「ノック」
「コンコンコン」
ノックする「音」が聞こえる。
1人の男が部屋に閉じこもっている。
部屋の中はひどくシンプルで簡素なベッドと机。そして男には不釣り合いな鏡台がひとつ。
「コンコンコン」
扉をノックする音が聞こえる。
男は扉を開ける。
そこには誰もいない。
扉の前に置かれているものがある。
金色。
それは口紅。
男は拾い上げると部屋の中へと戻る。
鏡台の前に座ると口紅を出す。
それは使いかけの紅い口紅。
男は紅をひく。
無精ひげが生えた口元に紅が妖しく光る。
男はジッとその姿を見つめる。
「コンコンコン」
ノックする音が聞こえる。
男は扉を開ける。
そこには誰もいない。
扉の前に置かれているものがある。
白。
それはワンピース。
男はずっしりと重いそれを拾い上げると部屋の中へと戻る。
着ている服を脱ぎ捨てるとその服を纏う。
胸元に口紅に負けないほどの紅がある。
触れてみると男の指先がぬるりと濡れる。
「コンコンコン」
ノックする音が聞こえる。
男は扉を開ける。
そこには誰もいない。
扉の前に置かれているものがある。
黒。
それはピンヒール。
男はそれを拾い上げると部屋の中へと戻る。
ベッドに腰掛けると自身には小さ過ぎる靴に足を押し込む。
右側のヒールが折れている。
まるで傷口のようなそこを男の指先が愛しく撫でる。
「コンコンコン」
ノックする音が聞こえる。
男は扉を開ける。
青紫。
それは花。
男は受け取ると笑う。
その名はトリカブト。
花言葉は──
「あなたは私に死を与えた」




