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第2話 学園まで来ましたっ

「うわぁ~~~すっごい!」



すごいすごい!! なんなのこれ。


神楽駅――浮遊学園都市に着いたみおは驚きの連続だった。


まず最初に驚いたのは、駅が無人だったこと。


全て機械で管理されていて、駅員さんや車掌さん等といった人達はいない。


動いている物と言えば所々に配置されている、クルクル回りながら作業する清掃用ロボットだけだった。



「誰にも会わなかったね…。新入生って、わたし達だけなのかなぁ?」



独り言だったけど、美香にも聞こえるように呟く。


結局、電車を降りた時にも他に生徒は居なかった気がする。


というより、乗客はわたし達だけだった。



「いや……あそこを見てみろ。」



美香が指差す方向には、同じ中学の制服を着た女の子がキョロキョロと辺りを見渡していた。


迷子にでもなったのかな?


そう思う程、挙動不審な動き……。


足をモジモジしながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと。



「あわわ…ま、まずいですぅ、着いてそうそうピンチなのですっ!」と一人で騒ぎながらオロオロしている。


「何がピンチなのかな? 美香。」


「さぁな。財布でも落としたんじゃないか。どれ、どうせこの後知り合いになるんだ、困り事なら手伝ってやるか。」



カッコ良く腕まくりをしながら、その子へ近づく美香。


その姿が堂々としていて実に男らしい。


女の子なのに……とは言わない。


だってね、ホントにカッコ良いんだよ、美香って。



「おい、どうした。困ってるのか?」



その子へ近づいた美香が、迷わず話しかける。


「ひゃい!」と肩を上げてまさに驚いた感じの女の子は、恐る恐るこちらへ振り返り――顔を赤くして一瞬照れた表情を見せるが、それどころではないと矢継ぎ早に、



「と、ととと…トイレはどこですかっ!?」


「そこ。」

「そこだよ。」



まさに目の前にある場所を聞かれたので、思わず無表情で指差す二人。



「わわわ! こんな所に――!?」



こっちを見もしないで、慌てて駆けて行く女の子。


ピンク色の髪――短めのツインテールをピョコピョコなびかせ、大慌てで入って行ってしまった。


わたしと同じ(・・・・・・)で背が低くて、お人形さんみたいに可愛らしい子だった。


『わたしと同じ』っていうのは、わたし自身も、自分の事をちょっとは可愛いかなって思っているから。


まあ思ってても言わないし、あんまり言われた事もないから、自信は無いんだけど……。



「男の子がいなくって良かったねぇ。」


「そうだな、かなりテンパッてたみたいだしな。」



漏れそうな時って恥ずかしいし、男の子が居たら尚更だ。


授業中に、良く手を挙げてトイレに行ける男子が、ちょっと羨ましかったりする。


なんてどうでもいい事を考えていると、トイレの奥から叫び声が聞こえてきた。



「ええ!? またまたピンチなのです~~~~~。」



何事かと思い、「わたし行ってみる!」と急いで中へ駆け込み、「どうしたの!?」と聞くと、


「か――紙が無いですぅ……。」


と弱々しい声。


「待ってて」と他の個室やら用具入れやらを調べるが、どこにも紙は無い。


それよりも、個室を開けたと同時に便座のフタが自動で開いた事や、用具入れの中で動いていた清掃ロボットの方が気になってしまった。


でも――大なのか小なのかは知らないけど、紙がないのは一大事。


背負っていたデイバッグから、来る途中でもらったチラシ付きのティッシュを取り出し、ドアをノックする。


「こ、これで良かったら使って……。」


「……ありがとうございますぅ……。」


少し空いた隙間から手が出てきたので、そっと渡してトイレを出る。


外で待っていた美香に、「大丈夫なのか?」と聞かれたのは言うまでもないけれど、仕方がないので説明すると、「やれやれ…」とがっくりとした表情。


程なくして現れた女の子は、大変申し訳なさそうな顔をしていた。



「……お恥ずかしいところをお見せしてしたのですぅ……。」


「まあ気にするな。生理現象はみんなあるんだ。それより、君は新入生かい?」



今あった出来事をサラっと流し、話しを切り替える美香。


さすが男らしいなぁとつい思ってしまう。



「えっとですねぇ~、新入生というか…編入というか…。」



彼女はどうやら新入生――というわけではないらしい。


なにやら事情がありそうだけど、中学2年生だって。


わたし達より1個上だ。


見た目は殆どわたしと同じ位だから、てっきり同級生かと思ったんだけど……。



「峰崎美香だ。美香と呼んでくれ、宜しく。」


「み、澪です! 佐倉澪!」


神崎彩乃かんざきあやのですぅ。」



簡単に、三人仲良く自己紹介を済ませる。


「宜しくですぅ~」と子供っぽい話し方だけど、終始敬語で丁寧な彩乃ちゃん。


最初は「宜しくお願いします、神崎先輩」って挨拶したんだけど、本人の希望で彩乃ちゃんって呼ぶことになった。


わたしも、その方が可愛いからいいと思う。



三人で歩き出す。


その間、彩乃ちゃんが良くしゃべる。


「ですからぁ~、楽しみなんですっ!」


顔の前で、両手で握り拳を作る彩乃ちゃん。


なんでも、学園にはお兄さんがいるんだって。


しばらく会ってないらしく、久しぶりに会えるのがとっても嬉しいみたい。


いいなぁ~お兄さん。


あれ? でも待って。


能力者って……確か、例外無く女の子だけだったはず……。


んん~~ま、いっか。


そのうち分かるよね。


深く考えるのは止めにした。


だって、もう駅を出るから。



「うわ――すっご~~い! なにこれ!?」

「おお……こりゃ凄いな。」

「わわ! 都会ですっ!!」



目の前――駅前に広がる、ビルやらお店やらを感嘆の表情で見上げる三人。


その建物の多さは、さながら新宿や渋谷の駅前のようだった。


でも、周りには人っ子一人居なかった。


この町全体がオープン間近のショッピング街のように、ただ――その開店が来る日を待ち望んでいるかのようだった。



「誰もいないね。」


「そうだな。動いているのは、清掃ロボだけか……。」


「待ってくださいっ、こ、ここ…この人は……。」



美香と二人で黄昏ていると、少し遅れ気味で歩いていた彩乃ちゃんが、何かを見つけたみたい。


そこは、普通の雑貨屋さんだった。


いや、彩乃ちゃんが驚いているのはそのお店ではなく、その中の店員さんだった。


見た目、明らかに人間ではないその人――というよりも人型のロボットだったんだけど……。


人型と言っても、そんなに人っぽいわけじゃない。


髪も生えていないし、服を着ているわけでもない。


身体?――構成されるパーツと表現した方が良いかな――は、金属的な物で、人目でロボットだと分かる。


そのロボットがせっせと店先の品出しや、陳列作業をしている。


この時代、ロボット自体は珍しくはなかったけど、ここまで正確な動きをするものは始めて見た。


再び感嘆の声を上げる三人。



「ほぇ~~すごいですぅ。別世界に来て、驚きの連続なのですっ!」


「別世界? なんだ、彩乃はパラレルワールドの住人なのか?」


「へ? あわわ……違いますっ! 秘密で――じゃなかった、えっと……」


「ん…? ああ悪かった。突っ込んじゃいけないみたいだな。私は特に気にしない。その件はまたいずれ話してくれ。」



「内緒ですよ、美香さん」となにやら二人で話してるみたいだけど、わたしには意味が分からなかった。



◇◆◆◇



そのまま10分程歩いたら、ショッピング街というかビル街を抜けた。


道の両サイドには、大きな桜の木が立ち並び、その先に学園らしき門が見える。


そしてその更に先に見える校舎。



「おっきいね。」



遠くからでも分かる学園の規模の大きさ。


確か案内書によると、中等部・高等部までだったはずなのに、その規模は大学並み――いやもっと大きいのかも……。



「ドオォォォォォォーーーーーーン!!!!」



「キャッ!」

「なんだ今の音!?」

「あわわ……凄い音ですぅ」



突然爆音が学園から轟き、びっくりする。


良く見ると、校庭から黒い煙がモクモクと上がっているじゃない!?


何事かと走り出す三人。


学園まで、まだ200メートルはあったけど全力疾走。


その間も、「ドンッ」「ガキーン」と大きな音――何かがぶつかり合うような衝撃音が聞こえてくる。


遠目に人が空中に浮いているのが分かる。


でもすぐに大きな門から伸びる、学園を囲むように立ち並ぶ、高い柵に隠れて見えなくなる。


門まで辿り着いたわたし達だったけど、今度は入り方が分からない。


大きな木製の門――その扉は硬く閉ざされていた。


良く見ると、扉にはプレートが設置してあり、そこにはID認証と記してある。


「あれだ――」と美香と二人で顔を合わせて、事前に渡されていたIDカードを取り出す。


これは数日前に、自宅へ届いたものだ。


そしてカードを恐る恐るセンサーと思われる部分にかざすと、「ガタン――」という音と共にその後は音も無くゆっくりと開き出す大きな扉。


出来た隙間から急いで中へ入ると、校庭の真ん中で対峙している二人の生徒が目に付いた。


いえ――生徒というより、なんて言えばいいのかな?


一人はアイドルのステージ衣装のような、煌びやかな装い。


パステルピンクのヒラヒラミニスカートに、所々フリルの付いた可愛い服。


もう一人は――西洋風かな? 甲冑だっけ…盾と剣を持っていて、なんだかカッコ良い騎士さんみたい。



「あ、兄さん……。」



え? 兄さん? 彩乃ちゃんが向ける視線の先にはその騎士の姿。


そしてそこへ走り出す彩乃ちゃん。


わたしと美香も彩乃ちゃんを追いかける。



「いでよ! 朱雀!」



唐突に、そのアイドル姿の女の子が叫んだ。


すると突如として鳥の形をした――火の鳥が現れた。


それはとても大きな……巨大な火の塊。


数十メートル離れたわたし達にも、その温度が分かる程メラメラと熱く燃え盛っている。


彩乃ちゃんも、わたしと美香も、熱くて近寄れない。



「ちょ――いきなりマジかよ!? そんなの無理だって!!」



彩乃ちゃんから兄さんと呼ばれるその人は、火の鳥を見て「無理無理っ!!」と逃げ腰しだ。


あの女の子、一体何をするつもりなんだろう。


いえ――それよりも、あんな能力って――どうやったら炎なんてだせるの?


彼女は炎を前にして楽しそうだ。


あんな危険な事をしておいて、楽しそうにするなんて……。


でも、不思議と殺意や恐さのようなものは全く感じられない。



「試してみなきゃ分からないじゃない。折角新しいガード、着けたんでしょ?」



そう言って「おいで、朱雀」と呟いた彼女に、鳥の形をした炎が猛スピードで迫る。


このままでは、彼女が炎に襲われる!!


「キャッ」思わず目を瞑ってしまう。


――大丈夫だったかな…? 


恐る恐る目を開ける……彼女は無事だった。


それどころか、彼女の周りを炎が包み込むように分散している。


既に、炎は鳥の形をしていなかった。


そして炎が彼女の身体へと纏わり着き……その炎を彼女が吸収しているように見える。


どういう事なの!? 熱くないの!?


いえ、それよりも吸収してる……よね?


訳が分からず見ていると、次第に炎が吸収され消えて行く―――


そして炎が全て消えたと思ったら、「行くよ!」という掛け声と共に飛び掛って行く彼女。


しかも助走も何も無しで、最初からトップスピードで――猛然と。



「か――格好いい……。」



思わず呟いてしまった。


どうやってるんだろう……念動系を自分に使っているんだろうか?


何にしてもその凛々しい姿を見て、わたしは興奮してしまった。



「わ! 馬鹿、やめろ!!」



お兄さんが盾を構える。



「鳳凰の剣!」と彼女が叫ぶと、腕の先から巨大な炎の刀身が現れる。


真っ赤な刀身の表面には炎が揺らめいていて、さながら大きな炎の剣。


それを前方に構えて、物凄いスピードで彼へと突進して行く。


足は地に着いていない。


僅かに浮いて、空中を横移動しているようだ。


そして彼へと刀身が突き刺さろうした寸前、彼が飛び上がった。


嘘!? 男の人が能力を!? やっぱり、ほんとに使える人がいたんだ!



「危ねえって!? その剣はマジやばいっつーの!!」


「逃げないでっ!!」



そう彼女が叫ぶと、自身の姿が「シュッ」と音を立て消えた。


次の瞬間、宙へと逃げた彼の目の前に現れる。



「瞬間移動だ。」



思わず呟くわたし。


やっぱり能力者だ。しかも発現までの時間が早い。


相当、能力の使い方に慣れている……。


それに――やっぱり格好良くって素敵……。


見とれているのも束の間、彼女の手から伸びている刀身は消えて――



「いっけえええええ!! 朱雀!!」



両手をかざした彼女から、最初に現れた火の鳥が飛び出し彼へと突進する――


辺りにムワッと熱い熱気が再び込み上げる。


――あまりに至近距離だ! たぶん避けられない!!



「ドオオオォォォォォォーーーーーン!!!」



鼓膜が震えるような爆音と共に地面へと落下する彩乃ちゃんのお兄さん。


予想通り避けられなかったみたい。


ぶつかった瞬間は、恐くて目を瞑ってしまったけれど、黒い煙をその身体からモワモワと出しながら落ちていく。


しかし、攻撃を当てた彼女自身が彼を途中で受け留め、抱え、ゆっくりと地に下りてくる。


フワリとしたその姿は、まるで地上に降臨する天使のようだった。



「兄さん―――」



心配そうな彩乃ちゃんが、二人の元へと走り出す。


お兄さんは、そっと地面に寝かされる。


その姿は全身焼かれてしまったように、黒い墨で覆われていた。



「兄さん!! 大丈夫ですか!?」



悲壮な表情の彩乃ちゃん……。


無理も無い、もしかしたら死んでるのかも……。


わたしと美香は掛ける言葉もないまま、側で立ち尽くしてしまう。



「ああ! 彩乃ちゃん!! うふふぅ~~久しぶりっ!!」



対照的に、知り合いなのか再開を喜び、彩乃ちゃんに抱きつく彼女。



「し、白河さん! 兄さんは!?」


「ん? あ~~平気よ、たぶん。死んだフリしてるだけだと思う。」



そう言って彼女は、ゴミを見るような視線をお兄さんへと向ける。



「うぅ~~ダメだ死ぬ!! こ…これは、白河の熱いキッスで……愛の力がないと復活出来ない……。」



「ガクッ」と擬音付きで、わざとらしく首を倒すお兄さん。


良かった……彩乃ちゃんのお兄さん、死んでなかった……。



「ね? 平気でしょ? 最近ずるいのよね、すぐ死んだフリするんだからぁ。」


と彼女は言うと、「早く起きて!」と足でガシガシと身体を蹴りまくっている。


結構力込めてるけど……大丈夫なのかな?



「痛えええ!! 痛いっつーの!! なんだよ~~キスぐらい、いい加減してくれたっていいじゃねえか!?」


「うっさいわねぇ~~、絶っ――対してあげないんだからっ!!」



「マジでえ~」と本気でヘコんでるみたい。


と思ったらすくっと立ち上がった。



「おう、我が妹よ、久しぶりっ!」



ようっと片手を挙げる。


それを見た彩乃ちゃんは、お兄さんの胸へと飛び込み、



「兄さん兄さ~~ん、会いたかったですよぉ~~~。」



と熱い抱擁を始めた。


なんて微笑ましい光景――兄妹愛なんだろう。


そして、ちょいちょいと手で屈んで下さいとアピールしている。


その通りに屈むお兄さん。


頭の上には ? のマークが付いてるみたいな感じ。


何が始まるのかなぁ?


おもむろに、お兄さんの頭を両手で抱える彩乃ちゃん。



そして顔を寄せ――お兄さんの唇に―――チュッ―――



きゃあ~~~うそぉ~~~やだ~~~。


二人ってそんな関係だったの!?



「うふふぅ。兄さんのファーストキス、ゲットしましたぁ~~~♪」


「お――おい彩乃……お前何を……。」



ちょっと照れながら、後退りする彩乃ちゃん。


それを呆然と見つめるお兄さん。


そしてその光景を見て、怒りに打ち震えているような――白河さんと呼ばれる女の人。



「き、君さぁ…妹にさぁ…なんてことさせてるのかなぁ……。」


「え!? ちょっとまて白河!! 今のは、か、完全に不意打ちってーかその……。」



白河さんの全身からは炎がメラメラと立ち上り、恐い表情に益々拍車をかけている。


鬼の形相とは正にこれだ! 的な雰囲気を感じる。



「お、おい……女の子が……そ、そんな――指ポキポキで近づいてきちゃダメでしょ?」


「え? なんか言った? 全然聞こえないんだけどぉ―――。」



その可愛い顔からは、予想も出来ない程の低い声。


その後、地獄の業火と化した校庭。


彩乃ちゃんを連れて、なんとか遠くにテレポートしたわたし達は、ただただ、お兄さんの無事を祈るばかりでした。



しかし――これってつまり……三角関係っていうのかなぁ……。


兄妹だから、頑張れ彩乃ちゃん! とも言い難いし……。



学園から聞こえる爆音を聞きながら……


でも最初の時みたいな恐い感じではなく、愛を感じる音だなぁって思ったりしてました。




久しぶりの第2話更新!!


いい加減放置でしょ。


と声が聞こえそうでしたが、『カラどん』が全然追いつかないので、半ば強引に……。


さあて、これからどうしようかなあ……^^;

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