲斐あってか、後数十メートルという所で地上との激突は避けられた。
何とか止まったみたい……。
恐る恐る、地上へ目を向けてあの子を探す。
でも居ない。
わたしは安堵し、胸を撫で下ろした。
とその時―――
「ダメだよ……止まったら、遊びにならないよ……。」
低い声で囁く声が背後で聞こえ、ぞっとする。
ゆっくりと振り返ると……
「いやああああああああああああああ!!!」
あの子が――般若の面のような顔でこっちを見つめていた。
思わず漏れる悲鳴――。
「い、いや……やめて?」
なんとか前身をジタバタさせて、徐々にそこを離れる。
しかし―――
次の瞬間――その子の背中から漆黒の翼が広がり、猛スピードでこちらへと迫ってくる。
前身から禍々しい黒いオーラが溢れ、そのオーラが手に集中されていく。
わたしは逃げた、とにかく全力で。
こんなにスピードが出せたのかって思うくらいの速さで――。
しかし一瞬で追いつかれ、周り込まれる。
ダメ――逃げられない!!!
「あははははは!! 死んじゃいなよ!! 今すぐにいいいいい!!!」
不気味な叫びと共に、その子の腕がわたしのお腹を貫いた。
そして力無く落下し、地面に衝突した―――。
第3話でした~~。
いかがでしたか?
ちょっと話しのテンポが速すぎた気がしますが、まあ今の僕には限界ですかねぇ。
そしてあいかわらず、彩乃が切ない感じですみません^^;