第8話 出会いはとてもゆっくり
私、ルナ6歳の10ヶ月。
名誉の負傷(筋肉疲労)が癒えてからの私は、少し変わった。
いや、正確には盗賊の襲撃で気を失って目覚めた時に変わったのだ。
パパの言葉で、走馬灯が止まったことに気づいた瞬間。
驚き、喜び、感情があふれる!!
と、虚無から抜けた瞬間に猛烈な勢いで走馬灯は再び回りだした。
おい、こら、まて。
この世界はそんなに命の危機に溢れてるのか?
この世界の終末時計は、もう1秒を切ってるのか?ブルース・ウィルスは小惑星の破壊に失敗したのか?サノスは指パッチンしたのか?
とか考えてもしょうがない。
どうやら、パパは一度目をしましたのに、魚が死んだような目をしている私をみて、心配になったようだ。
仕方ない。
もう6年も走馬灯ユーザとして暮らしてきたんだ。このままでも構わない。推しの笑顔の供給があるのなら。
そんな私はいま木刀を振っている。
ママは剣を振るう私に思うところがありそうだが、パパが珍しくひかなかったのだ。
まあ、パパと同じ様に狩人になれば、必然的にパパとのデートタイムも増える。
デュフ!
剣を振りつつ気づいたことがある。
集中度合い、虚無度合いで、時間感覚が変わるのだ。気づいたのは紐に結ばれた棒を叩く鍛錬のとき。
別に集中しなくても当てられるのだけど、身体の動きの方に意識を持っていかれていた私はかなり集中しだしたのだろう。
複数の棒を叩いていく時に、『生生流転!』とか言いながら叩いてたら、回転する棒が明らかに遅いのだ。いや遅く感じた。
そこで、紐に繋がった棒を振り子にして、集中度合いを変えてみて確信した。
これなら……いける!
外乱があっても虚無を維持できるくらいの具合を探る。
この様にして、後に虚無の神童と呼ばれる少女ルナが誕生した。
……とはならない。虚無の維持って無理ゲーよ?
何かしらに意識を持っていかれる。いくらメンタル老人でも、心のあり様は身体に引き摺られるらしい。
御門あすかのメンタルが6歳児並みとは悲しいものがあるが。
たったまま目を開けて寝てるかのような、口元に締まりが無いくらいの虚無具合で少しギャップがおさえられた。
それでも人の2倍以上の感覚みたいなだけど。ストレスは段違い!
村の人達からは、怪我の後遺症で頭が弱くなった、なんて言われ始めた。余計なお世話だ。
ある日、剣を振っていると、街の外に通ずる道から、数台の馬車がやってきた。
馬車にはなにやら身分を示すような紋章がはいっている。
馬車の窓から、少年が顔をだしている。
金髪、金眼。珍しい。
お貴族様かな?
目の動きは、いろんな物に止まってはほかのものに目が移り、を繰り返している。
ふふ、かわいらしい。同い年くらいかな。
目の前を馬車が通り過ぎるとき、目が合った。
長く、長く、見つめ合ってしまった。




